第214話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となりますが、作者連休中の為遅くなる可能性があります。家にいる方が忙しいです……
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
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「……なるほどな。それであのエスコートか」
「はい。おばあ様、キャロル、 ヒギンズ、いつも事後報告で申し訳ないのですが……」
「いえ、自分の心を偽っても仕方がありませんからね。あなたの人生です、自分で良いと思う通りに生きれば良いのですよ」
「そうですよキース。以前にも言いましたが、今の私達は2周目のおまけの人生です。気にする事はありません」
アリステアと妻の言葉に、ヒギンズも繰り返し頷く。
「はい、ありがとうございます。それで、殿下にお話した条件と今後の活動についてなのですが」
キースが説明する。皆は目を見開いて驚きながらも頷いた。
「前に私が言ったやつだね。あれぐらいは飲んでもらわないと」
自分の意見が採用されて嬉しいらしく、シリルの口角が僅かにあがる。
「かなりデカい話になってきやがったが、実際どうなんだキース?見込みとしては?」
デヘントが少し離れた席から立ち上がり、近づいてくる。途中までは『ライアル家の問題』と口を挟まなかったが、ここからは自分達にも関係あると判断した様だ。そんなリーダーの様子を、ラトゥール達メンバーも窺う。
「うーん……正直強気にはなれません。今の段階では資料等が何も無いので。ですが、それでも追いかける価値はあると思っていますし、ぜひ実現させたいです。そしていつの日か……」
キースの言う最終目標に、ポカーンとした顔になる。
「まあ、どこまでできるか分かりませんけどね。全然ダメかもしれませんし」
さすがのキースも、自分の言った事に呆れた様な笑顔を見せる。
「……だがそうなったら確かに面白れぇな。俺達も手伝える事があれば言ってくれ。まあ、指名依頼もあるだろうからな、あくまでも可能な範囲でだが」
「そうだな、こちらも協力できるところはするつもりだ」
デヘントの言葉にライアルも頷く。元々国内屈指の冒険者である彼らは忙しい。それが今や金級と銀級だ。『ぜひ彼らに』という依頼は増えるだろう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言いながらキースが右手を差し出し、ライアルが握り返す。握りあったまま、キースとライアルがデヘントを見た。一瞬間があったがその上にデヘントが手を重ねる。『こんなの俺のキャラじゃ無い』と思った様だが、空気が読めるのもこの男だ。
(息子とその後輩と孫が同じ目標を目指して手を取り合う様を見られるなんて……)
アリステアはその様子を感慨深く見つめていた。フランやクライブも同様だ。ライアルとキースは産まれた時から、デヘントの事だって新人だった頃から知っているのだ。
「アーティ、ちょっとグッとくるな」
並んで眺めていたハインラインの声が上から降ってくる。
「うん、私も今そう思ってた。こんな日が来るなんてね……夢みたいだ。本当に幸せ者だよね」
「それもこれも、あの時お前さんが『新人支援』を始めたからだ。最初聞いた時は、せっかく貰える金をなぜ自分以外の奴の為に、なんて思ったもんだが……」
ハインラインが顎を撫でながら当時の事を思い出す。
冒険者にとって金はまさに命綱であり、身を守る盾だ。
金が無ければ装備の更新や維持もできず、消耗品の補充もままならない。借金を重ねれば返済の為に無理をし、その挙句に命も落とす。
だが、金があればそういった様々な事に煩わされずに済み、ダンジョンでも遺跡でも集中して臨む事ができる。
その大事な大事な金を、名前も顔も知らない者達の為に使うというのだ。あの時は、ハインラインでなくとも皆が『正気か?』と疑ったし、実際そう言ってきた。何も言わなかったし、話を聞いても全く様子が変わらなかったのは、デズモンドだけだった。
(後で訊いたら『何か妙な事に使いそうな気がしていた』と言われた)
「ありがとう。でもマスター、確かに言い出したのは私だけど、その後管理して運営したのはマスターとギルドのみんなでしょ。みんなにありがとうだよ」
「ふふ、そうだな。違いない」
そのすぐ後ろでは、思わぬ話が聞けたディックが、2人の背中をじっと見つめていた。
□ □ □
3人が手を離すのと同時に控室の扉が開く。まず入ってきたのは、イングリットの側仕えであるレーニアだ。その後にエヴァンゼリン達が続いて入ってくる。
「昼食会は終わりましたので、私達はこれで帰ります。皆、今日は本当におめでとう。特にキース。殿下の事よろしく頼みますね」
「はいエヴァ様。お任せください」
「貴族絡みでもそうでなくても、何かあれば頼ってください。あなた方ならいつでも歓迎しますよ」
