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第182話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


やはり休日はよく進みます。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


近衛騎士団と魔術学院の理事長との調整を終えて、今度は冒険者ギルドに来たキースとニバリ。ギルドマスターのディックと祝賀会についての話をします。


□ □ □


(久々の再開と無事の帰還を祝うと共に、ギルドマスターと寡黙なベテランとの固い絆を表す、力強い握手!しかも魔術師同士!これぞまさに冒険者!くぅ~熱い!)


握手する2人を眺めながら、キースは1人で頬を染め瞳を潤ませている。


「何か妙な事を考えている気もするが……で、キース、今日の用件はなんだ?」


「あ、はい、すいません。実はですね……」


キースは近衛騎士団とマリアンヌからされた話を混ぜながら、祝賀会の話を切り出す。


キースが話し始めてすぐに、ディックは僅かに眉間に皺を寄せ腕を組んだ。


(……あまり良い反応じゃないな。何かあるのかな?というか、何か……顔色があまり良くない様な)


「……騎士団の方々が仰った様に、ギルド主催で祝賀会を開催しようという案はあってな。何と言っても、あのライアル達とデヘント達が4年半ぶりに、しかもこれ以上無い形で依頼を達成させて帰って来るんだ。大々的に開催しようと検討していた」


ディックがそこで言葉を切り、一度深呼吸する。


「そこで出席希望者の目安が欲しいと、ギルドの掲示板に告知を出したらな……800人程になってしまった。これは王都に登録している冒険者の9割程だ。残りは不参加というより、半引退状態だったり、ケガをして療養中で動けないとか、そもそもこの告知が出ている事を知らない、という者達の様だ」


「……要するに、参加可能な冒険者ほぼ全員が参加を希望していると……」


「そういう事になる。王都にそれだけの人数が入れる建物といったら王城しかない。まさか、祝賀会を開催したいので、一番大きな広間を貸して下さいとは言えんしな……」


ディックは途方に暮れている様で、大きく溜息を吐く。


(流石に王城内にこれだけの冒険者を入れるのは無理だな。そりゃ眉間に皺も寄るし、顔色も悪くなるか……)


キースとニバリも腕を組みどうしたものかと3人で唸る。


□ □ □


皆で唸りあってしばらく経ったその時 ──


「あ」


キースが思わす漏らした声に、ニバリとディックが勢い良く反応する。


「どうした」

「何か思いついたか!」


「あるじゃないですか、広い場所。賃貸料も無しで、人なんていないからどれだけ騒いでも迷惑にもならなくて」


「おお」

「凄いな!?そんな場所があるのか!どこだ?」


「王都からも馬車でたったの鐘3つ程と、絶好の場所が」


「……おい、まさか」

「キース、お前本気か?」


「そう!北国境のダンジョンですよ!王国唯一の白銀級冒険者が発見したダンジョンの中で、その息子と孫が仲間達と共に王都中の冒険者に褒め称えられ労われる!まさに冒険者の祝賀会に相応しいと言えるではありませんか!!」


「そうなの……か?」


「……解らん。だ、だがキース、飲食物はどうする?あそこには食堂はあるが、そんな人数分とても賄えんぞ」


ディックの言葉にキースは魔物暴走の時の事を思い出す。


ダンジョンの外に溢れた(逃げ出した)魔物を全て討伐した後、待機する為に寄ったあの食堂。厨房で1人で働く女性と、その母の手伝いとしてウェイターを勤め、一生懸命にお茶を運んできてくれた少年。


流石に冒険者800人が満足する量の料理と酒類を、あの女性だけで用意するのは不可能である。ブッフェスタイルにするにしても、料理人とホール担当と、ある程度のスタッフは必要だ。


