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第204話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


宿屋→冒険者ギルド→王城の控え室と移動してきた一行は、さすがに緊張気味です。ですが、アリステアだけは「大丈夫大丈夫」と高笑い。そんな様子を「おばあ様凄い!」とキースが尊敬の眼差しで見ています。


□ □ □


部屋の調度品を眺めたり、小声で会話をしたりと皆が所在無さ気に過ごしていると、待合室の扉が静かに開き、男性が入ってきた。自然と皆の視線がそちらを向いた後、誰かを認識し笑顔になる。


入ってきたのは、メルクス伯爵だった。皆が挨拶をするべく近付いてゆく。


(これが貴族の正装か……格好良いな……)


キースは近寄りながらメルクスの装いをじっと見つめる。


エストリア王国での貴族男性が正装をするのは、式典や外国の賓客を招いてのパーティ等、公的な催しのみであり、日常ではここまでの格好はしない。


正装自体も、白いシャツとパンツ、さらにベストに加えて、ネクタイを付け、そこに太腿の中ほどまでの丈の上着を着るスタイルが一般的だ。色も生地は黒、用いる糸は銀と、どちらかと言えば大人しめで質実剛健実な印象を与えるスタイルである。


エストリアを興した初代の国王が派手な装いを好まなかった事と、建国後はまだまだ周辺も国内も混沌としており、実際にそんな格好をする程の余裕もあ無かった事がその理由として伝わっている。


その為、胸ポケットのチーフやアクセサリー類で他人との差別化を図る者が多い。


「皆元気であったか……と言ってもまだ3日程しか経っておらんな。4年半毎日顔を合わせていたせいか、会わなくなると何やらしっくりこなくてな」


そう言いながら、ライアルやデヘントと握手をする。


「ごもっともです。少しはごゆっくりなされましたか?」


「ああ。こちらに帰ってきてから、屋敷の外に出たのは先程が初めてだ。王都に帰って来たのも昨日の夕方という事にしてある」


交渉事に長けたメルクスはとても顔が広く、その人脈と情報網は様々な所に食い込んでいる。そんな彼が4年半振りに帰ってきた事が公になると、どうしたって自分も含めて人の行き来が発生してしまう。


挨拶などの顔繋ぎは、自分の仕事の基本であり、重要な事なのは解ってはいる。だが、授与式の後は間違いなく忙しくなる。この数日ぐらいは、妻や家族と静かに過ごしたかったのだ。


「ふむ、皆も体調は良さそうだな。久々の王都にハメを外しすぎた者もおらんか。何よりだ」


そう言いながらデヘントの方を見ながらニヤリとする。デヘントは小柄だ。当然の後ろに立っているバルデ、ローハン、ラトゥールと目が合う。3人は目をぱちくりさせたり、どこか遠くを見たりしている。


(長年一緒に過ごしていただけあって、性格は把握済みという事か。さすが閣下)


そんなやり取りにキースは舌を巻いた。


□ □ □


再び扉が開き、遂に出番かと思いきや、入ってきたのは側仕えの格好をした若い女性だった。


「失礼いたします。皆様おはようございます。この度はおめでとうございます。この後の流れについてご説明いたします」


(殿下付きのレーニアさんだ)


イングリットには側仕え兼護衛が付いている。それがマルシェとレーニアだ。基本どこに行くにも一緒であり、常に傍らに控えているが、今イングリットは王城内で会議中である。1人で用は足りるという事で、レーニアがこちらの対応を指示されたのだろう。キースはイングリットの気遣いに感謝した。


「現在、国王陛下、王女殿下は会議にご出席されています。その後会議室から『謁見の間』に移動するタイミングで、皆様にも入室の準備を始めていただきます。と言いましても、列を作って並んでいただくだけなのですが。先頭はメルクス閣下、冒険者の皆さんはパーティ毎にリーダーを先頭に。順番は、ライアル様、デヘント様、キース様とお願い致します。あ、そうです、」


レーニアは一旦言葉を切るとキースを見る。


「キース様だけは、ご自分のパーティの後ろに付いて欲しいという事です」


「……?はい、分かりました」


キースは不思議そうに首を捻りながら返事をする。


(なんだろう……小さいから間に挟まっちゃうと見えないからかな?)


「それではもう少々お待ちくださいませ。定例的な報告が主ですので、緊急の議題さえ無ければ間もなく終わるかと」


と、その時、廊下から入ってくる扉が僅かに開いた。その隙間にレーニアが顔を寄せる。


「皆様が移動を開始された様です。ではよろしくお願い致します」


レーニアは笑顔で促した。


□ □ □


謁見の間の準備は、ほぼ整いつつあった。


玉座の左後方にイングリット、右後方に国務長官であるティモンド伯爵が控え、玉座の正面、控室の扉から玉座までの間には、緋色の絨毯が敷かれている。


その絨毯の左側最前列にに国務大臣達と管轄部署の責任者であるディック、その後ろに、大臣以下の役職者や出席を認められた高位貴族がいる。エヴァンゼリンやリーゼロッテ、魔術学院の理事長マリアンヌもこの中だ。