「ありがとうございます。リズ様、私はまだ王城や貴族の方の常識などに疎いです。今後、その辺りについてご指導いただけたらと思うのですが」
「もちろんです!そういった面を身に付けておきませんと、後ろ指を指されたり舐められたりしますし、陛下や殿下にもご迷惑が掛かります。何時にいたしましょう?今日の夜でも大丈夫ですよ?」
「その辺りは要調整という事で……」
「学院での指導も楽しみにしていますからね、キース指導官。私も一緒に受講しますので」
「理事長先生に教えるのは、さすがに緊張しますね。でも、皆ができるだけ早く習得できる様に頑張ります!」
キースは胸の前で両こぶしをグッと握った。
□ □ □
「ライアル、デヘント、また私が遠方に出向く時にはよろしく頼む。……さすがに今度は4年はかからんだろうからな!はっはっはっ!」
「そ、そうですね。ご一緒できる日を楽しみにしております」
(どこかで何かが立った様な気がする……)
思い思いの挨拶をして、エヴァンゼリンとハインライ、ディックは部屋を出て行った。
「それでは、お部屋の準備も整っておりますので、ご移動をお願いいたします」
レーニアの後に着いて『暮方の間』へと戻った。
□ □ □
部屋に入ると、アルトゥールやイングリット、ティモンド伯爵らは既に席に着いていた。
「よし、では改めてよろしく頼む!。でだ、まず最初に訊かねばならん事がある」
皆が席に座るやいなや、キースをじっと見つめながらアルトゥールが切り出した。
(どうやら殿下は陛下にも言わなかったみたいだな)
この切り出しで、キースはアルトゥールが何を知りたがっているのか、察しがついたのだ。
「キース、今までは『王配に』という話に対して保留としていた訳だが、なぜ急に受けると言い出したんじゃ?イングリットにも尋ねたのだがな、『本人に訊いてくれ』と言って教えてくれんのだ」
その言葉にイングリットは頬を染め、キースの方をチラリと見る。
「承知しました。この点については殿下以外の方にはお話しておりませんので、両親も仲間達も陛下と同じように疑問に思われているでしょう。殿下、お話を進める為にも、まずはこのモヤモヤを晴らさねばなりません。よろしいですね?」
「はい、先生がそう仰るのなら、私からは何もございません」
イングリットは、正直なところ他の人々には知られたく無かった。せっかく言ってくれたのだから、自分だけのものにしておきたかったのだ。
だが、進行上そのままにはできないし、答えが180度変わった原因を、説明しない訳にいかないのも理解している。よって、自分の中で『皆にはあくまでも伝えるだけであり、気持ちを込めて言ったのは私に対してだけ』と折り合いを着けた。
「私は本日の授与式が始まった時から、今までに無い気持ちを抱いておりました。それは、殿下に対して、妙に気恥しい、照れくさいという感情でした。それはまともにお顔を見る事ができない程で、その為お召し物に対してのお声掛けもできずに、陛下のお手を煩わせる結果となってしまいました。今更ではございますが、その節はご迷惑をおかけ致しました」
キースの言葉にアルトゥールは一つ頷いただけだ。それを『謝罪は良いから早く続きを』という意味に受け取ったキースは、お茶を一口飲み口を湿らせる。
「その気持ちは、殿下と衝立の向こうでお話をしていた時にも感じていたのですが、式典や昼食会の最中よりかは軽くなっておりましたので、本日のお礼とドレスについてのお話をお伝えしました。そして、殿下がお泣きになられてしまった後、泣き止まれた時のお顔を見て、この気持ちの正体に気が付いたのです」
そこで一呼吸おくと、軽く目を閉じ呼吸を整える。ここから先を再び口に出すのは、一度言っていても心構えというか、心にグッと力を入れる必要があった。ましてや、それを伝える相手は、イングリットの唯一の身内である国王なのだ。
そして、キースは目を開けると一気に言った。
「私は、殿下の事を女性としてお慕いしているのだと。それ故に、人目がある場では余計に意識してしまい、照れくさい、恥ずかしいという感情を抱いていたのだと」
真剣な表情で、アルトゥールの目を真っ直ぐ見つめ、はっきりと言い切った。さすがに少し顔は赤かったが。
イングリットは頬を染めながらキースを見つめている。その目は潤み、再び溢れ出してしまいそうだ。
「そ、そうか……分かった。それであれば納得だ」
(堂々とし過ぎであろう。こちらの方が照れるわ)
知りたがったアルトゥールも、余りにもはっきりキッパリと告げられた為、若干引いたらしく言葉少なだ。
(よくもまあ照れもせず……女性に対しては、一度振り切ってしまうと何でもアリになってしまうタイプなのか?それにしても、エヴァンゼリン様達がいなくて良かった。こんな話を聞いたら間違いなく失神しただろうからな)
アリステアは、孫の堂々とした愛の告白に感心しつつ、妙なところで胸を撫で下ろした。
「王配を受けた理由については分かった。それで、『条件と今後について』という事だが……そちらの説明を頼む」
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