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第173話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


キリが良かったので、少し短いです。


【前回まで】


共用開始セレモニーを行い、メルクス伯爵とハインラインが挨拶をしました。それを魔法で隠れながら、国王とイングリットらも見届けました。


□ □ □


セレモニーが始まる前の早朝、デヘントとバルデはビアンケの街の冒険者ギルド支部の倉庫にいた。


倉庫には合計で4人の男がいた。ビアンケの街の支部長のポートと、支部の職員のアルだ。


アーレルジ王国の担当官が、ドゥーゼール子爵からフルーネウェーフェン子爵に交代した事をあえて駐屯地に伝えず、その後行方不明になっていた、あのアルである。


だが、その姿は普通では無かった。洒落者で鳴らしていた男だったのに、髪も髭も伸び放題で、顔色も薄っ黒く、瞳は濁り目全体が落ち窪んで、頬がこけている。浮浪者と言ってもおかしくない程だ。


更に、猿ぐつわをされ、手足も縛られ床に転がされ、3人に見下ろされている。


「それにしても支部長、よく見つけたな。あれだけ探しても見つからなかったのに。どこにいたんだ?コルナゴスか?」


「そうだ。コルナゴスのそういう人間が集められて働かされる作業場にいた」


「ふうん……で、裏切っていたのは間違いないんだな?」


「ああ。博打と女で作った借金があって、それをチャラにしてもらう約束でこっちの話を流したり、俺たちに嘘の情報を報告したりしていたそうだ」


「借金は無くなる約束だったのにそんな所で働いていたのか?騙されたって事か」


「そうなるな。そもそも借金を作ったその博打と女も、こいつを駒に使う為の仕込みだったんじゃねぇかと」


「……例えそうだとしても、まんまとそのエサに食いついてハメられたのはこいつだ。他の誰が悪い訳でもねぇ。こいつがギルドと駐屯地の情報を売り渡し伯爵と皆を危険に晒した事は、紛れも無い事実だ。被害も無く乗り切れたのは、まさに人智を超えた力のお陰だからな」


ポートが意外そうな顔でデヘントを見る。入念な準備を行い、不確定要素を可能な限り取り除いて事に当たるのがこの男だ。『人智を超えた力のお陰』などと言うのは聞いた事が無かった。


「支部長、前にも言ったが、あの襲撃を無傷で切り抜けられたのは、色々な幸運が重なっただけなんだ。王都から訪ねてきた冒険者達があと鐘半分でも遅かったら、俺達も駐屯地の建物と同じ様に丸焦げになって転がっていただろうさ。今のこいつと同じ様なもんだ」


デヘントは置いてあった椅子を跨ぐ様に座り、腕と顔を背もたれの上に乗せた。


「結果的に無事ではあったが、事前に話が届いていればいかようにも備える事はできたし、呼び出しを受けた伯爵は適当に理由をつけて会いには行かなかった。どう考えても危ないからな。伯爵が動かなければライアルさん達も駐屯地にいた」


背もたれに体重を掛け、椅子を前後に揺する。


「だが、こいつがわざと伝えなかったせいでそれは潰された。伯爵は何の準備もできずに見ず知らずの相手と交渉する羽目になり、俺たちは死ぬ一歩手前までいった。到底許されねぇ」


床で僅かに身動ぎしたアルを見つめる。


(すげぇ目だ。許されねぇと言いってはいるが何の感情もこもってねぇ。『ちょっと手間が掛かるゴミをどうやって片付けようか』と考えているだけだ)


バルデは、その目が自分に向けられている訳でも無いのに、身震いした。


「だが、困った事に、こいつはただの裏切り者で犯罪を犯した訳じゃねぇんだよな。片付けるのは簡単だが、それだとこっちが犯罪者だからな」


(……何と言うか、うちのリーダーは変なところ気にするよな)


「直接手を出せねぇのは残念だが仕方ねぇ、王都に送って『再教育』だろうな。一応本部に確認してくれ。もちろんここには戻せねぇだろうから、補充の人員の話を一緒した方が良いだろうな」


