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第223話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


キースはエレジーアの部屋で、授与式前日からの出来事を伝え、今後の目標についての資料や手がかりを探します。アリステア達はロワンヌ商会のエレインの伝手を頼って、王都での拠点探しに。ちょっと癖のある不動産屋を紹介されました。


□ □ □


(うん、やっぱり良いな。ここに決めるか……いい加減疲れてきたし)


アリステアはフランとクライブと視線を交わしつつ頷くと、意図を汲んだ2人も頷き返す。アリステア同様に、少し疲れた様な表情だ。


拠点となる建物を探すべく、テューダー商会のオーエンと共に物件を見て回っていたが、3人は全てにおいて勢いの良いオーエンに圧倒されていた。まだ3軒目であるのに既にぐったり気味である。


「オーナー、ここにしようと思う」


「おおっ!?よろしいですか!?ですが、まだまだ他にもお得で良い物件もございますよ!?せっかくですのでそちらもご覧になられては?次の屋敷も、お隣は公園、内装のセンスと程度、どちらも素晴らしいのですが!ぜひとも見ていただきたいところですがいかがでしょう?」


「いや、ここが良いんだ。契約を」


オーエンがよく喋る分、アリステアの言葉が少なくなっている。だが、オーエンはそんな事は全く気にしていない様で、よく喋る。


「かしこまりました!いや、お客様はお目が高い!実のところここが一番のオススメ物件でした!いや、もちろん全てがオススメなのですよ!?極々僅かな差で一番だった、という次第でして!それにこの建物は少々特殊な部分もあるのです!」


オーエンはそこで一旦言葉を切ると、アリステア達の反応を窺う。乗ってやるのも癪だったが、アリステアも結構な知りたがりだ。仕方なくオーエンに尋ねる。


「ほう、それは?」


アリステアの返答に我が意を得たりとばかりに、オーエンが身を乗り出した。


「はい、こちらの建物はかなり古いものなのですが、非常に綺麗だとは思われませんか?なんと、敷地自体に『保護の魔法陣』が設置されているのです!その為、今でも建てられた当時の、新築の状態を維持していますし、今後のお手入れも不要なのでございます!」


「それは凄いな……不動産屋としては助かるな」


「はい!老朽化による補修が必要無いというのは、お客様に何時までも快適にお住みいただける、という事でございますので!ただ……それによりお家賃が少々お高くなってしまうのですが……」


そう言いながら、取り出した契約書の金額部分を指し示す。そこには、この辺りの同程度の屋敷の2倍近い金額が書かれていた。金額を見たアリステアが眉間に皺を寄せる。


家賃(売却額)は立地と間取り、備え付けの家具の程度で決まるが、その他の要因としては、オーエンが挙げた様な『公園が近い』『内装に手が込んでいる』などもある。間取りは、キッチン・ダイニング・リビング・風呂・トイレは標準で、それ以外の部屋、要するに寝室や書斎、客間として使える部屋の数がどれだけあるかがポイントだ。


アリステアは大金持ちだ。ケチでもないし、金払いは良い方だが、それはその金額が妥当だと判断したからだ。当然、高いと感じれば払わない。アリステアは席を立ち、控えていた2人に向き直る。


「フラン、クライブ、ロワンヌ商会に帰るぞ。交渉は決裂だ。奥様に事情をお話して、別の、もっと誠実な商会を教えてもらおう」


「えっ!?あっ、お、お客様!?」


フラン達も驚いたが、オーエンはもっと驚いた。契約寸前だった相手の、いきなりの翻意だ。そんな事になったら誰でも驚き焦るだろう。


「借家なのだから補修などの費用は所有しているそちら持ちだろう。『保護』が掛かっていて助かるのは私達では無いのに、なぜそれを家賃に乗せて客側に負担させるんだ?」


(!?ふっかけたのがバレたのか!?欲をかき過ぎたか!)



