第234話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となりますが、年度末という事もあり少し遅れ気味です。気長にお待ちいただければと思います。
ウマ娘の新シナリオが時間がかかるせいではありません。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
集まった店主達に、目の前の3人こそが目指す魔導具の完成形である事を示したキース。中の人を当てさせています。キャロルとヒギンズである事は明らかになりましたが、これから問題の最後の1人です。既に察しが着いている店主達は怯えています。
□ □ □
「ふむ……キャロルとヒギンズときた以上、やはり同年代なのだろうな」
「前衛を務めていたのは……ぱっと思いつくのはテレーズとリリアンぐらいだが」
「しかし、外見は自由に決められるのだろう?女とは限らないんじゃないか?」
「それな」
(ウォードンにゲインズ、トミー、アッシュ……確かに、若い頃からあまり察しの良い方では無かったけど……)
(これだけ材料が揃ってもまだ気付かないのか。周りの状況も見えていないし。全くしょうのない奴らだ)
フランとヒギンズ、アリステアの生温い視線を受けながら、4人はああでもないこうでもないと意見を交わす。結果的には全く的外れなのだが、彼らなりに一生懸命ではある。
この4人以外の店主達は、自力で気が付いたり、先に気が付いた者の様子を見て察したりし、彼らから少し下がった位置で様子を窺っている。
アリステアはキースと視線を合わせ(埒が明かないから話を進めて良いか?)という意味を込めて小首を傾げる。
キースもアリステアの意図を汲み取り頷き返した。
(よし、じゃあ種明かしといくか)
キースの無言の返答を受けて、アリステアは一度深呼吸をすると4人に向けて声を掛けた。
「あのさぁ、あなた達まだ分からないの?そんなんでよくこれまで生き残ってこれたね」
「ああっ!?何だと!」
アリステアの言葉に店主達は気色ばんだ。
彼らは新人の頃に、先輩や歳上に対する礼儀や言葉遣いを徹底的に仕込まれている。自分達が気を付けている分、他人に対しての見方も厳しくなる。
彼らも、この女戦士はおそらく同年代だとは思っているが、現段階では正体不明であり、見た目も彼らより遥かに若い。そんな口を聞かれたら腹を立てるのももっともである。
だが、そんな事はアリステアには知った事ではない為、達者な口が止まる事は無い。
「まあ、引退すれば命の危険もないしね。先輩たちが一生懸命教えてくれたことも、使わなければ錆びつくし忘れちゃうか。今の悠々自適な生活には必要無いし。悲しいね」
両手を広げて『やれやれ』というポーズだ。
「おいおい、いい加減にしろよ。同年代なら、俺達がそれなりに場数を踏んで来たんだ事ぐらい知ってるだろ」
「そうだぞ。怒り出す前にちゃっちゃと正体を明かしな」
ウォードンとアッシュのあんまりな言葉に、他の店主達は(おいおい、あいつら死んだわ)と震え、アリステアは大きく溜息を吐いた。
「まさかここまで鈍いとはね……お姉さん悲しくなってきたよ。あのさ、キャロルとヒギンズは普段どこに住んでいるの?カルージュでしょ?カルージュに住む3人のうち2人がここに居るんだよ?後1人は何してるんだろうって思わない?そんな状況で正体不明の人間がいる、『じゃあこいつの中身が残った1人なのか?』って考えられないの?あたしは不思議で仕方がないよ」
アリステアの言葉に4人は顔を見合わせ、眉間に皺を寄せながら視線を交わしている。だが、すぐにそのうちの1人、ゲインズが「あっ!」と声をあげた。まだ気が付けない3人の視線を集めながら、ゲインズの顔色がスーッと白くなってゆく。
(やっと気が付いたか。よし)
「気をつけ!!アリステアさんに、礼!」
タイミングを図っていたフロドが一歩前に出て号令を掛けた。残りの4人も含め、全員が踵を鳴らして姿勢を正し、浅い角度で頭を下げる。
これも先輩達の洗のu……『強い指導』の結果だ。ギルド等でアリステアと顔を合わせた時には、誰かが自発的に号令をかけ皆で揃って挨拶をするのである。
「やっと挨拶できるね。……はい、こんにちは。楽にして」
「休め!」
号令に合わせて、閉じていた足が肩幅程に開く。先程の挨拶の動作もだが、動いた時の音はほぼ1つに聞こえる程に揃っていた。もはや条件反射と言っても良いレベルだ。
