第159話
【更新について】
書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
ゴルs……GWやばいです。忙しいです。
【前回まで】
王城で面会中。近衛騎士団を始め、『呪文を詠唱してからの魔法発動』を見た事が無い人達に対して、展示をする事になりました。皆で騎士団の訓練場に移動します。その間に、副団長のミーティアとボブが騎士団員を集めます。
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「ボブ!手の空いてる、団員達を、訓練場に、集めて、ほしいの!あと、警戒、配置中の、魔術師を、騎士と、入れ替えて!ウォッヘン」
そこまで言うと、両手を膝につき呼吸を繰り返す。
魔術師であるミーティアは、根本的に身体を動かす事は苦手だし、体力も平均以下だ。小走り気味で歩いてくるだけでこの有様である。
執務室で仕事をしていた騎士部隊を預かる副団長、ボブ・ユンゲルスは、今にも床に座り込みそうなもう一人の副団長を見ながら、目をパチクリさせていた。
「……ミーティア、まず説明してくれ。面会で何があった?」
水差しからコップに水を注ぎ、ミーティアに渡す。
ミーティアはそのコップを受け取ると一気に飲み干した。その後もう少し呼吸を繰り返し、やっと落ち着く。
「はぁ……ありがとう。実はね……」
ミーティアは面会での出来事を説明し始めた。
(なんてこった……失われた魔法技術とは……想像以上の話だ)
「これは……間違いなく歴史が変わるな」
「ええ、手順については指導してくれるという話だから、できるだけ早く身に着けられるように取り組みます。学院での指導もするそうなので、私達も流れに乗り遅れない様に必死で着いていかないと。とりあえず、人員の手配をしましょう。皆さんが着いてしまいます」
「分かった。とりあえず魔術師がいる配置場所に騎士を向かわせて交代させる。で、魔術師は訓練場に行かせれば良いのだな?」
王城内の警戒箇所には、騎士3人に魔術師1人という組み合わせで配置させている。それを一時的に騎士4人で対応するという事だ。
王城は王都の中でも奥まった場所にある為安全度は高いが、国王達の住居であり、国の中枢機関が集まっている建物だ。警戒を緩める事はできない。
「はい、そうです。交代する時にそれを伝えさせてください」
「了解した。ではちょっと行ってくる」
ボブは騎士達の詰所に向かって走り出した。
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「そういえばハインライン、お主は今日何の用事で来たのだ?デズモンドの付き添いか?」
騎士団の訓練場に移動する馬車の中である。
2両の馬車に分かれ、こちらには、アルトゥール、ティモンド伯爵、ハインライン、デズモンド、アリステアが乗っていた。
アリステアはアルトゥールと同じ馬車には乗りたくなかったのだが、もう一両の馬車にはイングリットとご夫人方がキースを引っ張り込んでしまった為、仕方がなくこちらに同乗している。
「それもあるのですが……北西国境のダンジョンの管理官が決まらずにお困りと聞きまして。私がお役に立てるのではないかと自薦に参った次第です」
「ほう……」
アルトゥールは右の口髭に手をやる。考え事をする時の、昔からの癖だ。
「貴族の中で、新規ダンジョンの立ち上げに携わった経験があるのは私しかおりません。それに、冒険者の扱いにも慣れております」
前回が約50年前で、さらに前となると200年以上経っている。当然生きている者などいない。唯一ハインラインだけが持つ知識と経験だ。
「しかし、お主、その歳で北西国境まで行くのは……ああ、そうか、そこは問題では無いのか。自宅から通えば負担も少ないしな……」
「はい、夜間の当直者を定め、緊急事態発生の際は『物質転送の魔法陣』で連絡を寄越せば、すぐに向かう事ができます。稼働できる施設を動かさないのはそれだけで損失が発生しているのですから、一日でも早く供用開始すべきと考えます。それに」
