第179話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ビアンケの街から戻り、近衛騎士団に『魔力付与』の状況確認と『呪文』の指導についての詳細を詰めに来ました。『転移の魔法陣』を設置して直接移動できる様に依頼するつもりでしたが、『転移の魔法陣』自体の話をしていない事に気が付き、少し憂鬱です。
□ □ □
「彼女が人前で勉強している姿など初めて見ましたよ。団長はいかがですか?」
「俺も無いな。基本的に努力している姿を人に見せるタイプでは無いからな。自分が知らない、できない事があるというのが本当に気に入らないのだろう」
「なりふり構っていられるか、という事なのでしょうね」
(ああ、確かにそんな感じする)
マテウスとボブの言葉を聞いて、キースは先日見たミーティアの様子を思い浮かべた。
「団長はミーティアが小さい頃から知っているのですよね?確か、ミーティアの家とは姻戚関係に当たるのでしたか」
「ああ、少し遠いがな。俺とミーティアの爺さん達が従兄弟同士だそうだ。彼女は小さい頃から『神童』『天才』と親族の間でも評判だったからな、もちろん知っていた」
この『大抵の家とは姻戚関係』という話は、貴族ならよくある話だ。そして、古今東西、貴族同士が繋がりを作るのに一番分かりやすい手段は『結婚』である。しかも、クロイツィゲル家は歴史ある大貴族であり派閥の領袖だ。誰もが繋がりを持ちたがる。
「例の『呪文』のメモをもらってからのミーティアはな、昼食の時間になると、自分の席で家から持ってきた物、今日はサンドウィッチだったが、それを食べながらずっとメモを見ながらブツブツ言っているのだ」
「昼休憩が終わるまでずっとな。だが、1の鐘が鳴ると、そこですっぱりやめて仕事に戻る。少しでも早く覚えたいだろうにな、そこはきっちり切り替える」
「で、家に帰ると、今度は先日お前さんがタダ同然でプレゼントした魔法陣、あの2種類の効果が同時に発動するやつだ、あれを弄くり回しているそうだ。もちろん『呪文』の暗記もしているのだろうしな。小柄で細いから肉体的には弱いし体力も無いが、精神的には相当タフだ」
マテウスとボブが交互に説明し、同じタイミングでやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「『転写の魔法陣』も、最初の頃は使った後によく指でなぞっていたぞ。今はさすがにしなくなったが」
「でも、じっと見ている時もありますね。あの視線からは『お前の仕組みも必ず暴いてみせる!』という強い意志を感じます」
キースには、その様子がありありと想像できた。そして、『転移の魔法陣』の話をする事を迷い始めた。今聞いた話と副団長としての通常の業務もあるのに、さらに『転移の魔法陣』まで出してしまったら、ミーティアがパンクしてしまうのではないだろうか?と思ったのだ。
「そうですか……」
「なんだ、どうした?……まさか、新しいネタか?」
考え込んだキースの様子を見てマテウスが尋ねる。
「はい、そうなのですが……これ以上の燃料の投下は、今はやめた方が良いのかなと思いまして」
キースの言葉にマテウスとボブが顔を見合わせる。
「とりあえず聞かせてくれ。どうするかはそれから考えよう」
「正直なところ、これまでの事全てに匹敵する位の破壊力があるかなと」
「む、そんなにか!?お前さんがそこまで言うとなると躊躇するな……やめるか」
眉間にしわを寄せたマテウスは、あっさりと前言を翻した。いきなり正反対の事を言い始めた上司に、ボブが慌てる。
「え?や、やめるのですか?団長、気にならないのですか?」
「確かに気にはなるのだが、『触らぬ神に祟りなし』という言葉が頭をよぎったものでな。『禁断の秘術!』みたいなやつだぞ絶対」
(さすがに鋭い……これが国内屈指の大貴族に生まれた者の危機管理能力か)
マテウスの言葉に、キースの斜め後ろに控えたニバリは妙な感心をしていた。
「確かにその様な側面もありますが、国王陛下を初め、殿下や国務長官もご存じで、既に複数回ご体験済みとなります」
「ほう!?」
「ほら団長、危険なものでは無いようですよ?話だけでも聞いてみましょう」
「そういう意味では無いのだがな……分かった、聞こう」
マテウスはようやく了承した。普段の彼からは考えられない程の煮え切らない態度だ。戦う者の本能が面倒事を回避しようとしているのだろう。
(よし、ごちゃごちゃ回りくどい事を言わずにすっぱりさっぱりいくか!)
