第226話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
海の神の神殿へ移動し、司教様に挨拶をしてから図書室で『大聖堂』について調べましたが、手掛かりは見つかりませんでした。次に王城の図書室で調べます。昼食が遅くなったイングリットたちとお昼を一緒した時、何かに気が付きました。
□ □ □
「確かに『時を告げる鐘』は"かの国"由来なのでしょうが……では、仮にあの鐘楼が『大聖堂』の一部だったとすると、僕達の拠点は……」
キースが興奮に声を震わせる。
「ああ、屋敷は鐘楼の一区画隣だからな、あの辺りが『大聖堂』の敷地内だった可能性は十分だろう」
「サンフォードとその親族は『大聖堂』の魔導具の管理をしており、その敷地内に住んでいた……『敷地内にある屋敷=サンフォード達の屋敷』と考えて良いかと」
「あの屋敷は『保護の魔法陣』の上に建っていますからな。『大聖堂』自体は無くなってしまっても、屋敷の方は魔法陣が無効にならない限り老朽化もしない。魔術師で魔導具技師であった人物なら、そういった処置をしていてもおかしくなさそうです」
フランやクライブも笑顔で頷きあう。
「そうですね!きっと、あの広い地下室を研究室として使っていたのでしょう!これは期待できそうです!」
「えっ?」
「……えっ?」
キースの言葉に4人は顔を見合わせる。
「キース、地下室って何だ?あの屋敷にか?」
「そうですよ?結構な広さで、だいたい屋敷の敷地半分ほどの広さがありましたよね?……もしかしてご存知無い?」
「オーエンからそんな話は聞いてないぞ!当然案内もされていない!」
アリステアが血相を変える。
「あの様子から、彼は知っているのに黙っていられるタイプとは思えませんし、その理由もありませんからな。言わなかったという事は、彼も知らないのでは?」
「魔法か何かで隠蔽されていたのでしょうか?<探査>で空間と魔導具の反応が確認できていますから間違いありません」
「あの、先生、お話中申し訳無いのですが……少しご説明をお願いできますか?」
置いてけぼり代表としてイングリットがキースに声を掛ける。
「ああ、これは失礼しました。朝から午前中に掛けての、海の神様の神殿に行く前の話なのですが」
キースがイングリット達に、王都での拠点として使う為に、屋敷を借りた事を説明する。
「では、あの魔導具の基礎を作られた方の研究室があるかもしれない屋敷を、ご自分達の拠点として賃貸契約した、という事なのですか?それは凄いですね!」
話を聞いたイングリットも、薄青い魔石色の瞳を輝かす。キースからは『魔導具の完成には、数十年、もっと掛かってもおかしくない』と聞かされている。彼女にとっても手掛かりが見つかる事は喜ばしい事だ。
「『ここにしよう』と決めたのはおばあ様なのです。屋敷の事すら知らないのに多くの候補の中から見事に当たりを選び出し、さらに家賃まで負けさせて契約するなんて……さすがは白銀級アリステアの『第六感』です!」
「アーティ、これは『依代の魔導具』に匹敵する、生涯最大のお宝を発見したのではありませんか?おめでとうございます」
「これが白銀級に到ったトレジャーハンター……まさかいきなりその力を目の当たりにするとは……凄まじいですな」
イエムの言葉にハンナとヨークも頷く。
「ちょ、ちょっと待て。さすがにこれは……たまたま、偶然だからな?狙ってやったのでは無いぞ?そんなに褒めないでくれ」
さすがのアリステアも居た堪れない様子だ。
「狙ってもいないのに最高の結果を出すなんて……おばあ様、あなたという人は……」
アリステアの言葉に、キースとイングリットが目を丸くしつつ輝かせる。
「アーティ、もう何を言っても無駄ですね。素直に褒められてください」
「ああ、もう……そうじゃないのに……なんなんだ一体」
孫や皆に褒められるのは嬉しいが、お尻の辺りがムズムズして仕方がないアリステアだった。
□ □ □
「では先生、図書室はどうされますか?図書室に行くよりお屋敷に戻って確認された方がよろしいのでは?」
「確かに殿下の仰る通りです。こちらからお願いして押し掛けたのに申し訳無いのですが。まるで、昼食を集りに来たみたいな形になってしまい恐縮です……」
「ふふ、思わずご一緒できて嬉しかったですよ?国務長官もよくお昼前に来たりしますし、お気になさらず。……先生、少しでも早く屋敷に行きたいとお顔に書いてあります。行ってらっしゃいませ」
「〜〜〜〜!お恥ずかしい限りですが、ごもっともです。それでは失礼して行ってまいります」
「はい。後ほど結果を教えてくださいね。楽しみにしております」
足早に退室して行ったキース達を見送ったイングリットは、補佐官達と顔を見合わせる。
「歳下の私が言うのもなんなのですが、本当に可愛い方ですね」
「ええ、素直で真っ直ぐで、今どき珍しい存在です」
「ですが、これからはどうしても貴族と関わる様になってきます。毒されたりしない様にしていきませんと。貴族の行動原理や思考の仕組みについて、知識としては知っているでしょうが、やはり直接触れるのとは違いますから」
「ふふ、その辺りは基本私が相手をします。先生に慣れていただく為の時間を稼ぎませんと」
(あら!何と力強いお言葉!やはり愛の力は偉大ですね!)
