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第171話

【更新について】


2話更新の2話目となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

「はい、鍛冶場で作業している時に、炉の中の火が大きく爆ぜて石炭の欠片が飛んできました。その時欠片が妙にゆっくりというかはっきり見えて……当たると思って目をつぶった瞬間『カチン』という音がしました。熱くも痛くもないのでおかしいなと思って目を開けたら、足元にその欠片が落ちていたんです」


「……それもご加護の一つですね。あなたを仕事中の怪我から守ったのです」


(おいおい、マジかよ!こいつは一儲けできるんじゃねぇか?『神の加護を賜いし若き天才が打つ神気宿りし剣』とかいって売り出せば……ウヒヒ)


話を聞いたイヴァンの頭の中では、目まぐるしくソロバンが動き始めた。


祖父は内心ノリノリだが孫は困惑顔でフランに尋ねる。


「あの、神気……ですか? これって勝手に入っちゃうものなんですか?それを込めずに鍛えるのは無理ですか?」


バッソからの予想外の質問に、皆意外そうな顔になる。一儲けを考えていたイヴァンは、今にも悲鳴をあげそうな顔だ。


「普通、若い子がこんな事を言われたら、得意になって打ちまくるものだと思ったのですが……どうやら偏見だった様ですね。失礼しました」


「バッソ、どうしてそう考えるのですか?私達は神官ですので、別に悪い事では無いと考えるのですけど」


神気を帯びているという事は、神の加護が付与された武器、という事だ。『魔力付与』と同じく、切れ味も硬さも上がる。


「ええと、なんというか……爺ちゃんが言う様に、俺なんて鍛冶屋としてはまだまだ半人前なのは間違い無くて……そんな程度の腕前なのに『作った物に神気が宿る』なんて話が広まってお客さんが増えたら、『神気はまとっているけどデキはあと一歩な武器』が出回る事になりますよね?そして、冒険者達はそれに命を預ける……それはダンジョンに店を出す鍛冶屋として良いのでしょうか?」


「なるほど……職人として中途半端な品物を出す事はできない、という事ですね?」


フランの言葉にバッソは頷く。


「だがね、バッソ。先程ライアルさんが言ってくれた通り、今のお前が打つ剣はそこまで中途半端なデキでは無いよ?決して悪くない。あれより程度の低い剣は世の中にいくらでもある」


「ありがとう父ちゃん。でもね、実際『決して悪くない』程度なんだろ?俺もまだあれじゃ納得できない」


父の方を向いて笑顔をみせた後、フランに向き直る。


「ご加護はほんとありがたいのですが、自分でどこに出しても恥ずかしくないと思える程度になるまでは、ちょっと待ってもらえたらなと。あと、打つ場所と力加減が初めから分かっててその通りに打つだけなら、成長しないと思うんです。素材の状態を把握して、打つ箇所や力加減を試行錯誤しながら失敗と成功を繰り返してゆく、その積み重ねが成長に繋がると思っていますから。それに……」


バッソは少し迷う様に言い淀んだが、顔を上げる。


「子供が生意気言うなと言われそうですが……そんな簡単に一人前になれたり、渾身の一振みたいな物が打てたら面白くないじゃないですか!」


その目は力強く挑戦的で、遥か先を見据え輝いている。


(……こりゃ神様が気に入るのも納得だわ。既に素晴らしい職人じゃないか)


バッソの思いの丈を受け、この場にいる全員が、鍛治の神がなぜこの少年に加護を与えたのかを理解した。先程まであんなに不敬な事を考えていた、イヴァンですら察した。


「バッソの考えは理解しました。グレンナディス様も、その向上心と心根がお気に召されたのでしょうね」


「でも、どうなのかしら?神気を込めずに打つことが果たして可能なのでしょうか?」


「そもそも、この様な話は聞いた事がありませんからね……」


神官3人組は皆一様に首を傾げる。彼女らが知らないのであれば、エストリア国内に分かる者はいない。


部屋の中が『どうしたもんだこれ』という空気に満ちた時、何やら焦げた臭いが漂ってきた。


「おい、何だ?火事か?」


「いや、まだ火を起こしていないんだぞ?そんなはずは」


「でも確かに焦げ臭いぞ!どこだ?探せ!」


職人達だけでなく、皆で臭いの出処を探す。明日はダンジョンの共用が開始されるのに、前日に火事など起こしたら大問題である。


「おい!なんだこれ……どういうこった……」


見つけたのはイヴァンだった。部屋の隅で呆然と立ちすくんでいる。そこにはいわゆる『神棚』が設置してあった。鍛冶屋なら火事場に必ず設置してあるもので、作業開始時と終了時にお祈りをするのが一般的だ。


皆が近寄ってきて、その『かまど』を模した神棚を覗き込む。そして目にした物に息を呑んだ。


神棚に祀られていた守りの木札に、焼け焦げた跡が付いてたのだ。


「焦げ臭の元はこれだな。これは記号?文字?何かどこかで見た事ある気もするな……誰か読める人いるか?」


アリステアが振り返ると、神官3人組が頬を染め瞳を潤ませて立っていた。明らかに興奮している。


(この3人がこんなになるなんて、なんだというんだ?ただの神様案件では無いという事か?)


