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第175話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


ダンジョンが無事にオープンした為、皆意外と手持ち無沙汰です。ですが、キースだけは『呪文』の指導、ダンジョン周辺の土地の農地への転用と、授与式までをちょっと忙しく過ごします。できる子は頼りにされるので仕方ないです。


□ □ □


「先生おはようございます。今日もよろしくお願いします」


「おはようございます殿下。こちらこそお願い致します」


面会はいつもの挨拶から始まった。


「農地についてのお話もありますから、補佐官のヨークを同席させますがよろしいでしょうか?」


イングリットの3人の補佐官のうち、農政関連を扱っているのはヨークだった。担当した理由は、実家の領地が農業が特に盛んな地域で、子供の頃から親しみがあるからだ。別に農業自体を専門に勉強したとか、そういう話では無い。もちろん、仕事を行う上で必要な知識は身に付けてはいるが。


「もちろんでございます。そもそもこちらからお願いした話ですので。ヨーク様初めまして。キースと申します。よろしくお願い致します」


「よろしくキース。殿下や他の補佐官から色々話は聞いているよ。会えるのを楽しみにしていたんだ」


そう答えるヨークは笑顔だが、その目付きは決して緩いものでは無い。


(ハンナさんや殿下から話は聞いてはいるが、俺自身がどう感じるかはまた別問題だからな。一旦先入観を捨てて、彼の発言と態度を見させてもらおう)


(……こちらを見定めようというのが伝わってくるな)


当然キースもその意図には気が付いている。笑顔を返しつつも気を引き締める。


「ニバリ師、昨日は護衛ありがとうございました」


「とんでもございません。何事もなく終わり胸を撫で下ろしました」


「また機会がありましたらお願い致します。では、まずは、近衛騎士団と魔術学院での指導の件ですが……」


「デズモンド師らが『呪文』を習得するまでの間、私とニバリとで指導を進めたらどうかと思いまして」


キースは昨日ニバリと調整した計画を説明する。


「こちらとしては大変ありがたいお話です。近衛騎士団も学生達も、展示を見た事でかなり熱意と意欲が高まっている様ですから」


「我ながら、あの展示を見て我慢できる魔術師はそうはいないだろうと思ってはおりましたが、やはりですか」


キースは満足気にうんうんと頷く。


「うふふ、城壁の様な壁もですが、あの薄黄色い『火球』も凄かったですもの。皆、自分でできる様になりたいと考えますよ。あと、これは内緒なのですが、近衛騎士団のミーティアも『呪文』の暗記に必死に取り組んでいる様です」


「そうですか、副団長が……あの方なら納得です」


キースは先日の展示と、その後の『魔力付与』の件の会議で同席したミーティアの顔を思い浮かべた。


綺麗な人だとも思ったが、キースが特に印象に残ったのは『目』だった。


(僕を見ている時、魔法陣が書かれた研究書の写本を読み解とこうとしている時、実際に魔法を展開している時、眼力というか、一瞬足りとも見逃さないという執念の様なものを感じたな……あの歳で副団長になるには、あれぐらいでないとダメなんだろうな)


「それでですね、教えに行く為に近衛騎士団と魔術学院に、直接『転移の魔法陣』で移動させていただけたらと思いまして。いかがでしょうか?」


「対になっている魔法陣の管理は先生がなさるのですよね?それであれば、騎士団長と理事長先生が許可すれば私からは特にはございません。まず無いとは思いますが、もし断られたら仰ってください。こちらから指示します」


そう答えると、イングリットはお茶のカップを手に取る。


「殿下、魔術学院はまだしも、近衛騎士団へとなると、王城内に直接転移する事になります。よろしいのですか?」


ここで初めてヨークが口を開いた。魔法関係は専門外である為黙っていたが、これを認めると、キースらが誰にも気づかれずに王城に入れてしまう事になる。さすがにこれは流せなかった。


「ヨーク、先生達は私や陛下と会う為に、既に何度も王城内に入っています。こちらに悪意を持っているのであれば、既にどこかに『転移の魔法陣』を設置されて、自由自在に出入りできる様になっているでしょう。それに、近衛騎士団の建物は『王城の敷地内』ではありますが、『王城内』ではありませんから」


「それは……確かにその通りですね。承知致しました」


ニバリはこのやり取りを聞いて内心舌を巻いた。


(この補佐官殿、殿下のこのお答えが分かっているのに、それをこちらに意識させる為にわざと質問したな。殿下の補佐官ともなると、ただの優秀な文官という訳では無いか)


「ありがとうございます……これは皆にも言われたのですが、転移に慣れてしまうと、少しの移動の手間も面倒というか億劫に感じる様になってきてしまいました」


キースは、王都に移動する際は、冒険者ギルドの本部に転移している事を伝える。


「そうだったのですね……ですが、それは仕方の無い事なのではありませんか?魔導具が世の中に流通し始めた時と同じ事かと」


照明、冷蔵箱、浴槽、調理台などの魔導具は、当初は遺跡から発見された分しか無かった。性能やエネルギー効率は大した事がなくとも、数が限られていた為高額で取引されていたのだ。