「……その前に確認したいのですが、ディックさん、これ授与式当日でなくても良いですよね?」


「あ、ああ、もう明後日だからな。場所も決まっていない段階ではとても間に合わん。参加希望者に周知もしきれんしな」


「800人、余裕を持って1000人分としますか。諸々一週間から10日ぐらいあれば整うでしょうか?」


「一週間でもいけるかもしれんが、余裕を持って2週間後ぐらいにした方が良いかもしれん。全てこれから手配するのだからな」


「確かにその通り。では開催は二週間後に仮決定としましょう。それで、一番の問題である食べ物と飲み物をどう用意するか、なのですが……」


キースはディックとニバリに説明する。


最初は訝しげだった2人も、具体的な話をされて表情が力強く、目が輝いてくる。


特にディックの変化が著しい。キースの説明が終わる頃には笑顔も見せ、目にも力がみなぎっていた。表に出さない様にしていただけで、かなり心の負担になっていた様だ。


「それなら確かに賄えそうだな……費用は、参加者一人当たりに対して、人件費、飲食物代など全部込み込みで6000リアルとして……1000人分の用意で600万リアル。参加者から2000リアルの協賛金を貰うと、ギルドの持ち出しが400万リアルか……ま、まあ、これぐらいであれば何とかなるか」


5つのダンジョンを抱えるエストリア王国は、周辺諸国と比較するまでもなく裕福である。当然冒険者ギルドにも予算は十分に分配されているが、それでもほいほい出せる金額では無いのだろう。まだ自分達で試算しただけであるのに、ディックの頬が若干引きつっている。


「マスター、国務長官にご相談して特に予算を出していただく事はできませんか?流石に1000人分は予想の範疇を超えています」


ニバリの提案にディックがまた唸り出す。


「それは最終手段だ。年度末までの予算も含めて、金が足りない訳では無いからな。ギリギリなだけだ」


「あと、これはだけは運任せになってしまうのですが……ダンジョンのフロアの構成です。『草原』なら文句無し、『森林』なら、広場の様に広くなっている場所を選んで木を切れば使えますが、ハズレた時が……」


「『岩山』とか『滅んだ街』とかだったら最悪だな」


「確かに……」


「北国境のダンジョンの上層域の構成は『草原』や『浜辺』が多いそうですから、これはもう祈るしかありません。うーん、とりあえず、今の段階ではこんなところでしょうか。さっき話した内容は明日の朝一で相談してきます。日数もありますから、断られる事は無いとは思いますが」


「……キース、お前さんも祝われる側なのにすまんな。本当に助かった」


「僕達は今回おまけみたいなものですから。お父さん達とデヘントさん達は、現地で長い間苦労しました。あの人達に喜んでもらう事が最優先です。絶対に成功させましょう!あ、授与式以降も、開催日当日まで詳細は内緒で」


「そうだな。『祝賀会をするから予定を入れるな』とだけ伝える様にしよう」


「はい、それでお願いします。ニバリはこちら側の立場になってしまいましたが、今更戻れないので諦めてご協力お願いします」


「ふふ、構わんよ。たまには別行動も良いものだ。気にするな」


「よし、それでは今日はもう帰りましょう。あちこちで色んな話をしたので、ちょっと整理しないと。明日の動きも、無駄の無い様に考えておかないといけませんね。あっという間に夜になってしまいそうです」


「そういえば、あちらにいる皆はいつ移動してくるんだ?その時には出迎えたいからな。身体を開けておきたいのだが」


ディックの言葉にキースとニバリは顔を見合わせる。


「全くそんな話になっていませんよね……皆どうするつもりなんでしょう?」


「……夕方とか、早くても昼過ぎではないか?今の我々は、ダンジョンで何かあった時の為の対処要員だからな」


「ふむ……解った。では転移してくる直前でも良いから連絡してくれ。こちらも用意しておく」


「承知しました!あ、馬車は車庫に置かせてください。明日も乗りますので」


「ああ、構わんよ。馬の世話もしておくから心配するな」


「ありがとうございます。それではまた明日参ります」


キースとニバリは執務室の隣の部屋に入り、『転移の魔法陣』で北西国境のダンジョンへと帰って行った。

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