ハインラインはそこで一度言葉を切り、アリステアちらりと見る。
「年寄りは、どこか一箇所悪くするとあっという間に弱って死んでしまう、元気なうちは何でも良いから自分に刺激を与え続る様にしろ!とハッパをかけられまして」
「なるほどのう……分かった。わしは良いと思うが、最終決定はイングリットだ。後で話をしておく……それでお主ら3人は、孫と一緒に旅をして刺激を受け続けていると……そういう事か、アリステア?」
アルトゥールがニヤリと笑いつつアリステアを見つめる。
話の流れから、まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったアリステアは、完全に不意を突かれた。
何か言わなくてはと思うものの、口をパクパクさせるだけで言葉が出ない為、反論も取り繕う事もできなかった。
即否定できなかった以上、もう何を言っても誤魔化しきれないと考えたアリステアは、素直に降参する事にした。
「……陛下、なぜ私が『私』だと思われたのでしょう?」
「ふむ、改めてそう言われると……なぜであろうな?見る度に何となく『そうなのではないか?』という気がしてきてな」
「つまりは……『勘』でございますか?」
「そうだな、そう言って良い」
(この国の年寄り、みんな勘が良過ぎるだろ……なんなんだ一体)
「では、そもそもの経緯についてお話いたします……」
アリステアは、キースの家出からの一連の流れを説明した。
アルトゥールは口髭を触りながら静かに聞いている。ティモンド伯爵も、驚いてはいるだろうが口を挟んではこない。
「なるほどの……確かに自分達で面倒みられるのであれば、それが一番であろうな。やきもきしたり心配する事も無い」
「はい、成長の程度も直接見る事ができますので、『これならばもう大丈夫』と思った時点で別れる事もできます」
「それで皆は後ろに控えて、キースを前面に立たせて経験を積ませているのだな。『年齢の割に随分控えめだ』と思っていたのだが」
ティモンド伯爵はアリステアの言葉に頷く。彼は元の姿のアリステア達とは面識が無いが、多少の違和感はあった様だ。
「私達はもう先が知れておりますし、解散すればカルージュに引っ込むだけですので。ですが、些細な経験でも、キースにとっては間違い無くプラスになりますし、それを無駄にせず活かしてくれますから。それに、正直、私達が無い頭で考えるより余程頼りになります。あの子は判断を間違いません」
アリステアはそこで言葉を切ると、アルトゥールをじっと見つめる。
「陛下、孫に対する欲目ではございませんが、あれは間違い無く歴史に残る天才でございます。私などではとてもついていけませんが、それでも理解できている事もございます。あの子は『縛り付けずに自由にやらせる』、これが一番力を発揮できます。あ、殿下に諦めて欲しいという事ではございませんよ?殿下のお気持ちに応えるかどうか、それも本人が決めた事であれば私達は何も言いません。そういった『選択』も含めて、彼の判断を尊重して欲しいという事でございます。キースは、他人の為に手間を掛け、力、知識、技術をふるう事を厭いません。『僕ならできるのですから僕がやれば良いのですよ』と本気で思っています。どんな小さな事でもきっちり最後までやり通しますし、頼まれ事も法や人道に反していない限りは断わりません」
「……以前もそう言っておったな。あれは『転移の魔法陣』を提供してくれた時であったか。何かを盾にとって従わせたりするな、という事だな?頼みがあるならちゃんと頼め、と」
「左様でございます。皆様方なら要らぬ話かとは思いますが、今後接する人間が多くなれば、その辺りを理解していない者が出てくるかと」
「解った。肝に命じよう。ティモンドも承知しておいてくれ」
「かしこまりました。この先、新しい部署ができれば、キースの事をよく知らぬという者はどうしても増えてしまいます。その辺りこちらでも注意を払ってまいります」
「ああ、よろしくな……それでなアリステア、キースはイングリットの申し出についてどう思っているのだろうな?何か聞いておるか?」
