第22話
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アリステアは、この街に来た時は神殿ではなく街の宿に泊まる。神殿に泊まると、皆が気を遣いすぎるし、子供達がはしゃいで寝なくなってしまうのだ。
宿も、どこか一箇所にしてしまうと宿屋間で色々ありそうなので、いつも違う所に泊まる。
5の鐘に合わせて起き、身支度を整え宿の主人に出発の挨拶をする。
厩から馬を出し、話しかけながらブラッシングだ。馬も気持ち良さそうな表情である。
ちょうど海側から登ってきた朝日を受け、馬の前髪からたてがみがキラキラと輝く。この馬を手に入れた理由の一つだ。
馬体は茶色の「栗毛」だが、前髪からたてがみが白みがかった金髪なのだ。
こういった栗毛を「尾花栗毛」というらしい。
市場で馬商人が連れていたこの馬を見掛け、アリステアは一目で気に入ってしまった。
馬商人は売るつもりはなかった様で、一般的な馬1頭の3倍の金額を提示してきた。
しかし相手が悪かった。なんと言っても、相手の金は文字通り「地面から湧いてくる」のだ。
無理を言ったお詫びとして3.5倍の金額を揃えられ、馬商人は馬を譲らざるを得なくなった。
もちろんきれいなだけはなく、走らせれば速いしスタミナもある。左の後ろ足だけ毛色が白くなっている「左後一白は走る能力が高い」という言い伝えの通りだ。
さらに足も曲がっていないし丈夫で健康だ。人間の言葉が分かるのか?と思わせる程頭も良い。
表情はキリッとしつつも、目はぱっちりとしてまつ毛が長い、顔に程よい幅の流星が入った美少年である。
馬には「ソレイユ」と名付けた。
遠い国の言葉で「太陽」を意味すると馬商人に教えてもらったのだ。
太陽の光が似合うこの馬にピッタリである。
手入れも終わり、市場の屋台で朝食を摂り(挨拶も数十人から受けた)出発する。
海沿いの街道を南へ鐘2つ程進むと、海に面した崖の上にある遺跡に到着した。
日陰に馬をつなぎ、水と餌をやる。
自分も一息入れつつ、前回来た時に開けられなかった扉のことを思い返す。
地下1階の通路の突き当りにあり、扉には魔石をはめ込むような窪みがあった。
特定の魔石を鍵として設定し、使用していたのだろう。
では、その魔石がないと開けられないのかというとそうでもない。
大抵の扉は、手動でも開けることができるような仕組みが作られているものだ。
そうでないと、魔石を無くしたら壁を壊さない限り二度と中に入れなくなってしまう。それを見つけ出すのだ。
扉を開ける為のものなのだから、そんな遠くには設置しないはずだ。
地下に降りてから、例の扉までの間ではないだろうか。
ソレイユも水と餌はもう十分なようだ
(よし、じゃあ行ってみるか)
首筋を撫で「行ってきます」と声を掛け、アリステアは遺跡の中に入っていく。
この遺跡は入ると大広間の様な広い空間になっており、奥に祭壇がある。
しかし、今日はそちらには用はない。
(確か地下に降りる階段は左手奥に・・・)
まっすぐそちらへ向かい、地下に降りる。
階段を降りると正面は突き当たり、左右に通路が伸びている。
目的の扉は右の通路の一番奥、100m程先だ。
一旦突き当たりの扉の前まで行き、以前来た時と状態が変わっていないかを確認する。
(特に変わった様子は無いな・・・)
階段前の突き当たりに戻り、通路を細かく調べながら進む。
壁や床の模様、隙間、色合い、仕組みがあるなら、何かしらの目印があるはずだ。
壁や床に近づいたり、少し引いて全体を見たりしながら、目に留まるものがないか丹念に観察する。
扉の前まで来てしまった。特に変わった点は見つからない。
(見立て違いだったかな・・・)
アリステアは首を捻る。
(仕方ない、もう一度戻って調べよう)
白銀級冒険者は、手ぶらでは帰らないのだ。
まだまだ時間はあるし、念の為野営の準備もしてきた。焦る必要は無い。
(今度は扉前から進んでいこう)
そう思った時、床を調べる為に持っていたハンマーを落としてしまった。
床に落ちて弾み、扉の脇の壁に当たり音を立てる。
(あれ・・・?今・・・音がなんか・・・)
弾んだハンマーが当たった、扉の右側の辺りの壁を集中して叩く。
コンコンという音の中、床から高さ5cm程の位置で「コーンコーン」と音が響く箇所があった。
(空洞だ!)
