第222話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ティモンド伯爵が昼間の事を振り返り、イングリットはキースとの手紙のやり取りがやめられません。何とか切り上げたところに、昼間の大泣きの事を気にしたアルトゥールがやってきます。『今が幸せなのだから仮定の話で自分を責めないで』というイングリットの言葉にアルトゥールは泣きました。
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「エレジーアさん、おはようございます!」
色々盛りだくさんだった授与式の翌朝、キースは1人でエレジーアの部屋に来ていた。『依代の魔導具』についての資料が無いかを探すのと、作成者であるエレジーアの弟子について話を聞く為だ。
ライアルとデヘントのパーティは『北西国境のダンジョン』に戻り、引き続き緊急事態発生時の対処要員として配置しつつ、交代要員についての調整を行う。
アリステア達は、先日話が出た王都での拠点を探すべく出掛けて行った。キースとは昼を目安に合流し、カルージュの屋敷に向かう算段になっている。
「はい、おはよう。授与式はどうだったね?級は上がったのかい?」
「もう大変な事だらけで、どこから話をして良いものか……別れた昨日の午前中からの事を説明しますね」
そう言いながら、エレジーアが置かれているベッドに腰を下ろした。
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「白銀級に王配とは……丸一日でここまで状況が変わる事なんてそうないだろうね。言葉も無いよ」
「自分でもそう思います……」
右手を頭に乗せ、えへへと笑う。
「で、級はこれ以上無いのだろう?王配の話も受けた事だし、冒険者は終わりにするのかい?」
「いえ、冒険者はそのまま続けます。新しい目標もありますので。冒険者王配です!」
「それを王様や王女様に承知させたのかい?そんな話よく納得したねぇ……」
「『何時でも戻ってこられるのだから、どこにいても一緒』と説明したところ、特に反対などはありませんでした」
「確かにそうだがね……それを認める王様と王女様も大概というか大物というか……まあ、お前さんを婿に欲しいというぐらいだものね。只者であるはずがないか。でも、何で急に王配の話を受けたんだい?どうやって断るかを考えていると思っていたのだけど」
「あ、あ~、それがですねぇ……」
視線を床に逸らし、バツが悪そうに説明する。
「はっはっはっ!そうかいそうかい!良かったじゃないか、断る前に気が付いて!断ってから『やっぱり好きでした』はさすがに難しいだろうからねぇ!」
「……」
キースは頬を染めて俯く。アルトゥールや皆の前では『お慕いしている』と堂々と言い切ったが、あの時は『イングリットや陛下、家族、仲間達にみっともない姿を見せる訳にはいかない』と気合いを入れた結果だ。本当は、まだまだ照れくさくて恥ずかしくて仕方が無いのである。
「そうだ、結局お前さんの仲間は誰だったんだい?さっき判明した、と言ってたよね?」
「はい、あの3人の中の人は、祖母とその後輩冒険者達でした」
「……じゃあ一緒に暮らしてた人達だったって事かい!?」
「はい、魔導具はおばあ様、女戦士の方ですが、昔遺跡で見つけたものなのだそうです。僕の家出に気が付いてすぐに追い掛けようとしたのですが、おばあ様は70歳、後輩達も60歳ですから、そのままでは追いかけられない。そこで、あの魔導具の存在を思い出して……という事だったそうです」
「だから、お前さんをリーダーとして前に立たせて、経験を積ませようとしていたんだね」
「ええ、僕がどんなに無茶を言っても実現に協力してくれました。勿論、犯罪行為だったら話は違うでしょうが。何でそんなに良くしてくれるのか?と常々思っていたのですが」
「それも家族と、家族同然に過ごしてきた人達だったが故と……なるほどねぇ」
「父や他の仲間達は、会った直後からもしかして?と思っていたそうで、『特性まで一緒なのに、何で今まで気が付かなったのか不思議でしょうがない』と言われました。確かにそうかもしれないけど、僕としては最初に疑わなかったので、以降も全く考えなかったのですよね」
「確か、『彼らとなら一緒に行って良い』と言われたのだよねぇ?それどころじゃないか……んん? じゃあ、部屋を出ていく時に『もう遠慮しない』みたいな事を言っていたのは」
「はい、中の人達がおばあ様達なら、この魔導具について色々尋ねる事ができますから!半年以上おあずけされましたからね……」
「……その点については、お前さんはよく我慢したと思うよ。私だったら次の日に訊いてたね。『何で身体が魔導具なんだ?どうなっているんだ?』って」
「僕も何度そう口から出かかった事か……でも、僕はあの3人と一緒にいたかったんです。気を悪くされて『解散だ!』となっても困りますから」
「ふふ……そうかい……まあ、一番良い結果で良かったじゃないか」
「はい!この後村に一旦戻りまして、どういう仕組みになっているのか、確認させてもらう事になっています。屋敷の様子の確認も兼ねているのですが」
「ほう!後で私にも教えておくれ。本当に、これの仕組みについては何も知らないからねぇ。自分の事だって言うのに!腹立たしいったらありゃしない!」
今のエレジーアは、分からない事があっても自分で調べる事ができない。もどかしくてしくて仕方がないのだ。
