第183話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
近衛騎士団→魔術学院→冒険者ギルドと回ってきたキースとニバリ。ギルドマスターのディックに祝賀会について尋ねますが、『参加者希望者が多過ぎて場所が確保できない』という、まさかの理由により計画が頓挫中。苦労した両親とデヘントのパーティの為にも、何とか開催させたいキース。あれこれ動きます。
□ □ □
「あら、お帰りなさいキース。お疲れ様」
『転移』で戻ってきた後、「雑貨屋に寄る」というニバリと別れて、宿泊施設に向かって歩いていたキースは、別方向からきたフランとマクリーンに行き会った。
フランが両手で抱えている大きめの籠には、葉物や根菜類などの野菜が幾つも入っており、小柄なフランでは前が見えないのでは?という程に盛り上がっている。
「帰りました。2人も今帰りですか?あ、籠持ちますよ」
「ありがとう。じゃお願いするわね。ちょっと並べ替えて平らにしましょうか……うん、これで良し。共同神殿でお手伝いをしていました」
正直、小柄で華奢なキースは力仕事には全く向いていない。フランも問題なく運べるのだが、キースはこういう場面では必ず持とうとする。彼の根本には『男が手ぶらなのに女性に重い物を持たせるのは違う』という考えがあるのだ。
フランもそこは理解しているので、キースにはちょっと重いかな?というぐらいでも、敢えて任せる様にしている。
「よっと……こちらは何かありましたか?」
籠を受け取り、持ちやすい様に手の位置を調整しながら尋ねる。
「私達は共同神殿にずっといたからちょっと分からないけど……特には無かったと思うわよ?」
フランとマクリーンが顔を見合わせ答える。ダンジョンなどで大きなけが人などが発生すれば、共同神殿にも連絡は入る。さすがにその様な状況になれば気がついただろう。
「なら良かったです。そうだフラン、夕食の後にでもちょっとお時間もらえますか?みんなにご相談がありまして」
「……分かったわ。2人にも伝えておきます」
「はい、お願いします。ええと、野菜は厨房に持っていけば良いですか?」
「ええ、『神殿から貰った』と言えば通じるわ。これまでも何度か貰った野菜を届けているから。籠は持って帰ってきてね。神殿の備品だから」
「りょ、了解しました!ではまた後ほど!」
キースは野菜の重さに少々息を上げながら返事をし、宿泊施設に向けて歩いていった。
沈みかけた西日を正面から受け、フラン達からは籠を抱えたキースの姿が影絵の様に見える。その背中を、微笑ましさと少しの心配を込めた目で見つめる。
「お話は何でしょうね、フラン。今言わなかったという事は、私には内緒なのね、きっと」
マクリーンは少々寂しそうだ。
「そうかもしれないわね。今日も王都にずっと行っていたし、その辺の事で何かあるのかも。それにしても……祖母が小さい頃に作った籠を、約60年後に孫が抱えているというシチュエーションは、中々グッとくるわね」
「えっ!?あれお義母さんが作った『伝説の籠』の一つなのですか?」
マクリーンが驚きに目を見張る。
そう、キースが抱えていった野菜の入った大きな籠は、アリステアがバーソルトの街の、共同神殿が運営する孤児院にいた時に作ったものだった。
小さいアリステアが編み物製品を作りまくり、孤児院の貴重な現金収入としていた事は、マクリーンも当然知っている。
「『伝説の籠』ってまた凄いわね……でも、何十年経っても壊れずに使えているし、そう言っても良いかも。それにしても、見つけた時は本当にびっくりしたわ……」
フランはマクリーンと並んで歩きながら、発見した時の事を説明し始めた。
□ □ □
詳しい経緯や時期は不明だけど、バーソルトの共同神殿から王都の神殿へ何かを運んだ際に、バーソルトに戻らずそのままになったのだと思うの。それを今回、リエットさん達が他の備品と一緒に持ってきたのでしょう。
もちろん、王都や共同神殿にいる神官達は、この籠が何時から神殿にあって、誰が作ったのかなど知らないわ。本当に、色々な偶然が重なってここに辿り着いたのね。
アーティは、私が孤児院に来てすぐに訓練学校に入学してしまったから、あの人が籠やマフラーを編んでいる姿は憶えてないわ。
でも、『手先が器用』という特性がかなり強く出たアーティが編んだ品物は、とにかく品質が高くて壊れないからいつまでも使う事ができたの。だからその特徴はよく覚えてる。
