第17話
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結果的に、アリステアの提案はほぼそのままの形で通る事になった。
ただ「3年経過で3項目を全て一度に解除というのは厳しいのでは?」という意見を受け、消耗品の支給だけは5年に延長された。
国としても、一般人では魔石の確保がほぼ不可能である以上、それだけの能力のある冒険者の確保・育成という話には積極的に関わっていくしかない。
国からの押しつけでは反発を招く可能性があるが、今回の話は冒険者達の中から出てきた。このタイミングを逃さず推し進めるべき、という結論になった。
その際、「一冒険者に全ての金を出させるなど私のメンツが立たん」という、ごく一部からの強硬な意見があった為、支出予算は国9、アリステア1という割合で落ち着いた。
管轄は引き続き国務省、総責任者は国務長官となり、現場責任者はギルドマスターであるハインライン。
ギルドの建物に国務省の担当官は常駐するが、主として連絡と調整要員であり、各種現場対応はギルド側で行う。
さらに、「インターンシップ依頼」というギルド発注の依頼が新設された。
「中堅以上の冒険者が若年冒険者と共にダンジョンに入り現場指導を行う」というもので、同行し内部で指導、無事戻ってきて依頼達成となる。
ダンジョンはフロアごとに洞窟・草原・森・山岳等々状況が変わる。それに合わせて出現する魔物も変わるし、その状況によって戦闘や警戒の仕方、待機時の過ごし方が変わってくる訳だ。
訓練校でもそういった知識は指導されるが、いきなり問題ないレベルで行える者は少ない。やはり経験がものをいう。
そういった事を教えながら一緒に進み、成長させていくというシステムだ。
魔物と相対して他の職種がどう動くのかまでを考え、最適の行動を選択できる様になるのに、何年かかる事か。そこまで生きている者がどれだけいるのか。
それに、人に教えるには自分が理解・把握していなければならない。
改めて人に教える事で、自分が若い頃には広まっていなかった知識を知り、長年の思い込みや癖を解消する事で、教える側の知識や技術の向上にもつながる。それでいてお金も貰える。一石三鳥である。
手始めに、冒険者になってまだ3年経過していない若い冒険者に施策を説明し、装備・消耗品・住居の支援希望者を募る。ほぼ全ての冒険者が、3つ全ての支援を希望した。
それはそうだろう。
装備品の購入・メンテナンス費用、消耗品の補充、家賃(宿代)、食費、日用品費、これを全て依頼達成料や換金できる取得物で賄わなければならないのだ。それだけでいっぱいいっぱいで、金が貯まらない。大怪我で不自由な身体になったらと考えると、将来的にも不安は大きい。
大きい魔石を拾う、遺跡でお宝を見つける等、一発当ててしまえば一気に楽なるだろうが、そんな事は早々無い。そして、大きな魔石を持つ深層の魔物は強い。八方塞がりである。
既存の冒険者には、各自が必要な物を貸与・支給され、若年冒険者支援の体制は整いつつあった。
この国にはダンジョンが4つもある。これは嬉しい事ではあるが、そこに入り魔石を持って出てくる人間がいなければ、何箇所あっても宝の持ち腐れというやつだ。
職業訓練校でも、冒険者支援の体制の構築についての話がされている為、年度途中での進路相談でも、冒険者を希望する子供がきっと増えてくるだろう。
アリステアは、もちろん魔石の確保も気になるのだが、結局の所見知った若い子が死んでしまうのが嫌なのだ。
まだまだこれから色々な問題が出てくるだろう。
でも、今の自分は周囲の人に恵まれた。
国王や国務長官も考え方が柔軟で、ただの冒険者のこんな突拍子もない意見にも耳を傾けてくれる。
ギルドの皆も引き続き協力してくれるだろう。
完全に体制を整え、皆が安心してダンジョンに潜れる様になる様、もう少し頑張ってみようと思うのであった。
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新人冒険者の支援が始まって2年が経過した。
若年層の死亡率・損耗率(手足欠損等の大怪我)は劇的に下がり、金に困って犯罪行為に走る者もほとんどいなくなった。
中堅どころの冒険者の質も向上しており、多少の細かい修正点は出てくるが、施策は9割方成功と言えるだけの成果は出ている。
さらに、想定外の効果が出てきた。
一般市民から「若い冒険者は元気が良くて礼儀正しい」「以前までは皆荒っぽくてギスギスしていた。表情も険しかった」「酒飲んで喧嘩したり物を壊したり、道端で寝てたりも多かったが、今はほ殆ど見かけない」という意見が届けられた。
仲間内で宿舎で生活し、先輩達にダンジョンで指導を受け、社会人としてきちんと育ってきている様だ。
そして何より、やはり「金」だ。お金にゆとりがある生活は、心にも余裕が出る。
宿屋組合だけは、宿舎ができた関係で「客が減って売上が落ちた」というクレームを入れてきた。
実際、若年層が利用しなくなり宿の稼働率は下がっている様だ。
そのため、とりあえず5年間を目処に補助金を出す事になった。
これから、冒険者全体の人数は間違いなく増加する。これは職業訓練校で定期的に行われている、子供達への進路調査の結果からして明らかだ。
この制度で宿舎に入れるのは、最初の3年間だけである。
それ以降は、制度開始前の様に自分で家や部屋を確保するか、宿屋に泊まり続けるかしかない。
その為、宿泊客が減るのはこの最初の数年間だけで、その後は自然と増えてくると予想されている。
さらに、新ダンジョンの運営も好調の様で、王都の冒険者ギルドでは見た事のないパーティをちらほらと見かける。地方から出張してきている様だ。
そういった事もあり、宿屋の売上問題はそれ程深刻な話にはならないだろう、見られている。
来年度からは、他の一部の街でも取り入れる事が決まっている。楽しみなところだ。
そして、アリステア自身にも大きな変化があった。
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