しかし、研究が進み、これまでに発見された魔導具は全て量産されており、価格も平均年収程の一般市民なら手が出る程にはなっている。


エストリア王国は、他国に比べれば魔石の国内流通価格が安い為、それも魔導具の普及に影響した。魔導具だけ手に入れても、動力源である魔石が高ければ日常使いにはしづらい。それでは魔導具も広まらない。


王都内にある飲食店では、調理台の魔導具の設置率は5割を超え、冷蔵箱は9割の店舗が使用しているという調査結果もある程だ。


「逆に言えば、少しでも早く皆がそう感じる様に『転移の魔法陣』の普及に努めたいと思います。それには作成者である先生のお力が欠かせません。どうかこれからもよろしくお願い致します」


「かしこまりました。私にできる事は何でもお任せください」


□ □ □


「北西国境のダンジョン周辺を農地にする件なのですが、昨日ご連絡をいただいてから、地図を参考にちょっと考えてもらいました」


イングリットがそう言うと、ヨークが大きな紙を広げ始める。そこには、貯水池や水路、一面一面の畑の位置などが記されており、いわば開墾する農地と必要施設の設計図であった。


「昨日の午後連絡を受けて、これだけのものを現地を見ずに地図だけでお書きになられたのですか?凄い……」


図面を見つめるキースの口は半開きだ。とても『ちょっと考えてみた』という次元の代物では無い。


(いつも人を呆然とさせる側である先生の、ポカーンとしているお顔は珍しいですね!)


「ありがとう。一応これも専門の一つなのでね。ただ、やはり一度現地を確認して微調整をする必要はある。エドゥー川の蛇行の程度などは、ここにある地図では分からないからね」


「た、確かにその通りですね……」


他に手段は無かったとはいえ、川の流れを変えた張本人である為歯切れが悪い。


「ご都合さえ良ければ、今からでも現地を見に行かれますか?移動はすぐですし、上から見下ろしながら図面と照らし合わせれば確認もしやすいと思うのですが」


イングリットとヨークは顔を見合せた。


「ヨーク、この後の都合はいかがですか?何か急ぎの仕事とか、人と会う約束など大丈夫ですか?」


「私は特に問題ありません。ですが殿下、護衛も付けずに行くと、また大変なことになりますよ。その辺の準備が必要です」


ヨークは、誰がどう大変な事になるのかは言わなかったが、ハンナの事を指しているのは間違いない。


「確かにそうですね……ではその辺りを調整して、少し早いですが昼食を取ってから行きましょう。お腹が空いたまま仕事をするのは精神的によくありませんから。ぜひお二人もご一緒してください」


イングリットが胸の前で両手を合わせる。


「え、ですが、さすがにそこまでお邪魔するのは……」


「キース、この後も行動を共にするのだから、一緒に動いた方がスムーズなのではないか?午後また改めてとなると、またそれだけ余計な時間が掛かる。それに、昼食は殿下と補佐官達だけだ。特にかしこまった席でもない」


(いや、それだけいれば十分かしこまるのだが……だが、これはもう断れる流れでは無いし、時間の無駄というのも間違いない。仕方がないか)


ニバリは、貴族や国から指名されての依頼もこなしてきた経験と、4年以上メルクス伯爵と一緒に過ごした事で、多少は貴族という存在には慣れてはいる。


だが、それでも『王城内で王女殿下達とランチ』などというのは避けたかったが、イングリットも補佐官達も忙しい。時間に余裕のある自分達が合わせるべきなのは理解していた。


それに、そもそも相手は次期国王とその腹心である。断れる話では無いのだ。


『エストリア貴族筆頭』の矜持と、殿下の現状とキースの各種貢献がある以上、露骨な不利益を与えてくる事は無いだろうが、良い関係である方が望ましい。


「……ごもっともです。承知致しました。それではお邪魔させていただきます」


キースも当然その辺は理解している。最初は戸惑ったがすぐに笑顔で招待に応じた。


「はい、どうぞどうぞ!今日の献立は、わざと焦げ目が付くように炊いたご飯に、海の幸が入ったとろみのあるスープをかけて食べるのです。おコゲの香ばしい香りとカリッとした歯応え、スープには海鮮の出汁がしっかり出ていて、そのスープが染みたお米のジュワーっとした味わい、とても美味しいのです!ぜひご賞味ください!」


「それは……確かに美味しそうですね!楽しみです」


イングリットの説明に料理の味を思い浮かべたキースは、笑顔で大きな瞳をぱちくりさせ輝かせた。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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