バランスの取れた形、そう簡単には壊れない強度と、ほつれない様に丁寧にされた処理、同じ形でも用途別に複数のサイズがあって、独創的で飽きがこない、でも突飛過ぎないという、万人受けする模様と装飾。
とても訓練学校に通う前の小さな子供が作っているとは思えない、もはや『作品』と言っても良い程の代物だったのよ。
それでね、アーティが作ったものには、全てに共通する『目印』があったの。当時の仲間内で、そういうのを入れて作る事が流行っていたのですって。だからそれを見ればすぐに判るという訳。
籠や手提げバッグなら底面に、マフラーや毛糸の帽子とかの編み物なら目立たない内側に、小さく『B.A』と入れて編みあげていたのよ。『バーソルト・アリステア』という事ね。
籠から野菜を出していったら底面にそれが出てきてね。しばらくの間呆然としちゃったわ。
だって、王国の東端から西端に、60年以上前に作られた籠がまだ現役の道具として移動してくるなんて誰が考えるの?王都からなら1500km、バーソルトからなら1700、1800kmも離れているのよ?しかも、それを作ったのがアーティなんだもの。
もちろんすぐに本人にも見せたわ。
部屋に入ってきた私に気がついて、顔を上げたあの人に声を掛けようとしたその瞬間、あの人何て言ったと思う?
「フラン、それどこから持ってきたんだ!?私が作ったやつだろ?」
って言ったのよ!
正直、こういった籠自体は珍しいものでは無いでしょ?いくら作った本人とはいえ、見た瞬間に『自分が作ったもの』と言い切るなんて尋常じゃない。
なぜその距離から一目見ただけで判るのか?と尋ねたら、イニシャルとは別に、横から見てもすぐに判る特徴があるって言うのよ。私何十年も使ってるのに全然気が付かなかった。ちょっと凹んだわ。
『フランがこれなら、誰にも気付かれてはいなさそうだ』って得意気に胸を張ってたわ。そんなあの人に感心しながら、この籠の出処を説明したのよ。
そしたらさすがに色々な気持ちが湧いてきたみたいでね、ふふ、しばらくの間籠を抱えて撫でたり眺めたりしていたわ。
もしかしたらまた編むかもしれないわね。
□ □ □
風呂に入って夕食を取り一息入れたあと、キースの部屋にアリステア、フラン、クライブが集まった。
目の前には、フランの入れてくれたお茶が注がれたカップが置かれている。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます。今日のテーマは、報奨の授与に伴う祝賀会の開催についてです」
開口一番、キースが今日の主題を宣言した。キースが『雑談混じりではなくどんどん進める』と考えている時の切り出し方だ。3人もそれは分かっている為、居住まいを正す。
「まずは現状をお伝えします」
夕方ディックから聞いた話を伝える。話を聞いた大人3人組は、腕を組んで唸る。
「その人数は確かに想定外だな……ディックさんも大変だったろう」
「はい……ギルドマスターとして何とか開催したいと考えられていた様ですが、途方に暮れていたらしく、あまり顔色がよくありませんでした」
「そうか……」
『他国に不法占拠される寸前だったダンジョンを取り返し確保した』という、冒険者として最大級の成果をあげて凱旋してきたにも関わらず、その祝賀会が開催されなかったら、本人達はもちろん、他の冒険者達はどう思うだろうか?ディックの心労が窺い知れる。
「本来であれば祝ってもらう側の僕達が動く事では無いのかもしれません。ですが、僕達はお父さん達の様に何年も滞在してた訳でもありませんし、正直、そんなに苦労していません。それに僕はどうしても、お父さん達とデヘントさん達の事をたくさんの人に称えてもらいたいんです」
「そうだな。確かに、より苦労した人達はより報われて労われるべきだ」
「報奨はいただける訳ですからな。我らはそれで十分」
「ふふ、どんな顔をするか楽しみね。ライアルさんは、、最近すっかり涙腺も緩くなってきているみたいだし」
「皆んなご賛同ありがとうございます。あ、あと、ニバリはこちら側の立場です。ディックさんの話を聞く時一緒だったのでどうにも……『問題無い』と言ってくれていたので大丈夫かとは思いますが」
「承知した。それでまず何から手をつける?」
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