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第166話

【更新について】


書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


魔術師だけ集まって『魔力付与』に対する会議中。キースが魔法陣を使って貼り付ける手段を提案しましたが、『転写の魔法陣』を事を知らない騎士団の責任者達に実演をしてみせました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「では、『転写』の仕組みについてはご理解いただけたと思いますので、新機能についてお話致します」


キースは説明をしながら、新しい『転写の魔法陣』に交換して、写本から抜いたページを載せ魔法陣を起動した。


「これでこのページに描かれた魔法陣は『転写の魔法陣』に保存されました。ここまでは一緒です」


説明をしながら紙をまっさらの物に置き換える。すると、宙に魔法陣が浮かび上がる。


(これ……今『転写』で保存した写本のページの魔法陣だ……)


気付いたイングリットが目を見張る。


「この浮かび上がった魔法陣をこうすると……」


親指と人差し指に魔力を込め、摘む様に動かしたり、逆に広げたりする。


「大きさが変わった!?何これ!凄い!」


イングリットが声を上げる。頬はピンクに染まり目はキラッキラだ。


「先生、私やってみても良いですか?」


「どうぞどうぞ、お試しください」


イングリットに席を譲り脇でその様子を眺める。


「え~不思議……記号が見えないぐらい小さくもなるし、手のひらでやれば……うわ、大きい!」


イングリットは指先だけでなく、手のひらに魔力を込めて腕を大きく動かしている。壁に貼る掲示物の様な大きさだ。


「これは面白いな……使い方の幅が広がる」


デズモンドも興奮気味だ。


席に戻ったキースが、写本から抜いた3ページ分の魔法陣の複製を作り、今度は剣を載せる。


「で、この魔法陣を小さくしまして、剣の柄頭に貼り付けます」


剣を魔法陣の上に載せて柄頭に貼り付ける。直径4cm程だろうか。じっくり見ないと細かい記号は読み取れない程だ。


「はい、できました。では、貼り付けた魔法陣を起動してみましょう。ちゃんと動くでしょうか?起動」


柄頭を触りながら魔力を込めると、剣は全体に薄青みを帯びた。間違いなく『魔力付与』がされている。


「上手くいきましたね!では、私が『呪文』を用いて掛けた『魔力付与』と打ち合わせても問題無いかどうか、試してみましょう」


キースは近衛騎士から借りてきたもう一本の剣に『魔力付与』を掛けた。魔法陣による『魔力付与』より青みが強い。


「よし、ではやってみるか。ボブ、最初に打ってきてくれ。そのまま3の型で打ち合おう」


「承知しました」


マテウスとボブがそれぞれ剣を抜き構える。そこから更に呼吸を合わせる。


魔術師達は部屋の隅にひとかたまりになり、様子を見守る。キースは念の為に<障壁>の魔法を発動させた。達人同士の打ち合いだ、剣が耐えられずに折れる可能性もある。どういう結果になるか分からない以上、備えておくに越したことは無い。


「それでは参ります……はぁっ!」


ボブの気合いが部屋の空気を切り裂く。あっという間に間合いを詰め振り下ろされた剣を、マテウスが受け止める。その後も室内に鋭い金属音が響き渡る。


(この部屋で剣を打ち合わせたのなんて、この2人が初めてでしょうね)


イングリットは激しく動きながら打ち合う2人の騎士を見ながら思う。


『碧玉の間』は、王族が面会する時に使用する部屋だ。王族を前に室内で剣を抜くような輩は入れないし、入れてはいけない。


(凄い……これが王国最強レベルの騎士……)


キースは間近で見る二人の剣戟に圧倒されていた。


もちろん、室内であるし騎士以外もいる為本気の本気ではないのだろう。だが、それでも剣の素人には大変な迫力であった。


マテウスは身長も横幅もある為、体格を生かした、力強く正面から叩き切る真っ直ぐな剣、ボブは身長はそこそこで身体も細いが、その分速さと細かい技術、手数の多さで勝負するタイプの様だ。


結局二人は、そのまま三十合程打ち合った。どちらも肩で息をしているが、ボブの方がしんどそうだ。マテウスより若いとはいえ、騎士団最強の相手を務めるのは簡単では無いのだろう。


二人でお互いの剣を確認し合っているところに、皆で近付く。


「お疲れ様でした。いかがでしょう?刃こぼれなどございますか?」


キースが心配そうに尋ねる。正直、あそこまで激しく打ち合うとは思っていなかったのだ。心配にもなるというものである。


マテウスとボブは顔を見合せニヤリと笑う。


「全く異常無しだ。これは凄い」


「あれだけやったのに欠け一つ無いとは……素晴らしい」


「ああ、良かったです。お二人程の方が使っても問題無いなら大丈夫ですね。魔法陣は、『鋭刃化及び硬化』、『軽量化』、『硬化のみ』の3種類を3枚づつ用意しました。もし足りなければ『転写』で複製してください」


