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第189話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


エヴァンゼリンとリーゼロッテから『初めから湖のほとりで開催すれば良い』と提案を受けて、開催場所の第一候補を変更する事にしました。話の流れで二人のお願いも聞く事になり……


□ □ □


「はい、『北西国境のダンジョン』に出発する時の、あのお別れの時の」


エヴァンゼリンもリーゼロッテも少々恥ずかしいのか、さすがに頬を染める。


そう『呼び捨てタメ口&頭ポンポン』の事だ。


(マジか!だってあれはそのまま別れるからできた事で……)


エリーから『出発前に大奥様の心に残る様な思い出を』と頼まれ、不敬罪に怯えながら必死の思いで実行したのだ。


「いや、大奥様、あれは長期間のお別れの際の特別なアレですので」


「キース、今『何でも』と言ったではありませんか!ぜひお願いします」


「ええ……いや、困ります……」


キースは何とか断ろうとするが、2人も「そこを何とか」と粘る。リーゼロッテは大貴族の当主として、高級文官として、貴族間の利害調整や交渉に明け暮れ、エヴァンゼリンはさらに国務長官まで勤めた程だ。経験とスキルが違う。


(仕方がない。ここは一つ……)


「で、では、お二人だけの時であればそう致します。それ以外の時は今まで通り、という事でいかがでしょう?」


エヴァンゼリンとリーゼロッテは、キースの言葉を受けて黙り込む。


実際には(この辺りが落とし所か)と思っているが、渋々感を出す為にタメているのだ。


「……仕方がありません。確かに人目がある所では、妙な噂が立って貴方に迷惑が掛かる可能性もあります。そこは譲りましょう。では、私達家族以外がいる場では愛称で呼ぶ、といたしましょう。それで良ければ合意致します」


お願いしたのは夫人達であるのに、いつの間にか立場は逆転しキースが折れる形になっていた。完全に2人のペースである。まだ年若く経験も少ないキースでは、逆立ちしても勝てないであろう。


「分かりました。ではエヴァ様、リズ様」


「キース!早速違いますよ!エヴァとリズです!」


「え、いや、ですが、エレナさん達がいらっしゃいますし」


「ここにいる側仕え達は、皆この家に務めて40年以上経ちます。家族同然ですので対象外です」


「それに、私達がいる所にエレナ達がいないという状況はありません。ですので彼女達の事は気にしないでください」


エレナ達3人の側仕えが、壁際でウンウンと頷いている。


(マジか…………よし、じゃあやってやろうじゃないか!)


キースは腹を括り、眉間に少しシワを寄せしかめっ面を作り、右腕を肘掛けに乗せ頬杖をつく。さらに(ちょっと苦労しながら)足を組み、わざとらしく大きな溜息を吐いた。


「全く……エヴァ、リズ、君達は本当に言い出したら聞かないな」


そう言いながら二人を交互に見つめる。


エヴァンゼリンとリーゼロッテの目が大きく見開かれ、煌めき出した。


「だが、君達にはいつも本当に世話になっている。もちろん管理官の彼にも。これはそれを汲んで、本当に特別な事なんだ。こんな事が世間にバレたら、僕は良くとも君達が大変な事になるだろうからね」


キースはソファーから立ち上がり歩き出す。後ろ手に組んで、一歩一歩、床を見ながらゆっくり進む。


「だから、絶対に他言無用だ。いいね?」


ソファーの後ろに回り、並んで座る二人の外側の肩に手を置き、顔の間に自分の顔を寄せた。そのまま耳元で囁く様に、言葉を紡いでゆく。


「僕はこの後も約束があるからもう行く。先程の件、くれぐれも頼んだよ?まあ、君達に任せておけば万事滞り無いとは思うが。そういえば、明日の授与式には来るんだろう?」


エヴァンゼリンとリーゼロッテは無言でガクガクと頷く。もう頷くだけで精一杯の様だ。


「ふむ、では、僕の晴れ姿をその目に焼き付けるといい。いつでも思い出せる様にね。だけど、あまり真っ直ぐ見続けると目が潰れるかもしれない。それだけは気をつける事。良いね?」


