第193話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
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【前回まで】
祝賀会で出される料理等についての調整を終え、『北西国境のダンジョン』へと戻ったキース。そろそろ皆で王都に転移します。
□ □ □
「邪魔するぞ……って勢揃いだな。出発するところだったか」
準備を整え集合したライアル達のところに、顔を出しにやってきたのは、管理官であるハインラインだ。
「はい閣下。準備整いましたので、そろそろ行ってまいります」
一行を代表してライアルが挨拶をする。
「おう、気を付けてな!アーティ達以外は久々の王都だが、今日は早めに休んだ方が良いぞ。今回の授与式は表彰される人数が多いからな。式典もそれなりに時間がかかるはずだ。途中で寝ちまうのはさすがにまずい」
「承知しました。お気遣いありがとうございます」
「……まあ、そうは言っても子供じゃ無ぇんだからな。その辺はうまい事やってくれ」
そう言って片目をつぶって高笑いである。
(敵わないなこの人には……)
ライアル達は、ハインラインの笑い声に送り出されて、『転移の魔法陣』が置いてある部屋に入った。
「では、僕が先触れを務めます。先程も説明しましたが、転移したらディックさんが待っています。ですが、込み入った挨拶などは一旦置いておいて、速やかに通用口から外に出てください。その後正面に回って改めて入口から入り直します。よろしいですね?」
「ああ、大丈夫だ」
「そう言えば、前にも聞いたが、転移直後に一時的に体調が悪くなったりする事があるんだよな?」
デヘントがマントの止め具を直しながら尋ねる。
「はい、『転移酔い』とでも呼びましょうか……今までで2、3人の方がそういう状態になりました」
「原因は……まだ不明か」
「ええ、性別も年齢もバラバラですので個人差かとは思いますが……何とも言えません」
「そうか。じゃあならない様に祈るしか無いな」
デヘントは真剣な顔で頷いた。
(妙に気にするな。デヘントさん、船とか馬車とか乗り物に弱いタイプなのかな?)
そんな事を考えつつ、キースは『転移の魔法陣』の上に乗る。
「よろしいですか?それでは後に続いてください。起動」
キースの身体は薄青い光に包まれ、次の瞬間跡形もなく消えた。
「よ、よし!行くか!」
ライアルのパーティが『転移の魔法陣』の上に乗る。
「……ライアル、なんでそんなに緊張してるの?転移が初めてだから?大丈夫、何事にも初めてはあるよ。力を抜いて」
シリルがライアルの肩に手を乗せる。
「間違ってはいないが何か違う様というか……まあ良いか」
(だが確かに力は抜けたな)
「よし、では改めて……行くぞ皆!凱旋だ!」
「おう!」
実質他国の領土内にあるダンジョンを奪い取り確保するという、未だかつて無い成果を上げた英雄達は、起動した魔法陣の青い光に包まれながら、次々と転移していった。
□ □ □
転移を終えたライアルが目を開けると、目の前には彼の母親とギルドマスターのディックが立っていた。
「お、来たな!話は色々有るだろうが、まずはそのまま外に出てくれ」
アリステアに促されて歩き出したところで、ディックが拳を握り前に出してきた。
ちらりと顔を見ると、色々な気持ちが混ざった様な、何とも言い難い微妙な表情をしている。
(……その辺の話は取り敢えず後だ)
言いたい事を察しつつ自分も拳を作り、ディックの拳を合わせて通用口から外に出る。他のメンバー達もライアルに続いた。
「はい、ではこちらにお願いしまーす」
外に出ると、今度はキースが待っていた。両手を挙げて皆を集める。
「この後なのですが、建物の中では既にたくさんの方達が皆さんを待っています。このままでは収拾もつかないので、簡単なセレモニーを行うそうです」
キースの言葉に皆顔を見合せるが、誰も口を開かない。微妙な空気が漂った。
「はいはい皆さん、面倒くさそうな空気を出さない。『エストリア筆頭』とも謳われる皆さんが、そんな態度はどうかと思いますよ?ここは素直に感謝すべき場面です」
キースが強い口調で捲し立てる。実際、彼は今の皆の態度に少々カチンときていた。
キースの言う通り、今待っている人達は誰かに頼まれたから待っていた訳では無い。長期の遠征から帰ってくるライアル達の事を、本当に心から労り讃える為に朝からずっと待っていたのだ。それを厭うような態度は咎められても仕方がない。
「それに、こういうのは一度きちんとやっておかないと、個別に挨拶に来られていつまでも対応が続きますよ?そちらの方が良いのですか?『無駄金と思っても、本人の遺言があっても、葬式だけはやっておけ』と言いますでしょう」
「分かった。悪かった。以後気をつける」
ライアルは自分の誤りを素直に認め息子に頭を下げた。
「いえ、僕の方こそせっかくの凱旋なのに偉そうな事を言いました。水を差して申し訳ありません」
「いや、それを言わせちまった俺達が悪い。キース、済まなかった」
