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第192話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


『イクシアガーデン』のお店の人達に、祝賀会の段取りについて説明に来ているアリステア達。ダルクへの対応を感謝されて揉みくちゃになったりしつつ、説明は続きます。


□ □ □


「それは確かに楽で良いが……それでどうやって料理を出せるのかさっぱりわからんのじゃが。できあがった料理をこちらから運んで行くのかの?」


口髭が特徴的な、年配の男性が尋ねる。以前キースが食べた、タレに漬けておいた魚の切り身を米の上に乗せた丼を出す店の店主だ。


「お店で作った料理や仕込みを終えた食材を、『物質転送の魔法陣』を使い現地に転送して参加者に提供してもらいます。それ用の魔法陣はこちらで用意して、各店舗毎にお貸しいたします」


静かな衝撃が広がる中、先程の『漬け丼屋』の男性が口を開く。


「じゃ、じゃあうちなら、漬けた魚と炊いたご飯を転送して、注文が入ったらその場で盛り付けて出す、という事かの?」


「はい、そうなります。ちなみに、僕、以前お店の丼いただきました。タレの濃さと漬かり具合がちょうど良くて、すっごく美味しかったです」


「おお!そいつはありがとう!!気に入ってもらえて何よりじゃ」


やり取りを聞いた他の店主達も思案気な顔つきになる。自分の店ならどういう流れになるかを考えているのだ。


「現地の従業員の方達は、料理の提供をしつつお店に追加を指示するなど、料理を絶やさない様に調整をしてください。こういった大規模なパーティだと、出席予定者の8掛ぐらいが用意する料理の目安との事ですが、冒険者は肉体労働者ですし成人男性が多いですから、ちょっと読めないところもあります」


「なるほどねぇ……確かに屋外に簡易の調理場を作るのは大変だからな。慣れ親しんだ自分の店で作れるのはありがたい」


「そう、それが大きい。水回りや火力も同じにはならないからな」


店主達が意見を交わす。


(概ね賛成、といったところかな?できればちょっと違う意見も欲しいんだよな。気付きの切っ掛けになるし)


キースがそんな事を考えていると、1人が静かに手を挙げた。小太りで頭髪が薄めな、鉄板焼き屋の店主、ハインズだ。


「……うちはできれば現地で調理したいのだけど、それはできないのだろうか?『鉄板焼き』というのは、お客さんの目の前で大きな鉄板を使って焼いて、音と匂いを楽しんでもらってこそなんだよ」


「うちもできれば現地で作りたいです。スープに麺を入れてからあまり時間が経つと伸びてしまいますし、一つ作る度に転送させていたのでは、魔力的に持たないかなと」


(確か……スープヌードルのお店のマーティンさんだっけ)


「確かにごもっとも。それでは、業務用の、口数が多い調理台も転送できるぐらいの、大きい魔法陣を用意しますね。調理方法や魔法陣の運用、出す料理の品数などは各お店にお任せしますので、開催までに色々考えていただければ」


「皆さん、今回の祝賀会には、王都所属の冒険者の方達のほとんどが出席されるそうです。お客さんに冒険者が少ないお店は、良いアピールになるのではありませんか?」


エレインの言葉に『イクシアガーデン』内の店主達より、その本店の責任者達が目の色を変えた。フードコート形式の店舗であればまだ相乗効果も見込めるが、冒険者ギルドから遠い店は、本当に冒険者が来ない。というか、そもそも存在を知られていないから選択肢に入らないのだ。金払いの良い新規顧客は常に開拓しなければならない。


「では、説明会はこれで終了いたしますね。最後に何か質問とか……大丈夫かな?以降は、冒険者ギルドが運営を仕切りますので、お尋ねや改めての要望とかあれば、ギルドの方へお願いします。一応、僕達も祝ってもらう側なので」


