第195話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
応援仕事が多くて遅くなりました。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ギルドでの歓迎セレモニーを終え、家族で『フローリア』に夕食を食べに行きます。ロメンは、より高度なもてなしの為に、店の常連である情報屋にキースについての情報を求めに行きました。
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「いやー、美味しかったな!これだけ繁盛するのも納得だ!」
「はい、アーティ!お腹いっぱいです!お父さんとお母さんはいかがでしたか?」
「ああ、とても美味しかった。ダンジョンの食堂の食事も美味しいのだが、ああいう美味さとは種類が違うな」
食前酒から前菜、サラダ、スープに肉と魚介類を使ったメインと野菜の付け合せ、いくらでも追加される焼きたてでフワフワのパン。皆が『王都での外食では過去一番』と感じた程のクオリティだった。
(これを超えてくるとしたら、ヴァンガーデレン家での食事ぐらいだな)
息子夫婦と孫の声を聞きながら、アリステアはもてなしを受けた時の食事を思い返した。
「ええ、本当に。このお部屋も素敵だし、お店の方の対応も行き届いていて。キースちゃん、予約してくれてありがとうね」
「いえいえ。いつも行く色々なお店も美味しいのですが、外食というのはそれだけでは無いのだなと。僕も良い経験になりました」
食事の料金には、原材料費、人件費、家賃、サービスや施設や装飾の程度等、ありとあらゆるものが乗ってくる。それは頭では解っていても、まだ歳若いキースは、高級な食事の場の経験がほぼ無い。この先の事を考えると、こういった空気を感じ経験する事は彼にとって必須とも言える。
「それにしても、この対応には驚きました。随分と気を遣っていただいた様で」
「そうだな。この部屋は別に予約したのでは無いのだろう?」
「はい、こういった部屋がある事は知りませんでしたので。知っていればお願いしたかもしれませんが……」
キースは改めて室内を見回す。
レストランらしく少し軽めな、だが落ち着いた明るい色合いと模様の壁紙、その壁に掛かっている風景画も、壁紙に合わせて明るく輝く海を描いたものだ。王都周辺には、高台から海を望めるポイントが多くある。そのうちのどこかだろう。
その他の調度品としては、生花が生けてある大きな花瓶だ。だが、室内には花の香りがほとんどしない。わざと香りの薄い種類の花を生けているだ。香りの強い花を室内に置くと、その香りが料理の邪魔をしてしまう。そういったところにまで気を配り整えられている。
「何よりこの『照明の魔導具』!これは凄いですね!これだけ大きい物は初めて見ました!」
天井を見上げたキースの瞳が、魔導具の発する暖かな光を受けて煌めく。そこには、これまでにキースが見てきた『照明の魔導具』とは似ても似つかない、ガラスと大きな光の塊の様な、キラキラと輝く魔導具が下がっていた。
「リクイガス商会の最新の『照明の魔導具』だ。『照明』に関してはエストリア一の商会だな。というか、独占状態と言った方が良いか。確か、設置する部屋毎に合わせて作る、特注品のシリーズだったはずだ」
アリステアも見上げる。
(お母さんはリクイガス商会と『照明の魔導具』には詳しいものな)
ライアルは、母と息子を眺めながら、息子と一緒に母のリクイガス商会についての説明に耳を傾けた。
□ □ □
リクイガス商会は、『照明の魔導具』を主力商品として取り扱っている商会である。元々『照明の魔導具』は、セクレタリアス王国の遺跡から『遺物』として発見される分しか流通していなかったが、自主製造に成功し売り出したのがこの商会だった。
そもそも、リクイガス商会が『照明の魔導具』の商品化に漕ぎ着けた切っ掛けは、アリステアにある。
アリステアの夫であったアーサーは、冒険者ギルドの鑑定士を務めていたが、そのアーサーに『照明の魔導具が持ち込まれたら買い取りたい』という話を持ちかけていたのが、『照明の魔導具』について研究していた、魔導具技師であるスカルポーニという男だった。
彼は、アリステアが左脚を無くした時に見つけ出した『照明の魔導具』を買い取り、研究と開発を続けた。
中々上手くいかず資金難に陥りかけるも、アーサー経由でアリステアをパトロンとする事に成功し、資金提供を受けながら研究を続け、遂に製造・量産化を果たした。
