第16話
【更新日時について】
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新ダンジョン発見の授与式から数日後、ギルドに来たアリステアは、ギルドマスターに声を掛けた
「マスター、今ちょっと時間ある?」
「お、大丈夫だが・・・なんだ?」
「この間の授与式の時にさ、報奨金の使い道について相談したいって言ったでしょ」
「あぁ、そんな事言ってたな」
「そのことなんだけど・・・」
「ふむ・・・立ち話もなんだな。奥に行くか」
職員にお茶の用意を頼み、連れ立ってギルドマスターの執務室に移動する。
向かい合ってソファーに座り、ギルドマスターが先を促す。
「で、何を考えているんだ?」
「ざっくり言うとさ、新人冒険者の支援という事なんだよね」
「ほう・・・もうちょっと詳しく」
ギルドマスターが身を乗り出す。
「でね、うまく説明できるか分からないから紙に書いてきた。これ読んでみて」
アリステアが書類を渡す。
「お、おう・・・こいつはまた随分立派な・・・まさかお前さんから企画提案書を受け取る日が来るとはな」
「私一人じゃ無理だよ。デズモンドに手伝ってもらったんだ。」
ギルドマスターは手渡された書類を読み始めた。
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【新人冒険者の初期支援】
< 概 要 >
職業訓練校を卒業した直後の、新人冒険者への装備及び宿舎の貸与、並びに消耗品の提供を行い、短期間での若年冒険者の質的向上を図る。
< 目 標 >
・新人冒険者の死亡率の低下及び定着率の向上
・冒険者自体の人数を増やし、将来的な魔石確保の安定性の向上
< 詳 細 >
・装備品の貸与
訓練校を卒業したばかりの新人冒険者は、金銭的に余裕が無い為装備品の質が低い。技術的にも未熟であり、実戦経験はほぼゼロである。一番死にやすい状態と言える。
「訓練校を卒業後3年間の間一定程度以上の装備品を貸与する。メンテナンス費用もギルド側で対応する」
・各種消耗品の供給
上記同様、金銭的余裕が無い為、ポーション類すら持たずにダンジョンに入ろうとする者が散見される。これでは生きて帰れたはずの者が帰ってこれなくなる。
「訓練校卒業後3年間は無償で各種消耗品を供給する」
・宿舎の貸与
寝起きできる場所に毎日支出がある事は余裕がなくなる。定住できる部屋を確保するには、やはり金銭が必要である。
また同じパーティ同士で生活する事により、探索中の連携力の向上、帰宅後の反省会等も実施でき、より安全性が高く効率的な活動が見込める。
同時に、敷地内に訓練場を設け、先輩冒険者との訓練や、新しい武器の取り扱いを学ぶ事ができる様にする。
「訓練校の寮の様な集合住宅を建設し、訓練校卒業後3年間は無償で寝起きできる場所を貸与する」
・その他
金銭に余裕が無い者は、犯罪行為に手を染める可能性もある。ギルド側でその芽を徹底的に潰し、全うな社会人として育てる。
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「ふぅーん・・・」「むむ・・・」
ギルドマスターが提案書を読み進めていく。
「こいつはまた大変な事を思い付いたもんだ・・・」
一言で言うと「冒険者になった若者に金を出してみんなで育てよう」という事である。
「でも、ほんとに大事な事だよ。冒険者ってさ、どう考えても最初のハードルが高すぎると思うんだ」
「まぁ・・・確かにな・・・」
「まだ18歳の子供に、借金して装備揃えろなんて言えないでしょ?今のままじゃ冒険者になる人いなくなっちゃうよ?」
冒険者がハイリスク・ハイリターンな仕事なのは皆解っている。ある程度は覚悟しているだろうが、実際に死者ばかりではさすがに敬遠されるだろう。
人間はどうしたって歳を取る。老人になってまで冒険者は厳しい。魔石を確保する為にも人を増やし、継続的に冒険者として活動してもらう必要がある。
魔石は様々な魔導具に動力源として使われ、魔導具は日常生活に完全に浸透している。特に王侯貴族を始め、金銭的に余裕のがある人ほどその傾向は強い。
「みんな今さら魔石の無い生活なんて考えられないよね?国にお金も入ってこなくなるし」
「確かにそれはもう無理だな。よし、話は解った。だがさすがに俺の一存では決められん」
「それはもちろん解ってるよ。その辺りはよろしくお願い」
「まずは国務長官にお話をするが、これはおそらく国王陛下までいくだろうな」
「でね、宿舎以外の事は、来春の卒業生から対象にしたいんだよね」
宿舎は土地を探して建てる手間があるが、それ以外は金さえあればできる。
「あとは、既に冒険者として活動していても、卒業後3年経過していない若い子は、本人が希望すれば対象にしたい」
生活基盤を整る手助けをし、仕事に集中できる環境を作るのだ。ダンジョンに潜っている時に借金の返済期限がちらついて、大怪我をしたり命を落とされても困る。
勿論、細かい管理・運営方法も決めなければならない。ギルドにそれ専門の部署が必要になるだろう。
「ギルド内でもう少し細かいところを詰めて、突っ込まれない様に準備してそれから話を持っていく。でないと国務長官相手じゃ一蹴されて終了だ」
「あぁ、あの人凄い頭切れるって話だものね・・・何か手伝える事があれば言ってね」
「おう・・・アーティ、ありがとな。本当は、これは国がやらなきゃいけない事だ。一冒険者が金を出してやることじゃねぇ」
「まぁ、そうなのかもしれないけど・・・あのお金はこうやって使うべきなんじゃないかな、って思ったんだよね」
「全く・・・お前さんには頭があがらんよ・・・バーソルトの街でもかなり遣っているんだろう?無理すんじゃねぇぞ」
「あれ?知ってた?隠している訳じゃないけど、自分から言いふらす事でも無いから黙っていたけど・・・」
「ほぼ全ての街にギルドの支部はあるからな。主要な冒険者の動きはほぼ把握してるわ」
「まぁ、そうだよね。私にとってあそこは特別だからさ。どうしても贔屓しちゃうんだ」
エヘヘと笑う顔が少女の様に、妙に幼く見えた。
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