「分かりました。キースさん、皆さん、今回は私達に料理を発注していただきありがとうございます。『あの店にに頼んで良かった』と思っていただける様に全力を尽くしますので、どうぞお楽しみになさってください」


「「よろしくお願いします!」」


エレインのお礼の言葉に、店舗関係者達も声を揃える。


「はい!僕達もとても楽しみです!よろしくお願いします!」


アリステア達は店を出て、ディックにここまでの話を説明すべく冒険者ギルドへと向かった。


□ □ □


「あっ!」


道の先にギルドの建物が見え始めた頃、フランと並んで馭者台に座っていたキースが急に声を上げた。慌てて馬車を道の端に停める。


「どうしたのキース?」


フランが訝しげに尋ねる。停まった事で箱に繋がる小窓も開き、アリステアが顔を覗かせている。


「今日の宿を取ってません!このままではみんな野宿になってしまいます!」


大人3人組もあっという顔になる。


「すっかり忘れてたな……」

「全く頭に無かったわ」

「同じく」


「明日の集合もギルドですし、『鷲亭』で良いですよね?」


「ああ、文句ないと思うぞ。同じ所の方が集まりやすいしな」


『大鷲の羽ばたき亭』、通称『鷲亭』は、冒険者ギルドの隣の区画にある老舗宿屋だ。ギルドにもっとも近く部屋数が多い為、王都の冒険者だけでなく遠征してきた冒険者にも重宝されている。


「では、みんなは予約をお願いします。僕は先にギルドに行って、通用口を中から開けますから」


アリステア達が王都に来ているのはまだ内緒である。正面の入口からは入れない。


「了解した。夫婦はツイン、後はシングルだな」


「アーティ、3、4日ぐらい押さえておいた方が良いんじゃない?私達はまだしも、他の人達は4年半振りでしょう?家族や友人に会ったりするんじゃないかしら?」


「確かにそうだな。では宿に説明しておこう。予め話をしておけば、日数が変わっても多少融通してくれるだろう」


しかも宿泊するのは、あのライアルとデヘントのパーティだ。「承知しました」で終わる可能性は高い。


「よし、ではまたギルドで」


キースは冒険者ギルドへ、アリステア達は馬車を降り、道路を挟んで反対側の『鷲亭』へと入っていった。


□ □ □


宿の予約を済ませたアリステア達は、通用口でキースと合流し、ディックの執務室で祝賀会の段取りについて説明した。


「了解した。皆には手数を掛けたな。本当にありがとう」


「いえいえ、僕達も喜ぶ両親と皆さんの顔が見たいので」


キースはカップを手に取る。職員に頼む事はできないので、部屋に備え付けのセットを借りてフランが淹れたお茶だ。


「ニバリだけは知っているのだよな?まあ、この事について個別に話をする事は無いと思うが」


「はい、そうです。で、この後順次転移してくる予定です。向こうで緊急事態でも発生していない限り」


「ああ、分かった。待ってるよ」


「それではまた後ほど」


□ □ □


(よし、とりあえずこれで良いな)


ライアルは記載していた日報を紐で綴じ、棚に仕舞った。


内容は主に敷地内巡回の結果である。ライアルとデヘントのパーティでペアを作り、毎日8の鐘と3の鐘の2回、各施設と敷地内外を一回りしているのだ。


最初のうちは、各店舗職員との顔繋ぎが主であったが、日数も経過してきた事で若干変わってきた。


最近は、店舗の営業状況や従業員同士の人間関係等、かなり込み入ったところまで注意を払い、情報共有している。


『あの店の〇〇と□□は、食堂のウェイトレスを巡って揉めてから仲が悪い』『△△は王都の金貸しにまだ借金が残っていて毎月切羽詰まっている』という様な話だ。


(なぜそこまで?と思う者もいるだろうが、金の流れや人間関係は、簡単に犯罪行為や命のやり取りに繋がるからな。外から見て分かるところだけでも掴んでおいた方が良い)


