第21話
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アリステアが憶えている一番古い記憶は、この共同神殿の前庭で神官の女性に抱きしめられ、頭を撫でられている、というものだ。
ここに来る前の事は何も思い出せない。
両親はどんな人達だったのか、どこにいったのか、兄弟はいたのか、自分はなぜここにいるのか、全て分からなかった。
でも、生活するのに必要ない為、すぐに気にしなくなった。
神殿では、その時の自分にできる仕事をし、大きくなってくると現れる「特性」に合わせて仕事内容が細かくなる。主に、調理・編み物・力仕事辺りだ。
「手先が器用」という特性が出つつあったアリステアは、他の子供達の服を繕ったり、防寒具を編んだ。衣料品だけでなく、籠、ザル、手提げバッグを編んだりもした。
そのうち、アリステアの作った手芸・工芸品が信者達の中で評判になり始めた。どうも、神官や子供達が持っているのを見かけたらしい。特性が出ている人間が作った物は、自然と高品質な物になる。
「譲ってほしい」という声が大きくなってきた為、神殿側でも現金収入の為に販売する事になった。
自分の作った物がお金になると知ったアリステアは、猛烈な勢いで作り始めた。
運営が楽な孤児院など無いのだ。お金はあればあるだけ良い。
毎週の販売だと数が揃えられず、個数制限をしてもあっという間に売り切れてしまう為、販売は隔週とした。
同じ様な特性が出てきた子供達相手に教えながら、品物を作り続けた。
しかし、職業訓練校に入学する歳になり学校へ通い出すと、アリステアは冒険者になると言い出した。
周囲の人達は皆、アリステアが職人系の仕事につくのだと思っていた。
小柄な女の子だ、命の危険がある冒険者でなくて良いだろうにと、当然反対した。
アリステアが「冒険者になる」と言い出したのは、この街出身の神官達が定期的に寄進をしているのを知ったからである。
冒険者パーティに同行し布教活動をしている神官達は、依頼達成の報酬や持ち帰ってきた素材等の売却益の一部を、神殿に納め運営費用にあてていたのだ。
これだ!と思った。
このまま手作業で作り続けても稼げる金額には限界がある。
幸いにして、自分には特性が人より多く出た。4種類出る事など1000人に1人ぐらいらしい。
であるならば、みんなの暮らしが少しでも楽になる様に、自分の事より子供達を優先してくれる人達の為に、より多くのお金を稼ぐ力を身に付けたい、そう考えた。
各派の司祭や神官達は、「寄進は義務ではない。自分のやりたい仕事に就いて自分が幸せになることが第一だ」と説得したが、アリステアは「今の私の幸せは、神殿と孤児院にいる全員が寒い思いをせずお腹いっぱいになる事だ」と、目に涙を浮かべながら言い張った。
孤児院の子供達だけでなく、そこに司祭や神官も含まれている事に、誰もそれ以上言い返す事ができなくなった。
ソロで活動しはじめ、トレジャーハンターとして結果を出し始めたアリステアは、月に一度程街に帰ってきては、市場で大量の肉・野菜・果物・お菓子といった食品類、各種調味料、布や糸類を購入し始めた。そのまま人を雇って神殿の地下室に運び込ませる。
地下の倉庫には、冷蔵箱という物を冷やして保存できる魔導具が設置してあり、そこで保管されている。魔導具も動力源になる魔石も、アリステアが用意した物だ。
(あの大量に買い物をするお姉ちゃんは何なんだ・・・?)
市場の人々も訝しんでいたが、誰かが「何年か前まで孤児院にいた、手芸品を作っていた小さい女の子に似ている」と言い出した。そして事情を知って皆感激した。
中には、今も、アリステアが作った籠やマフラーを大事に使っている者もいた。
地元出身で王国唯一の白銀級冒険者、神殿に大量の寄付をし、さらに街にも大金を落とすアリステア。誰もが彼女に感謝し誇りに思っていた。
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