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第198話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


ちょっと試食しただけなのに、自分達より良いものを選び出すログリッチに、ネリーとカレンは言葉もありません。店に戻ってきて欲しい気持ちを抱きつつも、先輩料理人のミネアに『それじゃ追いつけない』と指摘され、引き続き2人で頑張っていく事を誓いました。


□ □ □


ログリッチのお茶とデザートを堪能したフランは、静かに、だが大きく息を吐いた。


(淹れだした瞬間からお茶の香りが部屋を満たし、口に含めば旨味に溢れ程よい渋味が喉を滑り落ちる。嫌な雑味も全く無い。以前お店で飲んだ時より明らかに美味しく、全てが上回っていた。デザートも、お茶と互いに高めあっていてとても良かった。1人でお店をやりながら、どれだけ研究しているというの……)


普段、皆が飲むお茶を担当する身としては、美味しいお茶を飲む機会=真剣勝負である。自分と何が違うのかを見い出し、後で試す事でクオリティを上げてゆくのだ。だが、この相手は強敵だった。一度飲んだだけで全てを見いだせているとは、とても思えなかった。


(コロブレッリ産の茶葉だと思うけど、どの種類とも味が少し違うのよね。お菓子により合う様に自分でブレンドしてる?ちょっと特定できないわ。授与式が終わったらお茶屋さんに行ってみようかしら)


仲間達の顔を横目で覗く。誰もが、緩い、とろけそうな表情をしている。お茶とデザートを堪能し、満足しきった顔だ。


(……私では、同じデザート、同じ茶葉を用意してもあそこまでの顔にはできない。でも、私だって諦めませんからね!もっともっと腕を磨いて、あんな顔をさせてみせる!……それにしてもこのクッキー、ほんと美味しいわ。お代わり貰えないかしら)


本業は神官とも思えない事を心に決めたフランは、皿に残った最後の一枚のクッキーを手に取ると、図々しいおばちゃんの様な事を考えながら口に入れた。


□ □ □


「ご馳走様でした!料理も美味しかったけど、お茶とデザートも負けず劣らず美味しかった!流石ログリッチさんです!」


「ありがとうございます。明日は授与式の後に昼食会があるのですよね?流石にそれには及びませんが、ご満足いただけた様で何よりです」


「いや、料理はまだしも、お茶とデザートは超えているかもしれませんよ。それぐらい美味しかったです」


そう言うと、ライアルはカップ手に取る。その言葉にマクリーンも頷く。


彼らは、遠征に出る前の壮行会に出席した際に、昼食会で王城で食事をした経験がある。それ以外にも、数え切れない程高位貴族と食事を共にしてきた。それを踏まえての言葉だ。


「食事はな……王城の料理は、王族が食べる訳だからな。お店の様に利益を出す事を考えていないから、とにかく質の高い食材を使える。しかも授与式の後の昼食会とくれば、そこに見栄と面子も乗ってくるからな、尚更だろう」


「少し前にお昼をいただいたのですが、とても美味しかったです。今思えば、普段の食事からあのレベルというのはさすがだなと。まあ、今アーティも言いましたが、殿下も食べる食事ですから、当たり前と言えば当たり前ですが……」


アリステアの言葉にキースが続く。


(殿下と一緒に昼食という時点でアレなのだが、そこはもういいか。結婚を申し込まれる事に比べれば、そこまで大した事じゃない)


ライアルはお茶を一口飲みカップを置く。


ライアルは、イングリットからの申し込みについては、深く考えない様にしている。アルトゥール王からも『キースが決めて良い』と言われている事もあるし、息子の人生の行く末だ。助言を求められれば答えるが、最終的には本人が決めるべきだと思っている。


(そもそも、王配になった方が良いか?なんて訊かれてまともな返事が返せるとも思えん)


「さて、では皆さん、帰りますか!あまり遅くまで起きていても明日に障ります」


そう言いながらキースが席を立つと、皆も続いて立ち上がる。


そう、本題は料理長が入ってきた事により宙ぶらりんになり、まだ全く進んでいないのだ。このままの状態で授与式に臨む訳にはいかないし、そもそもとても寝られない。


馬車寄せに移動し、回してもらった馬車に乗り込む。見送りには、ログリッチはもちろん、料理長であるセレンセン、ロメン、既に片付けを終え、手の空いていたミネアとカレンも来た。


「それでは皆さん、今日はありがとうございました。必ずまたお邪魔しますので、その時はよろしくお願いします」


馭者台に座ったキースが挨拶をする。


「こちらこそありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」


「キースさん、私の店にもぜひまた寄ってくださいね」


「はい、ログリッチさん、必ず!それでは失礼します」


キースは、馬の頭絡に付けられた『照明の魔導具』を起動させると、馬に合図を入れ馬車を進ませた。


□ □ □


「ほんとに?全然気が付かなったわ……」


馬車の箱の中では、アリステアが小声で嘆いていた。


『さすがですねおばあ様!』と声を掛けられ、そのまま『おばあ様』として受け答えしてしまった件だ。アリステアは今指摘されて初めて気がついたのである。


馬車の中は大人5人だと少し狭い。いつもはキースと並んで馭者台に座るクライブが中にいるからだ。馬車に乗った時の馭者台(キースの隣)は、クライブにとって特等席だが、流石にこの状況では並んでは座れない。


