第228話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
秘密の地下室の扉に掛けられた『鍵の魔法陣』を解除したキース。遂に部屋の中へと入ります。そんなキースを眺めながら、アリステアは昔遺跡で経験した出来事を思い出しました。
□ □ □
いつも通り、扉を開けて100数えたが、幸いにして部屋の中から何かが飛び出してきたり、ガスが噴出する事も無かった。
「……大丈夫そうだな。キース、魔力反応はどうだ?」
「はい、『照明の魔導具』以外は特に動いているものはありません」
「よし、では行こうか」
アリステアの声に皆立ち上がる。一応扉の影から室内を覗くが、やはり見える範囲には特に動く物
は無かった。
扉の陰からゆっくり身体を出して、室内へと進む。
「1周するまではひとかたまりで動いた方が良いですな。何かあった時にバラけているより対応しやすいですから」
クライブの言葉に皆頷き、壁際を時計回りに進む。
「魔術師の研究室ってもっとごちゃごちゃしているのかと思ったのだけど、かなり整っているのね」
「確かに。書類や本が積み上がっている訳でも無いしな」
「というか、これは全体的に物が少ないのではないでしょうか?そっちの棚も隣の本棚もスカスカです。……研究を引き継いだ人が他所へ持っていった、とか」
「なるほど……お、これは、もしかして『大聖堂』か!?これは立派な建物だな……」
アリステアが壁に掛けられた絵を指さす。そこには在りし日の『大聖堂』と思しき建物と鐘楼が画かれていた。
左右の大きな尖塔が建物の主要部分となり、その間を少し低くなった建物が繋いでいる。窓にはカラフルなガラスが嵌め込まれ、そこに陽が射しこんだ時はさぞかし見応え十分な光景だった事だろう。
一方で、その『大聖堂』に寄り添う様にそびえ立つ鐘楼は、今と変わりない姿だ。
「……何で『大聖堂』は全く残っていないのに、鐘楼はそのままの姿で残っているのかしら?」
「この屋敷と同じ様に、『保護の魔法陣』の上に建っているとか?」
「『大聖堂』は……この大きさでは、さすがに魔法陣の上に建てるというのは無理ですな」
「サンフォードのとその親族は、『大聖堂』内の魔導具だけでなく『時を告げる鐘』の管理もしていたという事なのだろうな」
「はい、そう考えるのが自然だと思います。賛成です」
そのまま部屋を回り、部屋の隅にある、衝立で仕切られた応接セットの横まで来た。
「アーティ、見てください。可愛いですね」
そう言いながらフランが手に取ったのは、ソファーの上に置かれた猫の剥製だ。黒猫で銀色のベストを着ている。
「ふふ、本当だな。サンフォードの家族の持ち物だったのかな?」
「猫好きのおじさんだったのかもしれませんよ?」
そんな事を話しながら室内を一周し、本棚の前に戻ってきた。
(もしかしたら、と思ったけど……まあ仕方がないか)
キースは少し落胆しながら本棚を背に部屋の中を見渡す。
「では、本棚の中の本を上に持って行って、内容を確認しましょうか」
「よし、では手分けして運ぼう」
そう言いながら、アリステアが本棚のガラス扉を開けようと把手を握る。
その瞬間、ガラス扉全体が薄青く煌めき、本棚を中心に魔力が動く。
(魔法の罠!?本棚だけ個別に掛かっているなんて!)
アリステアは青い煌きを見た瞬間、咄嗟に手を離しすぐに距離を取っていた。この辺りはさすがの身のこなしである。
キースは<結界>を展開したままアリステアに駆け寄る。
「アーティ大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。何とも無い。すぐに離れたからな。開ける時に嫌な感じはしなかったのだがな……油断したか」
手のひらを見ながら首を捻る。悪影響がある仕掛けなら、ほぼ間違いなく『勘』が働くはずだが、今回はそれが無かった。
「部屋全体も……妙な魔力反応はありませんね。罠では無かったのかな?でも、そうだとすると何だったんでしょう……あ、ちょっと待ってください!その衝立の向こう!何かが動きだしました!」
キースを中心に、クライブが一番前で盾を構え、その斜め後ろでアリステアが剣を抜く。フランはキースと背中を合わせて後方を警戒する。前にばかり気を取られていると、後ろから不意を突かれる可能性もある。
皆がじっと見つめていると、衝立の影から出てきたのは、なんと先程の剥製の黒猫だった。顔だけ出してアリステア達の様子を窺っている。
(……これだったのか!やっぱりあった!というかこの場合『居た』の方が正しいのか?よし……)
「こんにちは、サンフォードさん。初めまして」
キースの声掛けにアリステア達はもちろん、猫も目を剥いた。
「キース!?この猫がサンフォードなのか!?」
アリステアが半身のままで尋ねてくる。キースはサンフォードだと言うがまだ正体は不明だ。攻撃してくる事も考えられる。視線を外す訳にはいかない。
「だと思いますよ?いかがでしょう?違いますか?」
顔だけ出していた黒猫はそのまま衝立の影から出てきた。先程までは確かに剥製だったのに、今はまるで生きている猫の様にしなやかな動きだ。何も言われなければ本物の猫にしか見えない。そして、自分の身体を確認するかの様に、しきりに背中や尻の方を振り返る仕草を見せる。
「ふむ……どうやら本当に猫の様だな……エミーリアの趣味か?彼女は猫が好きだったからな。いかにも、私は魔術師にして魔導具技師、サンフォードだ。……君達はここが私の部屋だったと知っていて入ってきたのだね?」