「……ちょっと待って。『鋭刃化及び硬化』って何?一つの魔法陣に2つの効果があるの?」


ここまでは、剣の事は剣の専門家にと黙っていたミーティアだったが、堪らず口を挟んだ。


「ええ、どうやらその様でして……こちらなのですが」


写本から抜いたページを渡す。受け取ったミーティアは、食い入るように魔法陣を読み解き出した。


「ほんとだ……両方入ってる……こんな組み方できるんだ……」


「凄いですよね……どうやったらこんな事考えつくのでしょう。さすがはエレジーア、とんでもが過ぎるといったところです」


キースも呆れ顔だ。


(自覚無しなのね……キース、恐ろしい子)


キースを過剰に贔屓するエヴァンゼリンでもそう思ったぐらいだ。他の人がどう考えたか推して知るべしである。


(エレジーアってあのエレジーアよね?この写本ってエレジーアの研究書の写本なの?原本ではないとはいえ、とんでもないお宝だわ……)


ミーティアは知る由もないが、原本はあの部屋の本棚に収まっている。持ち運びしやすい様に写本を作っただけである。


「これ、一枚譲ってもらう事はできる?応用できないか色々試してみたいのだけど……」


「どうぞどうぞ、そのままお持ちになってください。お代なんて不要です」


「え、でも……良いのかしら……」


「はい、これは私が自分で作ったものではございませんから。私はこれが載っている本をたまたま見つけただけです。独り占めするのは違うと考えます」


「副団長、本人が良いと言っているのです。彼の場合純粋な好意ですから、裏には何もありません。甘えても大丈夫ですよ」


困惑しているミーティアに声をかけたのはエヴァンゼリンだ。こういった(元)役職、家格、年齢、実績など、格上の存在からの意見はありがたい。後で何かあっても「あの方に言われてしまったので……」という逃げ道にできるからだ。


「エヴァンゼリン様……承知しました。それではキース、ありがたくいただきますね」


「はい、どうぞご活用ください!私も色々やってみますので、今度成果を見ていただけたら嬉しく思います」


「……そうね。せっかくいただいたのだから、私も頑張ってみるわね」


ミーティアは、今までに感じた事の無い感情を胸に覚えながら、受け取った魔法陣を書類筒に仕舞った。


□ □ □


「先生、ちょっと疑問に思っていたのですが……」


「はい殿下、なんでしょう?」


「『転写の魔法陣』が1枚あれば、先生の他の魔法陣も複製が作れてしまいますよね?その辺りについてはどうお考えなのでしょうか?」


「尋ねてくるという事は殿下、まだお試しにはなられていらっしゃらないのですね?」


「も、もちろんでございます!それは先生に余りにも失礼な行為ですし、皆お金を払って得ているのですのから……王族としてズルは致しません!」


「お気遣いありがとうございます。それにとてもご立派でいらっしゃいます。何も考えていない訳では無いのです。試しにお見せしますね」


そう言いながら書類筒から魔法陣を取り出す。


「『転写』と『反発』の魔法陣です。では殿下、いつもの手順で複製を作ってみて下さい」


「はい、承知しました。では……」


イングリットが『転写』の上に『反発』を載せて起動させる。


魔法陣が薄青く光ると同時に青い火花が煌めいた。皆が「あっ」と思った次の瞬間、炎が魔法陣全体を包みこむ。そして、ほわんと一筋の煙が立ち登り魔法陣は消えた。


(い、1枚50万リアルの魔法陣が……)


イングリットは驚きに目を見張る。


「せ、先生……もしや今のが……」


「はい、複製防止機能が働いた結果です。『転写の魔法陣』に私が作った魔法陣を載せて起動させると、先程の様に煙となって消える仕組みになっています」


「そ、それはもう、戻す事はできないのですね?」


「そうですね、なんといっても煙ですから……」


「国務長官」


「はい、作成部署には通達を出しておきます」


(『魔法陣が煙になって消えた』という報告は入っていないから、試した者はまだいない様だが……魔術師は基本的に好奇心旺盛(笑)だからな。用心は必要だ)


「お願いします。では、魔法陣の複製を作る事ができるのは先生だけと……ちなみに、この魔法陣の中で、どの部分がその働きをしているのでしょう?」


「殿下……いくら殿下のお尋ねとはいえ、それはお答えしかねます。ご容赦ください」


「そ、そうですよね。魔法陣のキモとも言えますもの。失礼しました」


(まあ、全体でバランスを取っているからね。一箇所動かすだけで作動しなくなるから、教えても問題無いといえば無いのだけど。秘密を知る人は少ない方が良いし)


「今回の対応でご用意する魔法陣は、武具の付与に使用するのが3種類3枚づつで9枚、『転写の魔法陣』が御三方の執務用に3枚、付与作業用に9枚、念の為予備を入れて10枚として13枚になります」