「いきなりやって来た挙句にこんなこと言うのもなんなんだけどさ、正体不明の人間がいるのにペラペラペラペラ喋りすぎ。この界隈は誰がどこでどうつながっているか分からないんだからさ、いくらキースが連れているとはいえ、知らない人間がいる場での発言には普段以上に気をつけるべきでしょ。違う?」
「「「はい!その通りです!」」」
見事なまでに皆の声が揃う。
「『お前、この間俺の弟子の事こんなん言ってたそうじゃねぇか。おう?』みたいな事になるよ?みんなはそれを教える側なんだからさ、そんなんじゃしょうがないでしょ。本当に気をつけなね?あと、フロドとカイラス」
少し下がったところで並んで立つ2人を見る。名指しされた2人は『休め』の姿勢から『気を付け』に戻る。
「なんで私達って分かったのに、部屋を出ようとしたの?そのまま答えれば良かったじゃない」
「……」
両者共にアリステアから目を逸らし床を見つめる。
「好き放題言ってたから怒られると思ったんでしょ?あのねぇ、もう50年近く前の話なんだよ?それにみんなは先輩達から聞かされただけじゃない。そんな事で一々目くじら立てたりしないから!私そんな器小さくないから!」
(さすがアーティ、自分の器を『小さくない』と言い切れる人は中々いません。そもそも、さっきの話は基本全部事実ですからね。咎める訳にもいきません)
フランがアリステアと店主達の顔を見比べる。
「2人はテイタムが言った『考えれば分かる人物か?』という言葉だけで分かったんでしょ?どう考えたの?」
「……まず、あなたがキースを任せるなら誰だろうと考えました。真っ先に浮かんだのは、やはりキャロルとヒギンズでした。女性の法衣はキャロルを、壁の様な体格の男はヒギンズを思い起こさせます。ですので、とりあえずあの2人だと仮定して考えを進めました」
カイラスの説明にフロドが続く。
「うんうん、それで」
「ですが、引っかかったのはキャロルとヒギンズがカルージュからいなくなったら、あなたが1人になってしまう。それはどうなんだ?と。家事は家政婦を雇ったりもできますが、安全は確保できません。キャロルとヒギンズは、そこがクリアできなければカルージュを離れる事はしないでしょう。それ以前に、いくらキャロルとヒギンズとはいえ、あなたが他の誰かにキースの事を任せっきりにする訳がない、絶対に自分も関わるはずだと考えました」
カイラスの説明にフロドが頷く。客の相手をする時もカイラスは説明が細かい為よく喋る。逆にフロドは極端に口数が少ない為、この組み合わせはバランスが取れているとも言えた。
「女性2人に男性1人、あなたとキャロル、男はヒギンズ。3人で一緒にキースを守りつつて自分達の手で指導し経験を積ませる、と考えるとカッチリハマりますし、アリステアさんをカルージュに残さなくても良くなります。それにこの魔導具です。こんなとんでもない代物を持っている人など、稀代のトレジャーハンターだったあなた以外に考えられません。さらにその腰の物です。ミスリル製の対になった双剣。昔遺跡で見つけた物でしょうか?手に取らずとも、大金持ちの収集家が隠し部屋にしまっておいて、たまに取り出しニヤニヤしながら眺める、そういうレベルの逸品だと分かります。そんな貴重品を日常使いする人なんていませんから」
フロドも勢いよく何度も頷く。首がとれるのではないか?という程だ。
「そうは言っても剣だからね。私にとっては武器として以外の使い道なんて無いよ。現に素晴らしい切れ味だしね。それにしても、あの短い時間でそこまで読み切るんだ!大したものだね!」
「ありがとうございます」
アリステアの賞賛に2人は静かに頭を下げる。最後まで気が付かなった4人はバツが悪そうに視線をそらした。
「私の我儘で家出されてしまったからね。ライアルから任されている以上他人任せにしたくなかったし、慌ててこの魔導具を使って追いかけたんだ。お陰で、というのも何だけど、毎日色々な刺激があるし楽しく過ごしているよ。正直現役の頃以上だと感じてる」
アリステアはお茶一口飲んで喉を湿らせる。
「だからね、みんなもできるだけ色々な刺激を受けながら過ごしてほしい。毎日何の変哲もない日々を過ごしていると、あっという間に老け込むよ?」
「……マスターと『指揮官』に色々薦めたのもそれが理由なんですね?お姉ちゃん」
デボラは今でもアリステアの事を『お姉ちゃん』と呼ぶ。孤児の彼女にとって感謝してもしきれない、大事な大事な姉である。
