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第203話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ



【前回まで】


宿泊した『鷲亭』で朝食からの着替え。神官の礼装用法衣に感激しつつ、宿屋のオーナーをあしらいました。


□ □ □


キースが食堂に戻ると、デヘントのパーティが勢揃いしていた。


挨拶をしようと近づくが、何やら様子がおかしい。食事をしているのはデヘントだけで、他の3人は俯いて深い溜息を繰り返している。


「……おはようございますって、酒臭っ!?」


「おはようキース。まあ……そういう事だ」


デヘントはそれだけ言うと、パンに切れ込みを入れ、そこに腸詰を挟んだ物にかぶりつく。


(この様子の違いからして、デヘントさんは何とも無いのか。しかし、これ授与式大丈夫なのかな?)


「デヘントはリーダーなんだからさ、ちゃんと管理しなよ。授与式前に二日酔いとか頭悪過ぎ」


「そんな、飲み始めたばかりの子供じゃねぇんだから、酒の量まで管理できるか。この事態を見越してお前さんに頼んでおいたんだ。先見の明がある良いリーダーだろ?」


「……」


シリルはその言葉には反応せず、溜息を一つつくと、懐から小さな皮袋を出し机の上に置いた。


「言われた通り効果重視で作ってもらった。その分臭いがキツいから、多めの水で一息で飲んだ方が良いって」


「お、ありがとうよ。妹さんによろしく伝えてくれ」


皮袋から丸薬を取り出し一人一人の前に置くと、水差しからコップに水を注ぐ。


「……これは確かに中々キツイな。ほれ、臭いが広がっちまう。さっさと飲め」


食堂で悪臭を発する様な行為は、営業妨害で訴えられてもおかしくない。さっさと飲んでもらわなければならない。


その臭いに手が止まった3人だが、それも一瞬だ。シリルの妹が作る薬がどれも抜群に効く事は、まさに身に染みて知っている。喉の奥の方に放り込み一気に水をあおる。


「よし、鐘半分も経てば大丈夫だろう。薬代は立て替えただけだからな、後で払えよ」


「……あいっす」


辛うじて答えたのは、最も症状が軽いバルデだ。


「キースもこれから先酒を飲む機会は増えてくるとは思うが、こういう大人にはならん様にな?程々を弁えろよ?」


「酔っ払い狙いの窃盗や、ぼったくり居酒屋とかもある。酒は健全に楽しもうな」


「はい、分かりました」


(周囲の人達の視線が生暖かいというか、明らかにダメ人間を見る目だものな……気をつけよう)


□ □ □


バルデ、ローハン、ラトゥール達の二日酔いは、効果てきめんの薬により無事解消し、準備を整えた一行は『鷲亭』から冒険者ギルドに移動する。


『鷲亭』からギルドはすぐ近くだが、ビシッと整った冒険者の一団は非常に目を引く様で、通りを行く人達の殆どが視線を向けてきていた。


建物に入ると、待合室の椅子に座り書類を見ていたディックが立ち上がり、片手を上げ近付いてきた。こちらも頭のてっぺんから爪先まで準備万端整っている。どうやら皆が来るのを待っていた様だ。


冒険者ギルドのマスターは、就任中に限り『男爵』位を伴う。王城で国務長官に直接報告をしたり、今回の様に、冒険者関連の式典に出席する場合、爵位があった方が都合が良い事が多い為だ。


「おう、おはよう。ついさっき王城から『馬車発』という連絡が入った。馬車は裏に付けるから会議室で待機しよう」


そう言うと先頭に立って歩いて行き出す。その後ろを皆で付いて事務所側に入ってゆく。


(そうだ、皆に伝えておくか。ここには知っている人間しかいないからちょうどいい)