「はい。あなたの研究室を探していまして、『大聖堂の魔導具の管理をしていたからそこに部屋がある筈だ』と教えていただきました。……時に、その状態で<探査>の魔法は使えますか?もしできるならお願いしたいのですが」
サンフォードは首を傾げてキースの事をじっと見つめる。
(扉の『鍵』を開けた事、猫の姿であるのに私の名前を呼んだ事、この2点が少年?が見かけ通りの魔術師では無い事を物語っている。さらに人数は1対4……ここは従っておくしかないな)
いきなり魔法を使わせるその意図は理解できなかったが、少なくとも現状は把握していた。
「……いいだろう、<探査>!」
4人に見つめられながら、サンフォードは<探査>の魔法を発動させた。
「んん?なんだ?……<探査>!……目が覚めたばかりだからか?猫であるのは……関係あるのか?これは……」
戸惑いながら独り言を言うサンフォードに対し、キースは優しく声をかける。
「サンフォードさん、<探査>の反応は間違っていませんよ」
「だが……どういう事だ!なぜその3人は!」
「これがあなたの研究の、エレジーアさんに施した処置の集大成です。3人は魔導具の身体に意識を移し、僕と一緒に行動しているのです」
サンフォードは口を開けて呆然としていたが、キースは構わず発見の経緯、仕様、使用感を説明した。
サンフォードは衝撃と説明が消化しきれなかったのか、キースの話が終わっても黙ったままだった。だが、しばらくして大きな溜息を一つ吐いた。
「そうか……そんな次元にまで到達できたとは……誰がここまでの域に仕上げたのだろうな?エミーリアか、さらにそれを引き継いだ者なのか……」
「それは今のところ不明です。さらに過程を追っていくつもりですので、その途中で判明させられると良いのですが。そして、その際はぜひお知恵を貸していただきたいのです」
「もちろんだ。私としても非常に気になるところであるしな。そういえば、『大聖堂に私の部屋があると聞いて探していた』と言っていたが、誰に聞いてやってきたのだね? 入ったのが君だから良かった様なものの、そうとも限らなかった訳だろう?そんな余計な事を言った奴には文句の一つも言ってやらねば!」
サンフォードは眉間に皺を寄せる。自分が発案した魔導具の昇華した姿に気を取られているのか、キースがエレジーアの名前を出した事にも気がついていない。
(猫も眉間に皺を寄せれば嫌がっている顔に見えるんだな……)
アリステアはどうでも良い新たな気付きを得た。
「ふむ……では直接文句を言いに行きますか。すぐに会えますから」
「おお?そんな近くにいるのか?ぜひとも願いたいな!」
サンフォードの鼻息は荒い。だが、実際には黒猫がフンフンしているだけなので、とても可愛い。
「分かりました。では行きましょう」
キースは3人に向けて頷くと、サンフォードを抱き上げて扉へと向かった。
□ □ □
4人と一匹は、屋敷から馬車に乗り冒険者ギルドへとやってきた。サンフォードはいつもの鞄に入ってもらい、受付の職員達とギルドマスターのディックに挨拶をし、『北西国境のダンジョン』経由でエレジーアの部屋へと転移する。
「サンフォードさん、ちょっと待っててくださいね。まだ顔出しちゃダメですよ?今文句を言う相手を連れてきますので」
キースの入室に伴い起動したエレジーアに向かって口の前に指を一本立てながら、サンフォードに声を掛ける。
(エレジーアさんならこれで何事か察してくれるはず)
「よし、準備整いました。ではサンフォードさん、外へどうぞ」
ベッドに座り、膝の上で鞄の留め具を外して口を開くと、すかさずサンフォードが飛び出した。
「さあ少年!どこのどいつだ!人の住処の事を断りもなくペラペラと喋った奴は!」
「なんだい!私が知っている事を喋ったのがそんなに気に入らないのかい!人が寝ている間に随分と偉くなったじゃないか、ええサンフォード!!」
「………………え?」
「自分ばかりそんな可愛い黒猫に収まりおってからに!私がどれだけ苦労して向きを変えていると思っているんだい!さっさともう少し動きやすい身体に移すんだよ!いいね!」
「…………」
「何を黙っているんだい!何とかお言い!返事の仕方も忘れちまったのかい!本当にお前という奴は……幾つになってもしょうのない奴だよ!」
(涙声っぽくも聞こえるけど、それを言ったら矛先が僕に向くだろうからやめておこう)
「先生……」
「なんだい!」
「本当に……本当に先生だ……」
「さっきからそうだと言っているだろう!だいたい、お前が私をこの熊に移したのだろうに!」
「ですが、ですが、まさか、本当に上手くいっていたなんて……」
「ああ、お前にしては上出来だ!それだけは褒めてやろう!大したもんだよサンフォード!よくやった!」
(!?)
熊はぬいぐるみなのだから表情が変わるはずも無いのに、キースにはその顔がニヤリと笑った様に見えた。
「――――! ぜんぜい〜〜!!」
サンフォードは泣きながら熊のぬいぐるみに突っ込んだ。
「ほれ!ジジイがいつまでもピーピー泣いてるんじゃないよ!さっきも言ったけどね、お前にはもっと動きやすい身体に移してもらわなきゃならないんだ!分かったらさっさと動くんだよ!こら!鼻水をつけるな!離れろと言っているだろ!ああもう!」
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