というのがライアルの考えだ。これも施設内の治安維持活動の一つである。


(彼らももう来るかな?そろそろ着替えるか)


自分達が留守の間は、駐屯地にいた頃に警備の応援で入ってもらっていた、ビアンケの冒険者ギルド所属のパーティに来てもらう段取りになっている。細かい引き継ぎは数日前に済ませており、後は到着を待つだけだ。


席を立ったその時、控えめに扉が叩かれた。


「どうぞ」


その叩き方で来訪者の目星をつけつつ返事をすると、入って来たのは思った通り彼の妻だった。


そして、その姿を見て思わず笑みがこぼれる。マクリーンは準備万端整っていたからだ。


右手には戦の神である『エヴェネプール』の祝福を受けた錫杖、式典等で着る正装時の法衣と、その法衣に合わせて羽織る外套、ブーツもそれ専用の物だ。


「さすがの着こなしだね。よく似合っている。でも……それで転移するのか?今から授与式が始まる訳じゃないよ?」


マクリーンははっとした顔になる。


「そうですよね!やだ、私ったら……何だか気が急いてしまって……」


さすがに恥ずかしい様で、僅かにだが頬を染める。


(ふむ……マクリーンにしては珍しいな)


特性が出ているフラン程では無いが、王都の司教と同程度かそれ以上の力を持った神官だ。一般的なレベルからすると、十分に冷静沈着である。


(でも、たまに感情が爆発するんだよな。キースと久々に会った時みたいに。そこがまた可愛いところでもあるのだが)


ライアルはその時の事を思い出す。


メルクス伯爵とライアル達がフルーネウェーヘン子爵に呼び出され、駐屯地が手薄になった隙に襲撃を受けた。しかし、キースと仲間達がそれを防いでくれた。


仲間達と共に彼らの前に出てきたキースを見たマクリーンは、机に足を掛け法衣の裾を翻しながら飛び越え、そのままの勢いで抱き着き声を上げて泣いた。その後も宥めて落ち着かせるのが大変だった。


「キースは王都に行っているのですよね?まだ戻ってきていないのですか?」


「ああ、まだだ。戻ったらここに来ると言っていたからな。4の鐘はもう鳴ったよな……『夕方辺りに』と言っていたし、間もなく帰ってくるのではないか?」


と、まさにその時扉が叩かれた。返事をするとまさに彼らの息子が入ってきた。


「ただいま戻りました!うわ!お母さん凄いですね!これが正装なんだ!さすがによくお似合いです!格好いいわ……」


「ふふ、ありがとう。キースはもう準備できているの?」


「はい、朝移動した時に済ませました。基本学院のローブですし。お父さんはこれから着替えですか?」


「ああ、もう出してはあるからすぐに終わる」


「承知しました!では僕はデヘントさん達に声を掛けてきます。全員揃い次第転移しましょう」


そう言うと、キースはあっという間に出て行った。


ライアルとマクリーンは、息子が出て行った扉を目をぱちくりしながら見つめ、顔を見合わせた。


「全く……忙しい奴だ」


「本当に。でも我が子ながら可愛い子ですね。皆があの子を好いてくれる、気持ちはよく解ります」


見た目だけでも十分なのに、何にでも手を抜かず一生懸命で前向き、決して人の悪口を言わないなど、人としての性質の良さも備わっている。ケチのつけ様が無い。キースの事を「嫌い」と言ったら「お前それ僻んでるだけだろ」と返されるだろう。


「それでいて魔術師としても規格外だからな……どこまで行ってしまうのやら」


「楽しみですが、スケールが大き過ぎてちょっと怖く感じるのも確かです。お義母さん達が一緒だから大丈夫だとは思いますが」


「ふむ……今度その辺りの事を話しておこうか。おっと、戻ってくる迄に着替えてしまわないとな」


「はい、手伝いますね」


マクリーンは夫に近付き、脱いだ上着を受け取りハンガーに掛けた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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