第200話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
激レアな魔導具について知りたいキース、なぜ魔導具の中の人達がアリステアらだと判ったのかが知りたい他の人達、お互いに意思の疎通ができません。ライアルが一つ一つ確認しました。結果、引き続き4人で活動してゆく事になりました。
□ □ □
「それでですねお父さん!今後の予定なのですが……授与式の後、魔術学院や近衛騎士団での『呪文』の指導が始まる前に、2、3日余裕がありまして」
キースが口元をニマニマさせている。魔導具の事を考えると、自然と笑みが浮かんできてしまうのだろう。抑えようとしている様だが、全く抑えられていない。
「ちょっとカルージュの家に行ってきたいと思うのですが……」
「ほう?それはまたどうしてだ?」
「屋敷の空気の入れ替えや掃除をした方が良いのではないかと。人が住んでいないと家は荒れると言いますし。あと、魔法陣や結界の状態も確認したいです」
ライアルはキースの表情を、具体的にはそのニマニマした口元を見ていた。
(もっともらしい事を言っているが、ただ単に魔導具をいじり倒したいだけだろ)
ライアルは目を閉じ腕を組んで考える。
(突っぱねるのも簡単だが、ここで一度魔導具に触らせて、ガス抜きをさせた方が良いのか?気になって他が疎かになっても困る。このニマニマ顔も治りそうだが……)
そう思いながら母親らの方をチラリと見ると、彼女らは小さく頷いた。
(……本人達が良いというのであれば任せるか)
「よし、分かった。実際に行く前に連絡をしてくれ。皆もいるから大丈夫だとは思うが、帰る時間を常に意識する事!良いな!」
「はい!ありがとうございます!」
元気よく手を挙げて返事をする。
「そろそろ終わろうと思いますが、今のうちに訊いておきたい事がある人はいますか?」
「あ、そうですおばあ様。この魔導具って、セクレタリアス王国の遺跡で見つけたのですよね?」
「ええ、そうよ。憶えているかしら?神像の仕掛けを動かしたら床に穴が空いて……という話。その時に見つけたの」
「ああ、神像が全部自分の方を向いて笑っていたという話ですね?そうか、やはり遺跡か……一度そこにも確認に行きたいですね。落ち着いたらお付き合いお願いします」
「分かったわ」
散々探し尽くされた遺跡だが、北国境の城塞跡の様に、部屋ごと魔法陣で隠してある可能性もある。作成者がエレジーアの弟子、又はその系統から続いているのであれば、同じ様に隠されている部屋があるかもしれない。
「キース、私の啓示とサンドイッチのソースについても疑問に思っていたみたいだけど、詳しく教えてちょうだい」
「はい、ええとですね、啓示については『北西国境のダンジョン』の食堂にいた時、別のテーブルにいた神官の方達の会話が聞こえてきました。それぞれ別の会派の神官だった様なのですが、その会話の中に『ウェイブルト様の啓示を授かったのはこの150年間で1人だけで』という言葉がありました」
「……それはダメね。フランの存在がおかしな事になるものね」
フランは溜息を吐いた。
「そうなんです。下げていた聖印からして海の神様の神官ではなかったので、フランの事を知らないだけなのでは?と思ったのですが、会派が違っても『啓示を受けた人が現れた』というのは大変な出来事ですよね?それを知らないというのもなぁ……と少し引っかかっていました。サンドイッチのソース、というのはアレです。いつも作ってくれるやつの事です」
キースがエレジーアの部屋に行く時など、昼食用として持たせてくれる事が多いサンドイッチ。野菜やハムをそのソースで和えたものが具材として挟まっている。
「僕はあのソースが大好きなのですが、フランが作るソースとキャロルが作るソース、なぜ味が全く同じなんだろう?と思っていたんですよね」
「私もあれは好きだが……同じレシピで作れば同じ味になるのではないのか?基本的に幾つかの調味料を決まった分量で混ぜるだけだと聞いているぞ?」
アリステアの言葉にクライブも頷く。
「僕もそう思っていました。でも作り手の好みによって僅かな差はあるとは思うのですよ。僕にはそれが全く感じられなくて。それ以外にもちょっと腑に落ちない事がありまして……」
キースがその時の事を思い出しながら説明する。
「『北西国境のダンジョン』の敷地内で、共同神殿の準備に来ているリエットさんに会った時の事なのですけどね。リエットさんが『野菜がたくさんあるから持っていって欲しい』と仰るので、一緒に共同神殿に向かいました。その時に、野菜の調理法でどれが好きか、という話になったんです」
キースが一度立ち上がり座り直した。魔術学院卒業者のローブの裾がゆるゆると波打つ。
「そこで僕は、先程挙げたサンドイッチが好きだと答えました。リエットさんも、僕がどのソースの事を言っているのかすぐに分かった様で、あれは美味しい、私も好きだと仰ってました。でも、その後にこう言ったんです。『こちらにいる間に作り方を教えてもらわないと』って」
