第208話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
キースの功績を読み上げている最中、イングリットは、キースの魔法陣を最初に見た日から今日までの事を振り返りました。
□ □ □
「以上の功績をもって、キース、そなたを新たな級に認定する」
功績を読み終えたティモンド伯爵が布を敷いたトレーを持ち、イングリットと共に進んでくる。
「面をあげよ」
ティモンド伯爵の声に応えキースが顔をあげる。
(笑ってはおるが、期待、不安、興奮、全部ごっちゃになっているのが見て取れるな。相変わらず分かりやすいのう)
ニヤつくのを堪えながら、アルトゥールは右の口髭を触る。
イングリットがトレーの上の鎖と冒険者証を手に取り、キースの方に向き直る。
「キース、昇級おめでとうございます」
それだけ言って言葉に詰まった。たった一言で感極まってしまったのだ。言うべき言葉は頭に浮かんでいるのだが、続きが口から出てこない。
「……はい殿下。ありがとうございます。これも一重に、陛下と殿下を始め、皆様のお力添えのおかげでございます」
様子を察知したキースが、間を埋めるべく礼の言葉を返す。たったの数秒だったが、イングリットは何とか気持ちを落ち着かせた。
「……貴方は本当に、あらゆる事において唯一の、かけがえの無い存在です。どうかこれからも変わらぬ力添えを。よろしくお願いします」
何とか言葉をつむぎながら、キースの首に腕を回し鎖を掛ける。
(これまでの冒険者達より近いな……言葉に詰まってもその辺りは抜け目無い。さすがは殿下)
その様子を間近で眺めながら、ティモンド伯爵はイングリットのブレなさに感心していた。
「では、プレートを確認して魔力を流してください」
「はい」
胸に下がった冒険者証を手に取る。その瞬間に気が付いた。
(厚い!1枚じゃない!?)
冒険者証は身分証明書である為、普段から触る場面は多い。それでなくとも、冒険者になりたくて仕方がなかったキースは、何もなくても触っている事がある。いつもと違えばすぐに判る。
冒険者証を親指と人差し指で挟み、ずらす様に動かす。すると、金属が擦れる音と共に、銀色の冒険者証の下から金色の冒険者証が現れた。
(やっぱり!もしかしたらとは思っていたけど……)
『個別に表彰する』となった時点で予想はしていたが、確証は無かった。過去に銅級から金級へ飛び級した者などいない。そもそも金級冒険者自体が過去に4人しかいないのだ。2人は(ほぼ)死後の認定、祖母と父は銀級からの昇級だ。
(あれ、でも……)
キースは戸惑った。金銀どちらの冒険者証にも魔石が付いていないのだ。普通はプレートの右下に埋め込まれている。どちらも、キースの名前と、出身であるカルージュの村の名前が彫られているだけだ。
(でも、殿下は確かに『確認して魔力を流せ』って言ったよな)
冒険者証から顔を上げてイングリットを見る。
目が合ったイングリットは、真剣な、何か思い詰めた様な表情でキースの事を見つめていた。
キースと会っている時のイングリットは、会えて嬉しい事もあり、基本常に笑顔だ。話をする中で真面目な表情になる事もあるが、キースの前でこんな表情を見せるのは初めてである。
訝しく思ったその時、冒険者証を持つキースの指先に何かが触れた。馴染みのある、ひんやりとした硬い手触り。間違いなく魔石だ。
(なんだ、付いてるじゃない。そうだよね。冒険者証に魔石が付いてないなんて有り得ないもの)
様々な場面で個人証明に使われるのに、魔石が付いてなかったら役に立たない。触れた指先からそのまま魔力を流した。
魔石に流し込まれた魔力により、冒険者証全体が薄青く光る。
(よし!これでもう大丈夫です!)
キースの指先辺りで魔力の動きを感じ、その光を見たイングリットは、心の中で拳を握る。
確認しようとキースが冒険者証を裏返す。
だが、キースは冒険者証を手に持ったままの姿勢で固まってしまった。
顔を上げイングリットを見る。緑の瞳は目一杯見開かれ口も少し開き、誰が見ても混乱の極みと見て取れる顔だ。それを受けるイングリットは、キースとは対称的に満面の笑みだ。
キースは隣のティモンド伯爵に視線を移す。こちらは微笑み程度だがやはり笑顔だ。
(先生が混乱しているうちにトドメといきましょう!)
