第186話
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書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
キースとアリステア達は祝賀会を開く為に、それぞれ行動を開始しました。『北国境のダンジョン』を会場の第1候補に、ヴァンガーデレン家の別邸を予備会場と考えているキースは、ベルナルに話を通しに行きました。
□ □ □
「エレジーアさん、戻りました」
キースは遺跡内のエレジーアの部屋に戻ると、熊のぬいぐるみに声を掛けた。
キースの魔力に反応してぬいぐるみの目が薄青く光る。
「おかえりキース。用事は足りたのかい?」
「はい、無事に。この後は一度ダンジョンに戻って、今度は王都に行きます……それでお話というのは?」
尋ねながら、ベッドの枕元に座っているエレジーアの隣に腰を下ろす。
「ああ、お前さんのパーティのあの3人の事だよ」
(そうかな?とは思っていたけど)
キースは目を閉じ、大きく、ゆっくりと息を吐く。
「魔力反応で判っているだろうから今更言うまでも無いが、あの3人の身体は魔導具だ」
「はい」
人間、エルフやドワーフなどの亜人間、精霊、魔物、魔導具、動物等、この世に存在するほぼ全ての存在が(多少の差はあれど)魔力を持っている。
<探査>の魔法はその魔力を感知する事ができ、その感じ方で種族等を判別する事ができる。<探査>を常時展開しているキースが、気が付いていないはずが無いのだ。
「あの3人が使っている魔導具は、私の弟子、それかその流れを汲む魔術師が作り上げた物だろう」
エレジーアが死ぬ直前に彼女の弟子の一人が作り上げたという、『記憶と意識を移し遺す』という途方もない技術。
「どちらかと言えば、本人よりも、その意志を継いだ魔術師が仕上げた可能性の方が高そうだね。私に施された技術をとことん磨き上げて完成した、非常に洗練された技術だ。あの時点で60を幾つか過ぎていた彼奴には、時間が足りなかっただろう。それ程の魔導具だよ」
「はい」
「それで、なぜ魔導具に意識を移しているのかは、直接本人達の口からは聞いていないのだろう? お前さんはそれで良いのかい?」
「……中身や外見がどうであろうと、あの人達はあの人達です。それで良いと思っています」
「そうかい?私は見た目と中身が全然違うのにそれを伝えていないという事は、正体を欺いて騙している事になると思うがね」
「……」
エレジーアの言葉は的確で鋭く遠慮も無い。年齢を重ね一度死んでいるだけの事はある。
「……正直言いますと、僕は、正体を尋ねる事で今の関係が壊れてしまう事を怖がっています」
キースがポツリと、そっと漏らす。
「あんなに腕が立って特別な力を持った人達が、新米の僕と一緒にいてくれている。本当に不思議でし方がありません」
キースは座っているベッドのシーツをぎゅっと握る。
「いつだって僕の事が最優先ですし、とんでもない事を言い出しても嫌な顔一つせずに手伝ってくれます。あんなに僕の事を大事にしてくれる人達なんて、他にいるとも思えませんよ。まるで」
キースはそこまで言うと黙り込む。
(とんでもない事言っている自覚はあるのかい……静かになったけどどうしたんだろうね?顔が見えればある程度察しもつくんだが。そういうところだけが不便だよ)
今のエレジーアは、キースの魔力を探る事はできるが目は見えない。身体はぬいぐるみだから仕方が無い。
(あいつめ、そこも仕上げてから持ってきてくれれば良かったのに。ツメが甘いのは最後まで治らなかったみたいだね)
と、本当だったら意識と記憶が残っている事に感謝すべきであろうに、エレジーアは、あろうことか弟子に対し理不尽な怒りを向けた。
方や、キースからは表情が完全に消えていた。ぱっちりくりくりと大きい緑の瞳も、焦点が合っておらず何も無い宙を見据え、口も少し開いている。
(そうか……だから……なるほどね)
(……?なんだいこれは?魔力反応が……どんどん強くなっている?)