アルトゥールは少し身を乗り出してくる。
イングリットは、本人の意思も望みも無く女王となるべく育てられてきた。アルトゥールはそんな不自由な身の上である可愛い曾孫の望みを、一つでも多く叶えてやりたいと考えている。
年寄りは誰もが孫最推しである為、アリステアにもその気持ちはよく解る。
「『女の子に好意を持たれ頼りにされる事は純粋に嬉しい』という気持ちもある様ですが、今は『冒険者になってまだ半年しか経ってないのに結婚と言われても』という気持ちの方が強い様です」
「ふむ……まあそうであろうな。だが、芽が無さそうでも無い、か」
「はい、どうにも嫌で絶対拒否、という事では無いと。もう少し時期が経てばあるいは……という感じを受けました」
「やはり、時が流れて気持ちが傾いてくるのを待つのが良いか。今無理を言ってはっきり断られるのだけは避けたい。イングリットにも改め念押ししておく。まあ、あやつはきちんと解っておるがの」
「ときに陛下、皆さんがお望みとはいえ、一般市民の冒険者が王配に、というのは反発も大きいのではございませんか?その辺りはどうお考えでしょうか?」
アリステアとしては、いくらアルトゥールやイングリットの希望とはいえ、貴族達の反発や敵意がキースに向けられるのは承服しがたい。その辺りは事前に調整し、きちんと抑え込んでおいてもらいたいところだ。
キースは気にもしないだろうし、些細な嫌がらせはもちろん、多少の実力行使があっても自分でどうとでもしてしまうだろうが、それはまた別問題である。
「ああ、そういう意見は間違い無く出るであろうな。これはまだわしとイングリット、ティモンドとの間だけの仮定の話だったのだが、お主らの中身も判明した事だし伝えても良いか……当日いきなりでは驚かせてしまうだろうからな」
そう言うと、アルトゥールは先程よりもっと身を乗り出した。くっつくかというぐらい顔を寄せ、3人に説明し始める。
それを聞いているうちに、アリステア、ハインライン、デズモンドらは驚きに目を見張り、呆然とした。
(なんという思い切った事を……だが……これまでの事を考えれば全くおかしくない。むしろ相応しい)
「ふふ、この『呪文』の話は最後の一押しとしてちょうど良い。全て知っているお主らから見ても、『イングリットとの事があるから無理矢理整えた』という感じはせんだろう?これでもまだ何か言うようであれば、キース本人かライアルに爵位を与える」
アルトゥールは、『どちらかを貴族にする』と言い切ったが、最初の提案で押し切れる自信がある様だ。
「そこまでお考えでしたか……確かに、今の案ならば反対意見も抑える事ができそうです」
「そうであろう?いつでもキースを迎え入れられる様に、下地だけは整えておくつもりだ」
アルトゥールはどうだと言わんばかりに胸を張る。
「……正直、王配の事は、可能であればイングリットに譲る18歳までにはっきりさせたい。どんなに引っ張れても20歳が限界であろうしな。貴族はもちろん一般市民も、この数十年の間ずっと後継者問題に煩わされてきて、嫌気がさしておる。少しでも早く定めて世論を落ち着かせねばならん」
アルトゥールは腕を組み、目を閉じて溜息を吐く。
「それに、わしもさすがに終わりにしたい。これまで2度『これなら大丈夫』というところから落とされてきたのだ。神なのか悪魔なのか、誰の手によるものなのかは知らんが、さすがにもう勘弁してくれても良いのではないか?」
ただ恵まれなかったのなら諦めもつくが、十分な能力を持った後継者を育て上げ、無事国王となり手を離れた矢先に、あっという間に亡くなってしまった。それが2回連続だ。アルトゥールにしてみれば、『わしが一体何をしたのだ』と言いたいだろう。
「とにかく、授与式を無事終わらせ、ダンジョンを稼働させる。『呪文』の習得に関する事と、各種魔法陣の運用について考える。もうひと踏ん張りじゃ」
アルトゥールは大きく息を吐き、力強い眼差しで宙を見据えた。
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