第188話
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【前回まで】
アリステア達がロワンヌ商会で料理の調整をしている頃、キースはヴァンガーデレン家の屋敷にやってきました。正門で勤務していたタニスと再会し、迎えに来ていた馬車に乗り込み移動します。
□ □ □
キースの乗った馬車は馬車寄せに到着した。ウッズに礼を伝え建物内に入り、奥棟の受付へ向かう。
(当たり前のように歩いているけど、これって大変な事だよな)
国内屈指の大貴族であるヴァンガーデレン家の屋敷に出入りし、案内もされずに歩き回っているのだ。半年前の、ニートだった自分に言っても絶対に信じないだろう。
廊下ですれ違う使用人に挨拶をしながら、これまでの半年を振り返る。
(家出、追い剥ぎ冒険者、パーティ結成、リリアの誘拐未遂、地上げ屋退治、魔物暴走、ヴァンガーデレン家の情報漏洩、銅級冒険者認定、エレジーアの部屋、『北西国境のダンジョン』確保、『呪文』に各種魔法陣、王女様から結婚まで申し込まれて……自分のことながら色々おかし過ぎるでしょ)
(でも、誘いを受けて国務省か近衛騎士団に入っていたら、これ全部無かったのだよな。あったとしても、魔法陣を幾つか作るのと……殿下は、僕の所属先をいずれ知るだろうから、結婚の申し込みは有り得るかな?そうすると、これは即婚約というルートか)
近衛騎士団員か国務省所属の研究員であれば、断れる理由も無いだろう。
(そうなっていたらどういう生活になるのだろう?所属先での仕事をしつつ、王配として身に付けなければならない事を学ぶ?時間足りるかな?でも……)
歩きながらの妄想は続く。一定間隔で作られた窓から陽の光が差し込んで、廊下の床に少し歪んだ長方形を描いている。
(自分で言うのもなんだけど、これ僕が冒険者になっていなかったら、結構マズくないか?マズいよね?)
以前、国務長官のティモンド伯爵も想像して震えていたが、王都内、ダンジョン2箇所、周辺国との関係悪化と、『冒険者キース』が関わっていなかったら、程度の差はあれど、どれも良い方向には解決しなかっただろう。人的にも金銭的にも大変な損害である。
(うーん……やはり僕は冒険者になるべくしてなったのだな!間違いない!)
自分でそう結論づけ、曲がり角を曲がる。<探査>の魔導具の感知範囲に入った事を感じながら扉に手を伸ばすと、内側から扉が開いた。
誰かが出てくるのか、と身構えたキースだったが、押さえられた扉の横から顔を覗かせたのは、奥棟の受付を担当するエリーだった。
「キース様、いらっしゃいませ。どうぞお入りください」
「エ、エリーさん?そんなわざわざすいません……あ、馬車ありがとうございました」
「とんでもございません!キース様は、今や大奥様とお館様にとってご家族以外で最重要のお客様です。お屋敷全体で然るべき対応をするのは当然の事です!」
エリーの鼻息は荒く力強い。
「それでウッズさんも……でも、『様』とか柄ではありませんから、どうか今まで通りに」
「……キース様、この屋敷に勤める者は心から感謝しているのです。大奥様が身も心もお元気になられたのは、キース様のお陰ですから」
「ま、まあ確かにそうかもしれませんが……」
キースはエリーの勢いに押されっぱなしだ。
「そして、これは一部の者しか知りませんが、例の件が無事解決した事、それによりベルナル様とアンリが帰ってくる事、大奥様の件と合わせて全てキース様が関与されています。この屋敷の者は貴方の事を話す時、誰が言い出した訳でもなく、自然とキース様と呼ぶ様になりました。ですので諦めてくださいませ」
エリーは笑顔だがキースは笑顔と困り顔とが半々だ。
「……では、一つだけ約束してください。『様』付けで呼ぶのはお屋敷にいる時だけにしてくださいね。皆さんと外で会う事はそう無いとは思いますが、一応念の為という事で」
「承知致しました。皆にも徹底させます」
公式に『様』付けが認められた事で、エリーは満面の笑みを浮かべた。
□ □ □
キースは通された部屋でエヴァンゼリンとリーゼロッテと向かい合って座っていた。すでに再会の挨拶を済ませ、3人の前のローテーブルにはお茶と焼き菓子が置かれている。
この家では定番の、生地に細くした茶葉が混ぜられて焼かれたクッキーだ。混ぜる茶葉は、淹れられるお茶との相性も考えて作られている。
「キース、ベルナルからは『相談事がある』とだけしか知らされていません。どの様なお話です?聞かせてちょうだい」
「大抵の事は『可』ですけど一応ね」
「ありがとうございます。ではご説明いたします」
キースは祝賀会についての説明を始める。夫人たちは頷いたり目を見開いたりと、表情をころころと変えなかなかに忙しい反応をみせた。
「確かに一度に800人入れる会場となると、王城にある大広間位ですね。ですが……」
「そのダンジョンを会場に使うという発想は一体どこから出てくるのでしょう?」
「お母様、そこはそれ、『キースだから』という事ですわ」
「確かにね。こちらの土地に立ち入り、湖のほとりを使用する事は問題ありませんが、一つ良いかしら?」
(きたか?)
