第207話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
アリステア達の表彰は終わりましたが、キースだけダンジョン確保関連以外の、個人の功績についても表彰を行う事になりました。列席している大貴族達は、あまりの内容に内心目を白黒させています。
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(まさかこんな状況にできるなんて……)
イングリットはアルトゥールの脇で立ちながら、膝を付いているキースを見つめる。
ティモンド伯爵がキースの功績が読み上げているが、イングリットの耳にはほとんど入っていない。
そもそも、聞く必要など無いのだ。内容については全て諳んじる事ができる。
(全ては、あの魔法陣を見せてもらったのがきっかけでした)
起動すると、2匹の影のウサギが自由自在に走り回り跳び跳ねる、あの魔法陣の事だ。
寝る準備を整えベッドに入り、何気なく見始めた結果、そのまま鐘5つ分見続けてしまい、次の日は眠くて大変だった。
基本の動きが8種類、8種類全部出るまで同じ動きは繰り返さない、というのは確認できた。だが、それ以外の法則性は見つけられなかったし、魔法陣自体の仕組みも全然解らなかった。
作ったのが魔術学院の学生であり、自分と大して変わらない年齢だと聞いてまた驚いた。作成者も気になる存在となり、ぜひ会って話を聞きたいと思う様になった。
その後、その学生を、国務長官と近衛騎士団長がそれぞれの組織へ勧誘していると聞いた時も、当然だと納得した。学生のうちから『万人の才』という二つ名まで付けられ、あんな魔法陣を作る魔術師。組織の長である2人は絶対に確保したいはずだ。
(しかし、そこからがまさかの展開でした。本当に……)
当の魔術師が『僕は冒険者になるので』と誘いを蹴ったというのだ。
イングリットとしては、勧誘の話を聞いて『これでいつでも王城で会える』と思っていた。まずは魔法陣について自分の考えを聞いてもらい、その後解説をしてもらおう、既にそんな予定まで立てていたのだ。
国務省の魔法陣や魔導具を作成・改良する部署も、近衛騎士団の魔術師部隊も、本当に優秀な魔術師しか入る事はできない。給料も社会的地位も高い皆の憧れの就職先なのだ。
それをどちらも拒否してなんと冒険者である。
冒険者への初期指導は十分されているとはいえ、国務省や近衛騎士団に入るより死ぬ可能性は高い。そうなったら、もう二度と会えない。だが、イングリットには何もできない。
日常業務に精を出しつつも、頭の片隅には常にその魔術師の事があった。国務長官と近衛騎士団長の説得が上手くいって、翻意してくれる事を祈っていた。
しかし、結果は出ないままついに卒業式の日を迎えてしまった。
ティモンド伯爵と近衛騎士団長が卒業式に出席し、最後の意思確認をすると聞いた時は、もう居てもたってもいられなかった。
最初は自分も参列したいと希望した。貴族側の卒業式にすら出ていないのに、さすがにそれは無理だと突っぱねられた。かなりゴネてみたがダメだった。
一般市民側の卒業式の来賓で最も格上なのは、王都の行政官(市長)である。国務長官と近衛騎士団長が出席するだけでも異例中の異例なのだ。さらに王女殿下まで加わったら、ある意味卒業式が台無しである。
だがイングリットは諦めなかった。
勧誘になびかない以上、この機会を逃したらもう一生会える機会は無いかもしれないのだ。もしそうなったら、死ぬまでこのモヤモヤを抱えていかなくてはならなくなってしまう。
結局『馬車から降りずに、誰にも見つからない様にできるなら同行可』となった。魔術学院に到着し2人を見送ると、例の魔法陣を取り出し眺める。式が終わるまでの時間は果てしなく長く感じたが、魔法陣をじっと見つめて過ごした。
その後どれぐら時が経ったのか。馬車の外が騒がしくなってきた。
式が終わり学生やその家族が外に出てきたのだ。
イングリットは馬車の窓を開けて外を見る。窓は小さく見える範囲は限られていたが、それでも『一際小柄でサラサラの金髪、緑の瞳』という特徴を頼りに必死に探した。
(!?あれ……かな?)
祖父母らしき人達と話をしている、小柄で金髪の後ろ頭。
卒業生は、皆、学院卒業者のローブを着ている為、一見区別がつかない。さらに後ろ姿の為緑の瞳は見えないが、特徴には合っている。
(お顔が……こっち向いてもっと近くにならないかしら)
イングリットは馬車の内側で窓に張りつく事で、かろうじて視界に捉えていた。馬車の窓は小さく顔を出せる程では無いし、出せたとしても、それをしてしまったら自分の存在がバレてしまう。国務長官は約束を破ると大層怖い。次の無理が効かなくなってしまう。
(お二人共もっと見える位置に誘導してくだされば良いのに!気が利かないのですから!)
二人に対して逆ギレもしてみせた。
だが、それが通じたのか、国務長官と近衛騎士団長が話しかけた事で、後ろ斜め45°程に向きが変わった。そして、一瞬だが、こちらを見た。そして目が合った(様な気がした)
(これが……夢にまで見た『万人の才』……)
さらりとした、眉毛を隠す程の少し長めの金髪、南方の海の様な明るい緑の瞳、少しピンクに染った頬は、遠目にも分かる程につやつやもちもちしている。
イングリットは、ようやく目にする事ができた憧れの存在の全てを、その目に焼き付けた。
(とりあえず区切りはつきました。あの方のおばあ様もお父様も、私でも知っている程の冒険者ですから、いつか何かの案件でお会いする事もあるかもしれません。その日を楽しみにいたしましょう)
しかし、その『いつか』は思いの外早くやってきた。
イングリットが視察から戻ると、国王がヴァンガーデレン家の夫人達と面会をしていた。しかも話の内容は『北西国境のダンジョン』に関わる事だという。
(エヴァおば様とリズおば様が揃って?しかもダンジョンの事で?冒険者もいるの?どういう事かしら……これは私も混ぜてもらわないと。ご挨拶もしたいし)
そう考えて部屋に入れてもらった。そして驚愕した。
何と、遠くから姿を見ただけで諦めざるを得なかった、あの憧れの『万人の才』が目の前に座っているのだ。
そして、間違いなく彼であると認識したイングリットは、彼の前に跪いてその手を取り、結婚を申し込んでいた。
部屋に入り室内にいた人々と挨拶を交わした事は、はっきり憶えている。だが、次に思い出せるのは、膝を付いて手を取り、結婚を申し込んでいる場面だ。
なぜ一気にそこまで突っ走ってしまったのかは分からない。(この機会を絶対に逃してはならない!)とも思ったのでそのせいだったのだろうか。
あの時の事は今思い返しても顔から火が出る程だ。しかし、後悔なぞ全くしていないし、自分自身よくやったと思っている。
(先生、喜んでくれるかしら。何となく予想しているとは仰ってはいましたけど、驚かれるでしょうね……)
『王配に』という話が保留中なのは残念だが、彼に新たな級の冒険者証を渡す事ができるのは、大きな喜びだった。彼がどんな表情を見せてくれるのか、少し不安もあるが、とても楽しみなのだ。
【天皇賞・秋】
コントレイル1着固定で、エフフォーリア⇔グランアレグリアの三連単2点勝負でした。何の不利も無かったにも関わらず、あの位置から差しきれなかったら完敗ですね。エフフォーリア関係者の皆様おめでとうございます。
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