細かく叩いて範囲を見定める。だいたい30cm四方程だろうか。
アリステアはそこに向け、ハンマーを思い切り叩きつけ始める。
数回叩くとヒビが入り、さらに叩くと穴が空いた。しかし、このままではまだ穴が小さい。
そのまま叩き続け、目一杯穴を広げ瓦礫を寄せて中を覗く。
すると、奥の方にレバーがある。
(これで扉を開けるのか!)
しかし、自分の腕の長さでは僅かに届かない。小柄ゆえの弊害だ。
(大人の男ならなんでもないだろうに・・・)
一旦腰のベルトを外し穴の横に置く。
うつ伏せになりゆっくり頭から入ってゆく。ほふく前進というやつだ。
穴の中を肩が入るぐらいまで進むとレバーに手が届いた。左に倒れているので、右に倒してみる。
すると「ガコン」という重い音がした。
這いずって下がり扉を見ていると、ゆっくりと動き出した。
(やれやれ・・・)
しかし、慌てて中には入らない。入るのは状況を確認してからだ。
室内の空気を吸わないぐらいの距離まで下がって待つ。
正規ルートでは無い開け方をした事で、何らかの罠が動いている可能性だってある。
お宝を前にした時が一番危ないのだ。ゆっくり100まで数え出す。
(この逸る気持ちを押さえながら待つ時間も堪らないのだよね・・・)
部屋は、地下室だけあって天井は高くないが、かなり広い様だ。
奥まで整然と棚が並んでいる。
(どう見ても倉庫だね・・・)
- 100秒後 -
そろそろ良いだろう。室内をゆっくり確認しながら歩く。
手前の方にあった棚には特に何も載っていなかった。床にも埃はあるが特に目を引く様な物は見当たらない。
(さすがにここまできてハズレは厳しいな・・・)
と思ったその時、部屋の奥の方に木箱が積まれているのが見えた。5箱ぐらいありそうだ。
箱はきちんと蓋がされ、中身が見えない。
腰からミスリルの短剣を抜き、隙間に突っ込みこじ開け蓋を持ち上げる。
中には箱状の何かが隙間なく詰められていた。
横に3つ、縦に2列計6つ入っている。他の箱も同じ物なら30個はあるという計算だ。
(なんだろこれ・・・)
一つ取り出して向きを変えながら眺める。
立方体の、縦長の箱だ。周囲の4面は透明、内側の底に魔法陣が書いてある。
(魔法陣・・・魔導具・・・?)
上蓋の外側に、魔石を嵌める様な窪みがある。
(あれ、これって・・・)
先日のアーサーとの会話の最後に聞いた、照明の魔導具の特徴を思い出す。
(少し形は違うけど、内側の底に魔法陣があって、上蓋に魔石を入れる窪みがあるのは同じだし・・・っていうか、もしかしてこの箱全部?!)
「数が少なく見つかっても状態が良くない」という魔導具が、きちんと箱に入った状態で30個見つかったのである。
これはちょっとしたお祭りだ。
一旦馬の所に戻り、嬉しさと興奮の余りソレイユをひとしきり撫で、荷物から背負い袋を取り出し、また地下倉庫へ戻る。
とりあえず背負い袋には3つ入った。残りは荷馬車と人を雇って回収するしかない。
(とりあえず持って帰って、アーサーに確認してもらおう)
照明の魔導具では無い可能性もある。ぬか喜びはごめんだ。
(箱の前に結界の魔法陣を設置して立入禁止にしておかないと)
そうと決まれば善は急げだ。
シャツの胸ポケットから結界の魔法陣を取り出し、設置、起動させる。
デズモンドに注文した、魔石で効果を増幅できるタイプの物だ。
デズモンドは、「作った俺でも無理だ」と言っていたぐらいだ。そんじょそこらの魔術師では解除できない。
さっさと帰ってアーサーの所へ見せに行こう。
(これが照明の魔導具だったらきっと喜ぶだろうな・・・アリステアさん、ありがとう、お礼と言ってはなんですが、ぜひ僕と今夜・・・なんてなんてキャーヤダーモー)
その時、何か衝撃を受けたかの様に、アリステアの身体がビクンと跳ねた。
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