第229話
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【前回まで】
遂に地下室に入ったアリステア達は部屋の中を物色します。中には黒猫の剥製に意識を移したサンフォードがいました。『人の部屋の場所を勝手に教えた奴に文句を言う!』と主張するサンフォードをエレジーアの部屋に連れていき、感動の(?)対面となりました。
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キース達はサンフォードが落ち着くのを待ち、セクレタリアス王国が滅んだ後の歴史、現在の周辺国とエストリア国内の情勢、自分達の事を説明した。サンフォードは、歓声や呻き声をあげたり、真剣な顔で頷いたりしていたが、『大聖堂はもう存在しない』と聞かされた時は、さすがに寂しそうな表情を見せた。
「それにしても『転移の魔法陣』を作りあげるとは。私が生きていた頃も、知り合いの魔術師達が取り組んでいたが、皆苦労していたのを思い出すよ。それに、他の魔法陣も非常に面白い」
「そうだろう?さっき私がお前の事を褒めたのもそれが理由さ。意識が残っていて部屋がそのままだったからこそ、彼らと縁ができて未知の魔法陣の事も知るができた。大変なお手柄だサンフォード、感謝してるよ」
エレジーアの言葉にサンフォードは驚きに目を見開く。金色の目がまん丸になった。
(先生が私に対してこんなに素直に礼を言うなんて……気味が悪い程だな。先程から感じていたが、これも彼らの影響なのか?)
サンフォードはキースらの説明を聞きいている時から、エレジーアに対して違和感を覚えていた。彼の知っている師匠は、弟子に素直に礼を言ったり、簡単に褒めたりする人間では無かった。せいぜい『これはさすがに照れ隠しだろ』と思わせる発言があったぐらいで、こんなにはっきり感謝の言葉を言われた事は一度も無い。
(確かに彼は素直で、心根が曲がっておらず、優しく気遣いができる人物の様だ。先程初めて会った私でもそう感じる。だからと言ってそれだけでなく、いきなり師匠の所に連れてくる様な茶目っ気というか、イタズラ好き?の様な面もある。こんな彼と接し続けた事で、毒気が抜けてきているのだろうか)
「ふむ……それであの機構を、『石力機構』を再現したいと……」
「んん?何ですか?せきりょく?」
キースが不思議そうに目をパチクリさせる。
「……この辺りはまだ説明されていないのですね?」
サンフォードは今や自分より遥かに大きいエレジーアを見上げる。まだ生きていた頃のサンフォードの身長は、170cm中程とだいたい平均といったところだったが、エレジーアは150cm少しと小柄だった。彼にとってこの目線は中々に新鮮だ。
「先に魔導具を作る、という話だったからね。敢えてしなかった。情報が多くても混乱するし、気が逸れる。どちらも簡単な話じゃないんだ。片方に集中すべきだよ」
「確かに……」
「だが、魔導具についてはお前が起きた。これだけでかなりの進展と言えるだろう。なら伝えても良いんじゃないかね」
(素直に頼りにされている……本当にもの凄い違和感だ)
サンフォードは僅かに身震いした。もちろんそのまま口には出さない。理不尽な師に散々振り回されてきた経験は伊達では無いのだ。
それに、エレジーアからの扱いは酷かったがサンフォードの実績も大変なものであり、周囲からは『魔法、魔法陣、魔導具全てに通じた天才』とされ時代を築いたのだ。それぐらいでなければ『依代の魔導具』の様な、誰もが想像すらしない魔導具を考えつき、基礎部分だけとはいえ使用可能レベルにする事はできない。
「承知しました。では……キース、もう察しているかもしれんが、ここからの話は、君のもう1つの目標である、セクレタリアス王国で用いられていた、街中を魔石の力で満たし、魔導具を稼働させる仕組みとその成り立ちについてだ」
サンフォードの言葉にキースの瞳はより一層輝き出す。記録が残っていない(見つかっていない)、当時を生きていた者しか知りえない話である。テンションが上がるのも無理は無い。
(目は口ほどにものを言う、とはよく言ったものだ。まあ、さすがにここまで解りやすい者は少ないだろうが……)
サンフォードはキースの緑に輝く瞳を見ながら説明を始めた。
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あの力の元が何であるかは知っているね?そう、魔石から取り出した魔力だ。それを水に溶け込ませ街中に行き渡らせて魔導具の動力源としていた。その力には魔石から取り出した力という事で『石力』という呼び名が付けられていた。そして、それを用いる仕組みの事を『石力機構』と呼んでいた。
主に照明、厨房や調理関連、空調に用いられ、人々は快適に生活していた。想像できるかね?日が落ちれば、大通りはもちろん、路地裏に至るまで明るく照らされ、温かい食べ物、冷たい飲み物は器が空になるまでその状態に保たれた。建物内は夏は涼しく冬は暖かい。はっきり言ってケチのつけようがなかった。
この仕組みは、ある特定の一族だけが管理運営に携わっていた。なので機構の詳細は門外不出、その一族の秘中の秘とされ不明だ。誰だか分かるかね?……そう、王族だ。もちろん、現場で働いている技術者は大勢いた。だが、皆機密保持の魔術契約を結んでいたからな。記録を残す事も他所で喋る事もできなかったはずだ。こんな仕組みを考えつくような人々との魔術契約……破ったらどうなってしまったのだろうね。
王族が発案者からこの技術を取り上げた?いや、そうでは無いのだ。逆なのだ。『石力機構』の発案者であり、国の支援を受けて王都と周辺の街に機構を組み入れた一族、これが最終的に元の王族に取って代わったのだよ。