先程からキースはフランをじっと見つめている。
「キャロルとフランは歳も離れていますし、所属していた神殿も違いますよね?でも全く同じ味のソースを作る事ができる。なので僕は、『海の神様の神殿に広く伝わっている一般的なレシピ』だと思っていました。ですが、リエットさんは作り方を知らない。これはどういう事だろう?と思っていたのですが、あれはそもそもキャロルのレシピで、2人が同一人物だから味も同じだったんだと。やっとスッキリしました」
「……まさかソースの味が不審感を与えるなんて。でも、私が作ったものを気に入ってくれてありがとうね」
フランは嬉しそうに微笑む。
「キ、キース、私には何か無いのか?」
そう言うクライブの表情は何故か残念そうである。アリステアやフランの話ばかりで、仲間外れな気分になった様だ。
(この場合何も無いのはむしろ良い事だと思うが……人の気持ちというのは難しいな)
ライアルは、何かあったかな?と首を捻る息子を見ながら考える。
「え、えーっとですね……あっ!そうだ!管理事務所の植え込みの手入れをしている姿が、ヒギンズそっくりだなってちょっと思った様な気がします!道具を扱う手つきとか!後ろ姿とか!多分!」
カルージュの家の庭は、季節ごとに色とりどりの花を咲かせ見る者の目を楽しませてくれるが、フランがたまに手伝う以外は、基本的にはヒギンズが管理を行っている。
「そ、そうか!いやーさすがキースだな!そんな細かいところにまで注目しているとは!私もまだまだだな!」
クライブの嬉しそうな様子に、皆もほっとする。
「だけどキースちゃん、仲間になった人達の身体が魔導具だって気付いていたのに、よく我慢できたわね?色々訊きたかったのではないの?」
「ほんとですよお母さん!こんな魔導具、存在の噂すら聞いた事無いですからね!国宝級のお宝が目の前にあるのに無期限でお預けなんて、まるで拷問ですよ!拷問された事無いけど。でも、僕は『この3人とであれば冒険者として活動して良い』と言われていましたから。組んだばかりなのに『何で魔導具の身体なんですか?仕組みを研究させてください!』なんて言って、パーティ解散なんていうのは非常にまずい訳で。でも、ほんとよく辛抱したなと。自分で自分を褒めてあげたいですよ」
大きく息を吐き、すっかり冷めてしまったお茶を一口飲む。
「あと、僕は常に<探査>を発動しているじゃないですか? 人が多い街中などでは、人間や亜人間、動物あたりの反応はあまり意識しない様にしているのですが、魔導具の反応となると流石に無視できません。なので、最初の頃は、別行動する度に『んっ!?ああ、皆か……」となってました。姿が見えているなら気にしないのですけど」
「そう……そういう苦労もあるのね」
「でも、中の人がおばあ様達で良かった。もう遠慮する必要は無いですものね。今まで以上に、色々とお付き合いよろしくお願いします」
3人を見ながらうふふと笑う。
(これはヤバいやつよね……でも、可愛いから仕方が無いか)
「ええ、良いですとも。幾らでも付き合いましょう」
アリステアが頷く。
「キースがこの魔導具を研究すれば、いつか自分達で作れる様になるかもしれないものね。頑張ってね」
「はい!そういう日が来る様に頑張ります!」
キースは胸の前で両拳を握り力を込めた。
□ □ □
「では、これで終わろうか。あ、最後に一つ。その身体である間は、態度、言葉遣いは全てこれ迄通りで良いですね?」
「ええそうね。崩すのは、部屋の中で、正体を知っている者以外いない、という状況ぐらいかしら?」
「承知しました。ではこちらもそれでいきます。正体がバレた事は、シリルとニバリ、デヘントには伝えておきますので」
「分かったわ。よろしくね」
お互いに就寝の挨拶を交わし、ライアルとマクリーンの部屋を出たが、アリステアはフランとクライブと共に彼らの部屋に入って行った。思い思いにベッドや椅子に座る。
「良かったですね、怒ってなくて」
「本当よ!というか、全く気にして無かったわね」
「間違いなく、『おばあ様達でラッキー』としか思考えていないですな、あれは」
「まあ、そのブレなさっぷりもあの子らしいと言えばその通りだけど……」
何手も先まで見通し、裏の裏まで考えを巡らす事もできるのに、自分の好きな事にはどこまでも真っ直ぐだ。
「ふふ、でも、私達と一緒にいたかったから魔導具の事を訊けなかったなんて……」
「私達からするとそんな事気にしなくてもと思いますが、正直、確かに訊きづらいですよね」
「よほど私達と離れたく無い様ですな!可愛いにも程があります!」
アリステアとフランも頷く。
「私達はこれまで同様、いえ、これまで以上に、キースの為に力を尽くします。キャロル、ヒギンズ、頑張っていきましょう!」
「「はいっ!全てはキースの為に!」」
「ええ!全てはキースの為に!」
夜も遅いので小声だが、3人の心はより一層一つの目的に向けて強固なものとなった。
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