「それではお話致します。私は『転移の魔法陣』を完成させました。
「……」
「……?」
エストリア王国が誇る、周辺諸国最強と謳われる近衛騎士団のトップ2人も、完全に処理落ちしてしまった。その顔からは表情が抜け、固まっている。
(今までは立ち直りを待ってから説明を始めたけど、もうどんどん進めよう)
「『転移』というのは、この場合、『魔法陣と魔法陣の間を移動する事』を指します。今日の私達も、北西国境のダンジョンから転移して来ています。では、実際にやってみますのでどうぞご覧ください」
そう言いながら、いつもの書類筒から対になっている『転移の魔法陣』を取り出し、部屋の隅と扉の前に置く。
「それではいきます、起動」
扉の前からキースの姿は消え、部屋の隅に現れる。
それからキースは、魔法陣を繰り返し起動させて、2つの魔法陣の間を行き来した。それに合わせて、マテウスとボブの頭が右、左、右、左、と動く。
「こいつは……何と言ったら良いものやら……」
「はい、凄い以外の言葉が出てきません」
二人はまだ回らない頭をフル回転させて、思いつく限りの質問をぶつけた。
「誰かがそこに行って魔法陣を設置しなけばならんが、距離は無制限、今のところ事故も無い……」
「片方を収納してしまえば利用不可、というのも良いですね。一方的に来られる事を防げます」
「だが、家主の許可を得ずに設置される事だけは気をつけねばならんな。建物や敷地の外から自由入られたら何でもできてしまう」
(衝撃を受けていてもすぐにそこに気がつくあたり、さすが近衛騎士のトップだ)
3人のやり取りを眺めながら、ニバリはマテウスの発想に感心した。
「お二人もぜひいかがですか?転移に慣れておいて損は無いと思いますが?」
マテウスとボブはキースの誘いに顔を見合わせる。眉間に皺を寄せたマテウスとは対照的にボブは笑顔だ。未知のモノに対して興味津々の様で、ササッと近づいてくる。
しかし、マテウスはゆっくりだ。『できれば避けたい』という心の内が透けて見える様だ。
(騎士団長は魔法関連については保守的なのかな?さっきも話を聞きたがらなかったし。でも『呪文』や『魔力付与』についてはそんな感じでは無かったよな……たまたまかな?)
3人で魔法陣の上に立ち、ある程度間隔を開けつつ転移を繰り返す。
「では、これで終わります」
キースは魔法陣を片付け始め、その横ではマテウスはよろよろと自分の席に近づき、倒れる様に勢い良く座った。対照的にボブは笑顔で元気いっぱいである。
「いや~凄い!本当に移動していた!これは夢が広がりますね!ねぇ団長!」
「……確かにミーティアには見せられんな。仕事放り出してコレに掛かりきりになるに決まってる」
マテウスの顔色はあまり良くない。イングリットの側仕え程では無いが、『転移』は得意では無さそうだ。
(副団長は何とも無いのに騎士団長は良くなさそうだ。完全に個人差なのか、何か共通点があるのか……とりあえず記録だけ残しておこう)
「きっと家にも帰らなくなってしまいますよ。イゼルビット家から苦情がきます」
「お二方も、近々新しい部署が発足して、それに伴い大きな人事異動が発生する、という話は聞き及んでいるのではないでしょうか?これがその理由です」
「国法に追加と修正もしなければならなくなりそうだな……まともに運用できるまでには、3年ぐらいか?」
「国全体にはいつ発表するのでしょうね? その間の機密の保持もしなければなりません。これは確かに専門部署が必要です」
「これを踏まえてお願いなのですが……こちらの建物内に『転移の魔法陣』を設置させていただいて、指導の際は直接ここに転移さてもらえたらと思いまして」
「ふむ……近衛騎士団はお前さんには『借り』だらけだからな」
『呪文』や『魔力付与』の件はもちろん、『転写』の魔法陣も融通してもらった。これで拒否したら恩知らずと罵られてしまうだろう。
「良いぞ、と言いたいところなのだが、残念ながらここはうちの屋敷では無いのでな。これは陛下か殿下のご裁可が必要だ」
「何と言っても、王城の外門で入退場を確認しないという事だからな。貴族でもいない」
王城の敷地内に入る外門は、王都の外門と同じく魔法陣が仕込まれており、その所持している身分証の通行履歴を記録している。
これは、一般市民だけでは無く高位貴族も同様だ。
「こちらに来るまで殿下とご一緒していたのですが、殿下からは『騎士団長が良ければ可』というお言葉をいただいております」
マテウスとボブは思わず顔を見合わせた。
ミーティア副団長=ウマ娘のスイープトウショウの見た目とダイワスカーレットの性格というイメージ。
ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)