ライアルに続いてデヘントも謝る。さらに他のメンバー達も口々に謝りだした。予想外の展開に今度はキースが慌て出す。
「み、皆さんもう良いですから!ほら、中でもずっと待っていますし!えーと、お父さんのパーティを先頭にして、デヘントさん、僕達と並びましょう。花束の贈呈がありますから、列全体の真ん中にリーダーが入ってください。そうそう、そんな感じで。よし、では行きましょう」
□ □ □
「いや、それにしても凄い歓声だったな……」
「はい、まだ耳の奥の方が変な感じがします」
言いながらキースが耳の中に指を入れる。
セレモニーは、皆の入場からディックの挨拶、花束贈呈、ライアルの挨拶と進み無事終了した。
ギルド内には、総勢300名程が彼らの帰還を今や遅しと待っていた。
その中には冒険者と職員だけでなく、飲食店や消耗品類を扱う店、鍛冶屋など、冒険者達がよく立ち寄る店の店主らも混ざっている。店に出入りする冒険者から今日の話を聞いたのだ。
ライアル達は、シリルを先頭に列を作り建物内に入っていった。そして次の瞬間から、地鳴りの様な歓声と口笛、途切れる事の無い拍手に包まれた。
花束を渡す役は、ギルド職員のパトリシアとマーガレット、魔術師である女性冒険者が務めた。
『パトリシアさんがガチガチに緊張していて、ちゃんとできるか心臓に悪かったです』とはキースの弁だ。まるで、子供を見守る親の様な発言である。
今は、奥の会議室で明日以降の動きを調整する為に集まっている。
「では、明日からの事を話す前に、まずこれを言わせて欲しい。4年半もの遠征、本当にご苦労だった。そして何よりも、交代を出してやれず申し訳なかった」
ディックが頭を下げ謝罪する。席に着いていた皆は思わず顔を見合わせる。
「マスター、頭を上げてください。それはマスターが謝る事ではありません」
「そうです。国務省側に交代させるつもりが無かったのですから。仕方の無い事です」
ライアルとマクリーンがディックに声を掛ける。
「だがな、そこで許可を出させるのが俺の仕事だ。実際、交代要員として、ジョイナス達を行かせる準備はできていたんだ。俺の交渉力不足だ」
ジョイナスのパーティは、王都所属の冒険者パーティの中でもトップ5に入ると言われている。年齢は、皆ライアル達より若い30代前半程。メンバーの職の構成も似ており、少し気の早い人々からは『ライアル達の後継』という声もあがっている。
「マスター、この話は既に終わった事。それに、本人達がもういいと言っている。なのにいつまでぐちぐち言っているの?もう終わりにしよう」
「……っ」
シリルの遠慮の無い指摘に、ディックは喉を詰まらせる。
「頑張ってくれてたんでしょ?それで十分」
そう続けたシリルの目元は、いつもより少し柔らかい様に見えた。
「俺もシリルに賛成だ。それに、交代できなかった事で最良の結果が出たんだ。誰が文句を言おうっていうんです?」
デヘントの言葉に皆が少々意外そうな顔になる。その事に気付いたデヘントは、嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「おいおい、皆さん何なんですその顔は。俺がこう言うのがそんなにおかしいですかね?確かに俺は『何で交代が来ないんだ』と言っていましたよ?でもね、そりゃあの襲撃までの話だ」
デヘントは一度言葉を切ると皆の顔を見回す。
「だってそうだろう?ライアルさん達が交代して帰っちまってたら、キース達は来なかったんだぞ?あの襲撃をどうやって凌ぐんだ?あれをどうにかできなければ、その後もヘッタクレも無いし、それ以前に俺達はあそこで死んでたかもしれないんだぜ?」
メルクス伯爵とライアル達がフルーネウェーフェン子爵に誘い出され、駐屯地にはデヘント達とビアンケ所属の応援パーティだけという状況での、二方向から、3倍以上の人数での襲撃。
それだけの人数差があれば、抵抗しても歯が立たなかったのは間違い無く、駐屯地は焼き払われたであろうし、デヘントの言う様にそのまま命を落としていても不思議無かった。
「だから、結果的には『マスターの要望を突っぱね続けて交代させない』というのが、国とメルクス閣下、俺達が幸せになれる唯一の正解ルートだったって訳だ。はねつけ続けたその国務省の担当者にも報奨をやった方が良いんじゃないかね?俺が個人的に小遣いをやろうかな。なんて奴です?」
やれやれと言わんばかりに両手を広げる。
「国務長官なんだけどな」
ディックの返答にデヘントが固まる。冒険者とダンジョンに関する話だ。最高責任者が国務長官であるのは当然と言えば当然である。
「あ、あ~、そうか……国務長官か……俺からの小遣いは……いらないか」
(オチもついたしもう良いかな?)
「それではマスター、そろそろ祝賀会の説明をお願いします」
キースが話題を変えるべくディックに振る。
「分かった。これもまた大変な話なんだ。まあ、さすがに命のやり取りは無いが」
ディックはそこまで言うと、お茶のカップに口をつけた。
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