それでも相手の心の内を正確に捉え、それに対応しようとするのはさすがだ。


「大変失礼致しました!仰る通り、お客様に負担を求めるのは誤りでございます!お家賃はこちらに改めさせていただきます。どうぞ引き続きご検討の程、よろしくお願い致します!」


平身低頭しながら契約書を交換する。そこに書かれた、相場の2割増程の金額を確認しつつ、オーエンに視線を向け、その心の内を図るかの様にじっと見つめる。


(まあ、人が住んでいたとはいえ魔法陣の効果で新築みたいなものだからな、金額はこんなところか……1軒に対して違う金額が書かれた契約書を複数用意している辺り、心根が少し気になるがそれもよくある話だ。他人が損をする事まで私が気にする話ではないからな。この家の家賃が適正でさえすれば問題は無い。だが……)


「オーナー、あなたは私との勝負に負けたんだ。なぜ勝者が敗者の言う事を聞かねばならない?」


アリステアの言葉に、オーエンはいまいち真意が掴みきれないらしく、眉間に皺を寄せ首を傾げる。


「商人にとって価格交渉というのは、真剣勝負、まさに命のやり取りではないのか?我々冒険者がダンジョンに入り、魔物と相対するのと一緒だ。勝てば魔石を得られるが、負ければ腕や足を無くし、最悪命まで取られる。まあ、あなたにとってはこの交渉はそういうものでは無かった様だがな。『冒険者なんて家賃の相場や補修の費用負担の事なんて知らないだろうから、踏んだくってやれ』と思ってこの金額を提示をしたのだろう?それを私に見破られた。だからあなたの負けだと言ったのだ。違うか?」


「……ご、ごもっともです」


「だから私は勝者として『この交渉を終了する』と言っているんだ。奥様の所に戻り、別の商会を教えていただける様にお話する。まあ、奥様はなぜそうなったのか知りたがるだろうな。自分が紹介したのに『他の業者を紹介して欲しい』と言われるのだから。私は当然、コレコレこうだとありのままを説明する。嘘つきになってしまうからな。そうしたら奥様はどう思われるだろうな。自分の借りている建物と同等レベルの建物の家賃を比較したり、同業の商会に確認するだろう。その過程でこの話も出る。この話を聞いた他の商会は何を考える?どう動く?」


オーエンの顔色はアリステアの話が進んでいくに連れて白くなっていった。


「そう、誰もテューダー商会と取引しなくなる。こういった話が広まるのはあっという間だからな。名前と業種を変えて再出発する事も考えた方が良いのではないか?」


「ま、誠に、誠に、申し訳ございませんでした!どうか、ご寛恕いただき再交渉の機会をお願い致します!」


オーエンは絞り出す様に声を出し、席から立ち上がり頭を下げた。その身体が震えているのは、力が入り過ぎているせいだけではないだろう。


「さてな……どうしたものか。私達は他に良い建物があればそちらで良いし、文字通り命を張って稼いできた金だ、もっと真っ当な商会と取引したい。引っ越しを繰り返すのも面倒だしな。そして、今のところ、あなたは我々にとって誠実な商人とは言い難い。なので取引する理由が無い。だが……」


アリステアの言葉に下げていたオーエンの頭が跳ね上がった。


「経験豊富なあなたなら理解しているのではないか?価格交渉でもつれた話を解きほどくと同時に、自分がいかに借り手に沿った考え方ができ、客の方から『ぜひ契約を!』と言い出す様な、魅力的な商人である事を証明するにはどうしたら良いのか」


オーエンは机の脇に置いた鞄に手を伸ばす。そして、この物件の、金額が書かれていない契約書を取り出し、立ったまま金額を書き入れた。


「こ、こちらでいかがでしょうか?」


そこには、改めて提示された金額の、更に半額なった額が書かれていた。当初のぼったくり価格だった家賃と比較すると、3分の1になった事になる。


「おおっ!これは素晴らしい!ぜひ契約したい!さすがはロワンヌの奥様が推薦されるだけの事はある。とっさの判断力も強い決断力もお持ちの様だ」


わざとゆっくり笑顔になる。だが目は笑っていない。


「あ、あ、ありがとうございます!……そ、それとですね、年間一括払いですと1ヶ月分割引となるのですが、そちらはいかがでしょうか?」


オーエンが契約書に書かれた月単位と年単位、2種類の金額を指差す。


(廃業寸前までいったにも関わらず、即新たな提案をしてくるとは中々図太い。まあ、これぐらいでないと王都ではやっていけんか)