「……ふふ、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ?周囲の人達の指導が行き届いていますね」
「え、あ、いや……失礼しました」
(あれだけ知恵も知識もあるのに、こうやって図星を突かれた時の反応が一々可愛過ぎて、つい意地悪を言ってしまいます)
エヴァンゼリンとリーゼロッテもほっこりである。
「会場をダンジョンにというのは、ダンジョンでなくてはダメという訳ではありませんよね?」
「はい、この人数が入れる会場が無いからダンジョンを使おう、というだけの話ですので」
「では、初めから湖のほとりを会場にすれば良いのではありませんか?そうすれば、構成はもちろん、一般市民をダンジョンに入れる事を気にする必要もありません」
「確かに、大変ありがたいお話ですが……よろしいのでしょうか?」
「もちろんです。どうせ使っていないのですから。それにキース、前にも言いましたが、私たちはあなたに頼ってもらいたいのです。なんでも仰ってください」
「そうですよ。私たちは、貴方が喜ぶ事なら何でもしてあげたいと考えています。貸しとか借りとかを気にしているのかもしれませんが、そんな事で貴方を縛ろうとは全く考えていません」
「好きな相手に喜んでもらいたい、頼られたい、好かれたいと考えるのは、人としてごく当たり前の気持ちだと思いますがどうでしょう?」
「……大奥様、お館様、ありがとうございます」
「それと、段取りが済んだら当日の運営などは冒険者ギルドに任せた方が良いでしょうね」
「それは、私達が本来祝われる側である、という事からですね?」
「ええ、それももちろんですが、そもそもこの祝賀会は冒険者ギルド主催なのですよね?段取りに貴方たちの伝手を使うぐらいなら良いでしょうが、当日の運営を貴方達が行ってしまってはギルドの面目が立ちません。それを見た他の冒険者はどう思うでしょうね?」
「ははあ……役立たず、頼りない、と思われてしまう可能性がありますね」
今回の件はさすがにイレギュラー過ぎた。こんなまさかの事案でギルドが侮られる事になっては、今後の活動に影響が出る。そういった事態は避けたい。
「ですので、準備を手伝ったら、後はギルドに任せてちゃんと祝ってもらいなさい。両親と昔から知っている人達と一緒に表彰されるなんて、もうありませんよ?」
「確かにその通りです。分かりました」
□ □ □
「それでですね、交換条件という訳ではありませんが、私達も一つお願いがあるのですが……」
母娘はチラリと視線を合わせた後、エヴァンゼリンが少々言いづらそうに切り出した。
「はい、何でしょう?私もお二方には喜んでいただきたいと考えております。どうぞ何でも仰ってください」
その言葉に2人の目の奥が一瞬輝いたのは気のせいだろうか。
「私達と話をする時には、この間の様にお願いしたいのです」
「この間、でございますか……?え、この間ってまさか!?」
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