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第201話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


キースが不審に思った点の詳細を掘り下げて、今後について決めました。キースは魔導具を研究する約束を取り付けてホクホクです。アリステア達は「魔導具の事は、皆と離れる事になるかもと思うと言い出せなかった」というキースに、改めてキース全力推しを心に決めました。


□ □ □


「遂に明日でございますね、おじい様」


「……そうだのう。結構日があると思っていたが、あっという間じゃったわ」


夕食後の就寝までの一時、イングリットはアルトゥールの私室でお茶を飲んでいた。


この時間のお茶はハーブティーと決まっている。一口にハーブティーと言っても色々あるが、就寝前のリラックスタイムである為、心が休まり、良い睡眠がとれる効果があるという葉を選んでいる。


本人は『効いている……と思えば効いているかな?』といった程度にしか感じていないが、周りが気配りしてくれている結果なので、大人しく飲んでいる。


国の最高責任者の一人である彼女は常に忙しく、扱う案件も、国の行末を左右する重要なものばかりだ。気疲れもするし心も削れてくる。


よって、その日の疲れは、可能な限り翌日に持ち越さない様に努めている。でないと、解消し切れなかった分が積み上がっていき、いずれパンクしてしまう。


「……先生はどんな反応をされるでしょうね?喜んでいただけますでしょうか?」


「そうさな……ああいう性格じゃからの、貰ってくれるとは思うが。まあ、どちらにせよ驚くであろうな」


「はい。ですが、これまでの事を考えれば全く妥当なところです。むしろ足りないのでは?という気すらします」


「本当にのう。大したものよ……」


「おじい様……?どうかなさいました?お加減でも?」


イングリットはアルトゥールの様子がおかしい事に気が付いた。持病も無いし調子が悪い箇所も無い。年齢を考えると稀有な存在と言えるだろうが、そこはやはり95歳だ。ポックリ逝ってもおかしくは無い。『昨日まであんなに元気だったのに……』というやつだ。


「ああ、いや、大丈夫だ。ただな、人というのは満たされても満たされても満足する事が無い、欲の深い生き物だと思ってな」


「……どうされました?急に」


イングリットは不思議そうに首を傾げる。


「キースは私達に、ダンジョン、様々な魔法陣、『呪文』と多くをもたらしてくれた。いずれも、どれか一つでも大変なモノだ。挙句の果てには土木工事や指導官役まで請け負ってくれた。だがの、これだけ享受しておきながら、儂は彼奴にまだ望んでしまっている。我ながらなんと卑しい、さもしい事だと思ってな」


「おじい様……」


イングリットもアルトゥールが言外に何を指しているのかに気が付いた。


一部の提供物には金を払っているとはいえ、先に挙げたモノに加え『イングリットの王配』という立場まで求めている。アルトゥールはそんな自分に嫌気がさしたのであろう。


「……一つを得ればまた次の一つが欲しくなるものでございます。人が人である限り、その果てはないのでしょう。ある意味、人として正しい在り方なのではありませんか?」


「ほっ!大したものよ。我が自慢の孫はこんなジジイよりよほど世の中の真理に近い様だ」


「そんな高尚な事ではございません。貰えるモノは何でも貰うという、自分の浅ましさを肯定しているだけです。ただ……」


そこで一度言葉を切ると、イングリットは少し寂しそうに笑って、温くなったお茶を一口飲む。スッキリとした香りの液体が喉を流れて行った。


「『得る事が叶うのであれば、他のモノは全て得られなくとも良い、と願うモノ程手に入らない』という事に気付かされました」


「ふむ……『無くても諦めがつくモノ』が100や1000あろうとも、『絶対に欲しいモノ』には及ばぬだろうからな」


「はい。それを踏まえまして、これからも引き続き、決して諦めずに求めていきたいと思います」


「うむ。儂の無い頭ではそれしか思い付かぬ。他に何か妙案があれば良いのだが……」


「そちらも引き続き考えてまいりましょう。ハンナ達も考えてくれていますし、きっと良い案が見つかります」


イングリットは努めて明るく言ったが、具体的に何がある訳でも無い。今のところできる事は『キースの心変わりを待つ』だけだ。


イングリットはカップに残った一口分のお茶を飲み干すと、席を立った。


「では今日はもう休みますね。万一にも眠そうな顔をする訳にもいきませんから。といっても、間違いなく眠くなる様な授与式にはなりませんけど」


「ふふ、途中で眠くなったとしても眠気など吹き飛ぶだろうて。では儂も休むとしよう。おやすみイーリー」


「はい、おやすみなさいませ」


イングリットはアルトゥールに歩み寄り、背中に手を回し一度軽く抱きしめると、自分の部屋へと戻って行った。


□ □ □


デヘントは王都の居酒屋で1人酒を飲んでいた。


居酒屋といっても、繁華街にある様な雑多な客がいり混じる店ではない。立地は貴族街に近い高級住宅街、店内は全体的に薄暗く、静かで落ち着いた雰囲気だ。客は基本少ない。居ても声高に話をする者はいない。酒を飲んで騒ぎたい者が来る店では無いのだ。


