第202話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
イングリットとアルトゥール、デヘント、ライアルとマクリーン、それぞれの立場で授与式前夜を過ごしました。
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色々な事がはっきりしスッキリした翌朝、キースは8の鐘が鳴る頃目を覚ました。
目が覚めた時にまず行うのは『魔力操作』の練習である。魔力を動かし、指先や額、足先など身体の一点に集めたり、可能な限り薄くして広げたり狭めたりする。魔術学院に入ると最初に教えられる内容である為、今は一瞬で思った箇所に集められるし、どこまでも広げていけるのだが、長年行っている為やらないと何となく落ち着かない。
その後、シャワーを浴び身支度を整えて食堂に向かう。
(お昼は豪華だからな……程々にしておくか)
朝焼いたばかりのパン、野菜とベーコンの入ったスープ、焼いた腸詰やオムレツなど各種惣菜が、保温の魔導具に入れられ並んでいる。更には冷蔵の魔導具に入れられたフルーツやサラダもある。好きな物を好きなだけ取って食べる事ができるのだ。
内容は一般的だが、王都屈指の規模を誇る老舗宿屋だけあって、一品一品の質は高い。
こういったまともで美味しい朝食が、食堂に行けばすぐ食べられるのも大きな宿屋ならではだ。小さな宿屋では廃棄のロスとリスクを背負いきれない為、予約しないと食事は出ない。
食べ終わりお茶を飲んでいると、ライアルとマクリーン、アリステアとフラン、クライブらが連れ立って入ってきた。
皆はキースと挨拶を交わすとカウンターに行き、それぞれ好きなく物を持ってくる。
(お母さんはパンは無しにしたのか。お昼を見越しているのかな?)
そんな事を考えながら皆の食事風景を眺めていると、次にやってきたのはシリルとニバリだ。この2人は宿には泊まっていない。受付で食堂の料金だけ払い入ってきたのだろう。
ニバリは王都に実家があり両親と、シリルは薬師で薬屋を営む妹と2人で住んでいる為、出発が日の出前でもない限り、一緒の宿に泊まる事は無い。
「おはようキース」
「おはよう」
「おはようございます。2人とも昨日はいかがでした?ゆっくりできましたか?」
「寝るタイミングが掴めなかった。話す事が多すぎて」
そう言うシリルはまだ少し眠いのか、瞬きが少し多い。
「そうですよね。4年半ですものね。ニバリはいかがでした?」
「うちは普段から両親がずっと喋っている。相槌しかしていない」
「そ、そうなんですね。では、ご両親はお変わり無かったですか?」
(親が喋りっぱなしだからその反動でニバリは静かなのかな?)
「……白髪が増えていたな」
ポツリと言うとお茶を取りに席を立つ。
(やはり『4年半の遠征』という事実はそんな簡単に消化できる事では無いよな。無駄にならずに本当に良かった)
ニバリの背中を見つめながらそんな事を考える。
4年半あれば、その間に人生が変わる様な出来事が起きていてもおかしくない。あのままアーレルジ王国にダンジョンを確保されていたら、大きな成果無く国の端っこで過ごしただけだったのだ。キースは自分の想像にブルリと身体を震わせた。
□ □ □
「シリル、今日のマント、僕初めて見ると思うのですが、不思議な色合いですね?どんな品ですか?」
「ちょっと特別。性能はいつものより少し劣るけど、素材が特殊」
シリルが薄緑色のマントの裾を持ちヒラヒラと翻す。そうすると、光の当たり方なのか、一瞬虹色に煌めく瞬間があり非常に目を引く。
出身のエルフの里の周囲に生えている植物から採った繊維を、昔から里に伝わる特殊な加工方法で糸にし、それを使って編んだものだという。炎や冷気はもちろん、毒や酸の類にも耐性があるという。
『普段の物より劣る』と言いつつも、見た目も含めまさに今日という日に相応しい逸品だ。
「その点魔術師は簡単というかシンプルですよね。基本ローブですから」
ニバリと顔を見合わせ頷きあう。
中にはオリジナルのローブを用意する者もいるが、魔術学院卒業時に貰えるローブを着続ける者も多い。
着慣れているというのもあるが、単純に性能が良いのだ。魔法抵抗を高めた処理を施した糸と生地を用い、内側には物理、魔法両方に対する防御力を上げる魔法陣も入っている。さらに、最初に魔力登録をする為、使用者制限が掛かる。
その為、ローブよりもその上に着る外套でオリジナリティを出す場合が多い。
そんな事を話し合っていると、食事を終えた後、部屋に着替えに戻っていたマクリーンとフランが食堂に入ってきた。その姿に、食堂に居合わせた他の客共々目を見張る。
「うーん、やはり礼装の法衣は素晴らしいですね!荘厳さ、重厚感、生地の質、凝った刺繍、どれも桁違いです!本当に映えます!」
「そう?ありがとうキースちゃん」
その姿にキースが感嘆の声をあげると、2人は嬉しそうに微笑み、揃ってその場でクルリと一回転した。
基本のデザイン、白を基調とした色使い、柄の刺繍に用いるのは金色の糸、というところまでは各会派共通だ。それぞれの神を表す聖印の刺繍だけが、各神の貴色に合わせた糸で施されている。
マクリーンは戦の神エヴェネプールの赤、フランは海の神ウェイブルトの青だ。
