第230話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
「いいね」機能実装という事でONにしてみました。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
エレジーアの部屋で、今の時代とサンフォードが生きていた時代との情報交換を行いました。街を魔力で満たす仕組み『石力機構』についても説明してもらいましたが、そちらは一旦置いておいて、まずは『依代の魔導具』に集中する事を再確認しました。
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「さて、一旦屋敷に帰ろうと思いますが、お2人、というかエレジーアさんはどうします?僕達と一緒に屋敷に行きますか?」
「そうだねぇ……」
これからは『依代の魔導具』の研究が中心になる。サンフォードの研究室とは『転移の魔法陣』で繋ぐが、ここに来る頻度はどうしても低くなる。
「先生、とりあえず部屋へお越しください。亡くなられた後の話もございますし、身体を替える計画も立てねばなりませんので」
「ふむ……そう言うなら仕方がないねぇ!そちらで世話になろうか!みんなよろしく頼むよ!」
仕方がないと言いつつも、明らかに嬉しそうなテンションである。
「こちらこそよろしくお願いします!では戻って今後について少し細かく決めていきましょう」
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エレジーアの部屋から戻り、研究室の本棚から本を取り出しリビングへと上がる。
「まずは……このサンフォードさんの部屋の本棚にあったこちらの本の内容を確認します。ここに『依代の魔導具』の事が書いてあるのか、あるならばどの程度の内容が書かれているのか、それをはっきりさせたいです」
その内容によって研究のスタート地点が大きく変わる。
「先生が自分に施された処置の詳細を知らない様に、私も自分に対しての処置の詳細は知らないからな」
そう、『サンフォードが行った処置』と『サンフォードに行われた処置』、この2つには数十年分の差があるのだ。
ソファーに座るサンフォードの姿勢は、所謂『香箱座り』になっている。
(身体が猫だと自然とああなるものなのだろうか?研究テーマにできるかな?『依代側との精神的結び付きについて』なんてどうかな?)
「もしサンフォードさんのお弟子さん、エミーリアさんでしたか、この方の書いた資料がこの中にあれば、今のサンフォードさんと同じ程度の『依代の魔導具』は、手の届くところにあると言えるでしょう。エレジーアさんも自由に動いて自分の目で見る事ができる様になるまで、そう遠くないかと」
「ああ、その通りだ」
「楽しみだねぇ!魔法陣や今の時代の街並みもだけど、皆の顔が見られるのが一番待ち遠しいよ!頑張っておくれ!」
自分で動くのが不自由で、視力が無く魔力感知しかできないず、知識と技能が魔法陣に特化しているエレジーアにできる事はあまり無い。自分の分かる範囲で助言するぐらいだ。
(先生が魔法陣よりも他人の事を優先するとは……本当に変わられたな)
サンフォードは大きな熊のぬいぐるみを横目でチラリと見る。
「よし。じゃあ早速手分けして確認しましょう。サンフォードさん、ページがめくりづらかったら言ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
本は全部で10冊ほどだ。内容を確認するだけなので、細かく読む必要は無いし理解する必要も無い。まず、魔導具関連なのかどうかを分け、魔導具関連であればキースとサンフォードが確認する。
魔導具以外とされた本は、さらに魔法関係なのかそれ以外なのかで分ける。魔法が関係した内容であれば、些細な事でも大きな影響を及ぼす可能性がある為、キースとサンフォードも確認する。皆は一斉に本を読み始めた。
□ □ □
「サンフォードさん、これって……」
「す、すまん……まさかこんな事になろうとは」
サンフォードはまさかの状況に俯き、しきりに顔を撫でる。
なんと、収められていた10冊の本のうち、9冊が物語本であった。しかもエミーリアは師匠の好みを完全に把握していた。サンフォードがエレジーアの部屋に置いていった本と同じ作者なのだ。