2人のやり取りを見ていたクライブは、ギリギリを攻め、ただでは引かないオーエンの姿勢に感心した。


「ふむ……確かにお得だな。じゃあ年払いにしよう」


金額に一瞬目をやり暗算をする。ちゃんと11ヶ月分になっている事を確認しサインをする。


「は、はい!ありがとうございました!こちらがお客様がお持ちになる鍵でございます!以前お住みになられていた方が引っ越した後に交換しておりますので、どうぞご安心ください!冒険者の方達ともなりますと、ご不在になる期間が長くなる事もございますよね?その間ご不安でしたら、『施錠』の魔法陣を扱う魔術師のご紹介も可能でございます!お客様特別価格でご提供できますがいかがでしょうか?」


「そこは間に合っているから大丈夫だ」


その点についてはエストリア最高峰のものが手に入る。自分達が商売できるほどだ。


「左様でございましたか!確かに、冒険者の方達であればお仲間やお知り合いにも魔術師の方はいらっしゃいますでしょうからね!釈迦に説法とはまさにこの事!失礼致しました!では、お荷物や家具など運び込む物などはございますか?運搬を専門にする商会とも提携しておりますので、こちらもお客様特別価格でご提供可能でございますが?」


「それも大丈夫だな。まだ入る日付も決まってないし」


「承知致しました!ご入用の事があればぜひご連絡ください!それでは本日以上となります!お疲れ様でございました!」


オーエンの締めの言葉を受け、皆で馬車に乗り込みテューダー商会に向かう。


「お客様の馬車に相乗りさせていただくなど、商人としては大変恐縮でございます!ありがとうございました!お住みになられてからご不満やお気づきの点がございましたら、どんな事でも構いませんので、ぜひご連絡くださいませ!それでは、末永いお付き合いの程、よろしくお願い致します!本日は誠にありがとうございました!!」


「こちらこそありがとう。今後ともよろしく」


オーエンは、アリステア達の馬車が見えなくなるまで見送ると、足早に裏の勝手口へと回った。従業員に戻った事を告げると、すぐに執務室に入り、立ったまま机で何やら書き始めた。書きながら先程まで一緒だったアリステア達の事を考える。


(くそっ!あんな交渉上手な冒険者がいるとは!さすがに肝が冷えたぜ。……確かに最近調子良かったからな。少し油断していたかもしれねぇ。今回の件は勉強代だ。だが、収穫もあった。あの馬車だ。ガツンどころかコツンとも揺れなかった!若い頃から痔主の俺が、全く痛みを感じずに座っていられた馬車なんて初めてだ!魔法陣も『間に合っている』と言っていたしな……そこも含めて金の匂いがプンプンしてくるぜ)


書き終えた手紙を封筒に入れ、商会の紋章の封蝋を押すと、番頭と若い女性従業員を呼んだ。


「何かお茶請けに良さそうなお菓子を買って、ロワンヌ商会の奥様にお届けしてくれ。あの方は焼き菓子が好きだから、その辺りから選ぶと良いだろう。お客様を紹介していただいた事と、無事契約できた事のお礼だ、と伝えて欲しい」


「かしこまりました。行ってまいります」


菓子の代金を受け取った従業員が出て行き、扉が閉まってから、オーエンは番頭に手紙を渡した。


「ブレニム、これをあの方にお届けしてくれ。内容は面会のご都合窺いだ」


「かしこまりました。……先程のお客様の件、ですな?」


オーエンは頷くと、アリステア達と馬車について説明をする。


「冒険者らしからぬ交渉態度と揺れない馬車ですか……それは確かに気になりますな……」


「だろ?正直、若い冒険者に王都の借家の家賃なんて分かる訳無いと舐めてた。良い感じだったのに、魔法陣にかこつけてふっかけた家賃を提示したら、即『帰る』『奥様にバラすぞ』だからな。揺れない馬車といい、彼らには間違いなく金に繋がる何かがある。何とか今後の商売に繋げたい」


