第220話
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【前回まで】
解散した後、イングリットの私室に移り話を続ける2人。イングリットに魔法陣を渡し、日頃からやり取りする事になりました。良い雰囲気になりましたが、側仕えの目もあり自重。代わりに、『貴女を生涯守ります』と誓いを立てました。
□ □ □
「ねえレーニア、先程のお2人はどうだったの?」
「ふふ、凄かったわよ。今思い出しても胸が熱くなるもの」
「やっぱり!2人きりだもの、絶対何かあると思ってた!早く、早く聞かせて!」
「そんな焦らなくても大丈夫よ、もう……」
そう言いつつも、逆の立場だったら自分も絶対こうなっていただろうな、とレーニアは思った。
ここは王族の側仕えが住む社宅のマルシェの部屋だ。既に風呂と夕食を終え、後は寝るだけというリラックスタイムである。
マルシェは、今後についての話し合いの場にはいたが、その後の、キースとイングリットが私室で話していた時は別の仕事に回っていた為、その場にいなかった。その為、その時の様子をレーニアが伝えに来たのだ。
2人がイングリットの護衛兼側仕えとして働き始めて、4年と少しが経った。2人とも、働き始めてすぐに、可愛くて素直で頑張り屋な王女殿下の事が大好きになった。心の中では『歳の離れた姉』ポジションのつもりでいる。
この2人は元々近衛騎士団に所属していたが、言葉遣いからも分かる通り、出身は一般市民である。これも候補者として選ばれた当初は議論の的となった。
最初に大勢を占めたのは
『側仕え兼護衛である以上、殿下とは常に行動を共にする事になる。そんな近い距離でお仕えする役職なのだから、たとえ近衛騎士団所属とはいえ、王家、王族に対しより忠誠心の篤い、貴族出身者を充てるべきである』
という意見だ。
『王女の側に付く』という事は、貴族にとってはそれだけで名誉であり、さらにそこに『王女殿下と娘が懇意になれる』という実利がある。この意見の裏には、そんな大事なポストに一般市民を付ける訳にはいかない、という主張があった。
しかし、この意見は、近衛騎士団(というか団長のマテウス)からの『近衛騎士団員の忠義を疑うのか』という猛抗議を受けた。マテウス曰く
『近衛騎士団は国王陛下、王女殿下より篤い信をいただいている。その団員の忠誠を疑うという事は、近衛騎士団に対する陛下と殿下の信を疑うという事であり、エストリアの貴族としてあるまじき不届き者である』
という内容だ。
『アルトゥールやイングリットのお心』などという、不可侵なものを出されては勝ち目など無い。しかも、反対側にいるのは『四派閥』の一角、クロイツィゲル家だ。この意見を支持していた誰もが、向こうに回してまで張り合うのは割に合わないと考え、この意見を支持する者はすぐにいなくなり、意見自体も消えた。
その後もちょこちょことした意見は出たが、どれも支持を集める事ができず、結局この2人に決まった。
実際、アルトゥールから出された『女性・20代前半・水準以上の腕前と容姿』という条件に対し、誰もが納得できるレベルに達していたのは、この2人だけだったのだ。
そもそも、女性騎士自体が少ない。肉弾戦である以上、生物的に男性が有利なのは間違いなく、さらにそこに特性が反映する。近衛騎士団ですら『敢えて女でなくても』となってしまうのだ。
だが、周辺国から訪問してきた女性の要人の警護等、女性騎士が必要な場面もある為、男だけで良い訳でも無い。微妙な話であった。
最終的にレーニアとマルシェはこの打診を受けた。
近衛騎士団にいる徒手格闘の師範からは、素手と護身用具を用いた戦い方及び、護衛としての考え方を仕込まれた。
王城の側仕え頭を勤める年配の女性からは、側仕えとしての言葉遣いから仕草の教育を受けた。どちらの指導も短期間での詰め込み式であった為、騎士である彼女達でもキツいものだったが、何とか合格点をもらい、イングリットの側仕え兼護衛となった。
□ □ □
イングリット付きの側仕えの勤務には、早番、遅番、不寝番の3種類があり、それを組み合わせた勤務形態になっている。
だが、護衛を兼ねているこの2人は、他の側仕えとは少し違う。出勤は早番と同じ時間だが、遅番と交代はせずそのまま6の鐘、即ちイングリットが夕食に入るまで勤務する。1回の勤務時間が長い分、不寝番の当番はほとんど無い。
王族の私室は、王城の中でも一番奥まった場所にある為、晩餐会などが開かれるのでもない限り、夜間に個別の護衛は付かない。