右側には王立楽団が配置し、進行に合わせて演奏を行う。


「よし!皆揃ったな?それでは報奨の授与式を始めるとしよう!」


玉座に座ったアルトゥールが授与式の開始を宣言した。


宣言を受け、ティモンド伯爵が玉座の右前方に進み、式次第を広げ読み上げる。


「これより『北西国境のダンジョン』確保等に伴う、報奨の授与式を執り行う。授与者入場」


ティモンド伯爵の進行に合わせ楽団が入場のファンファーレを演奏し始め、石造りの壁や床に響いた。


係員が左右に開いた扉から、メルクス伯爵を先頭に謁見の間に入ってくる。


(この速過ぎず遅過ぎず、というのが難しい)


先頭で歩みを進めながらメルクス伯爵は考える。緊張していると、どうしても気が急いてしまうが、そこをあまり意識すると、今度は不自然なまでに遅くなってしまう。


(先頭の自分が程よい速さで進まないと、全体がおかしな事になってしまうからな)


メルクス伯爵は神経を遣いながら歩き、指定の位置まで進むと右膝を付いて待機する。


後ろのライアル達も、パーティ毎に少し間隔を空けながら同様に控えた。


楽団による国家の演奏を終え静まり返った謁見の間に、ティモンド伯爵の進行の声が響く。


「それでは、これより個別の表彰を始める。功一等、エディ・メルクス伯爵!前へ!」


呼ばれたメルクス伯爵は立ち上がり、前へ数歩進むと再度膝を付いた。


このタイミングでティモンド伯爵がメルクス伯爵の功績を読み上げるのだが、アルトゥールが手を挙げた。


「個別の功を知らしめる前に、一言言わせてくれ。メルクス伯爵、そして冒険者の皆よ!4年半もの長きに渡る現地での対応、誠に大義であった!まずは諸君らに言わなければならない事がある。他の要員を整え交代をさせる事ができなかった事だ。儂は皆からの報告を受け『お主らだからこそ、アーレルジは武力による確保に踏み切れないでいる』と考えるに至った。よって戻す事ができなかった。それについて諸君らに謝罪する」


アルトゥールは心の底からの素直な気持ちを伝えただけだが、結果的に、列席者達の心を驚愕と感嘆で満たした。国王が家臣に対して、公の場でここまで明確に謝罪の意を表し伝えるという状況は、そうそうある事では無い。


(皆の目がある場で謝罪すれば『家臣の心を汲む事ができる、度量の大きい国王』という印象を与える事ができますものね。さすがおじい様。私もいつか使う場面が来るかもしれません。頭に入れておきましょう)


イングリットはアルトゥールの内心を正確に分析していた。国王としては先も見えており、既に60年の実績があるアルトゥールは、今更家臣の評判を気にする必要は無い。どちらかと言えば、イングリットに示す為という側面が強いのだろう。


アルトゥールはティモンド伯爵と視線を合わせ『進めよ』という意を込めて頷く。


「それでは改めて、エディ・メルクス伯爵の功績の詳細について説明する。メルクス伯爵は、アーレルジ王国との、当該ダンジョンの所有権を巡る交渉の担当官として現地へ赴き、自らの能力と人脈を十全に発揮し、見事にダンジョンの所有権を認めさせたものである。さらに、『アーレルジ王国側に一定の利益を譲渡する事で敵対感情を打ち消し、国家規模で動静を縛る』旨の策を示し、アーレルジ王国側の遺恨を解消、両国の関係を改善し、西側の安寧を果たしたものである。メルクス伯爵、陛下のおそばに」


メルクス伯爵は一旦立ち上がり、3歩前へ進むと再び膝を着いた。


「メルクス伯爵!『交渉人』の名に違わぬ見事な成果である!やはりそなたを送り込んだのは正解であった!懐柔策も、周辺国の状況を把握しているそなたならではのものよ。礼を言うぞ!ありがとう!」


「メルクス伯爵。感謝致します。国民と王国の為に、これからもそのお力を存分に振るってくださいませ」


礼を言うアルトゥールにイングリットも続く。


イングリットが『これからも力を振るって欲しい』と言った事で、メルクス伯爵の立場は強化され保証される。この先も国家間での交渉が必要な場面で重宝されるのは間違いない。


「以上の功をもって、国王陛下はエディ・メルクス伯爵に対し以下の報奨を与える」


ティモンド伯爵はそこで一旦言葉を切り、周囲を眺め渡す。どの顔も、これだけの功を成し遂げたメルクス伯爵に対して、どの様な報奨が与えられるのか、興味津々である。


「エディ・メルクス伯爵を『侯爵』と定める。今この時よりエディ・ウル・メルクス侯爵と名乗る事を許す」


ティモンド伯爵が静かに宣言すると、その衝撃は列席者の間をさざ波の様に、ゆっくりと広がっていった。


『伯爵から侯爵への陞爵(しょうしゃく)』は、当人も含めある程度予想されていた。毎年定期的に収入がある、尽きない鉱脈を手に入れたのだ、国としてはそれぐらい出さないと釣り合いが取れない。


場の空気の落ち着きを確認したティモンド伯爵が、再び口を開く。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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