「確かにあの方なら、お立場からしても何かご存知かもしれませんな。よいご判断かと。それでは行ってまいります」


「ああ、よろしく頼む」


先代から仕える番頭を見送ると、オーエンは立ったまま机に寄りかかり、今後の展開を考え始めた。


□ □ □


エレジーアの本棚にあった本は、残念ながらキースの期待に沿うものでは無かった。


『依代の魔導具』や、街中に魔力を行き渡らせる仕組みに関する事は書かれておらず、ほとんどがその時代に流行った物語本だった。


「これはこれで貴重ですが、今はこれじゃないのですよね……残念です」


「サンフォードの奴め!どう考えても暇潰し用の本じゃないか!今お前さんが読み上げた作者名は、全部あいつが好んで読んでいた作家だよ!」


自分に施された仕組みについて何か分かるかもと期待していた分、エレジーアの腹立ちも激しい。


「残念ではありますが怒っても仕方がありません。エレジーアさん、サンフォードさん、でしたか、どんな方か教えていただけますか?」


「ふん、全く……確かに、とうに死んでいる人間に文句言ったってどうにもなりゃしないからね。じゃあ、いくよ」


そう言って語り出したエレジーアの説明は以下の様なものだった。


□ □ □


・男爵家の三男の生まれ。エレジーアよりだいたい20歳ぐらい歳下。親類に魔導具技師が1人。

・エレジーアの研究室には、嫁ぎ先の家の派閥絡みでごり押されて入ってきた。その為、当初は全く期待していなかった。

・だが『魔力は多いがその場で魔法を発動させるのが不得手』という、自分と共通する欠点があった事もあり、目をかける様になった。

・魔法陣よりも魔導具の作成が得意。

・エレジーアが夫の城塞司令官就任に着いてきた為、研究室は解散となった。彼は、親類がこの城塞からもほど近い『大聖堂』内の魔導具の管理人をしていた事から、その親類の個人研究室に移動し、研究を続けていた。


□ □ □


「『大聖堂』、ですか……ここからほど近いのですよね?今はもうそれらしい建物は無いですが……」


キースの声は先程本の内容が外れた時以上に沈んでいる。それはそうだろう。こんな近くにお目当てがあったのだ。スタート直後にいきなりゴールの手前に飛んだ様なものだったのに、それを逃したのである。


「ちなみに方角はどちらですか?見た感じどんな建物でしょう?」


「南だよ。大聖堂の見た目はね、何と言ったら良いだろうね……いわゆる『大きな聖堂』だ」


「ええ……も、もう少しありませんか?何か特徴的なデザインとか、色合いとか」


「そう言うけどね、本当に典型的な聖堂なんだよ!今お前さん達が思い浮かべている様な、尖塔があって、ステンドグラスが嵌った窓があって、という様なやつだ」


「そ、そうですか、分かりました。で、位置はここから南と…もしかして王都のある辺りなのかな?大きな建物であれば、建物は残っていなくても昔の資料に何か書かれているかもしれませんね。王城にあったりするかな?近いうちに殿下にお話して、王城の図書室に入れないかお願いしてみます」


「ああ、そうしておくれ。すまんね、役に立てずに」


キースが驚きに目を見張る。会話の流れで自然と出たのだろうが、エレジーアから謝罪の言葉を聞いたのは間違いなく初めてだ。だが、そこを指摘するとへそを曲げる為、口から出たのは別の言葉だった。


「何を謝られるのですか!エレジーアさんが悪い事なんて何もありませんよ!……そんな事仰るなんて、エレジーアさんらしくありませんね?何かありましたか?」


わざとおどけた感じで言う。


「……ふん!わたしゃ悪くないがね!弟子の不始末は師匠に責任があるって事だよ!」


その言葉を聞いたキースの脳裏には、エレジーアが腕を組んでそっぽを向く姿がありありと浮かび、思わず笑みを浮かべた。


「……サンフォードさんがこの仕組みを考え出して、ここまでにしてくれたからこそ、今僕は、何百年も前に生きていたエレジーアさんとお話できているのです。こんな凄い、ありがたい事ありませんよ。もしご本人が目の前に現れてお礼が言えるのであれば、抱きついちゃいますね、きっと」


「……」


「じゃあ、今日はもう行きますね。進展ありましたらまたお伝えに来ます。ではまた」


キースはエレジーアを、いつものベッドの枕元に座らせると、『転移の魔法陣』で帰って行った。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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