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第217話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


今後についての話し合い中。失言を指摘されたり、イングリットの手のひらで転がされたりもしましたが、今後は『アリステアが使っている魔導具の作成』『セクレタリアス王国の様な街全体で魔導具を使用する仕組みの構築』を目指すと宣言しました。


□ □ □


「キースよ、どちらも長い年月が掛かるという見込みの様だが、それでは実際に自分が使えないのではないか?その辺どうなのじゃ?」


「試行錯誤して作り上げるだけでも楽しいのですが、確かに仰る通りです」


そう言うと、手元の書類筒から紙を2枚取り出す。1枚は『転写の魔法陣』だった様で、もう1枚の書類を複製し始めた。


(この光景もすっかり当たり前になったが、まだ半年も経っていないんだよな。確か、地上げ絡みでロワンヌ商会について調べてもらった時だったか……もう随分前に感じる)


アリステアは、紙を載せ替え魔法陣を起動させるキースの様子を見ながら、冒険者ギルドの会議室で初めてこの魔法陣を見た時の事を思い出した。


「こちらは、この計画を達成するまでの過程を整理したものになになります。昨夜寝る前に書き出したものですのでざっくりとしたものですが、ご覧ください」


説明しながら席を立ち、1人1人に書類を手渡してゆく。普段なら「1枚取って回してください」と言って終わりだが、アルトゥールやイングリットもいる場ではさすがにそうもいかない。


□ □ □


1.依代(よりしろ)となる魔導具を作成する

※以下『依代の魔導具』と表記する


・達成度合いは以下の3種類


①意識と記憶が残せ、他者と意思疎通ができる。②①に加え、自分で動く事ができる。

③おばあ様達が使っている物と同じ程度のもの。


最低限①を作り上げ、そこから②、③を目指す。


期限:早ければ早いほど良い。どんなに遅くても、自分で動ける間に準備を整え引き継ぐ。



2.街中を魔力をで満たし魔導具を稼働させる仕組みを作り上げる。同時に、1.の達成度合いにより、1-②、1-③へのグレードアップを図る


①魔力を水に溶かして貯蔵する方法又は、同様の他の手段の確立。

②①で作成した動力の源を街中に行き渡らせる為の設備の作成

③研究開発に用いる資金、出資者、協力者(後継人材)の確保


□ □ □


「とにかくまずは1-①の達成です。これさえクリアできれば、他の事は多少ゆっくりでも大丈夫ですので」


「……これは不老不死という事になるのかのう?」


アルトゥールが眉間に皺を寄せる。


「現時点でそこまで言い切る事はできませんが、健康に過ごせる期間は間違いなく伸びると考えています。魔導具自体の耐久性や、長期間使用した際、心身に何がしかの影響が出る可能性などもございますが、祖母らを見ている限りでは、今のところそういった様子はございません」


キースの言葉に3人が頷く。


「先生、この基準だと、エレジーアさんは①と②どちらなのでしょうか?」


「動けますがかなりゆっくりですので実用的ではありません。①を少し超えたぐらいですね」


キースの言葉に、アリステア達は初めてエレジーアとやり取りをした時の事を思い出した。ベッドの枕元に置いてあったのに、アルトゥールらと面会し戻ってきたらソファーまで動いていたのだ。


「『依代』を作り上げ、少しでも研究できる期間を伸ばすという事じゃな。さすがに儂が死ぬ迄には間に合わんだろうが、夢が広がる話だ。この件については承知した。それでな」


そこまで言うと、背もたれにゆったりと寄りかかっていたアルトゥールが、姿勢を正した。基本的にキース達と話をしている時はユルい雰囲気だが、それもグッと引き締まる。皆も自然と座り直した。


「キース、儂から一つだけ、頼みがある」


雰囲気や姿勢だけではなく、普段は下がり気味の目尻もピンと伸び、いつにも増して真剣な表情だ。


「イングリットより先に死なんでくれ」


「陛下……」


皆、咄嗟に言葉が出てこない。


「今更これまでの分を取り戻す事はできんが、この先少しでも長く、親子や家族というものに触れさせてやりたいのだ」


「おじい様、私は」


イングリットの発言を片手を上げて遮りながら、アルトゥールが続ける。


「知っての通り、この子は両親や兄弟と過ごした経験が無い。確かに貴族は親子が離れて暮らす事は全く珍しくない。だから家族間の繋がりは薄く見えるかもしれん。本人達も、家を守り引き継ぐという点に意識が向かいがちであるしな」


アルトゥールは周囲の人々を見回す。


「だが、だからといって全く触れ合わない訳でも無い。誰だって、自分の子供は可愛いものだからな。その辺は出身は関係ない」


アルトゥールが隣に座るイングリットの方に手を伸ばすと、イングリットがその手を取り、両手を重ねる。


「キース、ライアル、アリステア、そなたらは生業も同じせいか、日頃から一緒に過ごす事が多く、仲も良いであろう?だからの、一緒にいる時はこの子もその輪の中に入れてやってくれ。よろしく頼む」


