第205話
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【前回まで】
遂に報奨の授与式が始まりました。最初にメルクス伯爵が受け取ります。メルクス伯爵は『侯爵』に位が上がりました。そしてもう一つのご褒美は……
※1リアル=5円。一般市民の平均年収は100万リアルです。
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「合わせて、メルクス家の名義で収められているあらゆる税の納税を、来年4月より3年間免除とする」
ティモンド伯爵が言い渡したもう一つの報奨に、謁見の間は驚きと感嘆のどよめきに埋め尽くされた。
元々上位の爵位である『伯爵』から『侯爵』への陞爵も大変な事なのだが、こちらはどちらかと言えば名誉的なものであるし、皆の頭の中にもあった為、衝撃という意味ではそこまででは無かった。
しかし、『3年間の納税免除』、これは違う。領地での収入、携わっている事業の売上、投資に対する配当など一族全ての税金の免除だ。大変な金額になるだろう。
告げられた当人も予想外だったらしく呆然としている。交渉事の達人であり貴族として生まれ育ったメルクス侯爵が、人前で感情丸出しの表情をする事はまず無い。家族と屋敷で過ごしている時ぐらいであろう。
(これは凄い。だが、ダンジョンが既に稼働済みである以上、これだけの優遇も簡単に償却できてしまう)
顔を伏せながらティモンド伯爵の言葉を聞いているキースは考える。
『北西国境のダンジョン』の魔石は、年間で8tから8.5tの産出量が見込めるという調査結果が発表された。これはこの国一番の産出量を誇る『アルカイン山のダンジョン』とほぼ同量だ。
kg単価を昨年と同額である400000リアルとしても、8t産出で32億リアルの売上、各種経費やアーレルジに分配する分を除いても、初年度でも10億リアルは残るだろう。2年目以降は経費がグッと減って純利益が増える。
列席者はまだ衝撃に包まれたままだが、さすがにメルクス侯爵の立ち直りは早かった。
表情を改めて姿勢を正すと、感謝の言葉を述べ脇へと避けた。
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「それでは引き続き、冒険者達の表彰に移る。王都冒険者ギルド所属、銀級冒険者ライアル、銅級冒険者マクリーン、シリル、ニバリ、前へ。冒険者は皆王都所属の為、以降省略する」
4人は立ち上がり、メルクス侯爵の時と同様に、数歩進むとまた膝を着いた。前列にライアル、後列に3人が並んでいる。
「4名の者は、メルクス侯爵の護衛として『北西国境のダンジョン』へ同行、道中の安全確保はもちろん、現地滞在中も、アーレルジ側の実効支配に圧力を掛け続け、最終的な確保に貢献したものである」
一度言葉を切り、呼吸を整える。
「以上の功により、ライアルを金級冒険者に、マクリーン、シリル、ニバリを銀級冒険者へと任命する。これからも冒険者の範としての活躍を期待する。尚、個別の報奨については、他のパーティも終了した後に発表する」
ティモンド伯爵が式次第を畳んだ。
「アーレルジが力押しを躊躇ったのは、間違いなく『エストリア筆頭』たるそなたらの存在があったからである!ありがとう!」
アルトゥールが礼を言うと、イングリットと、ティモンド伯爵がライアル達の前に出てきた。ティモンド伯爵は、布が敷かれたトレーを持っている。
「ライアル、史上4人目の金級到達、おめでとうございます。ですが、ご家族同様に白銀級を目指されている貴方にとっては、まだまだ通過点にしか過ぎないのでしょうね。より一層の活躍を期待しております」
イングリットがトレーに手を伸ばし、そこに載った物を手に取る。鎖の付いた金色のプレートだ。表にはライアルの名前、裏には冒険者ギルドの紋章と出身地が彫られている。プレートに埋め込まれた小さな魔石が、『照明の魔導具』の光を反射して煌めく。
金級の『冒険者証』だ。
鎖の留め具を外し、ライアルの首に回す。イングリットが手を離すと、金と銀の冒険者証が触れ合い僅かに音を立てた。
「……ありがとうございます。必ずや、また殿下に鎖を掛けていただける様に、務めてまいります」
