第199話
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書き上がり次第随時更新となります。
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【前回まで】
食事の最後にログリッチによるお茶とデザートを堪能し『フローリア』での食事を終えた一行は、馬車で宿に戻ります。その道中で『なぜキースに正体がバレたのか』(ライアルに言わせれば『なぜ今までバレなかったのか』)を話し合い。アリステアはキースにパーティ解散を告げられるでは?と怯えています。
□ □ □
アリステアの言葉に、フランとクライブの表情も固くなる。彼らもキースと行動を共にする事は、楽しくて仕方がないのだ。人を疑うという事をほとんどしないキースが、自分達が知らない冒険者とパーティを組む事になるのも、非常に心配である。
「……可能性はゼロでは無いでしょうが、それは無いと思いますよ」
「な、何でそう思うの?」
アリステアがライアルに詰め寄る。表情、口調、言葉遣い、態度、全てに不安と恐怖が現れている。
「お義母さん、私も大丈夫だと思います。そもそも、あの子は怒ってはいないかと。怒っているなら、あんな回りくどい事をしてないで、いきなりガツンとやってると思うのです」
マクリーンの言葉にライアルは頷き、3人は考え込む。
(『昼の時点で気付いていた』という私の見立てが正しければ、皆が王都に転移する前に時間を作ろうと思えばできたはずよね。祝賀会に出店する関係者と調整をした後の帰り道とか。にもかかわらず、夜まで引っ張ってわざわざ皆が集まっている状況で、会話の中で不意を突いて指摘してきた。本気で怒っているなら確かにおかしい)
「なので、そんなに心配する事はありませんよ。もちろん、なぜこうなったかを説明した方が良いとは思いますが」
「それに、そもそもの原因は、キースちゃんの家出ですからね。ちゃんと許可を取れば何の問題も無かったのに、無理に出発したのはあの子です。こちらが強気に出るぐらいでも良いかと」
「そうかしら……なら良いのだけど……」
息子と嫁にそう言われても、アリステアはまだ不安気である。おそらく、この話が終わるその瞬間まで不安なままだろう。
(むしろ、問題はそこじゃ無い。果たして対応しきれるか……はぁ)
ライアルは、キースが『自分の仲間の中身がおばあ様達』と知ってしまった事で発生する、別の懸念の方へ思考を向け、そしてげんなりした。
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様々な思惑と感情を乗せた馬車は、何事も無く『鷲亭』の馬車寄せに到着した。
「皆さん、着替えとか一息入れたら、僕の部屋に集まっていただけますか?先程の話の続きをしなければいけませんので。僕は馬車を預けてから戻ります」
馬車から降りた皆の背中に声が掛かる。カルージュの3人はビクリと身体を震わせた。
「ああ、分かった。では先に戻ってる。だが、お前の部屋では狭いのではないか?椅子も足りないだろうから俺達の部屋にしよう」
「そうですね!ではそれで!」
ライアルが返事をし、一部の人達は足取りも重く、それぞれの部屋に向かった。
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キースが扉をノックして両親の部屋に入って行くと、リビングに全員揃っており、フランがお茶を淹れて配っていた。
「お待たせしました!早速始めましょう!では、まず説明をお願いします!」
そう言うと、並んで座っているカルージュ3人組を見る。
その顔はこれ以上無いくらいの笑顔で、頬は興奮に染まり緑の瞳もキラッキラだ。鼻息も荒い。
(確かに怒っている様には見えないけど……え、せ、説明?何を説明すれば良いの?)
アリステア達は戸惑い、お互いに顔を見合わせる。
その様子を見て焦れたキースが声を大きくする。
「ですから!!その魔導具についての説明を!!半日、いえ初めて会った時からだから半年以上我慢していたのですよ!?早く教えてください!!」
話が自分達の予想と余りにもかけ離れた方へ進んだ事で、アリステア達は完全に思考停止してしまった。
それはそうである。
彼女達は、自分達が付いて来ている事を怒られると考えていたのだから。しかし、目の前の孫はそんな事はおくびにも出さずに『魔導具の説明をしろ!』と興奮しているのだ。
(やはりこうなったか……そんな気はしていたんだ)
ライアルはお茶を一口飲んで溜息を吐いた。
「あ、あー、キース。ちょっと落ち着こう。な?」
「ですがお父さん!こんなお宝を前にして落ち着いてなんていられません!国中、いや周辺国中探したってこれしか無いかもしれないのに!」
エストリア王国は、セクレタリアス王国の版図の北東に興った。領土としてはだいたい6等分の1である。残りの6分の5のどこかにはあるかもしれないが、それを探し終わる頃にはどれ程の年月が経っているか、分かったものでは無い。
(……こういうのは余りしたくないのだが仕方がない)
「いいから。夜も遅いんだ。静かにしなさい」
そう言いながら、キースに視線と意識を向けて『威圧』を放つ。
その瞬間、キースの目の前に薄青い魔法陣が煌めきいた。光は球形にキースを覆い、ライアルの『威圧』を吸収し霧散させる。
『威圧』に対して、結界のお守りが自動発動したのだ。どうやら『魔法による攻撃』と判定されたらしい。物理ダメージは無く、精神(心)に圧をかける事で相手の心を萎えさせるのが『威圧』だが、意識だけで魔力も込めていないのに、恐るべき事である。
宿の部屋内で行われるには余りにも場違いなやり取りだったが、それを目にした事で、アリステアらも立ち直った様だった。
「し、失礼しましたお父さん。もう大丈夫です」
「よし。では話を整理するぞ。まずお前が一番気になっている事は、この魔導具の仕組みだな?」
「はい。そうです」
「よし。で、この魔導具は『人の意識と記憶と特性を移し活動できるもの』だという事だが、この3人の身体が魔導具である事を知ったのは何時だ?先程『ずっと我慢していた』という様な事も言っていたが」
「はい、王都の冒険者ギルドで初めて会った時です」
(初めから知ってたのか!?)