そう言いながらアルトゥールが頭を下げる。


これにはさすがに皆驚いた。国王が自国内で頭を下げる相手など存在しないし、本来そんな事はするべきではない。


にも関わらず、アルトゥールは『イングリットをよろしく頼む』と頭を下げた。もちろん、彼女に万が一があればクライスヴァイク家の血筋が途絶える、という理由もあるが、この唯一の肉親であり、小さい頃からずっと頑張らせてしまっている曾孫に、少しでも幸せを感じながら過ごして欲しいと、心の底から思っているのだ。


「陛下、お顔をお上げくださいませ。お心は十分に伝わっております。どうかご心配なく」


「はい。私、以前から息子だけでなく娘も欲しいと考えておりました。これで夢が一つ叶いました。ありがとうございます」


フランの言葉にマクリーンが続く。そしてイングリットの方へと向き直る。


「殿下、いえ、もう家族ですのでイーリーと呼ばせていただきます」


マクリーンの言葉に、ライアルとキースは思わずマクリーンの顔を見た。


その視線には(さすがに愛称呼び捨ては早くない?)という気持ちが込められていたが、マクリーンはそれに気付きつつも敢えて無視した。


「イーリー、私には娘を得る以外にも、もう一つ夢があってね。あなたにはぜひそれを叶えてもらいたいの。それ自体はとても簡単な事なのだけど、キースがあなたと結婚する事になった以上、もうあなたにしかできません。お願いできる?」


「は、はい。私にできる事でしたら……」


さすがのイングリットも、あまりの急展開に戸惑っている。だが、アルトゥール以外に呼ばれた事の無い愛称で呼ばれ、少し嬉しそうにもみえた。


「ありがとう。では、こちらに出てきてちょうだい」


テーブルセットの脇を指し示すと、移動してきたイングリットと向かい合う形で立つ。顔に浮かべた微笑みからは、これから何をしようとしているのか、全く窺えない。


「お父さん、お母さんのお願いって何でしょう?分かりますか?」


「い、いや、分からんな……何だろうか。無理難題は言わんと思うが」


父と息子は眉間に皺を寄せ首を捻る。この親子はあまり似ていないが、こういう仕草はそっくりである。


「それではまいります。イーリー、今から私の事を『お義母様』と呼んでください」


マクリーン以外の皆がきょとんとした顔になり、瞬きを繰り返すが、マクリーンはまたしても無視である。


「息子のお嫁さんにそう呼ばれるのを楽しみにしていたのです。イーリーは厳密にはお嫁さんではありませんが、大事なのはそこではありません。ではどうぞ」


「あ、え、ええと……」


「ささ、遠慮なさらず」


「はい……お、お義母様」


「もう一度」


「お義母様」


目を閉じて聞いていたマクリーンは、一度目を開けイングリットをしっかりと見つめた。


「声が小さい!もっと大きな声で!」


「お義母様!」


「うん、少し良くなりました。でも、もっとイケるはずです!はい、もう一度!」


「お義母様!」


「まだまだ!」


「お義母様!」


「そのまま続けて3回!」


「お義母様!お義母様!!お母様あっ!!!」


いつの間にかイングリットは泣いていた。


マクリーンはイングリットに駆け寄るとそのまま抱きしめる。イングリットも細身の女の子とは思えない程、力強く抱き締め返した。加減できる状態では無いのだ。


そしてそのまま、わんわんと声を上げて泣き始めた。そんなイングリットの背中や髪を、マクリーンが撫でている。


皆、まさかの展開にあっけに取られていた。


次期国王として既に国政を仕切る、誰もが一目おく王女殿下が、まるで小さな女の子の様に、声を上げて泣いているのだ。


(迷子になっていた子供が母親と再開した時みたい)


お茶を飲もうとカップを持ったままだったシリルは、その光景に胸の中が何やらじんわりと温かくなった。


(殿下は王位継承者として、小さい頃から常に気を張って生きてこられた。それこそ自分でも気が付いていない程に。そんな殿下の心を揺さぶり枷を外し、こんがらがっていたモノを一気に解きほぐした。マクリーン、さすがです)


フランも、その余りにも鮮やかな手腕に感心しきりである。


イングリットはそのまましばらく泣いていたが、徐々に声が小さくなり、一つ大きく深呼吸をすると、抱きついていた腕を緩め身体を離した。鼻をすすりながら顔を上げ、まだ涙で濡れている瞳でマクリーンを見上げる。


この2人は、マクリーンの方が少し背が高い。だが、まだ16歳のイングリットが追い抜くのも時間の問題だろう。


「イーリー、今この瞬間から、私があなたのお母様です。よろしくね」


マクリーンは自分が映る薄い魔石色の瞳を見返しながら、静かに告げた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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