キースの身体を中心に、薄青い渦ができ吹き上がっていた。それは、『北西国境のダンジョン』の下層域で、ドラゴンにトドメを刺した時と同じだった。
「キース!?キース!どうしたんだい!?魔力が高まっているよ!?大丈夫かい?」
エレジーアが慌てて声を掛ける。
「あ、ああ、すいません。ちょっと気持ちが昂ってしまいました。それに連られてしまったのでしょう」
「……なら良いけどね。私が生きている頃も、感情の揺れと一緒に魔力も揺れる者は確かにいたが、ここまでの反応は初めて見たね。ちょっと慌てたよ……キース、お前さん、さっきまでと全然違うね。どうしたんだい?」
「はい!全てがカッチリとハマったというか、今までの疑問が解消しました!もう迷いませんし様子を見る必要もありません。全開です!」
「そ、そうかい。まあ、程々にね。くれぐれも勢いのまま突っ走るんじゃないよ?1人で決めずに仲間とよく相談するんだよ?」
「はい、承知しました!では王都へ行ってきます!それではまた!」
「ああ、また来ておくれ……」
キースは「そうかそうか……じゃああれも……そういう事ね。だから……うん、よっし、行くぞー、おー!」と小声で呟きながら、転移していった。
(……何がどうなっているかは理解できないけど、今日あの子と会う人達は大変だね)
見知らぬ人々の事を心配しつつ、エレジーアの意識は薄れていった。
□ □ □
キースが城塞跡に転移してすぐに、アリステア達も王都の冒険者ギルド内に転移し、ギルドマスターのディックと顔を合わせていた。
「おう、おはようディック」
「おはよう。大変だったわね……私達も手伝わ」
「全く……もっと早く言ってよこせば良いだろうに。何を遠慮しているのだ」
3人が一度に話しかける。それだけ気にかけて心配していたという事だ。
「申し訳ない。まさかここまでの事になるとは……祝われる側の人間に手伝わせるのは気が引けるが」
「俺達は人生2周目だからな。気にするな」
「ああ、キースのオマケみたいなものだしな」
「こういうのは、やはり若い人に喜んでもらいたいもの。だから良いのよ」
「みんな……ありがとう」
正直、ディックは泣きそうになったが、ギリギリ目を潤ませる程で堪えられた。
「よし、では、昨日の夜キースと話し合った事を伝える。意見を聞かせてくれ」
話が進むにつれ、ディックの表情は訝しげなものから、目は見開かれ、口も開いたものへと変化していった。
「……ダンジョンでパーティーを開いた初めての人間になれそうですね」
「そう……だろうな」
「何でも一番は良い事だ。そういう事にしておこう」
「ディック、そこは気にしては負けよ?開催に関係する事だけを考えましょう」
「……」
(必死こいて考えていた俺は一体……)
ディックは大きく溜息を吐いた。だがそれは、同じ溜息でも、先日までとは意味が大きく違っていた。
「それでな、これからロワンヌ商会に行って、料理について調整してくる。もし都合が悪かったり条件が合わない店があれば、その分別の店を探さなければならないしな。こういうのは早く確定させてしまいたい」
店側は大量の注文を受ければ、当然食材の発注も大量になる。注文すれば翌日に用意が整い、店に届く訳では無いのだ。『2週間後』というのは字面程余裕がある日程では無い。
「分かりました。キースもこの後こちらに来るのですか?」
「ああ、今は会場の使用についてダンジョンの管理官の所に行っている。その後にヴァンガーデレン家の奥様方の所に行って、昼には『コーンズフレーバー』で合流する予定だ」
「なるほど……」
(管理官、今頃俺と同じ様に口を開けてポカーンとしているのだろうな……お気の毒に)
ディックは面識の無いベルナルに対し、妙な仲間意識を持った。
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