第231回
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
エレジーアの部屋からサンフォードの研究室に戻り、本棚にあった本の内容を確認します。その中に1冊だけ『依代の魔導具』に関する資料がありました。内容を確認したキース達は、昼食と魔導具作成の為の素材を買いに出ました。
□ □ □
準備を整え屋敷を出たキース達は、馬車で王都の南東の区画へと向かっていた。魔法関係の素材や書籍、魔導具を扱う店は、この区画の一隅に固まって店を構えている。
どの店も個人商店であり、専門性は高く扱う商品の範囲は狭い。見方を変えれば、全ての店を合わせて大きな一店舗、とも言えるだろう。
こういった店の店主は、大半が冒険者として活動していた魔術師である。引退時に店の権利を買い取り店主に収まったり、雇われ店長だったりとその辺りは様々だ。
扱っている品物的に客の絶対数が少ない為、どの店も全く忙しく無い。その数少ない客も(元)同業者で、自分より歳下・後輩が大半とくれば接客業のスキルも必要無い。その為この界隈には多い、偏屈、へそ曲がり、頑固者などでも勤まるという、ある意味最高の職場環境であった。
キースは学生の頃から頻繁にこの界隈に顔を出していた為、そんな変わり者が多い店主達とも親密な関係を築いていた。
というか、店主達は程度の差はあれど、キースが来るのをとても楽しみにしていた。いつ来ても良いように、茶葉を切らさぬ様に補充するのはもちろん、お茶請けのお菓子を用意していた程だ。
まさに、たまに遊びに来る孫を迎える様な心持ちでいたのである。中には実際の孫よりキースの方が良いとまで思っている者までいた。
なぜキースがここまで好かれていたのか。
『可愛い』からである。
もちろん、この場合の『可愛い』は見た目だけの事だけでは無い。
希少な素材や研究書、魔法陣や魔導具と何でも良いのだが、知らない物を見せた時の、彼の表情とその反応が年寄り達の心をくすぐるのだ。
例えば━━━━
「こ、これってあのエレジーアの研究書の写本なんですか!?凄い!こんなのどこから手に入れてくるんですか?さっすが親父さん!あの……ちょっと見させてもらっても……え、ダメ?高いから?そ、そこを何とか……少しだけ、魔法陣1枚分だけで良いので……あ、ありがとうございます!えへへぇ」※この後その1枚を鐘1つ分見た。
「うわ……これブルーウェブサンドスパイダー、ですよね? 生きているの見たの初めてです!こんな小さいのに猛毒持ち……怖いですが、何か、この青い網目から目が離せない感じも湧いてきますね。不思議……」
何を見せても、どんな昔話を聞かせても(それが以前に一度聞いた話でも)万事この調子なのだ。しかも、満面の笑みで瞳はキラキラ、ほっぺはピンクである。家では家族にも相手にされず、その性格故に孫も寄り付かなくなった年寄りなどイチコロだ。
「最初に組合長の所に寄りますね。来た以上は挨拶しておきませんと。馬車も預けたいし」
「組合長は今もウォードンなのか?」
「はい……春以降代わってなければですが」
店の並ぶ通りの入口脇に、店主で作る管理組合の事務所がある。組合の責任者であるウォードンは、元冒険者の魔術師で、フランやクライブと同年輩だ。
「こんにちは~キースです!ご無沙汰しております!」
「おおっ!?」
受付越しの小さい事務所は無人だったが、続きになっている部屋の方から、慌てた声とガタンゴトンバタンと椅子と人の倒れる音が聞こえた。
「だ、大丈夫ですかね……」
「……あいつは身体もデカくて丈夫だったからな。問題ないだろう」
皆で様子を窺っていると、右腰の辺りを撫でながら、大柄な男性が事務所に入ってきた。
「全く……久々過ぎてびっくりしたじゃねぇか坊主!」
「すいません。ちょっと色々ありまして遅くなりました」
えへへと笑いながら頭に手をやる。
「……まあ、だいたいの話は聞いてるがよ。冒険者になれた事、銅級、白銀級、全部まとめておめでとうだ。半年ちょっとしか経ってねぇってのになぁ……やっぱりお前はただもんじゃねぇ」
「ありがとうございます。これもここで皆さんにご指導いただいた結果です」
「へっ!何言ってやがる!お前に指導できる程の魔術師なんてどこ探したっていやしねぇよ!で、今日はどうした?何か探しもんか?」
「はい、作りたい魔導具がありまして。これが必要なんです」
必要な素材を書き出しておいた紙を渡す。
「……また変わった物が多いな。こりゃ一軒一軒回るより集まった方が早ぇえな。今みんな呼ぶからちょっと待っててくれ」
