第206話
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【前回まで】
メルクス侯爵、ライアル、デヘント達への表彰は無事終わり、キース達の順番が回ってきました。アルトゥールは何か考えている事がある様で……
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ティモンド伯爵が式次第を広げ、キース達の功績を読み上げ始める。
「銅級冒険者キース、アーティ、フランシス、クライブ、以上4名の者は、『北西国境のダンジョン』駐屯地への襲撃を阻止し、アーレルジ王国の現地責任者及び数十名の冒険者を捕縛。作戦実行部隊としてダンジョン確保に多大な貢献をしたものである」
他にもあるが、列席者である国務大臣や高位貴族には、まとめられた報告書が回覧されている為、経緯はほぼ把握しているのと、あくまでもパーティとしてのあげた功績について言及している。
「以上の功により、4名を銀級冒険者へと任命する。まだ若いが、それぞれが類稀な力の持ち主である。今後益々の活躍を期待している」
ティモンド伯爵が式次第を畳む。
「本当に、お主らには何と声を掛けたら良いものか……言葉も無いわ。ただただ感謝だけよ。ありがとう」
感謝の心がしみじみと滲み出たアルトゥールの言葉に続き、イングリットとティモンド伯爵が前に出てきて、アリステアらに銀級の冒険者証を掛ける。
「キース、そなたは個別で行う故、そのまま待て」
「はい、承知致しました」
国王の発言に不思議そうなキースを残して、アリステアらはデヘント達の隣へ移動した。
(なるほど……だからわざわざキースを後ろに並ばせたのか)
アリステアはこの後の展開を知っている。
近衛騎士団に『呪文』の展示をする流れになった時、訓練場に移動する時の馬車内でアルトゥールに正体がバレた。その際に聞かされたのだ。
チラリと横目でライアルの方を見る。だが、真横に並んでいる為表情は見えない。
(色々思う者もいるかもしれんが……これだけではとてもおさまらんものな。誰が悪い訳でも無い。こればかりは仕方がない)
そっと溜息を吐き、式の進行を待った。
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「キース、なぜお主だけ別にしたかは、もう気が付いているやもしれんな」
「はい、陛下。まだ確信はございませんが……」
そう問われたキースは笑顔だが、そこには喜びと興奮だけではなく、戸惑いも混ざっている。
「お主が冒険者になって約半年。たったそれだけの間に、儂らは本当に多くの恩恵を受けてきた」
アルトゥールは一呼吸つくと、改めてキースを見る。国王としてというより、私室でイングリットを見る時の様な優し気な目だ。
その視線の先では、稀代の天才魔術師が小柄な身体を魔術学院のローブで包み、大きな緑の瞳でアルトゥールの事を見返しながら、言葉の続きを待っている。
「そして儂は、お主がもたらしてくれた物を、王族や一部の貴族だけが用いるのでは無く、国中に広めその恩恵を受けさせたいと考えている。もちろん、まだ準備が必要な事も多いがの。ゆくゆくは、の話だ。なのでな、ここらで一度、それをきちんと整理し世に告知し、改めて礼を言いたいと考えた。よって、この授与式の場を借りる事にした」
アルトゥールはティモンド伯爵に視線を向け頷く。
「それでは、改めて、銀級冒険者キースの、個人的な功績を発表いたします。お手元の資料をご覧下さい」
ティモンド伯爵の言葉を受けて、列席者達が会議の最後に配られた書類に目を落とす。
その書類には以下書かれていた。
□ □ □
・失われた魔法の発動手順である『呪文』の発見と魔法語よりの翻訳、指導書の作成と格安での提供、指導官就任。
『呪文』とは、魔法を高効率で発動させる為の、特定の文句であり、セクレタリアス王国期の遺跡で資料が発見された。そもそも、『呪文』を用いる手法が魔法の一般的な発動方法であり、現在の我々が用いている手法は『無詠唱魔法』と呼ばれるものである事が判明した。この発動手順は国の秘術とし、今後、魔術学院の学生及び近衛騎士団魔術師部隊に指導が行われる事が決まっている。
合わせて、近衛騎士団の騎士部隊の装備に対して、より効果の高い『魔力付与』の魔法陣の提供も受けている。
・魔法を用いての土木工事の実施。
『北西国境のダンジョン』周辺の平原の有効活用及び増水期の洪水対策として、農地転用の計画が進められている。工事の進捗がエドゥー川の増水期に間に合わない可能性が懸念されたが、魔法により土地を造成し大規模貯水池を作り上げた。これは、『北西国境のダンジョン』確保の際、エドゥー川の流れを変えた手法と同様である。それに伴い、工事の手配と管理が不要となり、工事費用を始めとする様々な経費が大幅に削減された。
・各種魔法陣の開発と提供。
観賞用の各種魔法陣を始め、書類を写し取り複製する『転写の魔法陣』、魔力により反発、結合する『反発の魔法陣』、対になった魔法陣間の移動を可能とした『転移の魔法陣』の開発と提供。特に、『転移の魔法陣』は人類の夢と言っても過言では無い。特筆に値する。
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(これが全て18歳の成人したばかりの少年が、たったの半年で成した事とは……マテウスから話は聞いておったが、こうしてまとめられるとより一層信じられん)
ティモンド伯爵の功績の読み上げと補足説明が続く中、列席者のうちの一人、エイブラム・ウル・クロイツィゲルは心の中で唸った。先程配られてから、もう幾度目かも知れない。
彼は『四派閥』の一角を占めるクロイツィゲル侯爵家の当主であり、近衛騎士団の団長であるマテウスの兄だ。自身は大臣などの役職には付いていないが、他の三家と共に派閥の長として、人事の調整役を担っている。
(この書類自体もその『転写』で作られたものだという。確かに字体がどれも同じよ。それにしても、これまでに無いモノを生み出す発想力、それを作り上げる知識と技術力は尋常ではない。しかも、できあがった成果を自分のモノだけとせずに、大した対価も要求せずに公表したという。この様な者がこの世に存在するとは……真に人か?神の下僕か何かではないのか?)
