第225話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
キースとアリステア達は冒険者ギルドで合流、王都での拠点となる屋敷に行き、中を確認しました。その後、かつてこの辺りに存在していたらしい『大聖堂』について調べる為に、海の神の神殿に向かいます。
□ □ □
海の神の神殿に着いた一行は、馬車を預け礼拝堂に入った。居合わせた神官に寄進を渡し、皆でお祈りをする。
フラン以外の3人は特定の神の信者という訳では無いが、神殿は言わば神の家の玄関である。その存在を信じていない訳でも無い以上、訪れた際に挨拶ぐらいするのが礼儀というものだ。
ちょうどお祈りが終わった時、礼拝堂側面にある奥に続く扉が開いた。入ってきたのは、年配だが背筋が伸び立派な身なりの男性だ。皆立ち上がり男性を迎える。
「ただ今戻りました司教様」
代表してフランが挨拶する。男性も優しい笑顔を向けてくる。
「よくぞ戻られた、海の神の娘とお仲間方よ。……お変わりなく、と言うのは少々違う気もしますが、お元気そうで何よりです」
この言葉の後ろ半分は、アリステアに向けたものだ。キースとパーティを組んだ際に、フランとクライブが立ち寄り経緯を説明してある為、アリステアの姿が違う事は知っている。
だが司教は『姿形が違っても気配で分かる』と言い切る程の人物だ。たとえ説明を受けていなかったとしても『白銀級のアリステア』として接しただろう。
「ご無沙汰しております司教様。年甲斐も無く元気に楽しく過ごしております」
「ふふ、歳を取れば取るほど、自分で心を沸き立たせていく必要があります。でないと、あっという間に老け込んでしまう。楽しく過ごせていると自覚できているのであれば、まだまだ大丈夫でしょう」
「司教様、お久しぶりです。……憶えていらっしゃいますでしょうか?アリステアの孫のキースです」
「もちろんですとも。あなたの目の奥の輝きと気配は小さい頃から変わりません。白銀級認定おめでとうございます。夢を叶えましたね」
司教の言葉に、キースは不思議そうに瞬きを繰り返す。
「キースこそ憶えていないみたいね。あなた、小さい頃司教様にお会いした時に『僕は冒険者になって白銀級になるのです!』って言ってたのよ?」
「ええっ!?そんな事を?」
「そうだぞ。というかな、初めて会う人みんなにそう言っていたんだ。懐かしいな」
「うわぁ……全然憶えてません。恥ずかしい……」
「小さい子の言う事だし、ライアルの息子で私の孫だからな。言われた人達も何とも思ってない。気にするな」
「それはまあそうでしょうけど……いや~参りました」
キースは頬を染めながら俯き視線を床に落とした。
その後、『北西国境のダンジョン』の共同神殿と、立ち上げ期間中の責任者を務めているリエットの近況を伝える。司教は嬉しそうに頷きながら聞いていた。
「して、今日はどうされた。挨拶だけでは無いのでしょう?」
皆がキースを見る。リーダーというのもあるが、エレジーアから話を聞いたのはキースだ。一番事情が分かっている者が説明するのが筋である。
「セクレタリアス王国期に、この辺りに『大聖堂』と呼ばれていた建物があったらしいのですが、司教様はご存知でしょうか?」
「大聖堂、ですか……いえ、聞いた事はありませんね」
「そうですか……というのもですね」
キースはエレジーアから聞いた話を説明する。
「なるほど、その『大聖堂』の敷地の中に魔導具技師の研究室があったと……」
「はい。『北国境の城塞跡から南へ、それ程遠くない場所』なのですが」
「司教様、図書室にお邪魔してもよろしいでしょうか?古い本に記載があるかもしれないと思いまして」
「ええ、構いませんよ。どうぞ見ていって下さい」
「ありがとうございます。それでは失礼して行ってまいります」
「何か分かれば私にも教えてください。ヒントだけでも見つかる事を祈っていますよ」
アリステア達は司教と別れ、フランの先導で図書室へと向かった。
□ □ □
「うーん、駄目かぁ……やはり間が開いてしまうと難しいのかな……」
キースが残念そうな声をあげながら、見ていた本を閉じる。アリステア達も溜息をついたり伸びをしている。
とりあえず、図書室の中でも一番古い本が収まっている本棚の本を確認したが、特にそれらしい記述は無かった。
そもそも、セクレタリアス王国が滅んでから、エストリア王国が成立するまでの約100年間は『戦国時代』であり、乱立した組織同士での争いが行われていた。
さらに、歴史書によると、国が成立してから各派の神殿が建つまで15年から20年程経過している。
(国が興ってある程度落ち着かないと歴史書何て書いている余裕は無いよな……そうすると、ここに納められた一番古い本でも、セクレタリアス王国が滅んでから120年ぐらい経過してから書かれた、という事になる。それだけ間が開いたら、かつてあった建物の事なんて書かないか……)
しかもエレジーアの生きていた時代は、滅亡からさらに約200年程遡る。その200年の間に建物が無くなったのかもしれないのだ。
「どうするキース?今回は諦めてとりあえずカルージュに向かうか?」
キースは目を閉じて考えていたが、アリステアの提案に目を開けた。
「殿下に王城の図書室にお邪魔して良いかお尋ねして、ダメであればカルージュへ向かいましょう。今ご都合を確認します」
キースは書類筒から『物質転送の魔法陣』を取り出し、図書室の机に広げると、メモ用紙に何やら書き付け転送する。
(おいおい殿下に直接送れる魔法陣なのか?いつ渡したんだ?油断も隙も無いな!)