「はい!」

「ひゃい!」


二人は身体を震わせながら、何とか返事をした。頬はピンクに染まり、瞳はこれ以上無い程に輝いている。


「それと、明日ちゃんと出席できる様に、今日の夜は早く休みなさい。特にエヴァ。『呪文』の習得に励んでいるとは思うが、あまり根を詰めるのではないよ?」


そう言いながら、結ってある髪が崩れない程度に頭をポンポンする。


「ではまた明日だ、可愛いお嬢さん達。この後も良い一日を過ごせます様に」


キースそう言い残し、感激にプルプルする二人を残し応接室を出た。


□ □ □


受付で書類仕事をしていたエリーは、奥へ続く扉が開いた気配を感じて顔を上げた。


そこには、げっそりとした表情で肩を落としたキースがいた。


「……キース様?どうされました?」


「あ、いや、ちょっと色々ありまして……」


キースは中でのやり取りを説明する。エリーの眉間のシワがが段々と深くなってゆき、最後にはきつく目を閉じてしまった。


「キース様、僭越ではありますが、主に代わり無理を言った事を謝罪致します。そして希望を叶えていただき感謝致します。ありがとうございました」


「いえ、こちらもお願いはしましたから……お二人の様子は見ずに流れで出てきてしまいましたので、ご確認をお願いしてもよろしいですか?」


「もちろんでございます。後はお任せください……今日はもうお帰りになるのですよね?」


「はい、待ち合わせの約束があるのでそちらへ向かいます」


「では、また馬車を用意致しますので、そちらまでお乗りになってください」


「……ありがとうございます。お手数お掛けします」


キースは断らずに素直に好意を受けた。正直、少し疲れたという事もある。


エリーはキースを馬車寄せに送り出した後、面会していた部屋に向かった。もちろん、二人の様子を見る為だ。


扉から入ると、ソファーの背もたれの上部から二人の後頭部が見えた。深く沈み込む様に寄りかかっている様だ。


そのまま前へ回り込み、そっと覗き込む。


そこには、お茶のカップを片手に、宙に視線を向けている二人の姿があった。


はぁ……と溜息を吐いてはお茶を一口飲み、また溜息を吐く、を繰り返している。目は開いているが、その瞳には恐らく何も映してはいないのだろう。


壁際に控えているエレナ達側仕えを見る。


エレナは静かに首を横に振る。エリーはそれを「そっとしておきましょう」という意味に受け取った。


二人にとってはそれはそれは幸せな時間で、今もどっぷりと浸っているのだ。無理に引き戻すのも気が引けるし、その必要も無い。


(もし面会希望者が来てもお断りする様にと、正門に連絡しておきましょう)


そう考えながら、エリーは静かに部屋を出て受付に戻って行った。


□ □ □


ヴァンガーデレン家の馬車で『コーンズフレーバー』へと向かっているキースは、何とはなしに窓から外の景色を眺めていた。


最近は馭者台に乗る事がほとんどの為、乗っているだけというのも久々だ。こういう時は大抵研究書の写本を読んでいたが、先程のアレコレもあり、そんな気も湧いてこなかった。


貴族街から一般市民側の区域に出た時に、一軒の店の前を通った。


(あれ?今の店ってもしや……そうだ!)


「ウッズさん、ちょっと停めていただけますか?」


「はい、承知致しました」


馭者台側に付いている小窓を開けてウッズに声を掛ける。馬車はすぐに停まった。


「ちょっと待っててください。すぐに戻ります」


キースはそうウッズに言い残すと馬車を降り、通り過ぎた店へと歩いていった。


□ □ □


(ふん……やはり若干少な目だな……休み明けはどうしても減る傾向にある)


ランチ目当ての客は既に店内へと案内し、表に戻ったところだ。他の曜日なら2回転目の客が並んでいるのに、休み明けだとそれがいない。


案内を担当するロメンは、店の入口の前でメニューを片手に、目の前の通りを眺めていた。


彼は勤続40年を誇る最古参のベテランだ。


昨年まではホール責任者として、ウェイターとウェイトレスを束ねる存在だった。各テーブルの食事の進み具合に注意を払い、厨房に料理を提供するタイミングを伝えたり、グラスに残っている飲み物の量を見計らって、絶妙なタイミングでおかわりを勧めに行く。客の様子と仕草から、声がかかる前に近付いて用件を受ける。


そんな接客を他のスタッフに指示を出しながら行う、まさに名人芸と言えるものだった。


だがある日、彼はその座を、自分が指導してきた副責任者の後輩に譲り、表での案内係へ配置転換を願い出た。


オーナーと料理長は驚きつつ、当然引き留めた。


彼の抜かりない、心配りの行き届いた接客とその仕切りは客からも評判であり、店の売りの一つだった。厨房側も、最適なタイミングと順番で料理を提供する事ができる為、料理長をはじめ、料理人達からの信頼も篤かった。だが、本人から告げられた理由を聞いて諦めた。


その理由とは「待機している位置から、テーブルの上のグラスに残っている白ワインの量が見えなくなった」というものだった。


加齢で視力が弱くなり、今までと同じレベルのサービスが提供できないと悟った事で、すっぱりとその座を後進に譲る。『中々できる事では無い』と皆感服した。


□ □ □


(ん……停まったな。降りてくるか?)


そんな彼だから、今しがた店の前を通り過ぎた馬車がすぐ先で停まった事にも、当然気が付いていた。


さらに言うと、その馬車のあつらえが重厚で非常にしっかりしており、色味は大人しめながらも装飾も素晴らしいもので、明らかに貴族が、それも高位貴族が所有する馬車だという事も分かっていた。


(お客様だろうか?だが、今日の昼営業に貴族の予約は一組だけで、既にご来店されている。飛び込みのお客様か?)


この様に、得られた情報から予測し事前に対応を考えておく事も、最適な、流れる様な接客をする為のコツであった。


辺りを見渡す様な動きをしながら、さり気なく馬車の方を見る。すると馬車の扉が開き、人が降りてこちらに歩いてくるのが見えた。その様子を視界の隅に入れながら、さすがのロメンも困惑する。


(子供……か?あのクラスの馬車に?大人も乗っているのか?しかし、あの格好は魔術師の様だが。貴族の子供の扮装か?なぜ一人で店に来るのだ?)


その子供は明らかに店に向かって、こちらを見ながら歩いて来ている。これはもう疑いようが無いと判断したロメンは、自分の心を接客モードに切り替えた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)


【ウマ娘】


今日までピックアップのエイシンフラッシュさんをお迎えすべく、帰ったらガチャを回したいと思います。来てくれます様に……

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