第161話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
下書きを消してしまい時間が掛かってしまいました(´・ω・`)
【前回まで】
騎士団の集合や国王らの移動も終わり、展示が始まりました。
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クレインとウォレスは、目の前にそびえ立つ壁を見上げて首を捻っていた。
先程まで何も無かった空間に、王城を囲う城壁かと見まごうばかりの、重厚で立派な壁が一瞬で現れたのだ。
彼らは学生の頃からキースを知っている事もあり、その行いにはだいぶ慣れてはいるが、その彼らにしても、これには開いた口が塞がらなかった。
「とんでもない事になってますね……もちろん、あいつ自身の成長もあるのでしょうけど、そこに『呪文』というやつの効果が乗るとこうなるのか……」
ウォレスの笑顔が引きつっている。
「ああ、俺達が学院にいた頃とは訳が違うな……さすがはキース……」
(……ん?)
ウォレスがクレインの顔を横目で見る。
クレインの言葉と口調に感嘆以外のものを感じ取ったからだ。
「……どうしました先輩?」
「いや、学院の5年生はこれから『呪文』を指導してもらえるのだろう?という事は、来年の新人は入団の時点で扱える可能性が高い訳だ。負けてられんと思ってな」
「確かに……先程殿下は『業務しながら身に付けるのは大変ですが』と仰ってましたよね?最初の取っ掛りぐらいは指導してもらえるのでしょうか?キースが教えてくれるのかな?」
「さすがに『見たな?各自練習しろ!以上!』という事は無いと思うがな……もし指導されたら、休日もしばらくは自主練だな」
「ええ。いつまでも見上げて『スゲェスゲェ』と言ってる場合じゃないですからね!それに、これっていわゆる『地形変化』の魔法ですよね?俺達が色々できれば戦い方にも幅が出ますし」
この魔法を戦場でどう有効的に使うか。
壁を出現させ敵部隊の突撃の妨害する、敵軍の前に壁を作り、落とし穴などの罠がある方へ誘導する等、様々な使い方が考えられる。
単純に飛び道具に対する防御壁としても良いだろう。
「ああ、これはちょっと楽しくなってきたな!気合い入れて頑張るか!」
「ええ!とりあえず一度やってみたいですね……何とかキースに接触できれば良いのですけど」
「確かにな!でも、団長だけならまだしも、陛下や殿下までいらっしゃるからな……慎重に動かないと」
「目を付けられても困りますしね。とりあえず展示が終わってからにしましょうか。次の『呪文』が始まるみたいですし」
「おおっといかん。集中集中」
2人は話をやめ、キースが『呪文』を唱える姿と、詠唱が進むに連れ高まる魔力に意識を集中した。
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(これが、これが『火球』……?嘘でしょ……)
明るい若手の二人とは対照的に、ミーティアはキースが生み出した『火球』を見上げながら、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。
驚愕に目は見開き、背中には汗が伝い、(本人は意識していないが)口はポカーンと開いている。
目の前に浮かぶ『火球』は彼女が知るものと色々違い過ぎた。
二階建ての一般住宅程もある大きさはもちろんだが、決定的に違うのは『色』だった。
白みがかった黄色なのだ。
(黄色?白?何で?赤じゃないの?温度が高いって事?黄色って何度?どれだけの魔力が必要なの?呪文を唱えればみんなできるの?)
頭の中を様々な疑問が駆け回っている。そんな中、キースの説明する声が聞こえてくる。
「今はこの程度の大きさ、温度ですが、温度を下げて小さくたくさん作ったり、一つを高温で作りで威力を上げるなど、その時の状況でどの様な火球が一番効果的なのか、それを一瞬で判断し作り上げなければなりません。集団戦の先制の一撃としてであれば、温度と大きさを少し下げても複数個を撃ち込んだ方が良いでしょうし、相手が少人数であれば、温度を上げて一撃必殺を狙う、という様な」
(魔法を維持しながらなんで普通に説明しているの?集中しなくて良いの?そもそもなんで熱くないの?……何なのよもう……意味不明過ぎる……)
普通の魔術師なら呆然として思考停止に陥るところなのだが、なまじ優秀であるミーティアは、状況を理解しようと必死に考えを巡らした。だが答えは出ない。というか、現在の彼女の経験と知識と常識では出せないのだ。
ミーティアは、『神童』『天才』と、常に褒め称えられ生きてきた。それだけの能力を示し実績を残してきたし、自分でも『デキる』と思っている。
初めて練習する魔法や、読んだ事の無い本の内容だって、すぐに理解し実践できた。
しかし、そんな自分が、先程から目の前で起こっている現象を全く理解する事ができない。
しかも、それを事も無げに行っているのは、まだ学院を卒業したばかりの18歳の少年だ。自分より10歳以上歳下なのだ。魔法についての勉強期間だって10年以上短いという事だ。
ミーティアはそんな相手に自分の力が及ばない悔しさと、人智を超えた力への畏れと、その他様々な感情が入り交じり半泣きになっていた。
(ありえない!ありえない!ありえない!こんなの認めない!絶対にこのままじゃ済ませない!必ず、必ずあたしが一番になってやるんだから!)
