第210話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となりますが、目安としては週1回を目指しております。
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【前回まで】
個人への報奨は『魔石の売上額の2%』という破格のものでした。『転移の魔法陣』を扱う新部署の人事発令を見届け、別室で昼食会を行います。ハインラインは、ライアルが息子に先を越された事をどう考えているのか気になっている様です。
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(よし、始まる前にはっきりさせちまうか。皆も気になっているだろうし、気ぃ遣いながらじゃせっかくの美味い飯も楽しめんだろうからな)
ハインラインは敢えて踏み込んでみる事にした。こういう時は、やはり年齢や立場が上の者の方が角が立ちにくい。
「それにしてもライアル、親子三代で白銀級2人に金級1人とはとんでもないな。大したもんだ」
ライアルはハインラインの言葉に瞬きをしながら考えている様子だったが、何かに気が付いた様で目をを細めニヤリと笑った。
「……閣下、それは『キースに先を越された事をどう思っているのか』という事に繋がりますね?」
(……ちっとばかし不自然なフリだったか。だが、まあ、こっちの方が話は早ええな)
「まあ……そうだな。お前さんがおっ母さんに追いつく事を目標にしているのは皆知っているからな。だが、倅が先に追いついちまった。実際、そこんとこどうよ?」
「そうですね……では、皆揃っていますので、ここではっきりさせておきましょう」
そう言うとライアルは一度室内を見渡し、仲間達の顔を見る。皆、真面目な顔でライアルを見ていた。
「一言で言いますと『非常に嬉しい。だが、とても悔しい』という事に尽きます。自分の息子が、学院を卒業してたったの半年で、誰も異論がはさめない程の実績をあげて白銀級に認定された。こんなに嬉しく誇りに思う事はありません。ですが」
そこまで言うと笑顔だった表情は一変し、厳しいものに変わる。
「たったそれだけの期間しか活動していないのに、追い抜かれて置いて行かれてしまった。それについては、非常に悔しく思っています」
「ふむ。だが、諦めた訳じゃ無えんだろう?」
「もちろんです!ですが、級の認定は活動の結果として付いてくるものです。認定を狙って活動するのでは本末転倒というもの。そこを履き違えてはなりません。そもそも、具体的に何をすれば白銀級になれるのかがさっぱり分かりません。ですから、級の事ばかり気にかけるのではなく、自分にできる事を一つ一つやり続ける、要するに今まで通り活動するという事です」
(変に気持ちを誤魔化さず、素直に悔しい気持ちを認めた。しかも相手は自分の息子だ。これができる人間がどれだけいるか。そして、早く追いつきたいと思っているだろうに、『これまで通り』と言い切った。逸る気持ちを戒める意味合いもあるのだろうし、焦っても仕方がない事もちゃんと解っているってことだ。仲間達も変に気を遣わなくて良くなる。やはり『エストリア筆頭』は伊達じゃねぇな)
「解った。答えにくかっただろうにな、ありがとよ」
「とんでもありません。こういう事は時間が経てば経つほど言い難くなってしまいますし、皆にも気を遣わせてしまいます。早いうちにはっきりさせた事で、自分の気持ちと考えも整理できました。私こそ機会をいただいてありがたく思っております」
「ふむ、さすがはライアルよ。その心意気をもってただちに白銀級にしたいぐらいだわ」
「ええ、まさに。まるで近衛の騎士でございます」
部屋にいるはずの無い人物の声が聞こえ、皆が声のした方を振り向いた。
開いた扉から、アルトゥールとイングリットを先頭に、ティモンド伯爵、メルクス侯爵、エヴァンゼリンとリーゼロッテ、マリアンヌが入ってきたところだった。
「これは陛下。気付かずに失礼致しました」
「いや、先触れも無く入ってきたのはワシらだ。気にするな」
皆が膝を着こうとするところを制する様に、アルトゥールは手をヒラヒラと振る。
「あちらはもうよろしいのですか?」
「ああ、向こうは親睦会じゃからの。儂がいたのでは配属者同士で話がしづらい。簡単に済ませてきた」
ヴァンガーデレン家のご夫人達と魔術学院の理事長であるマリアンヌも、他の貴族に対して最低限の挨拶と軽い会話を交わしただけだ。本当は初めからこちらに来たかったのだが、王城に来る頻度が少ない為、たまに顔を合わせておいて挨拶無しという訳にはいかなかったのだ。
「よし、それでは食事にするとしよう。授与式も終わりホッとして腹も減ってきたのではないか?」
「はい、朝食を軽めにしましたので、もうすっかり」
「おいおい、イーリー、なぜそなたが返事をするんじゃ。儂は皆に言ったのだぞ?そなたは表彰されておらんのだから、緊張する事もあるまいに」
「えっ!?あっ、やだっ、私ったら!もう!おじい様!」
「なんじゃ、また儂のせいか……都合が悪くなると何でも儂が悪くなるからな」
両手を広げ『やれやれ』という仕草をするアルトゥールの言葉に皆笑ったが、キースだけはどこか作った様な笑顔を見せただけだった。
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昼食会の料理は、美味しい物大好きなイングリットが迷いに迷いながら選んだだけあって、どれも素晴らしいものだった。
