第213話
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【前回まで】
保留にしていた『王配に』という話を受ける事にしたキース。急にそんな話になり着いていけないその他の人々。その話も含めて、今後について説明します。
□ □ □
「で、イーリー、先程のアレはどういう事なのだ?なぜ急にああなった?」
控室のソファーに身体を預けたアルトゥールが脚を組む。
「一言で言いますと、先生が王配になってくれる、という事です」
対するイングリットは背もたれには寄りかからず、背筋を伸ばして座っている。
「もしやとは思ったが、やはりか……だが、なぜまた急に?彼奴の中で何があったのだ?それは聞いておるのか?」
アルトゥールの疑問にイングリットの顔が赤くなる。先程キースに言われた言葉を思い出したのだ。
「そ、それは先生のお気持ちですので、この後ご自身で説明なさるかと」
そう言ってイングリットは明言を避けた。
とてもでは無いが恥ずかしくて口にできない。それに、いくら相手がアルトゥールでも、あの言葉だけは教えたく無かった。キースが自分から皆に伝えるのは止められないが、自分の口からは言いたくない。大事な大事な、一生の思い出としておきたかったのだ。
「ふぅむ……それは分かった。ではやり取りだけ教えてくれ」
(まあ、今急いで聞く必要は無いし、本人が話したくないのに無理に聞いても仕方がないからの)
アルトゥールも、イングリットがはぐらかした事にはもちろん気が付いている。だが、そこは今重要では無いのだ。
「はい、ではご説明しますね」
イングリットは、まず授与式開催に対するお礼と白銀級認定に驚いた事を伝えた。
「そ、その後に、今日の私の装いについて『とても素敵だ。よく似合っている』と仰られました」
「……ふむ?」
アルトゥールが眉間に皺を寄せる。『もっと気の利いた事が言えんのか』という心の声が聞こえてくるかの様だ。
「そして、ドレスについてもっと詳細に褒めてくださいました。私は嬉しくて、胸が何やら苦しくて、その後自然と涙が溢れてきて、慌てさせてしまいました」
「……それだけか?他には?」
「私の嬉し泣きの後に『王配のお話を受ける』という言葉があり、その際の条件を幾つかご提示されました。それについても、この後自分から説明をするという事でございます」
「王配になる事は心の底から嬉しく思うが、何か……もっとこう、熱烈な色々があったのかと思っておったのじゃが……正直少々拍子抜けだのう」
アルトゥールは眉間に皺を寄せたままだ。
だが、エヴァンゼリンを始めとする女性陣は違った。
3人共、興奮に目を輝かせ頬を染めている。
彼女達はきちんと理解していた。そして驚愕していた。
キースが『ドレスについて詳細に褒めた』という事に。
「殿下、その、『ドレスを詳細に褒めた』というくだりを、もう少し詳しくお願いできますか?」
エヴァンゼリンがぐいぐいと身を乗り出す。王女殿下に接する態度としては少々勢いが良すぎるが、生まれた時から触れ合っている相手だけあって、イングリットも気にしない。今ばかりはブレーキ役のリーゼロッテもマリアンヌも止めないし止めるつもりもない。
ティモンド伯爵やメルクス侯爵は、どちらかというと、なぜ女性陣がそこに食いつくのかに興味がある様で、静かに様子を窺っていた。
「は、はい。少々恥ずかしいのですが……」
イングリットは再び頬を染めながら説明し始めた。
□ □ □
「先生が『ドレスの事は勉強し始めたばかりなのですが』と前置きをしてから、このドレスの種類や特徴と、ご自身の感想を述べ始めました。背の高い私が着ると、とても映えるし大人っぽく見える、と。やだ、思い出したらまた……」
再び、イングリットはハンカチを取り出して目元を押さえる。エヴァンゼリン達の鼻息は荒く、目は爛々だ。
「その言葉を理解した瞬間、嬉しくて、胸がキューッとなって、何やら暖かい気持ちになりました。そして、勝手に涙が溢れてきて止まらなくなってしまったのです」
話し終えたイングリットが、赤く染った笑顔でお茶のカップを手に取る。
「はぁ……もうあの子ときたら……最高です!」
「ええ、エヴァンゼリン様!本当に皆の期待を裏切りません!」
