第190話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ヴァンガーデレン家で奥様方の期待に応えたキースは、馬車で『コーンズフレーバー』へと向かいます。その途中でちょっと寄り道をしました。
□ □ □
「いらっしゃいませ。ようこそ『フローリア』へ」
「こんにちは!ええと、夜食事をしたいと考えているのですが、予約はできますでしょうか?」
「本日の夜でございますね?少々お待ちくださいませ」
ロメンは予約の一覧表を眺める。しかし、これはポーズだ。当日の予約状況など当然頭に入っている。考える時間を作っているだけだ。
(首に何か掛けているな。もしや……冒険者証か?では、本物の魔術師か?しかしどう見ても18歳には見えん……ううむ、謎だ)
「お待たせ致しました。7の鐘からでしたらご案内できますがよろしいでしょうか?」
「その時間なら……大丈夫かな?では3……あ、6名でお願いします」
「6名様ですね。承知致しました。夜は2種類のコースになりますが、どちらになさいますか?」
ロメンはディナーのメニューを提示し尋ねる。
高い方のコースは安い方の倍の価格が書かれているが、魔術師らしき少年は気にする様子も無く高い方のコースを告げた。
(この金額でも全く躊躇わずに注文してきた。金は持っているという事か。やはり貴族か、大金の扱いに慣れている冒険者だな)
「それでは、7の鐘、Aコース、6名様でご予約賜ります。ご来店時のご本人確認の為に、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「はい、王都冒険者ギルド所属、キースといいます」
ローブの下から青い冒険者証を取り出し、名前の刻印を見せながら埋め込まれた魔石に魔力を流す。
「キース様ですね。ありがとうございます。それでは、夜のお越しを心よりお待ちしております」
「よろしくお願いします」
少年はぴょこんと礼をすると、馬車へと戻って行った。
(何とあの若さで銅級冒険者とは!これは驚いた!)
ロメンはその後ろ姿に頭を下げつつ心の底から驚いていた。
(これだからこの仕事は面白い。そう簡単にはやめられんわ)
走り去って行った馬車を見送っていると、後ろから声をかけられた。
「ロメンさんお疲れ様です」
「おう、ロニーか。久々だな……2ヶ月振りぐらいか?元気そうで何よりだ」
振り返ったロメンが気安い様子で挨拶を返す。
「ええ。のんびりやっておりますので、元気いっぱいです」
「ふん、まだ若いくせに引退間際の爺さんみたいな事を!こっちは昼も夜も忙しいのだからな、いつでも戻ってきて良いのだぞ?今も夜の予約をいただいたところだ」
「……そういう気になったら、またその時に考えます。予約はあの馬車の方ですか?」
ちょうど人通りが途絶え、見える範囲に他に馬車は走っていない。その為、ロニーと呼ばれたこの男にも特定できた様だ。
「ああ、初めてのお客様でな。今までに類を見ない、非常に印象的なお客様だった」
「え……?予約のやり取りをしただけなんですよね?」
ロニーは驚きに目を見張った。ロメンが接客のプロフェッショナルとして、何十年も仕事をしてきた事は、もちろん承知している。そのロメンをして「類を見ない客」とは聞き捨てならなかった。
「どんなお客様かお尋ねしても?」
「ふん……いくらお前でもそれは無理だ。今のお前はここの従業員では無いのだからな」
「それは……ごもっともです。では、今日一日臨時雇いの茶師という事でお願いできませんか?そうすれば良いですよね?」
「それは料理長に聞いてこい。まあ、食後やティータイムのお茶をお前さんが淹れる事になるのだからな、反対はせんだろう」
「では、ちょっと行ってきます」
ロニーは足早に、勝手口のある店の裏へと向かっていった。
(全く……何とかあいつを店に戻す方法はないものか)
ロメンは溜息を吐きながら、彼の淹れる極上のお茶と付け合せの菓子類を思い返していた。
□ □ □
キースを乗せた馬車は『コーンズフレーバー』の裏に停車した。
馬車を降りたキースはウッズに礼を言い、馬車を見送る。すると、ちょうど反対側から一台の馬車がやってくるのが見えた。馭者台に座るのはクライブである。
「みんなお疲れ様!エレインさんはどんな反応でした?」
「ああ、エレインは乗り気だった。だが、まだ各店舗には話が伝わっていないからな。昼営業後に責任者達を集めて説明するという段取りになっている」
「開店前に集まるのは無理だものな……了解です。では、食事をしながらこちらの報告をしましょう。一つ大きな変更点もありますので」
「お?了解した」
