第160回
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
近衛騎士団は、魔術師達を訓練場に集めるべく対応を開始。アリステアは、訓練場に移動する馬車の中で、陛下に正体を指摘をされ誤魔化しきれませんでした。その後、「キースは好きにやらせるのが一番」という話をして、孫の自由な立場を守りました。
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「先輩!お疲れ様です!」
「おうウォレス。お疲れ」
クレインは訓練場に向かう道すがら、別方向から駆け寄って来た後輩に声を掛けられた。
クレインとウォレスは、近衛騎士団の魔術師部隊に所属する魔術師だ。クレインは22歳、ウォレスは一つ年下の21歳。どちらも魔術学院卒業前に誘われ、近衛騎士団に入った。
お互いに一般市民出身であり歳も1歳しか変わらない為、学院に在籍していた頃から面識がある。それもあって仲は良い。
近衛騎士団は貴族優先で団員を選んでいる訳では無いが、勤務地は王城とその周辺、指揮官は貴族となれば団員も8割貴族だ。
結果、卒業前に誘われても近衛騎士団より、国務省関連の研究機関を希望する卒業生の方が多い。もちろん、そちらだって貴族出身者の方が多いのだが『貴族と一緒に軍隊よりは……ねぇ』という事の様である。
この国の貴族社会には昔から、貴族が一般市民に対し、社会的立場を笠に着て無法な事や筋の通らない要求をするのを『貴族として非常に恥ずべき行為』と考える文化がある。
その為、近衛騎士団に所属する彼らが無理難題を言われたり、雑用ばかり言いつけられたり、勤務の日程が自分達だけキツかったりという事は無い。
それでも一般市民出身の団員達は、(個人差はあるが)どうしたって居心地が悪いというか、気疲れはする。その辺はどこにでもある『少数派あるある』というものだ。
「先輩、訓練場に集まる理由って聞いてますか?俺『とりあえず行け』としか言われて無いのですけど……」
ウォレスが急ぎ足で歩きながら、顔だけクレインの方を向いて尋ねる。足の動きに合わせて、ローブの裾が波打ち皺ができる。
「いや、俺もそれしか聞いていなくてな……北門の詰所にいたらタイデルさんが交代に来てさ」
クレインは首を捻りながら溜息を吐く。
タイデルは今年25歳になる一般市民出身の騎士である。クレインとは実家が近く、小さい頃から一緒に遊んでいた幼馴染みで、兄と言っても良いぐらいの存在だ。体格と力に特性が現れた事もあり、典型的なガキ大将だった。それが今や近衛騎士団の最前衛を任される重装騎士の一人だ。
「いきなり何でしょう?と尋ねたら『知らん。交代に行けと言われたから来ただけだ。そのまま急いで訓練場に行け』と言われたんだよ」
「うーん……魔術師を配置から外して訓練場に集めている、という事でしょうか? 何でしょうね……」
「人を入れ替えまで集めるなんて、俺が入団してから初めてだし聞いた事も無いな……無理だ。解らん。情報が少な過ぎる」
「こりゃ他の人に訊かないとダメですね……さっさと訓練場に行きましょう」
改めて急ぎ足で歩き始める。そんな二人の脇を、連なって走ってきた馬車が追い抜いて行った。
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「団長、集合を終え整列致しました」
執務室に入ってきた古参の騎士がマテウスに報告する。訓練場で団員の整理を行っていたボブの指示を受け報告に来たのだ。
「おう、了解した。すぐに行く」
古参の騎士が出て行くと隣の部屋に続く扉を開け中に入る。
そこには、馬車から降りて待機していた国王達がいた。
「皆様お待たせ致しました。準備整いましてございます」
「よし、では行くか!キース、楽しみにしておるぞ!」
「はい、お任せ下さい。かつて無い魔法をどうぞご覧下さいませ」
「先生、よろしくお願い致します……もし良ければ、後でコツを教えていただけますか?自分でも練習したいので……」
イングリットがおずおずと申し出る。
「かしこまりました。殿下ならきっとすぐに発動できる様になられるでしょう」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
イングリットは満面の笑顔で手を叩いた。
大まかな流れとしては、最初にマテウスが今回の経緯を説明し、イングリットが団員達の前に出て、簡単な挨拶をする。
その後、キースが登場し呪文の詠唱を伴う魔法を発動させた後解説をする、となっている。
他の一緒に来た人々は、訓練場に設けられている管理棟の中から見る予定だ。
□ □ □
(まさか誰も知らないとは……)
クレインは他の団員達と整列しながら、訓練場に着いた時の事を思い出していた。
先に着いていた何人かに集められた理由を尋ねて歩いたのだが、結局誰も知らなかったのだ。
事情を知っている団長、副団長が流していないのだから、知っている者などいないのは当たり前なのだが、当然クレインには知る由もない。
(そんなに内緒で集めなきゃならない様な事……何なんだ?)
そんな事を考えていると、マテウスを先頭に、アルトゥールとイングリット、その後ろに2名の副団長が続き前に出てきた。キースもいるが、副団長達の影になっていて団員からは見えない。
(陛下と殿下!?なぜこの場に?)
(一体何が始まるのだ……?)