「師匠が師匠なら弟子も弟子だよ!全く!」
またも期待を裏切られたエレジーアの言葉は厳しい。
「返す言葉もありません……」
サンフォードは平身低頭である。
「後一冊ですね……さてこれはどうかな?タイトルは無い……作者名、も書いてないな。違う方なのかな?とりあえず物語本で無ければ良いのですが……」
そう言いながら表紙をめくる。
キースの言葉がサンフォードに刺さり、黒猫は頭を抱えより小さくなってしまった。嫌味のつもりで言っている訳では無い為、かえって深く刺さった様だ。
皆の目が集中する中、最初のページを読んだキースが顔をあげた。南方の海の色に例えられる緑の瞳は、眩しい太陽の光を受けたかの様に輝き、頬は興奮にピンクに染まっている。その顔を見て、皆も全てを察した。
「これです!当たりです!これこそが求めていた本です!ああ、エミーリアさん、ありがとうございます!いや~良かった!」
キースが雄叫びにも似た歓声をあげた。
□ □ □
お目当ての本を見つけた後、3人(というか1人と1匹と1個)は、顔を寄せ合いエミーリアの書いた資料を読み耽った。(正確にはエレジーア用にキースが音読した)
だが、その内容にはキースが聞いた事の無い単語や手法も多く、その都度サンフォードが解説をする為進みは遅い。
さらに、時折サンフォードでも知らない手順や技術、加工方法が出てくるのだ。そのまま流す事もできない為、サンフォードが『恐らく……』と推測を交えながら説明するのだが、説明と同時に『何だこれは……このやり方で本当に上手くいくのか?』やら『そうか!そうだったのか!なるほどな!』等と、弟子の手腕に唸っている。
「素材の中に、ちょっと珍しい物もありますね……王都で売っていれば良いのですが」
「見つからなければ商業ギルドから告知を出してもらうのもアリね。あまり珍しいと使う人も限られていつまでも売れない場合も多いと思うの。そうなると、店の奥深くで埃を被っていて、店主も忘れている、なんて事もあるんじゃないかしら?」
「冒険者ギルドで買取の募集も掛けてみよう。個人で持ってる者がいるかもしれん。取りに行くのはそれでも集まらなかった時だ」
「そうですね。『呪文』の指導や祝賀会もありますから、遠くまでは行けませんし。今は王都でできる事をやりましょう」
「そうね。いくら帰りは『転移』とはいえ、行きはどうしても馬車だもの。確かに普通の馬車よりは速いけど、ある程度の時間は掛かるものね」
「これからは、王都以外の街に行った時は、小さい家や倉庫を手配し、そこに『転移の魔法陣』を設置しておく、というのはどうだろうか?もちろん、鍵や結界の設置は必要だが」
「あ、僕もそれ思ってました!これから先、絶対必要になってきますから!先程『魔術契約で機密保持がされていたから資料が無い』というお話がありましたけど、人が扱う以上、完全に秘密にしておくなんて無理だと思うんです。抜け道を見つけて何か遺した人とかいるんじゃないですかね?それを見つけたいです」
キースは今後、『石力機構』関連でエストリア国内の"かの国"の遺跡をもう一度洗い直す必要があると考えていた。漠然と『何かないか』と思って探索するのではなく、具体的なお目当てをしっかり意識する事で、初めて見えてくる物もあると思っている。
「よし!ではお昼ご飯と素材集めに行きますか!お二人共、ちょっと行ってきますね。夕方には戻って来られると思いますので」
「ああ、行っておいで」
「うむ、気をつけてな」
キースの声に応え部屋を出て行く皆を、ソファーの上で見送る。
「それにしても、何という前向きな姿勢なのか。他人が成しえなかった事を成すには、やはりあれぐらいでないといかんのでしょうな……」
「全くだよ。次は何をしてくれるのかと、見ているだけでワクワクしてくる。楽しい子達だねぇ」
キース達のやり取りを振り返りながら、黒猫が唸り、熊のぬいぐるみが楽しそうな声をあげる。そういう2人も、後世に残る魔法陣と魔導具を幾つも生み出した伝説級の魔術師であるのだが、今の姿からは想像すらできない。
「では、我々は昔話に興じるといたしましょう」
「私が死んでからの話だね?よろしく頼むよ」
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