「ああ、承知した」


デヘントは椅子から立ち上がりながら、床に転がされているアルを一瞥すると、バルデと共にギルド支部を出ていった。


□ □ □


「メルクス!そなたらしい良い挨拶であったな!長きに渡りご苦労であった!」


「伯爵、これまでお疲れ様でした。最後まで〆ていただきありがとうございます」


管理事務所に戻ったメルクス伯爵らを出迎えたのは国王一行だった。


「ありがとうございます。しかし、本当にお見えになるとは……お姿が見えなかったので、ご都合がつかなかったのかと思っておりました」


「何を仰います!都合というものは、空いてなければこじ空けるのです!」


イングリットが腰に手を当て胸を張る。補佐官のハンナは隣で苦い顔だ。


「戻る準備は整っておるのか?」


「はい、身の回りの物も既に転送済みでございます。家具類は施設の備え付けに致しましすので、問題ございません」


「皆さんとの挨拶はいかがでしょうか?お済みですか?」


「それも昨晩のうちに済ませました。それに、3日後にはまた顔を合わせますので」


メルクス伯爵は冒険者達を見て笑う。そんな伯爵を見て、ライアル達は昨晩のできごとを思い返していた。


□ □ □


昨夜の夕食は、伯爵が滞在する最後の夜という事で、事前に3パーティと伯爵で取る事が決まっていた。いつもより品数が多く、デザートまでついた食事を終え、お茶を楽しんでいたところで、伯爵が立ち上がる。


皆急に立ち上がった伯爵に、不思議そうに目を向けた。少しだけ眉間に皺を寄せた真面目な表情を見て、居住まいを正す。


伯爵の動きに合わせて、側仕え達が酒瓶を伯爵の前に、グラスを各自の前に置いてゆく。


「皆グラスを持って立ってくれ」


そう言うと、伯爵は酒瓶を手に取った。『照明の魔導具』の、温もりを感じる光に透けて瓶の中身が見える。その残りは4分の1といったところだ。全員に注げば空になるだろう。


(……お土産で買ってきたお酒だ)


瓶に貼られたラベルを見て、自分が選んだ酒だと気が付いたキースは、伯爵が飲んでくれていた事に嬉しくなった。


メルクス伯爵は席を回って手ずから酒を注ぎ始めた。


「ライアル、マクリーン、シリル、ニバリ。4年半もの間護衛を勤めてくれたこと、心より感謝する。『エストリア筆頭』と名高いそなた達がいたからこそ、アーレルジは暴発しなかった。これは間違いのないことだ。ありがとう」


「恐れ入ります。ですが、まだ明日もございます。最後まで油断せずに努めてまいります」


生真面目なライアルの言葉に頷く。


「デヘント、ラトゥール、ローハン、バルデ。確かにそなた達はライアル達に比べたら地味かもしれん。だが、情報というものは、その内容と公表するタイミング次第では、世の中をひっくり返す程の威力を発揮する。どちらが上か、という話では無い。どちらも同じぐらいに重要なのだ。まあ、そなたらに一々言うまでも無いだろうが。それをきちんと管理、運用できているそなたらも、まさに『王国筆頭』よ」


そう言いながら各自のグラスに注いでゆく。


「『あの交代』を事前にお知らせできなかった事だけが心残りではございますが、格別なご評価をいただき感謝致します」


「そして、キース、アーティ、フラン、クライブ。共に過ごした期間は短かったが、そなたらがあの日あの時ここに着いておらなんだら、私たちは子爵にしてやられ王都へ引き上げていただろう。今ここにいる何人かは、命を落としていた可能性もある。本当に、本当に、来てくれてありがとう。特にキース。最終的にダンジョンが確保できたのは、そなたの力に拠るところが大きい。心より礼を言う」


「お役に立てて何よりです。私も様々な経験が積むことができました。ありがとうございました」


皆笑顔でキースとメルクス伯爵を見つめている。


「あまり長くなってもいかんな。我が友人達よ!我らはあの非常に苦しい状況の中から、見事勝利をもぎ取った!胸を張って堂々と王都に凱旋しよう!乾杯!!」


「乾杯!!!」


皆が唱和し一口で飲み干す。


「おっほっ、ごほおほ」


量的には僅かだったが、飲みつけないキースがむせた。予想していたマクリーンとフランが背中をさする。


「……これからはこちら方面の修行も頑張ります。大人ですので」


落ち着いたキースが右手を頭にやり、少し恥ずかしそうに笑った。


□ □ □


「皆、此度も警備ご苦労であった!また授与式で会おう!」


「先生、皆さん、ありがとうございました。もちろん何か用事があれば何時でも構いません。ご連絡くださいませ」


「ではな。一足先に失礼する。また授与式でな」


アルトゥールとイングリットらにメルクス伯爵(とその私兵達)を加え、彼らは『転移の魔法陣』のある部屋へと入っていった。

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