第20話
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アリステアは王都の港から船に乗り、王都の南にある「バーソルト」の街を目指していた。
王都からだと、南にある山脈を迂回しなければならない為、陸路だと馬車で6日かかるが、船なら1日で到着できる。
目的は、街から馬で鐘3つ程のところにある遺跡だ。
以前一度探索したが開ける事ができない扉があった。
スッキリしないので、そこを重点的に調べてみようと思っている。
甲板で髪をなびかせながら遠くの水平線を眺めている姿を見ると、美人の若い女性が物思いにふけっているようにも見える。
しかし、頭の中では、先日アーサーとかわした会話らしきものを、ひたすら思い返しているだけである。
- 数日前 -
その日も遺物を見つけ無事戻ってきたアリステアは、いつもの様にアーサーの窓口に向かう。
(この日が勤務なのは当然チェック済みだ。もはやストーカーである)
アーサーはいたが、ちょうどこれから休憩に入る様で、他の鑑定士と交代してカウンターから出てきたところだった。
アリステアは他の鑑定士に見せるつもりは全く、これっぽっちも、欠片程も無い為、出直そうとギルドを出ようとしたのだが、後ろからアーサーが声を掛けた。
「お帰りなさいアリステアさん。お疲れ様でした・・・どうしました?」
「休憩・・・でしょ?」
「せっかく来たのですからどうぞ。待合室も空いてますから、そこのテーブルを使いましょう。」
「いや、後ででいいよ・・・」
「僕が見せてもらいたいのです。ですから気にしないでください」
「わかった・・・大した物じゃないけど・・・」
振りすぎて取れそうになっている尻尾が見えるようである。
待合室の端のテーブルに座り、そう言って袋から出したのはナイフ一本だった。
銀製で保護の魔力付与がされているが、確かに「まぁそれなり」という感じだ。
しかし、今日見つけた物の中では、これが一番程度が良かった。
こういう残念な日もあるが、白銀級トレジャーハンターは、どんな状況でも何かしらの獲物を持って生きて帰ってくるものなのである(キリッ)
何より、何か持ち帰ればアーサーのところに来る口実ができる。
腐る程お金があるアリステアには、そちらの方が重要だ。
アーサーは試しに手元の紙を切りながら言う。
「確かに、切れ味という点ではあまり良くありませんね・・・ふぅむ・・・」
(でも、柄のデザインは凝っていていいな。これなら・・・)
顎に手をやり何やら考えている。
手すきの職員がお茶とお茶菓子を出してくれる。男に対してはポンコツだが、この辺の対応はやはり白銀級である。
「(よし)鑑定の結果、これは古代王国期のナイフ・・・では無くペーパーナイフです。柄のデザインも凝っていますし、好事家にはそれなりの価格で売れそうです。買取金額はこれぐらいでどうでしょう?」
そう言って、アーサーは普通のナイフの倍近い買取金額を出してくれた。
ペーパーナイフであれば、普通のナイフより切れ味が悪くても問題ない。
質の低さを逆手に取ったミラクルな解釈である。
アーサーは、この様にちょっとした機転を利かせて、冒険者の取り分が少しでも多くなるに配慮してくれている。
その僅かな金額の差が、様々な状況で冒険者の命を繋ぐ事をきちんと理解している。
「後少しお金があったら、良い武器が買えて魔物の攻撃を受けずに倒せたかもしれない」
「後少しお金があったら、ポーションをもう一本余分に買えて、怪我をせずに帰ってこれたかもしれない」
冒険者にとって金の切れ目は命の切れ目だ。
職員が持ってきてくれたお茶を一口飲み、アーサーが口を開く。
「そうだ、アリステアさんにお尋ねしたい事があったのです」
アリステアがビクッとする。
(な、なんだろう・・・得意料理とか?料理した事無いけど。彼氏いるかとか?遺跡が恋人、というか唯一の友達? 将来子供は何人欲しいかとか・・・いやいやさすがにいきなりそこまではでもでもそれはもしかしたら)
一人妄想をたくましくしていたが、アーサーが尋ねてきた事は全く関係なかった。
当たり前である。2人はギルド職員と冒険者でしかない。
「部屋や廊下を明るく照らす魔導具があるという話を聞いたのですが、今まで目にしたことはありますか?」
「話だけなら・・・見つけた事はない・・・」
少々ガッカリしながら答える。
「見た事も無いですか?」
「うん・・・」
「ふぅむ・・・」
アーサーは腕を組んで考える。
「用途からしてかなり普及していたと思うのですが、意外と発見数が少ない様なのです。実際アリステアさんも見た事は無いと・・・」
「それに見つかっても状態がいまいちな物が多い様です。ですがそれでも十分なので、もし見つけたら教えて欲しいのです」
「うん・・・」
「というのも、知り合いの魔導具技師が欲しがっていまして。彼が相場より高く買い取りますから、ぜひお願いします」
今まで見つかった物の形などの特徴を教えてもらう。
「わかった・・・がんばる!」
(アーサーからのお願い!絶対見つけて持ち帰ってみせる!絶対にだ!)
アリステアは心に固く誓った。
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翌日、12の鐘にはバーソルトの街に到着する。
明日は早朝に出る予定なので早めに休もうと考えているが、さすがにまだ早いし、遺跡の探索以外にもう一つこの街に来る理由がある。
そちらを済ませる為に馬に乗って移動する。
向かった先は市場であった。するとすぐ市場に店を出している人々から声がかかる。
「あら!アーティ!お帰りなさい!これ美味しいから持っていきなさい!」
「おばちゃんありがとう!」
「おう!元気そうだな!王都の方が冷えるだろ?風邪引くなよ!」
「ありがとおっちゃん。おっちゃんもね!」
王都にいる人達がこのアリステアを見たら、その自然な笑顔とやり取りに意外そうな顔をするだろう。
アリステアはこの街の孤児院の出身だった。
孤児院は「共同神殿」が運営している。
共同神殿とは、裁き・戦・智慧・大地・空・海の6柱の神を祀る祭壇が、一つの建物に集まっているものをいう。
神殿の中に礼拝所が6箇所あるのだ。
人々は、それぞれ自分の信仰する神の礼拝所に入り、お祈りをし説法を聴く。
一箇所に集まっているため少人数でも管理がしやすく、建物の維持管理費用も各派で分散する為、中規模の街~村では、ほぼこの形だ。
1柱ごとに神殿を建て運営できるのは大都市だけである。
孤児院は、その共同神殿全体で費用を出し合い運営しているのである。
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