夜間の王城内は、9の鐘が鳴ると、<探査>の魔導具が自動で起動し、特定の廊下以外は全て警戒範囲となる。それと同時に、要所要所には、近衛騎士団の騎士達配置しており、魔導具に反応があれば即出動できる態勢が整えられていた。
□ □ □
「……それでね、殿下が席を立ってお隣の席に座って、彼の手を取ったの」
「うんうん!」
「これはもしやと思っていたら、少しお話した後にお2人の顔が段々と近付いていって……」
「ええっ!?ほ、ほんとに!?見かけは可愛いし人畜無害っぽいけど、やっぱり18歳の男の子だねぇ」
「ね。私もそう思った。でも、最後の瞬間に彼と私の目が合っちゃって。慌てて離れられちゃった」
「はぁっ!?ちょっとレーニア、あんた何やってるのよ!その流れなら間違いなくイってたでしょうに……もぉ~」
マルシェはまさかのオチにがっかりしながら、焼き菓子を一つ摘んで口に入れた。先日イングリットから下げ渡された、生地に砕いたナッツを混ぜて焼かれたクッキーだ。側仕えには、こういう文字通り美味しい役得もある。
「ごめんごめん。でも、その後がまた凄かったの。殿下のご不満そうなお顔を見て、跪いて手を取って何か伝えてた。殿下のその後の嬉しそうなご様子から、あれは相当な事を言ったのだと思うわ」
「キメるところはきっちりキメたという事ね!見たかったなぁ……」
「会話が聞こえないのが本当に残念だったわ……」
「また!?やっぱり魔法……なのよね?会話が聞こえなくなる直前に、お皿をテーブルの上に置いて魔力を流してたじゃない?今回もそうだった?」
マルシェの言葉にレーニアが頷きながら答える。
「ええ。またテーブルの真ん中に置いて触ってた。ただのお皿なのに、何でそれだけで発動するのだろうね?あの殿下が『全く追いつける気がしない』と仰るぐらいだし、特別なやり方なんだと思う」
「うんうん。でもそうか~、良い雰囲気だったか~。こりゃやっぱり結婚する……よねぇ?」
「するでしょ!お2人の間のあの空気!明日が結婚式でも不思議無い程だったもの!」
基本静かなレーニアも、あの状況を思い出すとそれだけでテンションが上がる。あれだけの雰囲気を醸し出しているのに破談になるとは、とても想像できない。
「だよねぇ~。あれでしなかったら、殿下のお心が大変な事になるだろうし。婚約の正式な発表は何時なんだろ?」
「陛下が譲位されるのが、殿下が18歳になられたらだから、後だいたい1年半……その半年前……だとちょっと早い?3ヶ月前ぐらい?」
「早くても遅くても色々あるだろうからねぇ……その辺は皆さんで話し合って決めるのだろうけど。いや〜楽しみだなぁ」
「ほんとそうね。待ち遠しい。……実際何事も無く迎えられれば良いのだけど」
顔を見合わせ笑いあっていたが、レーニアのその一言で真顔に戻る。
「なによ縁起でもない……敢えて触れなかったのに」
「だって……そこに触れない訳にはいかないでしょう。現実から逃げても仕方が無いもの」
そう、2人が頭に思い浮かべているのは、アルトゥールの寿命だ。95歳のアルトゥールにはあと一年半の間、何としても生きていてもらわなければならない。
「……まあねぇ。そうなんだよねぇ。でもこればっかりはどうしようも無いもの。私達にできるのは祈る事ぐらいだよ」
「うん。私達は余計な事を考えず、やるべき事を全力できっちりやる。もちろん、殿下の応援も全力で」
「そうだね!あとさ、殿下がお休みに入るじゃない?あたし達はどうするんだろうね?」
「ん~、いつお出掛けする事になるか分からないし、お側で待機、で良いんじゃないかな?」
「ここまで長い休暇は初めてだから、さすがにちょっと戸惑うよ」
「そうね。もちろん、陛下のご指示だから文句とかは無いけど。基本、殿下にはもう少しゆっくりしてもらいたいし」
レーニアの言葉にマルシェも頷く。イングリットは常に忙しい。王位を継ぐ前からこれでは、パンクしてしまうのではないかと、本気で思う程だ。
「それにしても、色々あった1日だったねぇ……私達がお仕えし始めて間違いなく一番だったよ」
「うん、ほんとに。でも、全部良い結果だったし、殿下が嬉しそうにされていたのが何よりだったね。……よし、じゃあ、今日はもう寝るよ。明日も元気に頑張ろう」
「そうだね!私達の大好きな殿下の為に!おやすみレーニア。また明日ね!」
「うん、おやすみ!ありがとね!」
就寝の挨拶を交わし、レーニアは自分の部屋へと帰って行った。
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