まだ状況が理解できていないキースに、イングリットが追い討ちを掛ける。
「エストリア王国王女、イングリット・ロウ・クライスヴァイクの名において、この場にいる全ての者へ我が言葉を伝える!心して聞け!」
キースの身体がビクリと震える。キースだけでなく、その場にいた全ての者が姿勢を正す。
その一本芯が入った凛とした声は、少女らしさを残しつつも、王族として十分な威厳と迫力があった。1歳の頃から次代の王として育てられただけの事はある。
「銀級冒険者キース!先に挙げた数多の功績により、そなたを白銀級冒険者として認定する!気をつけ!」
キースが弾けた様に立ち上がる。
「回れ右!」
その場で回転する。
「鎖を持ち冒険者証を掲げよ!」
右手で鎖を持ち、顔の斜め前に持ち上げた。まだ色々立ち直れていないキースは、言われるがままだ。
鎖の先では冒険者証が揺れている。
だが、そこで揺れているのは銀と金の2枚では無い。
銀、金、白銀の3枚だ。
「新たなる白銀級冒険者の誕生だ!皆で讃えよ!」
ティモンド伯爵の号令に合わせ、皆が拍手をし、楽団がファンファーレの演奏を始める。
エストリア王国建国から650年、史上二人目の白銀級冒険者が誕生した瞬間だった。
□ □ □
エヴァンゼリンは、列席者の列の中程で授与式の様子を見ていた。
リーゼロッテと魔術学院の理事長であるマリアンヌに挟まれながら、『冒険者証を掲げながら呆然と立ち尽くすキース』という、もう二度と無いシュチュエーションを目に焼き付けている。
(なるほど。これは王配にする為の準備でもあるのですね)
溢れる涙をハンカチで目元を押さえて拭う。
(これだけ実績があっても、可愛い見た目と年齢のせいで侮り反対する者が出てくるはず。それに一般市民の冒険者を王配にするなんて、前例がありません。それらを全て解決する一番手っ取り早い方法は、爵位を与え貴族にしてしまう事です)
一度拍手をやめ手を擦り合わせる。力いっぱい拍手をしていた為、手のひらはすっかり赤くなってしまっている。
(そこで、この機会にこれまでの功績はっきりさせ、級を上げる。キースはすぐにまた功を立てるでしょう。その時に白銀級になっていれば『もう爵位ぐらいしか与えるものが無いぞ』という流れに持っていきやすい。本人が嫌がっても『爵位の事は気にせずそのまま冒険者として活動して良い』とすれば受けてくれそうですし。さすがは御三方、よく考えられています)
キースの晴れ姿を前にしても、イングリットらの意図を考える事も忘れない。というか、本人は一々意識して考えている訳では無い。常に意図と裏を読んでしまう、そういう人間なのである。
改めてキースの様子を見る。先程より瞬きが多くなってきた。茫然自失の状態から立ち直ってきた様だ。
(まあ、ヴァンガーデレンで養子にしてくれという話があれば、喜んで受けますけどね。でも、それはアリステアとライアルが納得しないでしょう。いずれにせよ今後が楽しみです)
エヴァンゼリンはまた拍手をし始めた。
□ □ □
(これは……いつまで続くんだろう。もう良いんじゃないかな)
先程から冒険者証の付いた鎖を掲げているキースは正面を見続けている。
最初は呆然としていたが、もう状況もきちんと理解した。
(まさか金級を飛ばして白銀級とは……さすがに予想外だったな。殿下が思い詰めた様な顔をしていたのは、これが原因か)
イングリットは『いきなり白銀級に認定すると言ったら、キースが断るのではないか?』と考えていた。その為、冒険者証の魔石に魔力を流して登録されたのを見て(感じて)、一気に話を進めたのだ。
(それにしても、冒険者証もわざわざ厚さを変えて作るなんて、手間が掛かっているな)
そう、白銀級の冒険者証は通常の厚さで作られたが、銀級と金級の冒険者証はその半分の厚さしかない。
キースは手に取った時に厚さの違いに気が付いたが、3枚で2枚分とまでは思わなかった為、裏返した時に白銀色が見えて混乱した。イングリットはすぐにバレない様に、わざと白銀級が一番下になる向きで首にかけたのだ。
魔石が付いている冒険者証も白銀級のものだけだ。白銀級冒険者なのだから、銀級、金級の冒険者証に魔石が無くても当然である。
(まあ、それだけ評価してくれているという事なんだろうけど……)
その時、イングリットの手振りで参列者が拍手をやめる。
「他の冒険者達も先程と同じ様に並びなさい」
ティモンド伯爵の指示にライアル以下の冒険者達が再度列を作る。
「それでは、これより個人に与えられる報奨を発表する」
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