『照明の魔導具』は、ロウソクの不満点である、裸火による火事の心配と、煙と煤、臭いの発生が無い事もあり、特に貴族相手に爆発的に売れた。
一介の魔導具技師だった彼は、この大ヒットにより一気に大金持ちとなり、出資者であるアリステアに配当金と共に金を返した。そして、個人ではもう切り盛りできない程多忙になった事もあり、リクイガス商会を設立したのだった。アリステアには今も売上の一部が配当金として支払われている。
□ □ □
「へぇ〜!そういう成り立ちだったんだ!やはり『照明の魔導具』の事はよくご存知ですね!さすがおばあ様!」
「それはそうですよ!リクイガスとスカルポーニは私が育てた様なものです!」
アリステアはキースに褒められ『ふふん』と胸を張って得意気であるが、すぐに部屋の空気がおかしい事に気が付いた。
先程までは、家族みんなで美味しい食後、お腹いっぱいでまったりほんわか、といった雰囲気だった。
しかし、今や部屋はすっかり静まり返り笑顔なのはアリステアとキースだけで、息子夫婦も仲間達も、目を見開き凍りついた様な表情でアリステアを見つめている。
「……ん?ど、どうしたみんな?」
アリステアはキョロキョロと落ち着かな気に皆の顔を見ながら尋ねるが、誰も応えない。あまりの急展開に言葉が出てこないのだ。
(な、なにか言わないとなにかないかしらなにかなにかなんでも良いのだけど)
普段から殆ど慌てる事の無いフランでも、頭の中でぐるぐる考えるだけで、口を開けたり閉じたりするだけだ。
と、その時、部屋の扉が叩かれた。ノックの音が室内に響き、冷え固まった部屋の空気が動き出す。
「ど、どうぞ!」
フランが何とか返事をすると、扉を開けて入ってきたのは、コックコートを着た大きな身体をした中年男性だった。
「失礼いたします。料理長を務めておりますセレンセンと申します。本日はご来店いただきまして誠にありがとうございます」
セレンセンと名乗った料理長は、身長は180cm前後のライアルと同じぐらいだったが、横幅と腹回りが比較にならないぐらい厚かった。体重は130kgはくだらないだろう。しかも、コックコートを着て帽子を被っている為、縦も横ももっと大きく見える。
「本日はご満足いただけましたでしょうか?もし何かご不満なところや気になる点をいただけましたら、幸いでございますが……」
セレンセンの言葉に、キースは左右に座る家族を見回すが、先程の衝撃から立ち直っていない事もあり、誰からも声は上がらなかった。
「お料理はもちろん、接客もお部屋も全て素晴らしかったです。とても良い時間を過ごせました。ありがとうございました」
キースが笑顔で応える。皆が立ち直れていないというのもあるが、店に対して予約したのはキースである。彼が応じるのが筋というものだ。
「左様でございますか!それはありがとうございます。明日は皆様の記念すべき日と伺いました。その前祝いに当店を選んでいただきました事、感謝の念に堪えません。お礼と共に、お祝い申し上げます」
(……なるほどね。初見の、というか初見で特に特徴のある客の事は予め調べているんだ。この部屋に通されたのもそのせいか)
「とんでもありません。こちらこそ気を遣っていただきまして。お陰様で家族揃ってゆっくり食事を楽しむ事ができました」
キースも『そちらの気遣いには気付いているよ』という含みを持たせた返事をした。通常のホールのテーブル席では、知り合いに会う可能性もある。特に、ライアルらはこういった店に来る部類の人々にも顔が通っている。久々に姿を見れば挨拶に来る者もいるだろう。それを考えれば個室を用意した店側の判断は正解だったと言える。キースの言葉にセレンセンも嬉しそうに頷いた。
「この後、食後のお茶とデザートのご提供となります。本日は、当店から独立して店舗を構えている茶師が臨時で担当しております。本日だけのお茶とお菓子をどうぞお楽しみくださいませ」
「それは楽しみですね!よろしくお願いします」
限定品に弱いキースは、セレンセンの言葉に素直に喜んだ。
キースの言葉を受けて、セレンセンは退室の挨拶をして部屋を出る。入れ替わる様に、男性とワゴンを押した女性が入ってきた。この二人がお茶を担当する茶師なのだろう。
女性がテーブルの脇でワゴンを停めると、男性と女性は並んで皆の方を向き直った。
「本日はご来店いただきまして、誠にありがとうございます。僭越ながら、お食事の締めを担当させていただきます、茶師のログリッチと、助手のネリーと申します。よろしくお願い致します」
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