彼らは、元々魔術師を多く輩出してきた一族だったという。魔術師にはそれぞれ得意分野があるからな、一族内で役割を分担し、王家と貴族をパトロンとして『石力』と『石力機構』を作り上げ、各街で運用を開始した。
もちろん、それまでも魔導具は用いられていた。先程君の話の中にもあったが、魔石を嵌めて使う種類の物だ。皆便利に使っていたが、『石力機構』のおかげで、魔石の交換の手間と残量を気にしながら使うという煩わしさが解消された。嵌め込む型の魔導具はすぐに廃れていったよ。
生活はより快適になり王族も貴族も一般市民も、皆彼ら一族の事を称えた。当時の王族は彼らを引き立て、高位の役職に就けはじめた。そうして『石力機構』関連以外の部分でも、彼らの影響力は増していき、そのうち彼ら一族を熱狂的に支持をする者達が現れ始める。
そして、その果てに起きたのが王朝交代だ。彼らの支持者である貴族と一般市民が、王城になだれ込んだ。衛兵や近衛騎士団達も止められなかった、というか止めなかった、というか……というのも、半分ぐらいは彼らの支持者だったらしいからね。全員で一致団結すれば何とかできたかもしれんが、人数も多いし足並みが揃わなかったら無理だろうな。前王朝の最後の国王は、彼らの支持者に取り囲まれながら国を譲る文章に署名したという。
さすがにしばらくはゴタゴタしたが、国内を完全に掌握し落ち着いた後、彼らは周辺国の併合に乗り出した。
質の高い装備に身を固めた迫力と圧力満点の騎兵、破壊の旋風を巻き起こす、王国の力の象徴とも言える魔術師達、彼らの為に命を捨てる事を厭わない、熱狂的な支持者を中心とした歩兵と弓兵、そして溢れんばかりの補給。そういった軍団を複数編成して、周辺国に同時に侵攻を開始した。
だがね、ほとんどの場合戦いにはならなかった。部隊が街の外に到着する頃には、先乗りした諜報部隊の者達が、セクレタリアス王国の強さと豊かさ、『石力機構』の素晴らしさを街中に広めていてね、ほとんどは降伏勧告からの無血開城という流れだった。戦った後はどちらの陣営も色々と後始末をしなければならないが、そういう手間も無かった為、侵攻は考えられない速さで進んだそうだ。
その結果できあがった版図が、皆が知るセクレタリアス王国の版図だ。ほぼ正方形、東西南北それぞれ約3500km。他の大陸や過去未来の話は分からんが、これ程までの広さの国は聞いた事が無い。
そして、『石力機構』は悪魔の枷みたいなものでね。便利で快適過ぎて一度味わってしまうともう戻れない。君も先程『転移の魔法陣無しでの生活などもう無理』と言っていたが、まあそういう事だ。
それに、『石力』は王都で一元管理されていたから、あまり態度やお行儀が悪いと供給を絞られる可能性もあった。それを考えると反抗もできん。
まあ、そもそも反抗する理由も無かったのだがね。王族は無理難題を言うわけでも無い、国は裕福だから税金は安い、研究費なども申請すればするだけ出るし、給料自体が高いから、懐にいれて小金を貯める必要も無い。満ち足りて幸せに生きている者は、初めから悪さなぞしないのだよ。
ともあれ、『石力機構』を柱に、セクレタリアス王国は発展の限りを尽くしたという訳だ。全てが消えるその瞬間まで。
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サンフォードが話を締めると、聞いていたアリステア達は皆同時に大きく息を吐いた。
「凄いですね……一つの機構が社会を、国を支配する。そして、やはり資料的な物は無いのですね。これは時間が掛かりそうです」
「うむ……だが、資料は無いが現物はあるぞ」
「えっ!?あ、あるのですか?」
「おいおい、何をそんなに驚いているのだ?……ああ、あれの動力源を魔石だと思っておるのだね。ほれ、いつも聞いているあれだ」
「『時を告げる鐘』……」
「そうだ。あれは中央の仕組みに繋がっていない、独立した石力機構なんだ。恐らく現存する唯一の物じゃないか?」
「それを参考にして機構を再現する事はできないのでしょうか?」
キースが身を乗り出し気味にサンフォードに迫る。はためには猫と遊ぼうとする少年に見える。
「やはりそう思うよな。だがね、基本石力機構の仕組みは一度組み上げてしまうと、壊さないとバラせない作りになっているそうなのだ。中にもそういう部品がいくつか使われているらしい。実際に開けた事は無いからあくまでも聞いた話だがね」
「元に戻せないと聞かされたら、手を出せませんよね……ではサンフォードさんは、『鐘』の手入れはしていなかったのでしょうか?」
「厳密にはそうだな。あくまでも主は『大聖堂』で『鐘』はついでの様なものだ。仕組みに手を出せないからね。手入れも何も無い。実際にやっていたのは、外観が前日と変わりないのを確認して、拭き掃除をして床のホコリを掃いていただけなのだよ。……役に立たなくてすまんね」
キースの眉毛が八の字に下がるのを見て、サンフォードは謝った。自分が悪い訳ではないのは解っていたが、キースの余りにも残念そうな顔に思わず口から出た、という感じだ。
「いえいえ、お気になさらず。当時を生きていた魔術師にすら未知の機構……ますます楽しみになってきました!ですが、まずは『依代の魔導具』です。改めてよろしくお願いします!」
(なんという情熱……若い……だけでは無いな。自分の力を客観的に見て『僕ならできる!』という自信と上手く噛み合っているのだろう。先生では無いが、良い人物が部屋を見つけてくれたわ)
サンフォードを金色の瞳をくりくりと動かしながら、笑顔で仲間達と話すキースを見つめていた。
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