壁際に控えているレーニアとマルシェが、再び横目で視線を交わす。新たな燃料に内心ホクホクだ。
「遅くなったせいで、もう間もなく午後のお茶の時間ですがどうしましょうか……このままもう少し休んで、終業時間まで一気にいきますか。皆もそれでよろしいですか?」
「はい、承知しました」
イングリットの執務室は超絶ホワイトな部門だ。昼食がずれ込んだから休憩が無くなる、などという事は有り得ないのである。
4人は引き続き午後のお茶を楽しみながら、イングリットとキースの今後についての話で盛り上がった。
□ □ □
馬車の手綱を握るキースは、逸る気持ちを抑えつつ、可能な限りの速さで拠点に向けて走らせた。向かう途中で『時を告げる鐘』の鐘楼の横を通る。『大聖堂の一部だったのかも』と思いながら通ると、途端にそんな気がしてくるから不思議だ。
「キース、その地下室にはどこから降りるんだ?」
「はい、2階に上がる階段の下にある空間、そこの床から階段と思われる通路が伸びています」
馬車を降り、説明しながら屋敷内に入ると、一目散に階段を目指す。
「ここですね」
「どれどれ……お、これか?」
キースの指摘にアリステアが膝を付いて床を調べ始めると、すぐに小さな出っ張りを見つけた。それを指で押し込むと把手が持ち上がる。
「よし、では開けるぞ……みんなちょっと離れてろ。開く向きは……上側か」
少しだけ持ち上げ向きを確認する。開けた時に中から何かが飛び出してきても良い様に、蓋部分を利用して身体を隠せる位置に移動する。
「よし、じゃあ3つ数えてから開けるぞ?いいか?3、2、1、それっ」
蓋を全開にしたそのままの勢いで廊下の奥へ進み、階段から離れる。魔術師の屋敷の、秘密の地下室への出入口だ。何らかの仕掛けが作動する可能性もある。離れて様子を窺うのがセオリーだ。
100まで数え終えたアリステアがゆっくり近付いて行く。キースが<光源>の魔法で生み出した光の玉を階段内に飛ばし、それに合わせてアリステアが中を覗き込む。
「階段しかないな。空気も……おかしな臭いは無い。大丈夫だろう」
「<探査>の反応では、階段の1番下に壁の様な魔力反応があります。壁の様なものは扉で、魔法か魔法陣で鍵を掛けてあるのでしょう」
「よし、では降りてみよう」
クライブが先頭で盾を構えながら階段を降り始める。すると、光の玉とは別方向が明るくなる。壁に設置してある『照明の魔導具』が点灯したのだ。
「うおっ!?何だこれ、勝手に点いたぞ!どうなっているんだ!?」
アリステアが声を上げながら、反対側の壁際に寄る。
「……近くの動くものに反応して点く仕組みとかかな?非常に気になりますが、今は後回しです」
最優先なのは、研究室と思われる部屋に入る事だ。『照明の魔導具』の研究は後でで良い。
階段は20段ほどと、だいたい一階層分だった。一番下まで降りた皆の目の前には、部屋の入口である扉があり、薄青い光を放つ魔法陣が貼り付けてある。光を放つ=起動中、という事だ。
皆の後ろからキースが前に出る。その目はまるで、新しいおもちゃを手に入れたかの様に、爛々としていた。
「ここまでは予想通りですね。ですが、この『施錠の魔法陣』は僕の知らない構成です……さてさて、どんなもんかな……」
書類筒から新しい紙を取り出し書き写し始める。鍵として起動している魔法陣にいきなり触るのは、何が起こるか分からない為避けた方が良いとされている。その為、一度紙に写し、そこで起動させて解除を試みるのだ。
(開けられるかどうかの心配より、未知の魔法陣を目の前にしたワクワク感の方が強いみたいだな。いかにもキースらしい)
アリステアは、魔法陣を書き写し始めた孫の後ろ頭に優しい眼差しを向けた。
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