皆のその思いが表情に出たが、それを見たキースも意外そうな表情になった。
「え、だって、<探査>で判りますから」
と、あっさり答えた。
<探査>の魔法は、周囲の魔力を感じ取る魔法だが、人間、エルフやドワーフなどの亜人間、動物、魔物、魔導具と、感知した際の反応が違う。魔術師にとっては基本中の基本である。
「そ、そうか。それは分かった。では、この魔導具の中の人が誰かも知っているんだな?」
「はい。『フローリア』でもちょっと言いましたが、おばあ様、キャロル、ヒギンズです」
そう言いながら順番に手のひらで指し示す。その答えに3人は天を仰ぐ。
「よし。それをお前はいつ知った?」
「今日の昼前、エレジーアさんの部屋に行った時に。知ったというか、彼女と話をした時に気が付きました」
(エレジーア!何か余計な事を言ったのか?)
「ではその時のやり取りを説明しなさい」
「はい。最初に『仲間達が魔導具に意識を移している理由は聞いたのか?』と言われました」
ライアルは無言で頷いて先を促す。
「僕は『中身がどうであろうとあの人達はあの人達だから良い』と答えました。するとエレジーアは『それは正体を隠しているのだから、お前さんを欺いてる事になるのでは?』と言いました」
(くそっ!エレジーアめ!もっともな事ばかり言って!)
「一度は『気にしない』的に応じましたが、正直なところ、僕は、正体を尋ねる事で今の関係が壊れてしまう事を怖がっていました。僕はアーティ、フラン、クライブと、ずっと一緒に行動したいと考えていますから」
横目でチラリと3人に視線を送り、笑顔を見せる。
「いくらエストリアの冒険者は後輩の育成をするのが当然といっても、これだけの人達が、自分から望んで新米の僕と一緒にいてくれている訳です」
キースは一旦言葉を切りお茶で口を湿らし、一度深呼吸をして息を整えた。
「皆はいつだって僕の事が最優先ですし、とんでもない事を言い出しても『分かった。ではどうする?』と言って嫌な顔一つせずに手伝ってくれました。こんなに僕の事を大事にしてくれる人達なんて、他にいるとも思えません。本当にいつも不思議に思っていました。で、エレジーアさんに改めて言われて気付いたんです。『こんなに良くしてくれるなんて、まるでおばあ様とキャロルとヒギンズじゃないか』って」
カルージュの3人をじっと見つめる。
「そう思った瞬間、全てが繋がってかっちりハマった感じがしました。そうすると、色々な事に疑問が湧いてきたんです。アーティとおばあ様の特性が4つ全て同じ事、フランが授かった海の神様の啓示、キャロルとフランの作るサンドイッチのソースの味が、全く同じである事、そんなフランの夫であれば、それは即ちヒギンズである事……どうして僕は今まで気が付かなかったのでしょうね?自分でも呆れます」
笑顔ではあるが、両手を広げ『やれやれ』といった感じだ。
「それでキース、3人が正体を黙っていた事を怒っているか?」
「えっ?全ての原因は僕の家出にあるのですから、僕が怒って良い理由は無いと思いますが……そもそも怒る事でも無いですし。というか、これは僕が怒られる話ですよね?」
そう言うとキースは「心配と迷惑掛けてすいませんでした」と3人に向けて謝った。
「では、パーティを解散する事も無いな?」
「もちろんです!先程も言いましたけど、僕はずっと4人でやっていきたかったから、中の人の事に触れられずにきたんです。ただでさえ冒険者として最高の仲間なのに、それが実はおばあ様達だったなんて!これ以上の話はありません!いいですか皆さん!『そろそろカルージュに帰りたい』と言っても、僕が満足するまでは帰しませんからね?」
人差し指を立て、3人の前で『ふふん』と笑うキースに対して、アリステア達も笑顔で涙を流しながら頷いた。
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