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第172話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


視察中に鍛冶屋ですったもんだありましたが、無事に解決しました。


□ □ □


ダンジョン供用開始当日となった。


管理事務所の執務室には、メルクス伯爵、ハインライン、ハインラインの部下となる職員達と、護衛を担当する伯爵の私兵とライアル達がいた。


「よし、皆さん準備整いましたな?それでは参りましょうか」


伯爵の言葉を合図にシリルが先行して外に向かう。通路と事務所周辺の様子を確認し、ライアルが『異常無し』の報告を受てからメルクス伯爵が動く。


正直なところ、三方向を川で囲まれ、残る一方も概ね平野という見渡しの良い立地、更に敷地外周には<探査>の魔導具も設置されているという状況で、ここまでの警戒は必要ない。


だが、護衛対象に万が一があってはならないのだ。それにこれで最後という事もある。メルクス伯爵がここを出るまで、万全の体制でやり通すのが筋というものだ。


この後、ダンジョン入口前で簡単なセレモニーが行われる。このセレモニーでの挨拶が、メルクス伯爵のここでの最後の仕事となるのだ。


(よくもこの日が迎えられたものよ)


歩きながらメルクス伯爵はこれまでの日々を思い返した。ダンジョン確保以降、自分でも幾度目かも分からない。


様々な苦労があったが、アルトゥールやイングリットらが視察に来て、見張り台に登った時の二人のやり取りを見て『全てが報われた』と感じた。


直接手を出したら戦争になりかねない中で、いかに整備をさせない様にするか。はっきり言って先は見えなかったが、自分にできる最善を尽くした。


その結果、『所有権と売上97%確保』という、想像すらできない形で全て解決できた。できてしまった。


(陛下が譲位されても、イングリット殿下と国務長官がいらっしゃれば、変わらず国は治められるであろう。既にかなり浸透しつつある様だ。だが、国の外はどうだ?)


このダンジョンが運用開始となる事で、エストリアでは5ヶ所のダンジョンが稼働する事になる。周辺諸国は多い国でも2ヶ所、北のターブルロンド王国などは、片方が小規模の為実質1.5ヶ所といった規模だ。


ダンジョンは多ければ多い程良い。魔石は劣化しない為、そのまま保存できる。産出量が十分であれば、国内での流通価格を下げる事ができるし、輸出量を増やせれば国内分より割高な価格設定と関税により、一層儲かる。


(それに、相手はどうしても魔石が欲しいのだ。そうなると、あらゆる交渉事をにおいて『魔石の輸出を盾に取られる可能性』を考ねばならぬ。これでは常に一歩引いた、ぎりぎりを攻められない手ぬるい交渉になり、ますますこちらが有利になる)


だが、そんな相手の足元を見て、こちらばかりが得をする様な不平等な条約ばかり結ぶ訳にもいかない。反感を抱かれ、周辺国同士で手を組んで対抗してきたり、爆発する可能性もある。取引量を増やしたら単価を少し下げる等の、調整も必要だ。


(その点、キースの譲歩案は誠に的確だった。あの時はあれ程の内容にただただ驚いたが、今なら納得だ)


そういった対外的な交渉であれば、メルクス伯爵にも出番がある。というより間違いなく彼に回ってくる。なんと言っても、絶体絶命の状況をひっくり返しダンジョンを勝ち取ってきた英雄の一人だ。アルトゥールやイングリットとの関係が良好というのもある。


(まあ、なんにせよ、これからも自分の力が出し切れる場で全力を尽くすのみよ)


そう考えながら、前方を見据え歩みを進めていった。


□ □ □


メルクス伯爵らが移動を開始する前から、キースは見張り台の上に陣取り、敷地内外360°を<探査>と<視力強化>の魔法で警戒していた。


ここからならどの方向もかなり遠くまで見渡す事ができ、こちらに向かってくる者にも気が付きやすい。


何よりも、二つの街、駐屯地があった東の森とその下に広がる平野、ダンジョンを取り囲むエドゥー川の流れと、方向によって様々な景色が見えるのがお気に入りだった。


見張り台からダンジョン入口に目をやる。


入口周りには、複数の冒険者パーティをはじめ、各施設の職員らで黒山の人だかりだ。皆の注目は完全にダンジョン入口周辺に集中している。


(よし、これならもう大丈夫だな)


鞄からいつもの書類筒を取り出し、その中から一枚を選び出す。『物質転送の魔法陣』だ。そして、魔法陣を広げ『可』とだけ書かれたメモを転送する。


すぐに魔法陣を片付け<浮遊>の魔法で、見張り台から管理事務所の出入口前に降りた。


すると、誰もいないはずの事務所の中から、複数人の男女が出てきた。


「陛下、殿下、おはようございます」


「おうキース!おはよう。手間かけさせてすまんの」


「先生おはようございます。今日もよろしくお願いします」


建物から出てきたのはアルトゥールとイングリットだった。


更に、イングリットの補佐官であるハンナ、イングリットの側仕え兼護衛のレーニアとマルシェもいる。


だが、建物外に出てきたハンナとマルシェの様子がおかしい。顔色は青白く手で胸を押さえゆっくりと呼吸を繰り返している。レーニアは顔色は少し良くないが、そこまででは無い様だ。