「先程少し言いましたが、新しい目標の一つが、この魔導具、『依代の魔導具』と名付けましたが、これを再現する事です。そして、それに目処が立ったら、街全体に魔力を行き渡らせて魔導具を稼働する仕組み、あれを作り上げたいと考えています」
「……そうか、意識と記憶を魔導具に移して研究する期間を延ばすんだね? こいつは何とも大きな目標だ」
(流れを言っただけでこちらの意図を察するのは、流石エレジーアさんだな)
「ですが、現状全くのノーヒントです。このままではさすがに厳しいので、お師匠さんからお弟子さんについての話を聞かせてもらいたいのと、本棚のまだ見ていない棚に、資料とか何か残っていないかなと思いまして」
「なるほどね。もっともだよ。西側の本棚の下から2段目迄が私と紐付けされている本だ。だから、1番下の段に収まっている本は、私が目覚めるまでに持ち込まれたという事になるね」
キースは右手側の本棚を見る。
「10冊程収まっていますね……持ってきてちょっと確認してみます。設計図とかあれば最高なんだけどな……」
キースは期待8割と不安2割の気持ちを抱きつつ、ベッドから立ち上がり本棚に向かった。
□ □ □
同じ頃、王都での拠点を探しているアリステア達は、ロワンヌ商会でオーナーのエレインと面会していた。
朝の挨拶と昇級に関してのお祝いのやり取りをし、本題に入る。
「不動産を扱っている商会、ですね?はい、いくつかご紹介できますが、場所の希望と用途はいかがでしょう?」
やはり、その商会によって得意分野が異なる。貴族街に近い高級住宅街に屋敷を多数抱える商会、ごくごく平均レベルの住宅に強い商会、店舗や倉庫にも使える大きな建物を専門に扱う商会などだ。
「王都にいる間の拠点として使おうと考えていますので、そんなに大きくなくて良いのです。以前お訪ねした時の家ぐらいでしょうか」
『コーンズフレーバーの地上げ対応』の時に、アリステアの遣いとして、レース編みの品を納めに行った時に住んでいた家の事だ。
「そうですね……家にいない期間もそれなりにあるのでしょうから、少しでも治安が良い地域が良いですよね?では、あの家を含めて、あの辺りにいくつかの物件を持つ商会に連絡を取ってみますか?」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
「ちょっと待っててくださいね、遣いを出しますから。……皆さんこの後時間は大丈夫?」
エレインの言葉に、3人は不思議そうに顔を見合わせる。
「いえね、その商会自体は私が取引のある中でも扱っている物件は多いし、サービスも良いの。でもね、そこのオーナーというのがせっかちで、ちょっと勢いの良い人なのよ。おそらく契約の書類とかも全部用意してきて、着いて即『では内覧に行きましょう!』ぐらい言いかねないの」
「なるほど……時間は大丈夫です」
「分かりました。では遣いを出しますね」
そう言いながら手紙を書くと、奉公人の若者を呼び手紙を渡す。
「テューダー商会のオーエンさんに届けてちょうだい。すぐにお返事をもらってきて」
「かしこまりました!行ってまいります」
□ □ □
授与式の話をしていると、部屋の扉が叩かれた。エレインが入室を促すと、先程出て行った奉公人の若者が入ってくる。
「どうでした?」
「はい、それが……」
若者は困惑顔で言い淀む。その表情に、エレインはすぐにピンときた。
「もう来ているのね?ならご案内してちょうだい」
部屋を出て行く若者を見送ると、皆の方を振り向き笑う。
「やっぱり……ね、言った通りでしょう?来ると思ったのよ……」
「機会と客は逃さない!という気概が見て取れますね」
アリステア達も顔を見合わせ笑った。
再度扉が開かれ、入ってきたのは、30代後半程に見える、小柄で少し太めな男性だった。左手には書類が入った鞄を持ち、右手に持ったハンカチでしきりに顔の汗を拭っている。
「おはようございます奥様!初めましてお客様!私、テューダー商会3代目、オーエンと申します!奥様、この度はお客様をご紹介いただきありがとうございます!朝一番から奥様にお会いできるだけでも僥倖でございますのに、ご新規のお客様のお相手までできる!何という幸せな一日の始まりでしょうか!これ以上の喜びはございません!貴族街付近にお住いをお探しとの事!私共は王都の中でも、あの辺りを一番得意としております!必ずやお気に召す物件をご紹介できると確信しております!内覧にもすぐに行けますが、この後お時間いかがでしょうか?」
(これまた強烈なキャラだな……ちょっと勢いが良い、ぐらいじゃ済まないだろ、これ)
「あ、ああ、大丈夫だ。では案内をお願いする」
「オーエンさん、私と商会にとって、本当に大切な方達です。よろしくお願いしますね」
エレインが笑顔で念押しをする。慣れているのか、オーエンの勢いにも全く動じていない。
「おおっ!左様でございますか!かしこまりました!この不肖オーエンとテューダー商会、全力を持ちまして、誠心誠意務めさせていただきます!では参りましょう!」
「ああ、よろしく……」
(これ家を見に行くのだよな?戦争にでも行くみたいだが。本当に大丈夫かな……)
大人3人組は不安を胸に抱きつつ馬車に乗り込み、オーエンと共に貴族街方面へと向かって行った。
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