「アーティが目にしたのはおそらく神殿でしょうね。これは『神代文字』というものです。神殿の壁などにも彫られていますから、それで記憶にあったのでしょう」


「フラン様、マクリーン様、これは……やはりそういう事なのでしょうか?ああ、こんな一生に一度有るか無いかの場に立ち会えるなんて!感激です!」


「焦げ跡の文字の内容からも間違いありません。まさに神の奇跡です」


「バッソ、先程の件ですが、もう心配する必要はありません。打っても神気は入らないでしょう」


「あ、あ~、神官の皆さん?興奮と感激の中申し訳ないのだが、話が全然解らないぞ?説明してもらっても良いかな?」


「す、すいません。余りの出来事に舞い上がってしまいました。では簡単にですが説明致しますね」


先程までの興奮とは違う理由で頬を染めたフランが、説明を始めた。


「この文字は『神代文字(しんだいもじ)』と呼ばれています。ご信託を受けるとこの文字の文章が頭の中に浮かぶ為『神の用いる文字』とも言われており、神殿に入ると最初に学ぶ事の一つです。古い石板に用いられていたり神殿の壁などに彫られていたりもします。現在の言葉にも対訳されていますが、『神の用いる文字』ですので、神殿の外で使われる事はありませんし、神殿内でも一般的な業務などでは使用していません。先程の焦げ臭は、この文字が焼き付けられた時のもので、それを行ったのは間違いなく『鍛治の神グレンナディス』様です。文章の最後のこれ、これはグレンナディス様を表す聖印ですから」


マクリーンがフランの後をついで説明する。


「ご信託を賜るなど、毎日心を込めて祈っている神官でも稀です。一生賜れない者の方が圧倒的に多いのですよ?それに、礼拝堂の祭壇の前では無いのも非常に珍しいです。礼拝堂と祭壇は神に声を届けやすくする為の施設で、そこ以外の場所では、こちらの声が著しく聞こえづらくなると言われていますから」


「それで、ご信託の内容ですが『承知した。その意気や良し。これからも変わらず励め』と書いてあります。という事は、バッソの『神気が入らない様に』という意志を汲んでくれたと思われます。仕事中の怪我防止などはそのままかもしれませんが、それは問題ありませんよね?本当に、これは歴史に残る大変な事。この場に立ち会えた事は、まさに神のお導きと言えるでしょう。末永く語り継いでいきたいと思います」


感激した面持ちのリエットの言葉に、フランとマクリーンも頷く。


「ありがとうございます。少しでも早くご期待にそえるように励んでいきます」


バッソが目を閉じ神棚に手をあわせる。全員集まり同じ様に祈った。



□ □ □



「まさかの事態に驚いたが、とりあえずこんなところか?鍛冶屋の技術は客に提供するに十分と判断する。明日からよろしく頼むぜ!」


「はい!お任せください!こちらこそよろしくお願いいたします!」


皆が鍛冶屋を出ようとした時、一人の手を挙げた人物がいた。


イヴァンである。


「あ、あ~皆さん、少々お時間よろしいでしょうか?」


しおらしいというか、先程までと余りにも違う態度に皆が顔を見合わせる。


「まず、バッソ。さっきまでの言葉を謝る。すまんかった」


そう言って頭を下げる。


(親父が人に頭を下げて謝る姿を目にしたのは初めてかもしれん)


バッソの父は内心驚愕した。商売相手に謝罪する事ぐらいはあっただろうが、身内や職人相手に謝っている姿など見た事が無かった。


「ウラソフ、ワシは明日の供用開始を見届けたら王都に戻る。ここにいてもできる事も無いし、邪魔になるだけだからな」


イヴァンは妙にさっぱりとした、遥か遠くを見る様な目で息子を見た。


「……どうしたんだ親父?」


(この目……これはもしかして……)


フランはイヴァンの横顔を見ながらある事を思いつく。マクリーンとリエットをちらりと見ると、二人もフランを見ていた。同じ事を考えている様だ。


「王都に戻ったらワシはグレンナディス様の神官になる」


(やはりそうでしたか)


神官達を除いた、この場にいる全員が呆気にとられる。


「きゅ、急に何を言い出すんだよ!いや、それが悪いとかじゃないんだけど、ええっ!?」


ウラソフは困惑の極みだ。先程のご信託の時より慌てている。彼にしてみれば、経営者としてグループを切り回していた父親が神官になるなど全く信じられない。


「先程のご信託を直接目にした事が一番大きいが、店の経営からも離れた今、職人としての腕も経験も無いワシには何も無い。それであれば、全ての鍛冶職人の為に祈った方がまだ役に立てる。それにな」


そう言いながらテーブルに歩み寄り、バッソの剣の前に立つ。


「この剣を前にしても、ワシには何も感じられん!神気も見えん!神器として奉じられてもおかしくない程の神気なのだろう?それでもワシには普通の剣にしか見えん!かわいい孫が打ったという事実しかない!」


イヴァンが机を叩く音が響く。


「その神気を自分で感じたいという事ももちろんある。だが、これを多くの人達に見てもらいたい、感じてもらいたい。心の底からそう思った。だから帰ったら神官になる。ハインラインの旦那、これから皆がお世話になりますが、よろしくお願いいたします」


「ああ、その辺は任せろ。体調にだけは気をつけろよ。慣れねぇ生活で無理するとあっという間に遠くに行っちまうぞ。いい歳なんだからな」


「はい、ありがとうございます。旦那こそお気を付けて。俺より20以上も歳上なんですから」


「おう!ありがとうよ!よし、次行くか!」


ハインラインの言葉に皆は改めて鍛冶屋を出た。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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