「お母様、お母様、お気持ちは解りますが興奮し過ぎです!息をもっとゆっくりなさいませ!」
興奮冷めやらぬ女性陣を尻目に、アルトゥールはポカンとしている。
「のう、ティモンド。なぜ女達はああも興奮しておるのだ?分かるか?」
「おそらく……キースがドレスについて細かく褒め感想を言ったからではないかと」
「それは分かっておるわ!なぜそれだけの事で、という事じゃ!」
アルトゥールとティモンド伯爵のやり取りはそれほど大きな声ではなかったが、しっかり聞こえたらしく3人が振り返る。
(……なんという顔をされているのだ)
振り返った3人の表情に、会話に直接関係無いメルクス侯爵も慄く。
アルトゥールに遠慮しないエヴァンゼリンは、冷たい目をしていた。視線を合わせただけで心が凍りつきそうである。現役の国務長官だった頃を知っている者が見たら、『魔女』とまで呼ばれた当時を思い出したかもしれない。
リーゼロッテとマリアンヌは無表情で無感情だが、心の中はエヴァンゼリンと似た様なものである。国王に対し失礼な目で見ない様に、という分別が辛うじて働いただけだ。
「陛下、今、それだけの事、と仰いましたね?……分かりました。ご説明させていただきます」
エヴァンゼリンはアルトゥールに向き直る。その際、「貴方は昔からそういうところがほんとダメですね」と呟いたのは、誰にも聞こえなかったはずだ。
「あ、いや、それには及ばn」
「まずキースという人物は基本的に魔法に関連する事が最優先で……」
エヴァンゼリンはアルトゥールの言葉を無視して説明を始めた。男3人は身を寄せあいながら、半分説教の様な説明を聞く羽目になった。
「キースが以前から女性のドレスに興味を持っていたとはとても思えません。という事は、殿下が授与式で何がしかのドレスを着ると予想し、調べたという事です。給料を貰っている訳でも無く義務でも無いにも関わらず!たった一言二言余分に褒める為だけに!忙しい中時間を作って整えた殿下にとって、こんな嬉しい事はございません!その様に相手の事を思いやる気持ち!なんと尊いのでしょうか!殿下が心震わされ、涙を溢れさせたのも無理ありません!ご理解いただけましたでしょうか?」
「わ、分かった。儂も今後はその様に努めよう。そなたらも分かったな?」
若干棒読み気味のアルトゥールの言葉に、ティモンド伯爵とメルクス侯爵は無言で頭を下げる。この場合余計な言葉はいらない。この2人はその辺よく理解している。
「よろしくお願いいたします。それで殿下、その後キースは何と?」
「はい、エヴァおば様とリズおば様は、私が先生にきゅ、求婚した時の事を憶えていらっしゃいますか?」
(イーリー、恥ずかしがっていた割には随分ノリ良く喋るではないか……女の気持ちというのは何年生きても難しい)
もちろんもう口には出さない。アルトゥールはこの歳になっても成長を忘れない、デキる国王なのだ。
「もちろんでございます!自己紹介をされた後呆然としたお顔でキースを見つめ、歩み寄って跪き手を取って……」
「まあまあ、お話だけでも目に浮かぶ様でございますね!」
「まさか殿下、キースも!?」
「はい、私の脇に跪いて手を取って、じっと目を見つめながら『殿下、王配のお話、お受けいたします』と」
そこまで言うと、さすがにもう顔を上げていられずに俯く。髪飾りに付いた魔石に、うなじの赤みが映っている。
「〜〜〜〜!」
女性陣はもう言葉も無い。失神(昇天では無い)寸前である。
「以上でございます。その後は条件と今後についての話でした」
話し終え大きく息を吐く。本当はもう一段落あるが、これは誰にも言うつもりは無い。
「完全に王子様ではありませんか……本当に素晴らしい男に成長しました……まあ、外見は今も可愛いですが」
「はい、もう間違っても『あの子』などとは呼べませんね。少し寂しい気もしますが」
「ですが先生、これからは今までに無かった新たな一面が見られるではありませんか!そう思うと楽しみしかございません!まこと、これからの国を背負って立つに相応しい男でございます!」
「「「さすが私達の推し!」」」
3人は顔を見合わせながら大きく頷いた。
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