(『転写』だけで650万……付与用も合わせたら幾らになるのだ……)


皆恐れおののく。だが、キースの口から出た提案は皆の予想とはかけ離れていた。


「このうち、御三方の『転写』3枚分についてはいただきますが、その他の魔法陣については受け取るのは……」


キースの発言を聞いた途端に周囲の人々が色めき立つ。


「先生、それはいけません」

「キース、ダメですよ?きちんと受け取りましょう。あなたの悪い癖です」

「キース、国はそこまでケチでは無いぞ。気にせず請求しなさい」

「おいおい、それでは『クロイツィゲルは冒険者に魔法陣を集っている』などと言われてしまうではないか!それでなくともうちは評判が悪いのだからな、これ以上は勘弁してくれ」


皆から一斉に「対価は取れ」と言われ、さすがのキースも面食らった様で、目をぱちくりさせる。可愛い。


「皆さん暖かいお言葉ありがとうございます。ちょっと私の言い方が悪かった様です。今それをご説明いたします」


キースは椅子に座り直し、お茶を一口飲んでから切り出した。


「まず、『転写の魔法陣』ですが、御三方の分は、個人対個人の作成依頼ですので、先程の金額をいただきます。ですが、残りの10枚については少々お話が違います。この魔法陣は近衛騎士団の装備増強に用いられるものですし、近衛騎士団は貴族の私兵では無く国の軍隊です。それに、『付与』が終われば国務省の所有となりますよね?近衛騎士団で13枚も確保しておいても使い道がありませんし。であるならば、魔法陣の代金も、先日結んだ国務省との契約に基づいて支払われるべきですし、これで別にお代をいただいてしまったら、二重取りになってしまいます。よって、個別に受け取る事はできません。ここまではよろしいでしょうか?」


皆が「まあそういう事なら」と頷く中、一人の人物が手を挙げた。エヴァンゼリンである。


(エヴァ様……マジか……)


エヴァンゼリンを納得させなければならないのは、正直予想外だった。一番強力な味方は、敵に回ったら最強の相手だ。


「ですがキース、貴方が手ずから作った事には変わりありませんよ?作成が追い付いていないのは国務省の問題であって、貴方には関係ありません。この場合、近衛騎士団が必要とする枚数を、貴方が国務省に肩代わりして作成したのです。私でしたら特急料金を上乗せして請求するところです」


エヴァンゼリンの指摘は鋭い。伝説の国務長官だった女傑の頭の中身は、現役だった頃と遜色無い。


(なんなのでしょうこのやり取りは……なぜこうなってしまったのかしら)


イングリットはお互い向かい合って座るキースとエヴァンゼリンを交互に見ながら、先程からドキドキしっ放しである。


「ですが、この『間に合っていない』のには私に原因があるとも言えます。『呪文』を見つけ持ち込んだのは私ですので。それが無ければ、魔法陣の作成が今のペースでも問題にはならなかったのではないでしょうか?原因が自分にあるのに、それをネタに当初の約束より多く代金をいただくのは、人として違うと考えます。それに……」


「恩を売っておけば、きっといつか大きくなって返ってくるのではございませんか?それを楽しみに過ごすのも悪くないかと」


そう言い切ってにっこりと満面の笑みを浮かべる。


(全く……そんな器の大きい事を言われたら、これ以上言い返せないではありませんか)


エヴァンゼリンは、キースの笑顔に完全に毒気を抜かれ、降参した。


「分かりました。きちんと考えているのであればそれで良いのです。続けてください」


エヴァンゼリンの言葉を受けて、皆の間に漂う空気が一気に緩んだ。


「ありがとうございます。そして、『付与』用の魔法陣ですが、こちらは先程ミーティア様にも言った通り、私が作ったものではございません。ですので、私が対価をいただく筋ではありません。もし、それでは示しがつかないとか、他の人々に悪影響が出るのであれば、多少の情報提供料といったところが妥当かと」


一般的には、金や品物、情報、権利など何かしらの対価を得る為に技術、情報を提供するのだ。それをタダにしてしまうと、「あいつはタダでやってくれたのに!」となってしまい、世の中のバランスを崩してしまう。


「承知しました。今日はもう6の鐘も鳴りましたので、細かい金額については日を改めましょう。騎士団長、『付与』が終わるまでかなり慌ただしくなりそうですが、よろしくお願いします」


「とんでもございません!これだけ整えていただき感謝致します。何よりも自分達の命が懸かっております、厭う事などございませぬ。全て完了いたしましたらご報告にあがります」


「はい、お待ちしております。それでは皆さんお疲れ様でした。どうぞお気を付けてお帰りください」


各自イングリットの挨拶に応えて退出し、テリヤキチキンから始まった怒涛の午後は終了した。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


コロナと雨で外に出ずらい時期という事で、どうぞこのお話を楽しんでいただければと思います。


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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