素材も、王都の目の前の海で採れた魚介類、専用の牧場や農場で育てられた肉と野菜が用いられ、それらが凄腕の料理人達によって料理へと姿を変え、提供された。
そんな食事とデザートを堪能し、食後のお茶を飲んでいるところで、アルトゥールが切り出す。
「それでな、キースの白銀級認定の件で、少し補足をしておく。……本人も少々引っかかっている部分がある様だしな」
(……さすがは陛下、よく見ていらっしゃる。マクリーンとシリルは気が付いていたみたいだけど、他の人は何の話をしているのか分からないでしょうね)
唐突なアルトゥールの言葉にほとんどの者が訝しげな顔をする中、フランは手にしていたお茶のカップをテーブルに置く。カップの中のお茶は、旨味、香り、濃さ、渋さ、全てにバランスが取れた、非常にレベルの高いものだった。
肉や野菜がそうである様に、アルトゥールやイングリットが口にするお茶の葉も、当然、各地域で採れる最高級品だ。そんな茶葉を、これまた選び抜かれた腕前の茶師が淹れる。美味しくて当たり前、という気すらしてくる。
神官は、信者から悩みの相談を受けたり懺悔を聞いたりするのも仕事のうちだ。常日頃から人の心の奥底に触れる事が多い為、その動きを感じ取る力が強いし、慣れてもいる。ましてや素直なキースが相手だ。様子がいつもと違えばすぐに判る。もちろん、『可愛いなぁほんと可愛い』とよく見ているというのもあるが。
アルトゥールに名前を出されたキースは、少々気まずそうな笑顔を見せ、テーブルに視線を落とした。
「まずは思うところをはっきりさせよう。キース、今回の白銀級への認定は、そなたをイングリットの王配とする為の布石、と思っておりゃせんか?」
キースは心に刺さっていたトゲの原因をズバリと指摘され、弾かれた様に顔をあげた。
(60年国王をやってるとこうなる?それともこの王だから?どちらにしても大したもの)
キースの様子に違和感を覚えていたいシリルは、その原因までは思い至っていなかった。なので、アルトゥールが完全に見抜いていた事に、素直に感心した。
「確かにそれが全く無いとは言わんよ。だがそれが主では無い。貴族と一般市民の冒険者、立場が違うからの。それは冒険者として最上位の『白銀級』になっても基本変わらん。冒険者としての格が上がっただけじゃ」
国王と国、国民の為に力を尽くす義務がある貴族と、そういった義務も無く自由な冒険者。根本的に違うのだ。
「そなたを王配にとなれば、一般市民である事に対して反発をする者は必ずおるじゃろう。それを抑えるには、『白銀級』という看板では不十分じゃ。不十分というか、先程の立場の様に種類が違うのだな。まあ、実際、イングリット本人が望み儂らや有力貴族が賛成しておれば、不満に思ってもあまり関係は無いしの。よって、お主はもっと素直に『白銀級』を満喫せい。アリステアの様にな」
アルトゥールの言葉に、皆の頭の上に?マークが浮かぶ。
「なんじゃ?お主らも知っておろう。白銀級になった彼奴は男を落とす為に、足繁く遺跡に通っておったというではないか」
「ごっほっえぇっほんっうぁうんっ!」
お茶を口に含み飲み込む瞬間だったアリステアは、いきなり過去の行いを指摘され盛大にむせた。隣のフランが背中を撫でる。
「んん?この話は有名なのであろう?のう、ハインライン。確かそなたから聞いたのではなかったか?ギルドの鑑定士の男に惚れて、その男の窓口に行きたいから遺物を回収してきていると」
「え、ええ、まあ……左様でございましたね」
アルトゥールの言葉に頷きながら、ハインラインがアリステアの方をチラチラと見る。アリステアは直接見返しはしないが、後で仕返しする事を誓った。
「それになキース、先程お主の父が言ったであろう。『自分の息子が白銀級に認定されて嬉しい、誇らしい、だが悔しい。絶対に自分もなってみせる』と」
アルトゥールは一旦言葉を切りキースを見る。笑顔だが、目は笑っていない。
「『王配にしたいから白銀級にしたのでは?』などという考えは、そんな言葉を踏みにじる様なものだと儂は思うがの」
アルトゥールの指摘にキースの目は大きく見開かれた。遥か南方の海の様な、緑の瞳が少し潤んでいる様にも見える。
そんな目をテーブルの向こう側に座るライアルへと向けると、父親は優しそうだが、少々微妙な笑顔をしていた。
その表情からは、『全く、お前は一々考えすぎなんだ』という声が聞こえた様な気がした。
「銀級から一足飛ばしで上がったからの、そう思わせてしまったのは我らにも責任がある。だがの、お主が立てた功績を一度に全て評価すれば、自ずとこうなるというものだ。少なくとも、儂らには他の手段は思い付かんかった」
功をたてその都度報奨の授与式をする訳にはいかない。時間も金も手間も掛かる。どうせなら一度で済ませた方が良い。
「だからの、前から言っておる様に、王配の事は今は気にせんで良い……いや、ああ、少しだけ気にしてくれると嬉しい。それより」
アルトゥールは急に真顔になった。身に纏う気配も、これまでは『優しげなおじいちゃん』という感じだったが、ガラリと変わり、完全に『国王モード』だ。
余りの変わり様に室内の全員が、一体何事かと身を強ばらせる。
「そなた、今日のイングリットを見てどう思う?」
「!? おっ、おじい様っ?」
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