そう心に誓いながら、目の前に浮かぶなぜか熱くない「火球』を睨みつけるのであった。
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(……何だ今の。どういう事だ)
騎士団長であるマテウスは、今目の前で起きた事が理解できなかった。
キースの展示は、『火球』から『魔力付与』に移っていた。『魔力付与』をした剣としていない剣を用意し、模擬戦を行っている最中である。
接近戦を行う騎士としては、武具に魔力を付与し強化する『魔力付与』は、自分達の命に直結する事もあり非常に気になるところだ。
この模擬戦は、お互いの動き全てを事前に決めてあり、それに沿って行われる。
しかし、それ以外の部分で想定外の事が起きた。
始まってすぐ、お互いの剣を打ち合わせた時、魔力付与をしていない方の剣が折れてしまった。鋭い金属音の一瞬後に、刃の3分の1程が模擬戦を行っている騎士達の脇に落ちる。
大半の騎士達は「小さな傷とかひび割れがあって、打ち合わせた時の衝撃で折れたのか?」と考えたが、マテウスは違った。
彼には見えていた。だが信じられなかった。
そんな事が有るなんて、見た事も聞いた事も、考えた事すら無かった。
(……そんな事が有り得るのか?だが、俺の目にはそう見えた。もう一度やってみるか……)
「誰か予備の剣を持ってきてくれ」
マテウスの指示を受けて、若い騎士が管理棟隣の武器庫へ走り、剣を抱え戻ってくる。
マテウスはその剣を受け取り鞘から抜くと、顔を近付けたり陽にかざしたりと、念入りに確認し始めた。
(傷など毛筋一つ無い。間違い無い。これで先程と同じ事が起きるかどうか……)
模擬戦を行っている騎士に剣を渡し、最初から始める様に指示し下がる。だが、その位置は先程見ていた位置より少し前だ。
(見間違いなら良いが……)
そう考えながら腕を組んで立っていると、その横にボブが並んでくる。
「さっきの折れ方、何か変な感じしましたよね?」
「ああ。これでもし同じ事が起きたら間違いないと思うが、どうだろうか」
2人の目の前では、2名の騎士が改めて礼をし模擬戦を開始した。
そして、魔力付与がされていない剣は、またも一合目に折れた。
さすがに、団員達もざわつき始めた。
新品の剣が一合で折れる事など一生に一度も無いだろうに、それが二振り続けてである。
(何てこった……)
まさかと思いつつも、折れた剣を受け取り落ちた刃を拾う。
「……見えたか?」
「やっぱりそうなんですかね?」
「連続でだからな……間違いないだろう」
ボブと二人で、剣と刃の断面をためすがめつ眺めながら、小声でやり取りをする。
「傷やヒビが原因で折れ潰れた、という感じでも無いな……」
「納品時にも点検はしていますし、先程団長が確認された訳ですしね。しかし、信じられません……『剣で剣を切った』なんて……あ、盾を貫通するかどうかも試してみませんか?」
「お、そうだな。ちょっとやってみよう。おい、大盾を出してくれ」
2人の騎士が盾を運んできて、地面に立てる。
「よし、2人はそのまま脇で支えてくれ……トンプソン、前へ」
マテウスは、列に並んでいた騎士の中から1人を呼び出した。トンプソンは騎馬隊に所属し、剣よりも騎射が得意な騎士だ。
彼は実家が牧場を経営している事もあり、幼い頃から馬に親しみ共に生きてきた。その結果、なんと手網を使わずに足だけで馬を操る事ができる様になった。
小柄な為、長時間の騎乗でも馬への負担が少なく、空いた両手で矢を射掛け続けるという、様々な猛者が所属する近衛騎士団でも唯一無二の存在だった。
その分、剣の扱いは及第点といったところだが。
(団長、わざとトンプソンを選んだな……確かに他の者よりインパクトはあるが)
「トンプソン、盾の中心をこの剣で突け。助走はつけるなよ?盾のすぐ前に立ち、体重を乗せて、腕力と身体のひねりで突くんだ」
『魔力付与』がされた剣を渡しながら指示をする。
「……?はい、承知しました!」
若干不思議そうな表情をしつつ、トンプソンは盾の前に移動し、突く動作を繰り返しつつ立ち位置を調整する。
「整いました!参ります!」
「よし!やれ!」
「はっ!」
深呼吸を3回した後、裂帛の気合と共に剣が突き出される。剣は盾を簡単に貫いた。小柄で剣の腕もそれ程でもないトンプソンの突きが、あっさりと盾を貫通した事に団員達もどよめく。
(呆然としているのは……ミゲル、マクレガー、カレブにディーノか。やはり普段から察しが良い奴らだな。これが何を意味するのかに気が付いたか)
ボブが団員達を眺めながら考える。こういった特殊な状況は、団員達の特性やそれを踏まえた考え方を垣間見る事ができる、良い機会でもある。
『素材は同じなのに、魔力付与された事で通常状態の剣を切り落とし盾を貫いた』
これはすなわち、『世の中には武具を壊す程強力な魔力付与が存在する』という事だ。