代々続く大貴族家の長男、そして当主として、生き馬の目を抜く様な世界で生きてきたエイブラムにとっては、存在自体が信じられない。感嘆の溜息しか出ない。
さらに、隣に座ったキーセンフォーファー公爵家のルツェンコの態度がそれを後押しした。
同じく『四派閥』の一角を占める、キーセンフォーファー家の当主であるルツェンコは、エイブラムの一つ歳下であり、年齢と似通った立場からも終生のライバルと言って良い存在である。
彼は、大貴族の当主であると同時に、魔術学院を次席で卒業した程の魔術師であり、魔法陣の研究でも名が知られた人物だった。
その彼が、魔法陣と『呪文』についての説明を聞いている最中から、口をポカーンと開け間の抜けた顔を晒していたのだ。貴族の、それも国を代表する大貴族の当主としてらしからぬ態度である。
エイブラムにとって、何かにつけ魔術師としての力を誇ってきたルツェンコという存在は、まさに『目の上のたんこぶ』だった。そんな、ルツェンコが、自分の得意分野の話にも関わらず、全く理解ができず唖然呆然とする様は、ことのほかエイブラムの溜飲を下げた。
(まあルツェンコの事などどうでも良い。極めつけはやはり『転移の魔法陣』よ……これはまさしく世の中の仕組みが変わる)
対になった魔法陣がどんなに遠くにあろうとも、人をそこに送り込む事ができるという、まさにおとぎ話の様な魔法陣。
数百年間、もしかするともっと長い間、多くの魔術師が完成を夢見て取り組んできにも関わらず、誰も成しえなかった魔術師の最終目標の一つ。
彼はそれまでも作り上げてしまったという。
(先程からの様子を見ていると、陛下らとは以前から面識がある様だしな……なんともはや驚きしか出てこんわ)
エイブラムが溜息を吐く隣では、こちらも『四派閥』の一角、ヒューリック侯爵家の当主、ジョアン・ウル・ヒューリックが眉間に皺を寄せて書類を睨みつけていた。イングリットの補佐官であるイエムの兄である。
(それにしても、彼らを取り込めないのも残念だが、まさか新部署の人事まで決まっているとは……これでは食い込む余地も無いのう。他家も知らん様だし、我らまで漏れ伝わってこなかった辺り、かなり慎重に進められたとみえる)
この書類が配られ、説明を受けた高位貴族達がまず考えたのは『ぜひとも彼らと専属契約を結びたい』というものだった。
たった半年の間でこれだけの事を成す魔術師とその仲間である。半永久的に魔石を産み出すダンジョンの様なものだ。金銭面はもちろんの事、『他家が持っていないモノを自分だけが所有する』という、貴族的満足度を非常に高いレベルで満たしてくれる存在でもある。
しかし、これはアルトゥールの先手を打った一言で潰えた。
「この冒険者らと専属の契約を結ぶ事、その活動を妨げると『こちら』が判断する様な依頼事は、王の名のもとに禁ずる。彼らは国の宝じゃ、独占は許さぬ。好きにやらせるのが一番だからの」
活動を妨げる依頼かどうかを、アルトゥールらが判断するという。これでは、ジョアンらにとっては、『お前達は直接接触するな』と言われているに等しい。
(しかも殿下が『何としても王配に』とお望みだという。確かに小柄な以外は見目も良い。お似合いと言っても良いだろう。一般市民だが、これだけ功績があれば爵位などどうとでもなる。それにしても……)
書類から顔を上げ、跪くキースに視線を向ける。
まだ緊張している様子も窺えるが、笑顔で堂々と顔を上げティモンド伯爵の読み上げを聞いている。
(太い実家、特異な才能、時期国王となる姫、どれだけ徳を積めばこれが一度に手に入るのだ。笑いしか出てこないぞ)
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