(あ……これはあれか。『転移』に慣れていないからか)


『転移』自体は一瞬である為身体に影響は無い。だが、『王城内から1500km先のダンジョンへの移動』という事実に、心の整理がつかないのだ。


(こればかりは個人差もあるし、慣れてもらうしか無いな)


だが、病気では無い事もあり、彼女達が落ち着くのにそれ程時間は掛からなかった。それに、国王やイングリットをいつまでも待たせる訳にはいかないのだ。この辺りは国の中枢に仕える者の矜恃というやつである。


「念の為<認識阻害>の魔法を掛けます。声はお出しになりません様にお願い致します」


キースが魔法を掛け移動を開始した。


本当は先日と同じく3人で行こうと思ったのだが、ハンナが、護衛と補佐官のうち誰か一人を同行させるべきと、強硬に反対した。それを受けティモンド伯爵が留守番となり、このメンバーとなったのだ。


一行がダンジョン入口脇に到着すると、ちょうどメルクス伯爵の挨拶が始まるところだった。正面は混雑している為、真横辺りに回り込む。位置を決めたところで、予め出しておいた『結界の魔法陣』を地面に置き起動させる。


「誰もこちらを見ている者はおりませんね。<認識阻害>は十分に効果を発揮している様です」


事前に知らされていたり、アリステアの様な特性でも無い限り、キースの<認識阻害>を抜くのは難しい。


「それでは、供用開始に伴い、臨時管理官を勤められているメルクス伯爵よりご挨拶いただきます」


管理事務所職員の進行を受け、メルクス伯爵が前に出る。


「まずはこの場に集まってくれた冒険者と各施設の職員の諸君に感謝を。ありがとう。そして、施設の準備が整ったにも関わらず、供用開始がずれ込んだ事を謝罪する」


メルクス伯爵は一旦言葉を切り、全体を見渡す。誰もが伯爵を見つめ、続く言葉を待っている。


「ダンジョンが生成されて約4年半、遂に運用が開始される運びとなった。交渉担当者として、これ以上の喜びは無い。既に承知しているとは思うが、このダンジョンの施設の中には、ここにしかないものもある。どの施設も、冒険者の皆が目的を果たし帰って来る事を最優先に考えて作られているが、使ってみて初めて分かる事もある。利便性向上に繋がる提案は大歓迎である。その辺もよろしく願いたい。それでは、初代の管理官に就任される方を紹介しよう」


メルクス伯爵が言葉を切りハインラインをチラリと見て頷く。


「非常に有名な人物である為、中には見知っている者もいるだろうか?50歳を過ぎていればあるいは、といったところか?そう、元冒険者であり、王都の冒険者ギルドでギルドマスターを務め、引退後に爵位を賜った、ハインライン・ウォレイン男爵である」


集まった人々、特に冒険者達からどよめきが起きる。


「この人があの伝説の……」

「90過ぎのはずだろ?なんて身体してんだよ……勝てる気しねぇ」

「ありがたや、ありがたや……」


「私が今更言う必要も無いと思うが、『北国境のダンジョン』発見の際には、冒険者達を率い見事に確保を果たし、白銀級冒険者アリステアらと共に新人支援の制度を発足させ、適切な管理、運営で世間に定着させた。皆も若い頃には制度の恩恵に預かったのではないかな?」


メルクス伯爵の言葉に冒険者は皆頷く。


金も技術も装備品もツテも無い新人が、まともに活動できる環境を整え、それを現場責任者として指揮した。大変な功績である。


「ただいま紹介に預かった、ハインライン・ウォレインだ。ここをより良い施設にするべく、気がついた事は何でも言ってきてほしい。何事も最初が肝心だからな。もちろん何か困り事でも構わない。自分で言うのもなんだが、大抵の事は解決できると思う。よろしくお願いする」


(なんと言うか、凄い挨拶だな……まあ、実際何とかできてしまいそうだが)


警戒配置中のアリステアは、挨拶の内容に呆れと感心半々の気持ちを抱いた。


メルクス伯爵が言葉を続ける。


「あと、これはあくまでもお願いなのだが……承知の通り川一本向こうはアーレルジ王国である。ダンジョンの所有権の問題は全て解決し、約定も結ばれてはいるが、無警戒で良いかと言われればもちろん(いな)だ。冒険者だけでなく、各施設の従業員も含め、全ての人々が油断せずに過ごしてもらいたい。もし川向うの様子が常と違う、ビアンケの街で妙な噂を耳にしたなどあれば、すぐに知らせて欲しい。真夜中でも全く構わないし、結果的に何も起こらなくても気にする事は無い。自分達の命と財産と仕事場は自分達で守る、これを常に頭に入れておいて欲しい。以上をもって挨拶とする。私はこれで王都に戻るが、ここが国一番のダンジョンとなる日を楽しみにしている。身体に気を付けて頑張ってほしい。ご清聴ありがとう」


メルクス伯爵が進行役の職員に向けて頷く。


「以上をもちまして、共用開始に伴うセレモニーを終了といたします。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。施設職員の方々は、速やかに通常業務にお戻りください。冒険者の皆さんは、事前の申請に基づきダンジョンへとお進みください。繰り返しご連絡します……」

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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