(随分手馴れているわね……昨日2人でいる時に渡して、夜やり取りしたのかしら?もう、キースったら!)
その様子にアリステア達は顔には出さずにニヤニヤする。
返事はすぐに届いた。キースが送られてきたメモ用紙を見て小さく頷く。
「図書室の使用は許可をいただきました。殿下はさすがにお忙しいらしく同席できないとの事ですが、マルシェさんが付いてくれるそうです」
イングリットは明後日から連休に入る。休みを満喫する為には、連休前にできるだけ仕事を終わらせておく必要がある。いくら相手がキースでも、急な予定変更は受けつけないだろう。
「あとですね、今日はこれからお昼休憩との事で、お昼を一緒に食べましょうとの事なのですが……」
「……お断りする訳にはいかないだろう」
「す、すいません。いつもはお昼休憩が終わる時間ですのに、急ぎの案件が入って押してしまったのだそうです」
「さすがにそんなの分からんだろう!気にするな!それにもう家族だからな!余り深く考えない事にする!実際美味しいお昼は歓迎だ!」
「ふふ、ありがとうございます。では行きましょうか」
図書室を出て、司教に結果とお礼を伝えた後馬車に乗り込む。
王城に向けて走り出したその時、『時を告げる鐘』が1の鐘を打ち鳴らしていた。
□ □ □
「なるほど……確かに、その研究室が見つかれば、一気に進みそうですね。どうですか?『大聖堂』、心当たりある人いますか?」
食後のお茶の入ったカップを持ちながら、イングリットが補佐官達に尋ねる。だが、やはり、大聖堂については誰も知らなかった。
「殿下、そもそも、ここに王都を作った理由、というのはご存知ですか?」
不意に、補佐官3人組の最年長であるイエムが尋ねる。この辺りの事は当然教えている。次期国王が知らなくて良い事ではない。
「えっ、そ、そうですね、えーと、ヴィーゼ湾が目の前にあって船の出入りがし易いからと、高台にあって攻められても守りやすいから、でしたね?」
イングリットは慌ててつつも何とか答えた。
「 その2点に加え、北の国境、トゥーネ川から近過ぎず遠過ぎずの位置である事も含まれます。80点でございますね」
イエムの言葉にイングリットは悔しそうに唇を引き結ぶ。
「殿下、なぜトゥーネ川から少し離れる必要があるのでしょう?ご説明をお願いします」
今度はヨークだ。明らかに面白がっている。
「川に近すぎると、川上から船で不意を突かれる可能性があり、一息で陥落させられるかもしれません。遠すぎると、せっかく川を使う事で楽に、速く運搬できたのに、最終的に王都に着くのに時間が掛かってしまいます」
「素晴らしい!100点です」
一瞬、目を閉じ口角を上げ『ふふん』とするが、キースがいる事を思い出し、慌てて取り繕う。
(はぁ……キースさんがいると殿下が一々可愛すぎる。もうずっと王城にいてくれないかな)
壁際で控えるレーニアとマルシェは視線を交わす。
「先生、一口に『大聖堂』と仰いますけど、具体的にどの様な建物でしょう?私が思い浮かべるのは、『大きな礼拝堂』というものなのですけど……」
「私も同じです。敷地は壁で囲まれて、庭は石畳で広場の様に広く、少し階段あって大聖堂に続いて…」
「特定の曜日には、広場で市が立ったりもしそうです。神殿でもありますもの」
「そうですね!後は、神官の人達が住む居住用の建物があって……後はやはり鐘楼とかもありそうです!『時を告げる鐘』の様な!……あ」
キースの言葉に皆の顔から表情が消えた。
ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)