ただでさえ命のやり取りをしているのに、相手の魔力付与の程度まで気にしなくてはならない。これは心身どちらにもとても大きな負担が掛かる。
(これでは、騎士達はまともに接近戦ができなくなってしまうだろう。受けたらそのまま武器を失ったり、金属鎧なのに切り裂かれたりする可能性があるのだから)
もちろん、今回の『魔力付与』は、キースが『呪文』を唱えて掛けたものだ。効果が飛び切り高いというのもある。だが、相手方にキースと同等の魔術師がいる可能性は、非常に低いだろうがゼロでは無い。
(武具自体周辺諸国より素材は上だが、それが絶対を保証する訳でも無いしな……これは頭が痛い事になった)
マテウスは、盾に刺さり突き抜けている剣、という不思議な物を前にして考える。
近衛騎士団を含む国軍で使っている武具の素材は、『赤鋼』と呼ばれる金属だ。加工し仕上がる頃には、ほんのり赤みを帯びる事からそう呼ばれている。加工は難しいが通常の鋼より質が良く、高品質な物が作れる。当然価格も上だ。
『赤鋼』製の武具が支給されている国など周辺には無い。余裕のあるエストリアならではと言えるだろう。
(とりあえず細かい事は後にしよう。陛下や殿下ともお話しなければならんしな)
「キース、展示は以上だな?」
「はい、左様でございます」
「うむ、それでは殿下、最後にご講評をお願い致します」
イングリットがマテウスと入れ替わり指揮台に上がり、敬礼を交わす。
「皆さん、700年の時を経て『呪文』は蘇りました。今日という日は大きな転換点として、エストリアの歴史に残るでしょう。皆さんはそんな記念すべき催しに出席された事を、どうぞ心に刻んでくださいませ」
イングリットは一度言葉を切り、全体を見渡しながら呼吸を合わせる様に息を吐く。
「私達は他国に先んじて大きな力を手にする機会を与えられました。展示をご覧になった今であれば、最初にお願いした『口外禁止』の理由が解っていただけたのではないかと思います。くれぐれも、騎士団員以外が居る場所で話題にしない事、もちろんご家族にもですよ?改めてお願い致します。『呪文』の指導については、可能な限り早く行いたいのですが、まだ国内で2人しか扱えません。もう少しお時間いただければと思いますのでご了承ください。本日はご参加ありがとうございました」
イングリットと入れ替わりに再びマテウスが指揮台に上がる。
「これをもって本日の展示を終了とする。現在時刻は4の鐘半である。5の鐘より通常態勢に戻る事とするので、それに合わせて各自動く様に。それでは解散!」
整列していた騎士団員達が動き出し散ってゆく。
(さて……殿下はこの後お時間あるだろうか)
マテウスが考えていると、後ろからボブが声を掛けてくる。
「団長、ちょっとよろしいですか?先程の件で……」
マテウスが振り返ると、そこには騎士部隊所属のミゲルとマクレガー、魔術師部隊所属のカレブにディーノがいた。皆あまり顔色が良くない。
(ああ、察してしまった者達か)
「普段から思慮深いお主らは、非常に重大な事に気が付いた様だが、くれぐれも他の団員には口外せんでくれ。もちろん隠したままでいる訳では無いぞ?陛下とイングリット殿下のご都合が良ければ、展示を行った魔術師を交えその件について協議を行おうと思う。何らかの対応が示された時点で私から公表するので、それまでは黙っていてほしい、という事だ」
「承知致しました。元々無用な混乱に繋がりますので、他の者に言うつもりもございませんでしたが、ご対応いただけるなら安心でございます」
一番年上のカレブが答え、他の3人も頷く。
「すまんがよろしく頼む。それにしても、まさか同じ素材であるのに『魔力付与』だけで切ってしまうとはな……完全に想定外だったわ」
マテウスとボブは顔を見合わせて苦笑いする。
「はい……あれには驚きました。あの域まで達する事は非常に難しいとは思いますが、他の『呪文』についても、可能な限り早く身に付けられる様に努めてまいります」
「うむ、だが、全くの新しい技術だ。それを魔術師全員が勤務をしながら習得するとなると、負担もより大きくなる。近衛騎士団全体が一致協力しなければなられないであろう。騎士の皆にも何かしら負担が掛かるやもしれんが、そこは了承願いたいところだ」
「はい、魔術師達の力が上がるという事は、自分達の命が守られるという事。協力を厭う者などおりませぬし、もしその様な者がいれば随時指導してまいります」
マクレガーとミゲルが顔を見合わせて頷き合う。
「私や副団長の前では言わん者も、皆の前なら零す者もいるであろう。その際は教えてやってくれると助かる……よし、それでは殿下のご都合をお尋ねしてくるか。それでは皆、先程の件よろしく頼む」
「はっ!かしこまりました!」
マテウスとボブは団員達と別れると、キースとクレイン、さらにウォレスらと話をしているイングリットの元へ向かった。
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