皆でとひとしきり飲んだ後、仲間達は繁華街の奥に消えていった。いかがわしさが上がれば上がる程、店の立地は奥になる。一緒に行く事もあるが、今日は何だか静かに過ごしたい気分だった。


カウンターの中では、バーテンダーがグラスを拭いている。


前回店に来たのは遠征出発3日前だったが、その時もこのバーテンは、カウンターの中でグラスを拭いていた。というか、デヘントはこのバーテン以外の店員を見た事が無い。いつ来ても、この男性がカウンターの中にいるのだ。最初は興味深く思ったが、いつしか居るのが当たり前になってしまい、興味を持たなくなった。


(俺達が『銀級』とはね……まさかこんな日が来るとは)


グラスの中身を啜る様に飲むと、強い酒精を含んだ液体が、胃へと落ちていき熱くする。


デヘント達のパーティ、というかデヘントは地味だ。


まずその見た目からして特徴が無い。少し小柄で茶髪、目鼻立ちも不細工ではないが男前という程でも無い。


冒険者としても地味だ。特性も実用的だが派手さは無い。戦う時も、正面切って戦うのではなく、影に潜み気づかれないうちにズドン、というタイプである。


彼らのウリは、情報の収集と操作、相手の不意や後方を突いての撹乱だ。時には、そのまま標的の命も奪う。


そういった面から彼らは『評価が難しいパーティ』であった。デヘント自身、よく銅級に上がったものだと、何度思ったか知れない。


それが、『ダンジョン確保』という、冒険者としては最高クラスの成果をあげた。正直、思ってもみなかった事態である。


(まあ、別に級を上げたくて仕事をしている訳じゃ無けが……)


それでも、他人から評価されたり、大きな結果を残せばれば嬉しくなるのが人間だ。少しヒネたところのあるこの男でも、さすがに嬉しくは思っている。


(さて……これからどうするかな)


明日の授与式と、約2週間後の祝賀会が終わった後の事だ。


(もう少しゆっくりするのも良いが、ただダラダラしていてもな。何かしらの話が入ってくるかな?)


デヘント達と同じ様な方向性で活動しているパーティもいるが、エストリアで一番なのは間違いなく彼らだ。居なければ仕方ないがいるなら頼みたい、という依頼先は多いだろう。


(ま、声が掛かったら考えりゃ良いか。こんな事は早々無ぇ。それまではゆっくりしよう)


デヘントは手振りでバーテンにお代わりを注文し、大きく息を吐きながら背もたれに寄りかかった。


□ □ □


「やれやれ、大騒ぎだったな」


「本当に……でも、最終的にはめでたしめでたしで良かったですね」


「まあな。それにもう気を遣う必要も無い。それが一番助かる」


ライアルは大きく息を吐いた。


やかましい母親と息子達が部屋から出ていった後、寝る準備を整えベッドに入ったところだ。横になって身体の力を意識して抜く。


「最初からちゃんと話をしておけば良かったんだよな。そうすればなんて言う事も無かっただろうに……」


仲間内で隠し事があると、どうしてもそちらにばかり気がいってしまい、落ち着かないのだ。


「でも、お義母さんの気持ちは解るわ。嫌がられたり嫌われたりしたくないもの」


「まあ…………な」


そもそも、母親にキースを預け遠征に出ていたのは自分達である。予定外の長期間にはなったが、原因はそこにあると言われてもおかしくない。


「それにしても、全く話が噛み合わなくて。思わず笑っちゃいました」


「『中身がおばあ様?大事なのはそこじゃない』という感じだったものな。別に怒ったりはしていないとは思っていたが、あそこまでブレないのもさすがだ」


「お義母さん達誰も反応できませんでしたものね。キャロルをあの状態にできるのは、キースちゃんぐらいじゃないかな」


神官として修行を積んだだけでなく、特性も出ているフラン(キャロル)は、いつだって冷静沈着だ。それを呆然とさせるのは、想像の埒外の事でないと無理だろう。


「本当に、あっという間に銀級になってしまったな。金級も時間の問題なんじゃないか?」


「自分で色々な魔法陣を作れるというのが大きいのよね。『あったら良いな』というものを作れば、皆欲しがりますし」


鑑賞用の魔法陣、『転写』『反発』、そして『転移』と、どれも非常に使い勝手が良く、一度使ったら手放せないものばかりだ。


「こっちはそういうの無いからな。自分にできる事をコツコツとやって行くしかない。……これからもよろしくな」


「うふふ、もちろん。あの子とお義母さん達に負けない様に、皆で頑張りましょうね」


毛布の下で、マクリーンはライアルの手をそっと取った。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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