第163話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
参加者に大きな衝撃を与え展示を終えました。色々と調整しなければならない事ができた為、もう一度集まる事になりました。
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キースが先輩達と、イングリットがマテウスと話をしていた頃、管理棟のバルコニーで展示を見届けたアリステアは、瞳を潤ませ肩で大きく息を吐いた。
(言葉も無い。ただただ凄い)
一緒に見ていた人々も、かつて無い魔法に呆気に取られている。
そんな中で、最初に動いたのはデズモンドだった。椅子に座っているマリアンヌの方へ向き直る。
「理事長先生、私がまだ学院に通っていた頃は、『魔術師の倫理観について』という講義がありましたが、今もあるのでしょうか?」
「はい、ございます。まだまだ子供の生徒達にはとても大事な話ですから」
デズモンドはマリアンヌの返事に納得したかの様に複数回頷く。
「そうですか……『呪文』の指導の際にその辺も少し話をした方が良いかと思ったのですが、行っているのであれば必要無いか……」
「いえ、していただけるのであればぜひお願いしたいです。魔術師として長年積み上げてきた経験は、大変貴重なものですから」
マリアンヌは真剣な表情でデズモンドを見つめた。
訓練校と魔術学院には、基本的に13歳になる年に入学する。
本格的な成長期に入り、指導官からも適切な指導を受ける為、特性として現れた能力が一気に伸び始める。
そうすると、『俺は特別』という様な思考に陥り、言葉遣いや他人への接し方が粗くなったり、自分よりもデキが劣る生徒(指導官から見れば似たり寄ったりなのだが)を見下した態度を取る生徒が、毎年一定数出てくる。年齢的にも『厨二病』と言っても良いだろう。
そういった『特別な能力を持ってはいるけどまだまだ子供』が真っ当な大人に育つ様に、『特性の力や魔法を使って悪い事をしてはいけません』という内容を、それぞれの理事長が直々に講義を行い指導している。
(実のところ、この講義は講堂に設置された魔導具を用いて刷り込む、『誘導催眠』なのだが、これを知っているのはそれぞれの学校の理事長と国の中枢の一握りである。中には精神抵抗の強い子もいる為、効果には個人差がある。その為、地上げ屋紛いの事をしてキースに島流しにされた、ダルクやファクトの様な小悪党もいる)
特に魔術師の魔法は、他の特性とはまた違う超常の力だ。侵入、窃盗はもちろん、使い方によっては証拠を残さず殺人だって犯す事ができるだろう。魔術師は人数が少ない事もあり、犯罪者にしている場合では無いのだ。その為、訓練校よりも強い『指導』が行われている。
「承知しました。指導官になる者は、皆それなりの歳でしょうからな。ここまで生きてきた中で様々な経験をしてきているはずです。その辺を絡めて話をする様にさせましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
どんなに優秀な人材でも、『他人の経験』は知識として頭に入れる事しかできない。だが、全く初めての事態でも『こういう事も有り得るのだ』と知っていれば、無事に乗り切れる可能性は多少なりとも上がるだろう。
そういった『先人の知恵』を伝えてゆくのも年寄りの役割である。
「いや~それにしてもどれも凄い魔法だったな!『転移の魔法陣』といい、長生きはしてみるものだ!」
『呪文』の衝撃から立ち直り笑顔を見せるのはハインラインだ。
「全く、お前さんの孫は大したもんだ!な、アーティ!」
笑いながらアリステアの肩を叩く。
そんなハインラインに無表情のアリステアと、溜息を吐いたデズモンドの視線が刺さる。
「あ……お、す、すまん、つい……」
二人の視線と表情から失言に気付いたハインラインが身を縮こませるが、その言葉を聞いたマリアンヌは満面の笑みだ。『やはり!そうだと思っていました!』という心の声が聞こえてきそうである。
「まぁ……理事長先生も察しはついていたようですし、もう良いですよ、マスター。そもそも2人と一緒にいる時点でかなりあやしいですからね」
二人と今のアリステアとは祖父と孫ほどに歳が違う。年齢差、立場からも、行動を共にし気安く会話をするのは不自然だ。
「というわけで先生、アリステアです。今更な感じではありますが、在学中はあの子が色々とお世話をかけました。感謝いたします」
「とんでもありません!確かに色々な事はありましたが、彼が学院にいた5年間は、とても濃密で、かけがえのない特別な期間でした。こちらこそありがとうございました」
「そう言っていただけると、少し心が軽くなります」
マリアンヌの言葉に笑顔で応えたアリステアは、パーティを組むまでの経緯について説明をした。