ライアルは『イングリット手ずからの授与』という、まさかの対応に感激し切っていた為一瞬言葉に詰まったが、何とか礼の言葉を返した。
それを聞いたイングリットは、ライアルの言葉に小さく頷き、少し顔を寄せるとライアルにだけ聞こえる様に囁いた。
「私もお義父さまと呼べる日が来る様に頑張ります」
うふふと笑ったイングリットは、言葉に詰まるライアルを尻目に、マクリーン、シリル、ニバリ声を掛けながら冒険者証を首に回していった。
(まず間違い無いとは思っていたけど、とりあえず一安心だな)
アリステアは控えた姿勢のまま胸をなで下ろしていた。
アリステアはキースには構いつけるが、ライアルに対してはあっさりしている。
だが、内心は、息子が金級冒険者になったのが本当に嬉しかった。
そもそも、ライアルは結婚している40過ぎの大人であり、『エストリア筆頭』と謳われ、周囲から一目置かれる程の冒険者だ。今更親がしゃしゃり出る必要など無いし、本人だって鬱陶しいであろう。
(確かにキースに比べればライアルは地味かもしれん。というか、実際はそうでも無いのだが、キースがハチャメチャなだけに相対的に地味に見えてしまう。しかも、『北西国境のダンジョン』は、ずっと膠着状態で苦しかったが、キースが合流してから一気に状況が動いて確保に至った。そうなると、上っ面だけ見て『それまでいた者達は何をしていた?』と考える者が出てきてしまう恐れがある)
アリステアはそれを心配していた。
アルトゥールやイングリット、ティモンド伯爵らが見誤るとは思えなかったが、そういう意見が出る事すら気に入らなかったのだ。もし実際にその様な事を耳にしたら、それが誰であろうと『どれだけ苦労をしたと思っているのだ!』と怒鳴りつけただろう。
自分が産んだ愛する人との子供である。たとえおっさんになりつつあろうとも、可愛い息子であるのは変わらないのだ。
「銅級冒険者デヘント、バルデ、ラトゥール、ローハン、前へ」
ライアル達がメルクス侯爵の隣に移動し、次によばれたデヘントらが前に進む。
「4名の者は、ライアルらと共にメルクス侯爵の護衛として、『北西国境のダンジョン』へ同行、道中の安全確保はもちろん、現地滞在中も、護衛に加え情報収集やその操作、実効支配に対し妨害工作などを行い、最終的な確保に貢献したものである」
「交渉がもの別れで終わった後、アーレルジの工事が進まなかったのは、そなたらの施した策が功を奏したと聞いておる!同じ冒険者でも、ライアルらとはまた違う『エストリア筆頭』と言えるだろう!感謝するぞ!」
「一見すると裏方に思われがちな役割ではありますが、『情報を制すものは全てを征す』と言われます。何事も、何も知らずに臨んでは適切な対応はできません。これからもよろしくお願い致します」
「恐縮です。これからも自分達にできる事をやり通して参ります」
ライアル達と同様に、イングリットが銀級の冒険者証を皆の首に掛け、デヘント達はライアルらの隣に並んだ。
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(まさかこんな事になろうとはな……)
デヘント達が移動し、キース達の姿を目にしたアルトゥールは、初めて会った時の事を思い出す。
(『北西国境のダンジョン』の利益をアーレルジに譲渡する件で面会に来たのだったな)
あの時は『エヴァンゼリンとリーゼロッテが揃って面会を求めている』と聞いて、さすがのアルトゥールも一体何事かと慌てたものだ。
そして、『自分達は通行手形だから』と言って、この少年に席を譲ったのだ。
いくら魔術学院首席で、アリステアの孫、ライアルの息子とはいえ、まさか、『利益を分けて貸しを作り味方にしよう』などと言い出すなど思ってもみなかった。18歳の、冒険者になったばかりの少年とは思えない発想だった。
そしてそれは見事にハマり、アーレルジ王国は金に縛られ、表立ってエストリアに敵対する事はできなくなった。
(今日はある意味ここからが本番よ。どれ、始めるとするか)
アルトゥールは玉座に預けた姿勢を正し、深呼吸を一つした。
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