会議室に入り席に座ったところでアリステアが切り出した。


「あ~、唐突だがちょっと聞いて欲しい。昨日の夜なんだが、私達の中身がキースにバレた。みんな今まで気を遣ってくれてありがとう」


いきなりの発言に、昨夜『フローリア』に居なかったメンバーは驚きに目を見張った。


そして、アリステアとキースがお互いの目線からの説明をする。


「まあ、なぜキースが気が付かないのか不思議なレベルでしたからね。時間の問題でしたし仕方無い」


「ほんと。なんで今まで気がつかなったの?どう見てもカルージュの3人でしょ」


「そうなんですよね……言われてみれば確かにその通りなんです。なんでだろう……」


キースも腕を組んで首を捻る。


「でも、3人はスッキリして良かったでしょ。隠し事は疲れるもの」


普段感情が殆ど顔に出ないシリルだが、そう言った彼女の目元は普段より僅かに緩い。


「だが、実際、あの時はそれどころでは無かったものな」


「ええ、冒険者として活動できるか家に帰るかの瀬戸際でしたので……」


ディックとキースのやり取りに、4人はあの日の事を思い出す。


キースを狙った追い剥ぎ冒険者を捕まるべく大立ち回りをした結果、待合室の椅子と机は壊し尽くされた。


キースは家出がバレ、帰らなければならないかと落胆していたところ、一転して『彼らと一緒なら良い』という流れになった。細かいところまで頭が回らなくても不思議ない。


「あれ?じゃあ、あの時のディックさんが言ったおばあ様の言葉というのは……」


「ん?ああ、『彼らと一緒なら冒険者として活動しても良い』というやつか?あれは俺が考えた。ああ言えば、3人とパーティを組むだろうと思ってな」


正確には、『ディックの目から見てキースを任せる事ができるパーティがあって、その人達が進んで受け入れてくれるのであれば、冒険者として活動しても良い』である。若いキースと違い一言一句まで憶えてはいない。しかも、あの場限りでの口からでまかせだから余計だ。


「なるほど……あの状況で冒険者として活動できる道があるのに、それを選ばないはずは無いし、3人も自然な話の流れで僕に同行できますものね。『この3人はおばあ様とも面識がある』……これも確かに嘘ではありませんよね、本人達なのですから。唯一開いていた入口に僕は見事に飛び込んで行ったという事か……おみそれしました。それと」


そこまで言わうと、キースは姿勢を正しディックを正面から見る。


「遅くなりましたが、僕の家出のせいでご迷惑お掛けしました。ありがとうございました」


キースはディックに頭を下げ謝罪する。


「お、おう。まあ……結果的に全てが上手くいくタイミングは、あの日しかなかったからな。良かったんじゃないか?」


面と向かって謝られたディックは、照れ隠しと実感、半々の気持ちで返事をした。


朝は悪党を捕まえ、昼過ぎにはリリアが拐われるところを防いだ。キースが家出した日が1日でもズレていたら、どちらにも遭遇しなかったのだから。


「よし、もう馬車も着くだろう。外に出て待つか」


ディックの言葉に皆も席を立ち、通用口へと向かった。


□ □ □


迎えの馬車に乗り込んだ3つのパーティとディックは、ギルド職員とその場に居合わせた冒険者達に見送られ出発した。


そして、何事も無く王城の馬車寄せに到着し、謁見の間手前の待合室に通された。ここまで来ると、さすがに皆の表情も固くなってくる。面会用の部屋には何度も入った事はあるが、謁見の間の手前となるとアリステア以外は初めてである。


「アーティ、前に来た時と比べていかがですか?調度品とか変わってます?」


少しでも皆の気を紛らわせようとフランが尋ねるが、アリステアは首を捻る。


「……全く記憶に無いな。どんな様子だったのだろうか」


50年近く前の出来事である事と、練習した所作や歩き方、挨拶、言葉遣いの事で頭がいっぱいで、部屋の内装どころでは無かったのだ。


「まあ、こっちは表彰される為に来たんだ。余程失礼でない限り何も言われん。初めてお会いする訳でも無いのだからな。大丈夫大丈夫」


はっはっはっと高笑いである。


(おばあ様流石だな、これが白銀級か。よし、僕も雰囲気にのまれない様に……)


キースは祖母を賞賛の目で見ながら、気持ちを落ち着かせ様と、大きく呼吸を繰り返した。

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