「その魔導具に『呪文』、魔力を抽出し貯める技術……セクレタリアス王国というのは、一体どれ程の国だったのでしょうか。底が知れません」
マリアンヌは魔導具の余りの性能に、頬を染め興奮気味だ。
「本当に……まだまだ私達の知らない未知の技術があるのかもしれません。城塞や神殿跡以外に何かの施設が残っていればと思いますが……」
かつて版図だったエストリア王国とその周辺諸国を含めても、王都と街、街と街の間に設置された魔力供給の為の中継施設は、爆発によってクレーターと化した。それこそ瓦礫一欠片すら残っていない。
「もしかしたら、何処かに手付かずの施設が残っているかもしれませんね……あの子なら見つけてしまうかもしれませんよ?」
「ええ、そうですとも。私達は、彼ならどんな成果を成し遂げても不思議では無いと思っておりますから」
「エヴァンゼリン様……リーゼロッテ様……」
「アリステア、ご存知だとは思いますが、彼の存在は私達にとっても生きる張り合いの一つです。ねえリズ?」
「はい、お母様。いつも元気をもらっています」
エヴァンゼリンもリーゼロッテも笑顔だ。だがベルナルに見せる家族に対する笑顔とはまたちょっと違う。明らかにキラキラしているのだ。
「皆さん……ありがとうございます。ですがまだまだ危なっかしいところもあるのも事実ですし、何よりも経験が足りません。これからご指導よろしくお願い致します」
皆がアリステアの言葉に頷く。
「経験が足らんのは仕方あるまい。まだ学院を卒業して半年しか経っておらんのだからの。年齢的にもこの場にいる皆の孫みたいなものだ。その辺はこちらで気にかけてやれば良い」
そう言いながらアルトゥールが部屋に入ってくる。
皆が声の方に振り向き跪いたが、アルトゥールは仕草で席に着く様に促した。側仕えがすぐに全員分のお茶を運んでくる。
「まぁワシとしては何とかイングリットとくっついて、義理の孫というか曾孫というか……になってほしいと思ってはおるが、こればかりはのう……」
そう言ってお茶を一口すする。
「あとな、本人達が居らんから口に出したが、二人にこの事を直接尋ねたりせんでくれよ?基本現時点ではキースは拒否じゃからな。心が変化するには時間も掛かるであろうから、あまり刺激したくない。そっと見守っておいて欲しい」
「はい、かしこまりました……」
エヴァンゼリンは返事をしながら、アルトゥールを意味ありげに、じっと見つめる。
「なんじゃエヴァ。『随分気を遣っている』とでも言いたげじゃの」
「あら!ご名答でございます。どうしてお分かりに?」
「はっは、お主の考えている事ぐらい何でもお見通しじゃ!」
アルトゥールは自慢げにふふんと鼻を鳴らす。
(こんなの完全に夫婦だろ)
二人以外は皆思ったが、流石に口に出して突っ込む者はいなかった。
「あれだけの魔術師じゃからな!何とか身内として取り込みたいに決まっておろう?それに、なんと言ってもイングリットが望んでおるのだ。儂はあの子の願いを全て叶えてやりたいんじゃ!悪いか!」
基本的に、アルトゥールはイングリットに対し常に引け目を感じている。歳若い(今も若いが)頃から次期国王として立たせるべく、寸暇を惜しんで様々な教育を施してきた。完全に詰込教育である。
当然、同年代の令嬢とのお茶会などの社交は無い。そんな時間は存在しない。代わりに行うのは、実務を行う官僚との打ち合わせばかりで、全くもって10代後半の王女らしくない。
(イングリットが国王になるのはもう変えられん。だが、政略結婚で他国に出る事も無い。それならば、せめて結婚相手ぐらいは好きに決めさせてやりたい)
と、アルトゥールは考えているのだ。
「別に悪くはございませんよ?殿下が女王として、政務はもちろん、ありとあらゆる面でお過ごしやすく整えるのが年寄りの役目でございます。配偶者はその最たるものですから」
テンションが上がるアルトゥールに対し、エヴァンゼリンは終始冷静だ。
「孫が王配にと望まれている訳ですが、アリステアはこの件についてはどうお考えなのでしょう?」
「先程陛下ともそのお話になったのですが、私は本人が考えて決めた事であれば、どちらでも構いません」
アリステアは馬車の中でのやり取りを説明する。
「分かりました……先程陛下からのお話もありましたし、私達も静かに見守っていきましょう。何か手伝える事があれば、遠慮せずに言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。その時にはよろしくお願い致します……噂をすればでしょうか、どうやらキースも一緒の様ですね」
イングリットの声が、扉と壁を突き抜けて聞こえてきた。かなり興奮している様だ。キースとは管理棟に来る途中で一緒になったのだろう。
扉が開き、イングリットとキースが部屋に入ってきた。
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