「そういう事。この先すぐにイングリット殿下が王位を継いで、キースが王配になる。さらに『転移の魔法陣』を始めとした、これまでに無かった魔法陣や魔導具が世に出回る。そこに加えて『呪文』まである。これから国全体が大きく動くんだ。ボケっとしている暇なんて無いし、老け込んでる場合じゃないんだよ?」
店主達一人一人の顔を見渡す。最初とは目付きが変わった者もいれば、まだピンときていない様で、戸惑いの色の方が強い者もいる。
「まあ、いきなりそんな事言われたって、ご飯は食べていかなきゃいけないし、まるきり全部変えるのは難しいよね。現実的には、今の生活を続けながら新しい事を積極的に取り入れてゆく、というところかな?とも思うよ。何かしたいけど何ができるのか分からない、という人はここに居る仲間やディック、私達に相談すればいい。1人で考えているよりは良い知恵が出るんじゃないかな?」
店主達はお互いに顔を見合わす。
「明日すぐ変わるという話では無いからさ、ゆっくり考えてみてよ。とりあえず、キースが頼んだ素材や資料ね。見つかったらよろしく。とりあえずこんなところかな?」
「そうですね。後は帰りにギルドに寄ればOKです」
「じゃあそろそろ行こうか……あ、祝賀会の話って聞いてる?ライアル達とデヘント達の」
そう言いながら席を立ち、歩き出す。
「先日客として来た後輩から聞きました。数百人が参加する大規模なものだと言っておりましたが……」
後ろに付いて歩いている店主達のうち、答えたのはテイタムだ。
「うん、祝賀会というかもうお祭りみたいなものだね。お店もたくさん出るからさ、みんなもおいでね。食事は私が選んだお店が出すから、どこも美味しいよ」
アリステアの言葉に皆の顔が綻ぶ。アリステアには誰もが、新人の頃に食事に連れて行かれた経験がある。評価の確かさは十分に知っているのだ。
「承知しました。お邪魔します」
「よし、じゃあキースへのお祝いは荷車の方に積んで。デボラ、あなたどれだけ用意してるの、山盛りになってるじゃないの。全く……」
馬車にプレゼントを積み終わるのを見届けると、乗り込み窓を開ける。
「じゃあねみんな、また近いうちに」
「はい。今日はありがとうございました。失礼致します」
代表してウォードンが挨拶を返す。『やっと帰る』と考えた店主達の間に、ホッとした空気が流れる。
だが、それはまだ早かった。
「最後に一つだけ。みんながさっき言ってた私についての話をしていたのは誰?ちょっと本人に確認しておきたくてさ。憶えている限りで良いから教えてもらえるかな?」
笑顔のアリステアに店主達は震え上がった。
ここで名前を出す事は、恩ある先輩達を売り渡す行為だが、事実彼らは聞かされただけである。
それに、『第六感』という特性があるアリステアに対して嘘をついたとしても、態度や仕草などの僅かな違和感からバレてしまう。そうなったら自分がどんな目に遭うか分かったものでは無い。背に腹は変えられないのだ。
ウォードンらは我先にと名前を教え始め、アリステアは楽しそうにうんうんと頷きながら聞いていた。
□ □ □
「色々お願いしましたが、それではよろしくお願いします!お祝いありがとうございました!」
キースは馭者台から元気よく挨拶し、馬に合図を送る。馬はそれに応えるかの様に一つ嘶き、店主達が見送る中ゆっくりと走り出した。
店主達は、馬車の姿が見えなくなるまで、その場から誰も動かずに見送り続けた。
別れを惜しんでいるというよりは、本当に帰ったのかどうか、そこまでしないと不安だったからである。
完全に姿が見えなくなり、さらに50程経ったところでようやく、誰ともなく大きな溜息をつき始めた。脱力しその場にしゃがみ込む者までいた程だ。
「いや~参ったぜ……」
「ああ、まさかキースの仲間がカルージュの3人とは」
「キャロルとヒギンズは良いのだ。まさかあの人までいるとは予想外だった」
「それな」
「それにしても色々凄い話だったねぇ」
「全くだ。何百年も動かなかった事が、たった半年で一気に動き出した」
「キースが規格外なのは分かってはいたが、まさかここまでとは」
「やはり俺達凡人とは訳が違う」
「しかし、ふむ……これは楽しくなりそうだ」
「ああ、ちょっと身の振り方を考えてみるかな」
「とりあえず、在庫と店にある本の内容をもう一度確認するか。早く揃えてやらないと」
「それな」
店主達は口々に語りながら、自分の店に戻って行った。
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