たまたま食堂に居合わせた他の客も、煌びやかな装いに見惚れている。普段の法衣ならまだしも、礼装の法衣を目にする機会は、神殿での祭事に参加しない限りほぼ無い。宿屋の朝食を食べながら見られる機会など、もう二度と無いだろう。
そんなざわつく食堂に、一人の年配の男性が入ってきた。食事を終えお茶を飲むライアルのテーブルに向かっている様だ。
(えーと……誰だったか……そうだ、タデイだ!久々に見たな。元気そうだ)
その様子を横目で見ていたアリステアは、記憶の奥底から何とかその男性の名前を引っ張り出した。
「おはようございます親父さん。ご無沙汰しています」
タデイに気が付いたライアルが先に声を掛ける。
「よく戻ったなライアル。長いお務めご苦労さん。そして昇級おめでとう」
そう言いながら右手を出してくる。
「ありがとうございます。ですが、まだ確定ではありませんから」
さすがに苦笑いしながら握り返す。
「『銀級』がダンジョンを確保したんだぞ?金級に上げる以外に何があるというんだ?お前のおっ母さんだってそうだったろうが。そもそも『級』はギルドが決める事だろう?恐れ多くも陛下がお決めになる事じゃないってもんだ」
「それは確かにその通りですが……」
確かにタデイの言う通りだが、冒険者ギルドの監督官庁は国務省だ。それがたとえ銅級でも、ギルド側で誰彼構わず好きに任命して良い訳では無い。
能力と実績があり犯罪を犯している訳では無くとも、言動が危うい者、反社会的勢力と付き合いがある者、副業の商売でアコギな儲け方をしている者などは、認定される事は無いのだ。
キースがこの年齢で銅級に認定されたのも、主だった理由は『魔物暴走の鎮圧とその原因の排除及び、衛兵隊業務の円滑な運用に寄与した事』(長い)であるが、『魔術学院首席卒業』『国務長官や近衛騎士団長と知己である』『父ライアル、祖母アリステア』という点も大きく影響している。
(……面倒な話になってきた感じがするな)
不特定多数がいる場所で『国王や国の批判』と受け取られる様な会話はよろしく無い。伝言ゲームよろしく、周り回ってとんでもない内容で広まってしまう可能性がある。噂を広める人々は、内容の裏付けなど取らないし、内容が極端な方が喜ぶものだ。
二つ隣りのテーブルで、父とタデイのやり取りからそう感じたキースは、席を立ち近寄っていく。
「お父さんお知り合いの方ですか?ご挨拶させてください」
「あ、ああ。こちら『鷲亭』のオーナーのタデイさんだ。タデイさん、息子のキースです」
「初めまして!ライアルとマクリーンの息子、キースと申します。冒険者になってからずっと王都外に出ていたのでこちらは昨日が初めてだったのですが、さすが老舗は違うなと感服しておりました」
「それはどうもありがとう。あっという間に銅級になった『万人の才』の話はもちろん聞いておるよ。うちを選んでもらって光栄だ」
キースの言葉にタデイは顔を綻ばす。
と、そこに宿の従業員が近付いてきたが皆の手前で立ち止まった。タデイに用がある様だが、話し中なので待っているらしい。
「そうだお父さん、王城に行く前にちょっと確認してもらいたい資料がありまして、部屋までお願いできますか?ほら、先日言っていた件の」
「おお、もうできたのか?そうだな、ちょっと見ておきたいが……」
「おっと、こちらの事は気にせんで行ってきてくれ。どうやら儂も行かなきゃならん様だ」
「すいませんタデイさん。また今度ぜひお話聞かせてください。父や祖母の若い頃の話とか」
「ははっ!それは良い!その時はサービスするのでね、いつでもおいで」
「ありがとうございます。では失礼します」
ライアルとキースは連れ立って食堂を出て行った。
□ □ □
「お父さんでも、若い頃から知っている人は相手しづらいですか?」
部屋へ続く廊下を歩きながらキースが尋ねる。
「少しな……あの人はお母さんと同年代だけあって、俺には遠慮も無いし色々な事も知っている。正直、連れ出してくれて助かった」
ライアルは一息つきながら礼を言った。
「年配の方の接し方ってちょっとモヤモヤする事ありますよね。確かに、親の事も本人の事も若い頃から知っていれば気安いでしょう。ですが、そもそも、僕達はお客さんですからね。そこの線引きは必要だと思います」
そう言いながらキースは部屋の鍵を開け中に入った。ここまで来たがもちろん用事はでまかせの為、取り敢えず椅子に座る。
「それに、人目がある所でお父さんとああいったやり取りをすれば、商売にも繋がりますよね」
「『ライアルとも仲良いのか。さすが鷲亭のオーナーだな』みたいな感じか?」
「はい。『4年半振りに帰ってきて最初に選んだ宿屋はやはり鷲亭か!』とか。もちろん実際に久々ではありますけど、タデイさんはその辺も考えてますよ。さすが長年王都で商売しているだけの事はあります。油断なりません」
「あの人で6代目と言ってたか。初代は冒険者だったという話だがな」
「なるほど。財を成して引退後に宿屋を買い取った、みたいな感じかな?今度捕まったらその辺振ってみましょう……さて、そろそろ良いかな?お父さんはもう着替えますか?」
「そうだな。ここまで来てしまったしな。キースは食堂に戻るよな?お母さんにそう伝えておいてくれ」
「了解です!」
おどけて敬礼する息子に見送られ、ライアルは部屋を出て行った。
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