「確かに、小さい頃からよくしていたごく自然な会話の流れでしたしね……思わずそのまま応えてしまっても不思議無かったかなと」


アリステアが説明し、キースがそれに対して感心する。これまで何百回となくしてきたやり取りだ。


そう応えるフランも小声だ。外にいるキースに聞こえない様に気を付けているのだ。


「そもそも、なぜバレたのかしら……朝まではそんな感じでは無かったわよね?」


「おそらくですが……昼食の時には気が付いていたのではないかと」


フランが違和感を覚えた時の状況を説明する。


祝賀会の準備の為二手に分かれ、それを終えて『コーンズフレーバー』に集合した。アリステアとキースでメニューを見ている時、キースの料理の質問に対して、アリステアが解説したのだ。


「あの時の2人を見てて、先程の様な『キースとおばあ様とのやり取り』を見ている様な印象を覚えました。キースの距離が近いというか、遠慮していない、というか……」


『カルージュのアリステア』はキースにとって祖母であり、産まれた頃から魔術学院に入るまで一緒に暮らしてきた家族である。


だが、『冒険者のアーティ』は、幾ら命を預け合う仲間といっても、出会ってからまだ半年だ。どうしたって言葉遣いや態度に遠慮が出る。


「だが、今まであったその遠慮が感じられ無かった、という事か?」


「はいあなた。私はそういう風に感じました」


「では、俺達がキャロルとヒギンズという事にも、当然気がついているよな」


「ええ、アーティ=おばあ様と気付く程ですから、それに気が付かない訳がありません。アーティ、『フローリア』での夕食にキースに誘われて感激した、って言ってましたよね?なんて言われたのでしたっけ?」


「……ああ、そういう事ね。あの子は『皆だって僕の家族じゃないですか!』って。あれはそのままの意味だったのね。だから一緒に行こうと……」


キースの意図に気が付きアリステアは目を潤ませる。それを見たフランとヒギンズも、ちょっとしんみりである。


「あの、お母さん、感激に浸っているところ大変恐縮なのですが」


「何よライアル。分かってるならちょっと待ちなさいよ」


アリステアが横目でじろりと睨む。


「そもそもですね。皆さんの正体がなぜ今までバレていなかったのか、キースが気が付かなかったのか、これが不思議でしょうがないのですが」


ライアルの言葉に、ちょっと感激して良い気分だった3人は、ポカンした表情を見せた。


「皆さん特性をそのまま教えたのですよね?お母さん、あなたは特性4つも出てるんですよ?それだけでも大変な事なのに、しかもそれが丸かぶりって、それを別人というのは無理がありますよ」


特性が4つ出る可能性は5000人に1人程度と言われている。そして、特性の種類は人の特徴同様に数限りない。それが全部同じになる確率となると、天文学的数字になるだろう。


「で、でも、キースには私の特性の話はした事無いわよ?」


「直接聞いた事が無くても、アリステアの特性の事なんて有名な話です。あの冒険者マニアが知らない筈がありません。あの子は何年も前から『おばあ様=白銀級冒険者のアリステア』という事に気が付いている訳ですから」


『白銀級冒険者アリステア=おばあ様』までは辿り着いているのだ。そこに、特性4つ丸かぶりでは、それに『=アーティ』と繋がっても全く不思議無かった。


「お義母さんもですが、キャロルも同じぐらい迂闊ですよ?リエットさんに訊いたのですが、海の神様の啓示を受けた方は、確認できているだけですが、この150年間でキャロルだけだと。これだけでフラン=キャロルと特定するに足るのではありませんか?」


キャロルが海の神ウェイブルトの啓示を受けた時は、まだ小さな子供だった。しかも神殿や礼拝堂などの施設でも無く、港の隅で釣りをしている最中だった。似たような状況だった事で、啓示を受けた事に気が付かなった人がいるかもしれない。可能性はかなり低いが。


「そして、そのフランの夫であり、その大きな身体で皆を守る盾。そこから連想するのは当然、クライブ=ヒギンズです」


「『北西国境のダンジョン』の駐屯地を守ってくれた後、自己紹介をしましたよね?あの時、私やマクリーンだけで無くシリルもニバリも『カルージュの3人では?』と思いました。なので、なぜあの子が気がつくまでにこんなに時間が掛かったのか、不思議で仕方がありません」


「今まで生きてきた中で、人を疑うという状況が無さすぎて、そういった点に欠けているのでしょうか?親としてちょっと心配になるくらいです」


息子と嫁に理路整然と並べ立てられ、3人はぐうの音も出ない。


「あの子、帰ったらなんて言うかしら。『解散する』とか言い出したら……」


アリステアは自分の想像のあまりの恐ろしさに青くなった。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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