団員達の驚愕が溢れた空気の中、マテウスだけがそのまま指揮台に上がり全体を見渡す。
「気をつけぃ!クロイツィゲル騎士団長に対し、敬礼ぃっ!」
ボブの号令が飛び、皆が右拳を左胸と肩の間にあてる。騎士、魔術師共通の騎士団の敬礼だ。マテウスが答礼し、号令に合わせて気をつけの姿勢に戻る。マテウスは、挨拶をした後に早速本題を切り出した。
「皆、急に集められ何事かと訝しく思っているだろうが、これからその説明を行う。尚、ここから先の話は他言無用である。各自重々承知の事、よいな?……この度、魔法の新しい発動手順というものが発見された」
マテウスの言葉を聞いて、どよめきが起こる。
「清聴せよ!説明の途中である!」
すかさず指揮台の下にいるボブから声が飛ぶ。次の瞬間辺りは静寂に包まれた。
(まあそういう反応になるよな。俺も未だに信じられんわ)
そう思いながらマテウスは続ける。
「この新たな手順は、セクレタリアス王国の遺跡で発見された資料を解読した事により判明した。この手順を用いると、高威力・高効率で魔法が発動できるとの事だ。手順については、大々的に発表される事は無い。それ故詳細を伏せたまま集まってもらった。既に国王陛下とイングリット殿下にもご報告がなされており、『エストリアの秘術とする』旨定められた。先程も言ったが、くれぐれも口外しない事。一部の人間以外は我々しか知らぬ。これが外部や他国に漏れた事が明らかになった際に、真っ先に疑われるのは我々である。陛下と王国の剣であり盾を自負する近衛騎士団が、裏切り行為を疑われるなど有ってはならぬ事だ!皆肝に銘じてもらいたい」
マテウスは一度言葉を切り、大きく呼吸をしながら全体を見回し、わざと団員と目を合わせてゆく。『団長は自分に向かって言っている』という事を意識させる為だ。
「これより、既に習得している魔術師が一連の流れの展示を行う。皆にはそれを見てもらう為に集まってもらった。魔術師だけでなく騎士もいるのは、実戦の時に戸惑わない様にする為だ。それ程迄にこれまでとは違う。展示は今回きりである為よく見ておく様に。なお、既に理解しているとは思うが、この展示には国王陛下、イングリット殿下もご臨席される。改めて、重要事であるのを理解する事。では、これより一言ご挨拶をいただく」
マテウスが指揮台から降り、入れ替わる様にイングリットが指揮台の上に上がる。マテウスが改めて号令を掛け、敬礼が行われた。
「皆様、勤務中にも関わらず急遽お集まりいただき、ありがとうございます。セクレタリアス王国が滅んで700年、今になって新技術と言われても、その信憑性に疑問を持たれる方もいらっしゃるとは思いますが、発見者により既に効果は実証済みとなります。既に魔術学院でも展示が行われており、5年生を優先に指導が開始される予定です。新人が扱えるにも関わらず、自分達ができないのを良しとしない方もいらっしゃるとは思いますが、皆様はあくまでも勤務が最優先です。そこは履き違えません様にお願い致します。ですが、自身の力の向上は、自分、仲間、国民、国を守る事に繋がります。勤務をしながらの学習は大変かとは思いますが、どうか習得にも力を注いでくださいませ。それでは展示をしていただく魔術師の方をご紹介します。先生、お願い致します」
イングリットが促すと、国王と国務長官、副団長達の後ろにいたキースが歩き出し指揮台に向かう。
ウォレスやクレインを始めとする、『キースと在学期間が重なっている一般市民出身の魔術師』は、驚きに目を見張る。
(発見者ってキースかよ!)
(マジか)
(何かそんな気はしてたけど……)
(はぁ~凄いわ……)
(今、殿下先生って言ってたよな?どういう事?)
彼らは『キース伝説』ともいうべき数々の逸話を知っている為、『あいつなら何をしても不思議無い』と思っている。その為、驚きはしたものの、納得し態度には表さないでいる事ができた。
だがそれは、この場にいる団員の中の極わずかに過ぎない。
それ以外の団員達は、『万人の才』の二つ名は聞いた事はあっても姿を見た事は無かったり、そもそも存在すら知らない。彼らはは困惑の極みにいた。
それはそうだろう。
国王や王女殿下が臨席した「失われた魔法技術の展示をします」という場に出てきたのが、完璧なまでに可愛い小さな男の子なのだから。
「皆さん初めまして!王都冒険者ギルド所属、銅級冒険者キースと申します。若輩者ではございますが、皆さんの前で展示をさせていただきます。よろしくお願い致します」
よどみなく挨拶をし礼をする。
その拍子に、頭のてっぺんのひと房(寝癖だ)がぴょんと揺れた。
(銅級?こんな子供が?)
(これは……大掛かりな冗談なのだろうか?)
(……可愛過ぎる)
(団員達の心の声が聞こえてくる気がしますね)
そんなキースの隣で、イングリットは澄まし顔である。
「それでは、この新しい手順が一体どの様なものなのか、簡単に説明した後、実際に発動させますので、どうぞご覧下さい」
キースが説明をし始めると、すぐにどよめきは収まった。騎士も魔術師もプロである。一言一句聴き逃さぬと集中した。
そしてやはり戸惑った。眉間に皺を寄せて首を捻る。
『本当にそれで発動するのか?』という、心の声が顔に書いてあるかの様だ。
説明を終えたキースは指揮台から降り、列の無い方へと向く。
「それでは参ります。お見逃し無き様に」
キースは手始めに土属性の呪文を唱え始めた。
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