連れ立って店に入る。昼のピークより少し早いせいか、空席もちらほらある。6割程の客の入りといったところだろう。
「いらっしゃいませ~!空いてるお席へどうぞ~ってあら!あらあらあら!みんなお揃いで!お帰りなさい!」
最初にアリステア達に気が付き、声を掛けてきたのはフィーナだった。
「フィーナさんお疲れ様です。ご無沙汰してます」
「そうだね。アーティは少し前に来てくれたけど。『北西国境のダンジョン』での仕事は終わったのかい?」
「そうですね。だいたい終わってはいるのですが、まだ少し残っています」
キースはざっくりと答える。『転移の魔法陣』が絡んでくる為、自分達の動きをあまりはっきりと言ってしまうと、後々よろしく無い状況になる可能性がある。
「そうかい……また戻るだけでも大変だね。しばらく王都にいるのかい?」
「明日お城で報奨をいただけるのですが、その祝賀会が半月後にありまして。それが終わるまではうろうろしています。それで、その祝賀会に絡んでご相談したい事があるのですが、後でお時間良いですか?」
「ああ、分かったよ。それまでゆっくりしていておくれ」
フィーナは柑橘類の香りを付けた水とメニューを置いて、厨房へと入って行った。
すると、厨房とカウンターの隙間からアドルが顔を覗かせ、手を挙げて挨拶してきた。
(これもすっかり恒例だな)
キースはそんな事を考えながら手を振り返す。
「さて、今日は何にするか……まあ、お気に入りは頼むのだが」
メニューを開きながらアリステアが呟く。
「アーティ、これはどんな料理ですか?食べた事あります?」
キースが隣の席からメニューを覗き込み指差す。
「これは確か……具材が海老で、卵と溶いた小麦粉を混ぜた生地を鉄板で焼いたものだな。それを野菜の上に乗せて少し辛いソースを掛けてあるやつだ」
「美味しそうですね!頼んで良いですか?」
「ああ、食べよう。他にはどうだ?」
「えーと……あれ?ここから下は、さっきのメニューと名前が似ていますね?」
「これはな、調理法とメインの材料は一緒で、具材だけが違う。名前がほとんど一緒だろ?具材が変わると名前の後ろの部分だけ変わるんだ」
「なるほど、そういう決まり事があるんだ……」
二人でメニューを挟んで和気あいあいである。
フランとクライブは、その微笑ましい光景を眺めている。だがフランは、笑顔を見せつつも違和感を覚えていた。
(……何かしら。なんかちょっと……んん……?)
違和感の正体を考えていたが、イネスが注文を取りに来た為その思考は中断された。
そして、その時が来るまで、この時覚えた違和感の事を思い出す事は無かった。
□ □ □
「……という事になります」
2の鐘で昼の営業を終え、フィーナ達は賄いの昼食を、アリステア達はお茶を飲みながら、キースの説明を聞いた。
「分かった。配膳する人だけが現地へ行くんだな」
「それは助かるね。お祭りとかの出店依頼を受けた時とか、現地に道具を一揃え持って行くのは、本当に大変なんだよ」
アドルとフィーナが顔を見合わせ頷く。
「キース、そのヴァンガーデレン家の私有地を使わせてもらうのに、妙な条件とか出されなかったか?素直に貸してくれたのか?」
「……無条件という訳ではありませんでしたが、その場で解決しましたので、特に問題ありません」
「そうか……なら良いが」
頷きながらも、アリステアは(後で何を言われたのか聞くのを忘れない様にしよう)と心に刻んだ。
「で、この後3の鐘で『イクシアガーデン』ですか、あのフードコートに出店しているお店の方達に、今の説明をしてきます」
「この条件なら、どの店も出店すると思う。冒険者が来ない、少ない店は、これを機に店を知ってもらいたい、というのもあるだろうからな」
アドルの言葉にフィーナとイネスが頷く。
「冒険者ギルドの建物から遠いとね、冒険者は来ないんだよ。依頼をこなして疲れている事も多いし、やはり近いお店に入りやすいんだ」
「その点うちは恵まれたよ。ギルドには近くないけど、アリステアさんがたくさん連れて来てくれたからね。そうでなかったら、とっくに無くなってたよ、ねぇお母さん」
「ああ、そうさ。本当に感謝してもしきれないよ」
イネスの言葉にアリステアも嬉しそうに微笑んでいる。若い頃から何度も聞いている話だが、嬉しいものは嬉しいのだ。
キースはそんなアリステアを、さり気なく、だがしっかりと見ていた。
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【ウマ娘】
手持ちの石全部&有償石1500★3確定ガチャまで回しましたが、エイシンフラッシュさんは来てくれませんでした(´・ω・`)