そう言うと、ウォードンは事務所の奥にある執務机に向かった。
大きな机の端で、机の上を指でトントンと叩いている。
「ウォードンさん、それ魔法陣ですか?」
キースが手元を覗き込む様に伸びをする。
「ああ、夏にできた新作だ。ちょっと見て感想を聞かせてくれ」
「はいっ!」
返事とほぼ同時にカウンターから中に入る。さすがの速さだ。
「『物質転送の魔法陣』なんだがよ、同時に複数の送付先に送る事ができる」
「ええっ!?凄い!僕もそういうの作りたかったんです!さすがですね!」
キースの場合は『転移の魔法陣』でだが、一番ポイントになるのは、やはり送り先の振り分けだ。仕組みと考え方は流用できる可能性は十分である。
「魔石が幾つか埋め込んであるだろ?これが転送先の魔法陣にも付いてて、紐づいている。送り先と対応している魔石に魔力を込めて……で、物を載せて魔法陣を起動させれば……これでよし」
ウォードンが魔法陣の上に載せた10数個の石は、無事に転送された。
「はあぁ~素晴らしいです!一々1箇所づつ送るの面倒ですものね!いや~これは良いなぁ!参考にさせてもらっても良いですか?」
そう言いながら、鞄からいつもの書類筒を取り出す。
「おう、良いぞ!我ながら会心の作品だ。……写すなら後でにしたらどうだ?もう皆来ちまうぞ?」
「大丈夫です。すぐ終わりますので」
ニンマリしながらそう返すと、いつもの手順で『転写』する。
「はい、終わりました。ありがとうございました」
ドヤ顔で返却するキースに対し、ウォードンは目を見開いて絶句している。
「……やりやがったな!何だそれは?ちょっと見せてみろ!」
「書かれた内容を魔法陣に保存して別の紙に出力します。『転写の魔法陣』と名付けました。僕もいただいたので交換という事でどうぞ」
キースは一連の流れをもう一度やってみせ、写した紙と『転写の魔法陣』を渡す。
ウォードンは写された紙の裏表を確認したり、光にかざしたりした後、感嘆の溜息を吐いた。
「お前を驚かせてやろうと思ったのだがこっちが驚かされちまったな……さすが白銀級」
「ありがとうございます。これはまだ流通していないだけで、国務省とは契約済みなので、ある程度広まるまでは内緒でお願いします」
キースが口の前で人差し指を立てる。
「分かった!ただでさえ数少ない書類仕事がますます楽になっちまうな!ありがとうよ!」
お互い笑顔で顔を見合わせる。祖父と孫ほど歳の違う2人だが、魔術師として通じあっている様子が見て取れる。
(これが天然年寄りキラーの力……見事だわ)
2人の様子を見ながらフランは1人納得していた。
「そういえば、さっき送った石みたいのは何だったのですか?」
「ああ、あれはただの緑石だ。組合事務所から緑石が送られてくる=キースが来たから事務所に集合、という合図にしている」
ウォードンが言い終わるやいなや、事務所扉が勢いよく開く。入ってきたのは、非常に背が高く横幅も十分な女性と、対照的に小柄で細い男性だ。女性は両手には袋やら箱やら、持ちきれない程の荷物を抱ているが、男性は手ぶらだ。
「大丈夫ですかデリアさん!持ちますよ!」
すかさずキースが駆け寄って幾つか受け取る。女性は確かに年配だが、パッと見クライブに匹敵する身体つきをしている。キースが荷物を持つ必要は全く無いが、その辺はキースの気質と気持ちの問題である。
「ありがとう!久しぶりじゃないのキースちゃんったら!あんまり来ないからおばちゃん寿命が尽きるかと思ったわよ!」
「何を仰います!デリアさんなら150歳ぐらいはイケますよ!大丈夫大丈夫!」
「あらまあ!言ってくれるじゃないの!この子ったら!」
笑いながらキースの背中を軽く叩く。力が入っているようには見えなかったが、キースは大きくよろめいた。
よく喋る女性とは対照的に、男性の方は無言でキースの頭をわしゃわしゃと撫でただけだ。キースはくすぐったそうに肩をすくませる。
(デリア……巨人族の血が入っていると言っていたな。これで特性は魔法よりなのだから不思議だ。フルドも相変わらず細いし静かだな。まさに凸凹夫婦)
アリステアは目を細め、2人を懐かしそうに見る。
その後も、続々と人が入ってくる。入ってくるなりキースに声をかけ、ウォードンに促されて2階の会議室へと向かう。
「よし、これで全員だな。俺達も行こう」
ウォードンを先頭に、キース達も階段を上っていった。
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