第19話
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ある日、アリステアが遺跡の探索から帰ってくると、カウンターの中に見たことのない男性職員がいた。
様子を見ていると、やはり新人のようだ。
妙に気になり、チラチラと見ながら「鑑定」の窓口へ向かう。
「アーティさん、新しく入った鑑定士に説明をしながらでも良いですか?少し余計に時間がかかってしまうのですが・・・」
窓口の椅子に座ると、担当の女性鑑定士が申し訳なさそうに言う。
「うん・・・いいよ・・・」
「ありがとうございます。助かります。アーサーさーん、実際に鑑定しながら説明しますのでこちらに来てください」
彼はアーサーというらしい。女性鑑定士の席の後ろに立つ。
「こちらはアリステアさん、アーティさんって言った方が分かるかな? あの白銀級冒険者のアーティさんですよ」
「白銀級というのは金級の上のクラスですか?金級より上のクラスがあるとは知りませんでした。アーサーと申します。アリステアさん、よろしくお願いします」
周囲にいた職員、冒険者の「え?」という視線がアーサーに向く。
(王都で暮らしていて、しかも冒険者ギルドに就職しようっていうやつが、アーティの存在を知らない?大丈夫か?)
このやり取りを聞いていた者は皆思った。
「・・・よろしく」
アリステアも一瞬反応できなかった。
が、この反応はとても新鮮だった。白銀級冒険者になって以来、自分は知らないのに相手はこちらを知っているという状況に、少々うんざりしていたのだ。
久々に
(この人どんな人なんだろう・・・?)
と他人に興味を持った。
「で、では、始めますね。アーティさんよろしくお願いします」
「あ、うん、今日はこれ・・・」
アーティは小袋から今回見つけてきた品物を出す。
護身用のブローチ型魔道具だ。発動させると結界を張る。
身に付けるタイプの為、邪魔にならない護身用具として貴族や大店の夫人などに需要がある。
美術品としての価値もある為、結構な買取金額になるはずだ。
しかし、アーティはそれどころではなくなっていた。アーサーの顔から目が離せないのだ。何やらドキドキして息苦しい気がする。
その後の事は記憶がない。気が付いたときには翌日の朝、部屋のベッドの上だった。
ちゃんと「買取」の窓口で買取金も貰ってきている。いつ部屋に帰ったのかもわからない。着替えすらしていない。夕食も食べた記憶がない。
(なんだろうこれは・・・どういう事なんだ・・・)
昨日のアーサーという男性の顔ばかりが思い浮かぶ。
目は覚めたが頭がうまく働かない感じだ。
シャワーを浴びようとか、朝食を食べようとか、何かしようという気にならない。
(私は・・・どうなってしまったのだろう・・・)
アリステアは、自分の急激な心の変化に意識の方が追いつかなくなっていた。
あれから2日間程、人間として最低限の生命維持活動(食べる・寝る・ボーッとする)をして過ごし、何とか心の調整ができた。
そして自覚した。
(どうやらこれは・・・一目惚れというやつかもしれない)
しかし、アリステアは「彼氏いない歴=年齢」の喪女である。
男女の色々は話しだけは聞いた事はあるが、実戦経験は無い。完全な新兵である。
(こういった時は、一緒に食事や買い物に行ったりするっていうけど・・・まずどうやって誘えばいいの・・・恥ずかし過ぎるでしょ・・・)
王国唯一の白銀級冒険者は途方に暮れた。
それからのアリステアは、今まで以上に猛烈な勢いで遺跡の探索をするようになった。
アーサーは鑑定士である為、基本「鑑定」の窓口にいる。
ということは、とりあえず何かしら持ち帰って窓口へ持っていけば、自然と顔を合わせ会話をすることができるのだ。
顔を合わせる事自体を増やせば、事態も進みやすくなるのではないだろうか?
周りに奇異な目で見られることもないだろう。
自分がこういった事に非常に疎いのは自覚している。できる事から実践し距離を縮めていくしかない。
しかし、「あの白銀級冒険者アリステアが、ギルドの新人鑑定士に惚れている様だ」という話はあっという間に広まった。
本人の行動で丸わかりだったのである。
①アーサーが休みの日はギルドに姿すら見せない。
②鑑定窓口は、品物の確認にどうしても時間がかかる為、窓口は最大で3箇所ある。
常に鑑定士が付いているのが1箇所、混雑時間帯に様子を見ながら増やして対応する。
しかしアリステアはアーサーの所にしか行かない。他が空いていてもアーサーの窓口に並ぶ。
他の鑑定士達も、最初のうちは「こちらもどうぞ」と声をかけていたが、アリステアは何やらゴニョゴニョと言って動こうとしない。皆すぐに察した為、誰も何も言わなくなった。
③そして、いざ彼の前に座ると顔を真っ赤にし、聞き取れるかどうかという小さい声で、「これ・・・」「ありがと・・・」としか言わない。というか言えない。声もそれ以上出ない。
こんなの誰だって気が付く。
「自然なやり取り」と思っているのは、本人だけである。
だがアーサーもアーサーで酷かった。
顔真っ赤で小声のアリステアしか見たことがないため、これが彼女の普通の状態だと思っていた。
(いつも色々なお宝を持って帰ってくるけど、随分恥ずかしがり屋さんなんだな)
と思っていたらしい。こちらもなかなかにポンコツである。
そんな状態が1年(!)続き、あまりの焦れったさに、周囲の人々のイラつきも最高潮に達しようとしていた頃、それは起きた。
起きてしまった。
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